賢者は希望を思い、抱く。   作:ぶなよ

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次話から回想になります。
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(非)日常編 【自由時間】

 この学園に監禁されて4日目になった。今は、夕方。しかし外が見えないので、空なんかもってのほか。夕日を見ることなんて、この学園にいる限りは叶わないだろう。

 

真城(ましろ)君。こんにちは、それとも……おはようの方がよろしいのでしょうか?」

 

「何でそれを……!?」

 

 舞園とすれ違った。クソ……どうして俺が今までふて寝していた事がバレているんだ。やっぱり舞園は本物のエスパー? くっ、厄介な。さすが超高校級のアイドル。

 

「もーっ、真城君。そんな悪役みたいな台詞。それと超高校級のアイドルである事は関係ありませんよ」

 

「ならどうして分かったんだ?」

 

「うふふ、エスパーですから」

 

 やっぱり!

 

「いやいや嘘です、違いますよもう。真城君、前髪に寝癖が……ふふっ、凄い寝癖ですよ。本当。誰にも言わないので、直して来た方がいいんじゃないですか?」

 

 手で軽く確認する。本当だ。おでこから見て垂直に、俺の前髪は寝癖によってセッティングされていた。しかも、生まれつきある妹とお揃いのアンテナのように上に突っ立っている癖毛はそのままに、だ。

 ……舞園に笑われるのも無理はない。というより、凄く恥ずかしい。

 

「あ、そういえば舞園は、もう大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、って……動機のDVDの事ですか?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 瞬間、空気が変わった。笑うことによって細くなっていた舞園の目は俺を見つめていた。まるで捕らえられたかのように、その視線からは逃れられない。その口元を隠していた手は何かに耐えるようにスカートを握りしめている。

 俺の目の前にアイドルは居なかった。そこにはただ、俺と同じように怒り恨み泣く、1人の人間が居た。

 

「では逆に聞きますね。真城君はあれを見てどう思いましたか?」

 

 舞園は俺を責めるように言う。いや、実際に責めているのだろう。当たり前だ、あんな物を見せられて平然として居られる人間なんか居ない。何せ、あの葉隠ですら焦っていたのだから。

 

『出してよぉっ! ねえ、ねえっ、ねえぇ! 出して出せ! この愚図! ゴミ!』

 

 そのアパートの一室らしき場所。廊下がやけに可笑しなアングルで映っていた。きっとこの映像は盗撮なのだろう。廊下の先、玄関には俺の妹の大親友、そして俺の幼馴染みの少女が居た。

 

 祈浬(いのり)。それが彼女の名前だ。彼女は、俺すらも聞いたことのない罵声を小さく可愛い口から出す。小さな握り拳にはもう既に青色や赤紫色の痛々しい痣があった。けれど、祈浬は玄関の扉を叩くのを止めない。

 

『この犯罪者! 拉致監禁は犯罪なのよ! 捕まりますよ! 罪が軽くなるからとっとと出して!! 家に返して!! あうぅっ!!』

 

 叫びながら叩き続けるも、手が痛むらしく祈浬は握り拳をもう1つの手で撫でて座り込む。

 

『もう嫌だよぉ。帰りたいよ……ちるちゃんやりょっくんに会いたいよ……』

 

 お空が見たいな、祈浬は呟く。涙が頬を伝っていた。映像は、次に俺と祈浬と、俺の妹が写った、皆笑顔の写真を皮肉のように見せて終わっていた。

 

 俺に渡されたDVDは強いて感想を言うなら、「絶望的な物だ」としか言えないほど悲惨な物だった。「こまる……っ」と呟いていた苗木の物も、「何でなのよ!?」と叫んだ腐川のだって、複雑そうに顔を歪めた十神のだって。それに今目の前に居る舞園のも、深い深い絶望の映像だったのは同じだろう。

 

「ごめんな、舞園、聞かなくても良い質問だった。嫌な思いをさせたな」

 

「真城君、嫌な事を思い出させてしまいましたね、ごめんなさい」

 

 2人で謝り合い、さっきよりは軽くなったけれどまだ重い空気が漂う。舞園がスカートを握りしめていた両手を、何かにすがるように胸の前で組むと俺に話しかける。

 

「真城君は、もしもこの学園の中で人が殺されたのならば、どうします?」

 

「ああそうだな……。絶対に、許さない」

 

「そうですか、……真城君らしいです。やっぱり、そうですよね」

 

 舞園は心なしか悲しそうな表情をした。組まれていた手は、いつの間にか、スカートのシワを気にするかのようにスカートの生地を伸ばしている。

 

「あっ、寝癖直しに行った方がいいですよ真城君ってば、皆に笑われちゃいます! それじゃあさようなら、また今度会いましょう」

 

「あ、ああ……じゃあな」

 

 少々強引に別れて、舞園は食堂の方、俺は自室へとそれぞれ反対方向へ進む。

 今、俺は舞園さやかというアイドルが俺と同じ個人であること、人間であり、フィギュアでも作り物でもないということを再認識した。

 

 

  ◆   ◆  

 

 

 自分の部屋、この学園で殺される危険の一番無いであろう、安全な場所。誰かがモノクマの狙い通りに殺人をするだなんて昨日までは信じてなんて居なかったけれど、動機が公開された今となっては、殺人の可能性が増えたのだ。警戒するに越した事はないだろう。

 

 シャワールームに行く。今まで数回シャワーを浴びたけれど、浴槽でゆったり湯船に浸かり心身共に休むのが風呂場の存在意義だ。浴槽のない、シャワーだけ。ふざけるな、と言いたい。と言うか、実際にモノクマに言ったところ、「ふーん、殺人が起きたら考えてあげてもいいよ」と言われた。……誰が、殺人なんかするもんかよ。

 

 蛇口からお湯が出る。温度調整。何となく、水にする。手で水を掬って前髪にかけて寝癖を直そうとするも手強い。何とかおでこから見て垂直、ではなくおでこから見て40度ほどにまで戻った。こんな短い髪、しかも短時間しか寝ていないというのに何故こんな事が起きるんだ。寝癖が完璧に元に戻り、髪を拭くのも終わったのは、シャワールームに入って30ほど経ってからの事だった。

 

 もう自室に居る意味もないので、服と髪を軽く整えてから廊下に出る。適当に体育館にでも行こうかと足を運んだ。

 

「その足音は霧切ちゃん!? って真城かよ……」

 

 体育館には桑田が居た。多分、今この学園に居る奴の中では一番話した回数が多く、それに比例するように仲も良くなっている。もしも、絶対に誰かを殺さなくてはいけないとしても桑田怜恩だけは狙わないくらいには。

 

 ちなみに、反対に接する度に印象が悪くなっていくのは、モノクマや十神やセレス辺りだ。霧切や腐川もコミュニティー能力は低いのだが、霧切は嫌味なんて意味無しには言わないし、腐川はコミュニティー能力が低いのが逆に話していて面白い。他には、大和田や石丸が苦手だ。まあ、印象が悪い理由や苦手な理由なんか、少し考えれば分かると思う。

 

「よう、桑田。足音って何の話だ? まさかお前、舞園と苗木が最近良い雰囲気だからって、霧切をストーカーか? モノクマ呼ぶか?」

 

「それはちげーよ!」

 

「女子全員のストーカーか? 大神に気づかれないようにって、難易度高いぞ」

 

「それもちげーし」

 

「俺のストーカーかぁ。怜恩、好きだよ」

 

「気色悪いわ!」

 

 桑田弄りは楽しかった。ちなみに、「怜恩、好きだよ」は精一杯の萌えボイスで言ったはずなのにダメ出しを食らった。少し残念だ。

 

「ストーカーじゃねーし。ったく……ほらさ、俺の夢ミュージシャンだろ? ここって音楽室使えないし……で、足音で人を区別したいと思ったんだよ」

 

 歪んだ努力の方法だった。

 

「気色悪いな」

 

「いや、前に真城と話した内容でさ、漫画の話で『足音で人を区別出来る音楽家』って居たじゃねえか。何て言うかな……さやかちゃんに教えてもらうのも恥ずかしいだろ?」

 

「舞園に教えてもらう方が、現状よりは10000倍マシだったよ」

 

 その後、色々な話をした。好みの女子のタイプや、今まで読んだ漫画の話、この才能であった良いこと。

 

「あ、真城。これ要らねえからやるよ」

 

「……水?」

 

「そ。さっきガチャガチャして出たんだよ。折角メダル一枚使ったのに、こんなものしか出なかったわけ」

 

 あーあ、お前と回した時は良いのが出たのになー。

 

 桑田はそう呟く。しかし、水、水か。本当に、役に立ちそうにない。火事なんか起こらないだろうし、食料がなくなることもないだろう。まあ、もしかしたら何かの役に立つかもしれないので貰っておく。

 

「この水、安全だよな?」

 

「むしろ毒とか何処で手に入れんだよ」

 

 一応安全らしい。飲んだり、誰かにあげても害はないだろう。

 

「貰うんだよな!? 返すなよ!?」

 

「返さねえよ」

 

 その後、適当に桑田と別れた。長話したからか腹が減った。食堂にでも行こうか。

 

 

   ◆  ◆   

 

 

「チョリィース☆ ヤッホー、真城くんじゃないの。何か話さない?」

 

 食堂には江ノ島が居た。ギャルらしく気軽な感じでノリのいい、それなりに話しやすい性格

だ。食堂を見回してみると、俺と江ノ島以外誰も居ない。要するに、暇潰しか。

 

「ん、じゃあナポレオンは3時間睡眠で本当に軍人として戦えたのかについて語り合おうか」

 

「3時間睡眠ね……ショートスリーパーっていうの? 嘘臭いよね。真城、アンタは真似すんじゃないわよ。下手したら死ぬかもしれないから。ああ、それとさ……軍人って言えば」

 

 結局その後、江ノ島の長話を聞かされる羽目になった。16時に起きて、舞園と話し寝癖を直して桑田と長話してから江ノ島と長話だなんて、江ノ島と話している途中に一般的な夕食の時間になっても文句は言えない。

 

 江ノ島の長話を聞かされながらの夕食。

 

「んでんで、その……サイコパステストってのにさ軍人の肖像画、の奴があるんだって。心理テストでさ……」

 

「……そうか」

 

「普通、軍人なんか地雷踏むに決まってんじゃない。特に未熟な奴は……」

 

「…………そうか」

 

「だからさ、真城。軍人にだけはなろうだなんて……」

 

「………………そうか」

 

「もしアンタがブラック会社に就職したらさ、あたしがぱららららっ! ってやったげるから安心して大人になりなさいよ」

 

 食事中、しかもクラスメイト(になるかもしれない)の女子が作った夕食を食べている高校生の青春で、グロ話を聞かされながら食べる気分は、相手が女子じゃなかったら逃げたい、だった。

 

 「あー」「そうかな」「確かに」と、どんな話でも通用する相槌を打つ。やがて江ノ島は満足したらしい。

 

「ふうぅー。いやー聞いてくれてありがとうね! 真城、また話そうよ。次はアンタも積極的に話しなさいね!」

 

 おい、この子恐ろしい事を言い出したぞ。

 

 救いを求めるように、苗木と舞園にすりよっている桑田を見る。どちくしょう。こっちなんか気にせずに舞園と会話している。苗木を見る。申し訳ないけれど助けられないとその目は語っていた。舞園を見る。桑田と会話するのが気まずそうだった。とりあえず一言、桑田、空気読め。

 

「ああ……そうか」

 

「聞いて貰っちゃってごめんねー、じゃ、あたしはこれで。真城の食器も片付けとくねー」

 

 ちなみに本日の食事は、たくわんと味噌汁白米など見事に和食だった。エビチリとか赤い食べ物が出なくて良かったと心から思う。ていうか、よく完食できたな、俺。

 

 手に握ったままのペットボトルはぬるくなっていた。腹いせのつもりで、江ノ島に渡すことにする。ぬるいただの水なんかギャルは飲まないだろうから。

 

「これやるよ。返すなよ!?」

 

「んー何ー? おっ、水かー。なかなか良い物持ってるじゃん。返さない返さない。ありがとうね真城。あたしアンタに惚れちゃったかも」

 

 江ノ島は真面目に、しかしどこかおどけた様子で次の言葉を紡いでいく。

 

「もし、あたしが誰かを殺す……そうね、モノクマに脅されたとしても、アンタと苗木だけは絶対に殺さない。約束するわ」

 

 江ノ島は、演技でもなく本当に「得した」というように未開封のペットボトルと食べ終わった2人分の食器を厨房の方へ持っていった。

 

 「なあなあ」と、苗木と舞園にすりよっていた桑田が、俺の方にやって来る。

 

「あの台詞からして真城なら、江ノ島ちゃん攻略出来るかもしれねえぞ?」

 

 どうやら桑田の中で苗木の存在は消え去ったらしい。都合の良い頭だ。羨ましいな。っと、朝日奈や大神を始めとする女子からの視線が痛い。舞園でさえ冷ややかに見つめてくる。女子の結託力凄い。そして怖い。

 

「攻略って……嫌な言い方だな。本気に好きになって、それで告白するべきだと思うけどな……」

 

「けっ、変なところで頭固いのな。そんなんじゃ彼女出来ないぞ」

 

 女子の視線が俺達を見つめる物ではなく桑田だけを冷ややかに見つめる物になる。だから結託力怖いってば! しかし、攻略って酷い言い方だと、本当に思う。桑田とは、今の悪友では居られても親友にはなれないのではないだろうか。少なくとも、桑田の恋愛観や野球についての想いが変わらない限りは。

 

 夕食を食べ終わったので、食堂から出る。

 

「真城っちー、よっ、男前!」

 

「桑田怜恩殿、キャルゲー脳ですねー。舞園さやか殿攻略なんか、桑田怜恩殿が主人公なら難易度ハードのさらにエクセトラモードですぞ。IFでしか攻略出来ないくらいの無理ゲーってちょ、何故こちらに来るんです?」

 

 ……後ろで何か大惨事が起こりそうな気がするが、あくまで気がする、だ。気にしない方が良いだろう。

 

「ヘルプミー、真城涼殿ー」

 

 知らね。俺は見て見ぬふりをして、罪悪感に悩まされることも特に無く食堂を後にした。

 

 

   ◆  ◆   

 

 

 その後、俺は普通にシャワーを浴びて普通に着替えて普通に寝た。

 

 どうでもいいけれど、俺が朝風呂族でないからか1日に2回、風呂場またはそれに類されるものに入るのはかなり珍しい。

 

 寝巻きは、何故か俺好みのデザインの物が最初から用意されていた。入学してきた時に来ていた前の学校の制服も、複数用意されていた。これだけの物を用意出来るモノクマは一体何者なのだろう? やはりこのコロシアイ学園生活全てはドッキリなのだろうか? 動機のDVDがもしも嘘ならば、俺はどれだけ救われるだろうか。でも、あれは嘘ではないだろう。祈浬は演技なんか出来ないし、何せ、祈浬にあんなことをさせるとしたら、俺の妹であり祈浬の幼馴染みの(みちる)が許さないだろう。本当、学園を退学するほどのレベルで騒ぎ、自殺でもするんじゃないかと思うくらいに喚く。満はそれくらいに祈浬のことが大切なのだ。

 

 兄の俺よりも。自分の親よりも。恩師と呼び慕った小学校の先生よりも。本当、天地の差の丁度良い見本になるくらいには。周りの人が嫉妬してしまうくらい。

 

 家族に、友達に、皆に会いたい。眠るまで結局、布団の中で目を瞑ってそのことばかり考えていた。

 

 ちなみに時間は8時45分。かなり早めの就寝だった。よくグロ話を聞かされた後で眠れたな。俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ学園生活 4日目 リザルト

 

特別アイテム

 *永遠のミサンガ→友情のミサンガ(桑田)

好感度

 《悪友》

   桑田怜恩

 《友達》

   苗木誠

   江ノ島盾子

   山田一二三

   不二咲千尋

   葉隠康比呂

   腐川冬子

 《知り合い》

   舞園さやか

   霧切響子

   セレスティア・ルーデンベルグ

   朝日奈葵

   大神さくら

 《顔見知り》

   大和田紋土

   石丸清多夏

 《険悪》

   十神白夜

モノクマ(黒幕)への印象

 『拉致監禁をした人』

精神力

 『殺人が起こらなければいいが……』

 ★★★★☆→まだまだ余裕。




真城「水って役に立たねえよな」

残姉・ペコ「え」

真城「火事とか起こらねえよな」

狛枝・妹様「うわ…」

真城「食料なくなる訳ねえだろ」

田中・残姉「……」

とまあ、油断ばかりな主人公でした。
もし、普通にゲームに居たとしたら、家族への無念を残しながら死ぬ、または殺す系のキャラです。
小泉・不二咲(地雷を踏んで殺される)や、舞園・花村(親しい人のために殺そうとする)辺りに近いシチュエーションでしょうか。
少なくとも、Chapter1~3には死ぬ、そんなモブを目指して作ったキャラです。

リザルトシステムですが、小説の中で1日が終わったときに本文の中に入れようかと思います。たまに1日が終わったとき以外にも入れるかもしれません。恐らく、「特別アイテム」「好感度」「モノクマ(黒幕)への印象」「精神力」以外には増えることはないでしょう。
ちなみに好感度は真城(主人公)主観です。真城が桑田のことを好意的に見ていても桑田は真城を嫌っている、ということやその反対もあり得ます。
オリジナルっぽさを出したかっただけのリザルトシステムなので、予告無しに消すかもしれません。

鈍い文だし、かなり更新が遅くなるかと思われますが、徐々に定期的更新にしていきたいです。よろしくお願いいたします。
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