学園都市キヴォトスの中心部D.U.にはサンクトゥムタワーと呼ばれる大型建造物がある。キヴォトス全域の行政施設として機能しているはずのそれは、連邦生徒会長失踪と同時に現在すべてのシステムがダウンしていた。
そんなサンクトゥムタワー待合室に急行する影が一人。失踪した生徒会長の代行をしている七神リンである。
「連邦生徒会長の推薦した人物とは...」
早足で歩く彼女の顔には軽微な疲労が窺え、眉は少々寄っていた。代行となってからの仕事量がピークに達している現状において、さらに連邦生徒会会長が推薦した大人が来るというイベントが降って湧いたのである。
「とにかく会って話さないと」
連邦生徒会長の残したメモによれば、政治的特異点であり超法規的措置を持つシャーレにはサンクトゥムタワーの権限を奪還できる端末があるはずである。
「大変お待たせいたしました。私は...」
待合室に着き、早速サンクトゥムタワーの制御権奪還のフィクサーと今後について話そうとした彼女の目に飛び込んできたのは、ソファの上で仰向けになった宇宙服だった。
―――
「...い」
だれかの声が聞こえた気がする。でも体が重くて起きる気にならない。
「...先生、起きてください。」
先生?私は学生だし違うか。このあったかい抱擁感を逃すのは惜しい。
「先生!」
そこで私の意識は覚醒した。目を開けるとガラス越しに気の強そうでとんでもなく美人な女の子の顔が見えた。...ガラス越し?いや、モニター?わからないけど、どうやら今の私は着ぐるみを着ているようで、ひどくもっさりしている。
「だれぇ......?」
よくわからないまま美少女と目を合わせる。深い青色をした髪と横に伸びた尖った耳が可愛い。何を話せばいいかと悩んでいると視界の端にメッセージが出てきた。
『先生、これから頑張ってください!byあなたの一番の生徒より』
このメッセージを読んだ途端に私はこのキヴォトスにどうしてか先生としてやってきたことを思い出した。そうだ、ここはブルーアーカイブの世界だ!
ということは目の前にいるこの美少女は生徒なのだろう。初対面が気絶した姿となってしまったことに少しの恥ずかしさを感じた。
「おはようございます、少々待って頂いている間に寝てしまうとはかなりお疲れだったのでしょうか。」
早速チクリと言われてしまった。怪訝なものを見る目で私のことを見てくるが、年下に痴態をさらした身のため、甘んじて受けるしかない。
「ん?」
というかこのやり取りに心当たりがある。インナーカラーが蒼色で綺麗な長髪、キュートなとんがり耳、そして知的な眼鏡まさかこの子は…!
「あなたリンちゃん!?」
「はい?」
―――
着陸する場所を間違えたような宇宙服姿の大人は、声を聴くに女性のようでした。初対面が寝ている姿で、起き抜けにちゃん付けで呼ばれたのにはびっくりしましたが。
今はエレベータに乗って行政区画へ先生と移動中です。先生は先程からエレベータのガラスの反射で姿を確認していて、どうやら宇宙的なファッションセンスの持ち主ではないようです。
「そちらの服はご自身で着られたのではないのですか?」
「えっとね、生徒にプレゼントしてもらった物で、似合っているか確認してたの。どう?」
訂正、ファッションセンスは怪しいところがあるようです。お言葉の通り、失礼にならない程度に先生を見回してみると、ヘルメットのガラスは黒く中の顔は窺えません。宇宙服は分厚く、身体のラインもわかりません。
「ええ、月面でしたらこれ以上ないほどに似合っていると思います。」
「やっぱり?」
「まだ顔を見ていないのですが」
「なんか外し方がわからなくて…ごめんね?」
ヘルメットを外してもらえるか頼もうとしたところでエレベーターが行政区画に到着し、降りたところで
「やっと来た!代理、連邦生徒...会..長は...」
ミレニアムのユウカが詰め寄ってきました。おそらく昨日から発生している発電所の停止について尋ねにきたのでしょう。しかし、となりの
「宇宙服ですね。」
トリニティのハスミがやや困惑した表情でつぶやく。えぇ、わかります。初見のインパクトにどうすればよいかわからなくなるのは私も先程経験いたしました。
「えっと、こんにちは?」
やめて!キヴォトスの環境下で、先生のヘルメットを外したら、神秘に耐性のない先生のクソザコ精神が燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで先生!
あんたが今ここで倒れたら、連邦生徒会長との約束はどうなっちゃうの?
ヘルメットの耐久度はまだ残ってる。ここを耐えれば、ワカモに勝てるんだから!
次回「先生死す」デュエルスタンバイ!(嘘予告)