私のいた世界の小説には異世界転移・転生というジャンルがあった。
現代を生きていた人物が何らかの要因で転移すること、もしくは死亡後に異世界で記憶を保持したまま生まれ変わることが根底にあるテーマで、冒険心をくすぐる素晴らしい作品がたくさんあった。私もいろいろな作品を楽しんだ一人だ。
大抵の筋書きとして、超常としたファンタジーや驚異的なテクノロジー世界を現代の価値観をもつ主人公が冒険していく、おおまかにはこのようなものだったと思う。
でも、ふと考える。
もしも前世の魂をもつ人間が違う世界に晒された時、その衝撃はどれほどのものなのか。
外国に旅行に行くと触れる水や空気の違いで体調を崩す人がいる。きれいな絵画を見たり、素晴らしい音楽を聴いたときに涙を流す人がいる。そんな刺激や環境に対して反応がよく出る人間という生物に対して、文化や国土の違いどころではなく、光が、音が、匂いが、異世界という特大の刺激物が与えられた時、人は崩れてしまうのではないだろうか。
これは大学の同期と酒の席で話した空想であり、あるゲームのセリフから膨らませた当事者ではない安全圏からの妄想だった。
でも私は今列車に乗っている。
学園都市キヴォトスのDU地区に向かう特別列車に乗っている。
あぁ、過去の私に言いたい。そんな妄想をするなと。もしかしたら前世の街並みを歩くようにブルーアーカイブの世界を歩くことが出来たかもしれない。いろんな学園を観光できたかもしれない。頼りがいのある大人として今目の前に座っているこの子を安心させることが出来たかもしれない。
でももう遅い。
目に入る光は私にはまぶしすぎて、あの子と目が合わせられない。列車の走行音はひどく私の鼓膜を震わせて、てんてこまいになってしまいそう。そしてあの子から流れる血の匂いに溺れてしまいもはや呼吸もうまくできない。
「……私のミスでした。」
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。」
「私が唯一信頼できるあなたをこんな状態にしてしまったのも。」
今の私にこの子との記憶は無い。でも、彼女の中にいる私に助けを求めている。怪我を負っている年下の女の子が最後に頼る砦として私を頼っている。
「……どうかそんな顔をしないで、私は大人だから大丈夫。」
息も絶え絶えになりながら返答する。確かに私は異世界に晒されて死にかけているかもしれない。列車の座席に座っていられず膝をついているかもしれない。でも私は大人なんだ。先生なんだ。この子よりも年上なんだから、
「……今更図々しいですが、お願いします。先生。」
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから。」
「大丈夫。私を、あなたの信頼してくれた大人に任せて。」
―――
あぁ、この人は変わらない。死にかけて、私のこともわからないままに、年長者として私を安心させようとしている。そして見知らぬ誰かの荷を背負おうとしている。だから、あなたにならキヴォトスを任せられる。もしかしたら私は戻ってこられないかもしれない。でも、あなたのおかげで少し安心できそうです。
「どうか、よろしくお願いします。」
どうやら、お願いを聞き届けたら気を失ってしまったようです。先生、今のあなたは宇宙に生身で漂っているようなものです。ですがそんな状態のままこちらに呼び寄せてしまったのは私の責任です。勇敢な宇宙飛行士には素敵な宇宙服が必要ですよね?
「クラフトチェンバー起動。」
これは私からあなたに贈る最初で最後のログインボーナス。この捻じれて歪んでしまった終着点をどうか変えてくれることを願っています。
感覚的には感度3000倍になったラピュタのおじいちゃんに飛行石の光を見せてる感じ。
そのためこの先、先生は連邦生徒会長の手作り宇宙服を着ている姿がデフォルトになります。