世界の端で、特に理由もなく生きている 作:Saogal
今日の点検場所は「第三区域・公園跡」だった。
端末の地図には、もうない建物の輪郭が淡く残っていた。
地図の方が現実よりも、過去に忠実なように見えた。
現地は更地で、地面の色もほとんど均一だ。
何かがあった気配は薄く、ただ“空いた場所”がそこにあるだけだった。
風が吹くたび、乾いた砂が少しだけ移動したが、形はほとんど変わらない。
砂場の枠がひとつ残っていた。四角い枠は色褪せており、角がわずかに摩耗しているのが分かる。
中には小さな砂山が絶妙なほど綺麗に広がり、足跡はなかった。
誰も使っていないのに“整えられている”ように見えた。
公園だった場所には、もはや用途が分からなくなって久しいベンチの基礎土台だけが残っていた。
座板はなく、コンクリートに穴がいくつか空いていた。
ベンチが置かれていた事実よりも、“撤去された後の静けさ”の方が場所に馴染んでいた。
かつてゴミ集積場だった金属製の枠だけが残っていた。
錆はなく、むしろ新しい部材に交換されたようだった。
処理すべきゴミなど最後にいつ出たんだろうか。
滑り台の骨組みだけが残っていた。
支柱は色が抜け、手すりは一部取り外されている。
子どもの声が響いた時代の記憶は、もはやこの場所には残っていないようだ。
存在自体が“人の記憶の隙間で、ただ置かれ続けている物”に見えた。
点検表には、手すり部分のボルト交換とだけ書かれていた。
交換しても状況は変わらないだろうと分かっていたが、作業の手順だけは指定されている。
工具箱を開け、規格番号の古いボルトに目を通す。
前任者のメモが残っていたが、かすれていて読めなかった。
意味があったのかどうかも分からない文字だった。
レンチをかけて回すと、金属がゆっくり軋んだ。
音は広場に吸い込まれるように小さく、反響もない。
外したボルトは箱に落とし、新しいものを取り付けた。
交換前とほとんど違いはなかった。
記録用の写真を撮り、点検表に必要な項目だけ打ち込む。
広場の向こう側で、建物が崩れる音が低く響いた。
姿は見えなかったが、建物の影が時々揺れ、壁が落ちる音だけが断続的に届いた。
世界が“空白に向かって少しずつ均されている”ような音だった。
空の色は澄んでいた。
季節の匂いも湿度もなく、ただ薄い青色が均一に広がっていた。
晴れていると呼ぶには、どこか抜けた明るさだった。
車に戻り、ドアを閉めると端末が自動で画面を切り替えた。
『投票日まで、あと4日です。』
文字だけが浮かび、すぐに消えた。
画面を払い、エンジンをかけた。
次の点検場所へ向かうため、ゆっくりと車を動かした。
途中、空き家だった区画が並んでいた。
家の形だけが規則的に並び、誰もいない通りが続いた。
その光景は、少しずつ薄くなっていく世界の写しのように見えた。
今日の作業はこれで終わりだ。