隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う   作:けーか

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どうも百合豚です。好きなSF小説は"ハーモニー"です。


わたしのものであれば適当でもいいが、みしろのものとなれば少し真面目に考えようと思う(1)

「おおきい……」

 

 爺さんに言われたように服を買うため。

 わたしとみしろは喫茶ぺネイトレイトの、最寄駅から二駅ほどのところにあるショッピングモールまで来た。

 当たり前だが、みしろはこういう場所に来るのも初めてなわけで。

 そこまで大きいというわけではないのだが、みしろは"ほげー"といった感じの表情(かお)でショッピングモールを見ている。

 入ってみると、平日だからか人が少ない。

 と言っても、休日にここへ来たことがないので比較はできないのだが、おそらくこのように広い通路を進むことはできないのだろう。

 

「あ」

 

 ――エスカレーター。

 もうずいぶん前のことだから、記憶が朧気(おぼろげ)ではあるが。

 初めてエスカレーターに乗るときは少し怖かった気がする。

 うーん。

 もう少し先にエレベーターがあるからそっちから行けばいいか。

 エスカレーターを避けようとしたら、みしろが遠慮がちに口を開く。

 

「こっちから行かないんですか……?」

 

 そう言ってみしろがエスカレーターを(しめ)す。

 ……いらない気遣いだったか。

 まあそれはそれとして、少し心配ではある。

 ので、だ。

 

「危ないから、さ」

 

 そう言って、手を差し出す。

 絵原さんなら何ということなく、自然にみしろの手を取ることができるのだろう。

 しかしわたしは、どれだけ彼女をなぞろうと、絵原さんのようにはなれない。

 いつだって単純に星堕(ほしおち)()つかってきたわたしには、器用な立ち回りというのが難しくって。

 かつて絵原さんと組んでいたときは、本当に助けられていたのだなぁ、などとしみじみ。

 

「で、では……」

 

 ふに、っと。

 そんな感触。

 みしろの手だ。

 いやはや小さい子供の手というのは柔らかいものだ。

 

「わっ。暮澄さんの手、柔らかい……」

 

 …………………………。

 別に。

 別に手が柔らかいのは、子どもに限った話でもないか。

 

 

 エスカレーターに乗って服のお店まで行く。

 星堕対策機関(Stelladusk Eradication Agency)を辞めたときに、暮らしてく上で必要なものを買ったときに来た以来なので、ガラス越しに並ぶマネキンの来ている服は様変わりしている。

 こういった場所に来るのが初めてだから、物珍しそうにキョロキョロとしているみしろに「行こうか」と声をかけて、手を引いて中へと入る。

 みしろの身長ならわたしと同じくらいのサイズのものでいいと思うのだが……。

 レディースと、キッズの中間くらいのもの。

 いや、多い……。

 今の場所に来るまでにメンズのものの置いてある場所があったが、広さが段違いだ。

 まあもともと、私が選べるとも思っていないので、手ごろな店員さんにお任せしたいのだが……。

 みしろがいるので、大人の人を避けたいというのが少し厳しいものだ。

 平日だから学生バイトもあまりいないだろう。

 こう、なるべく怖くない人。

 まあ服のお店の人に、怖い人がいるイメージというのもあまりないが。

 きょろきょろと。

 周りを見たところ、視界に入った店員さんは一人だけだった。

 なんて珍しいこともない、明るいブラウンの髪をした若い女の人。

 私と同じか、少し上くらいだろうか。

 身長ではなく、年齢の話。

 身長の方は特別高いというわけではないのだろうが、わたしたちと比べればどうしても高い。

 まあでも。

 ほかに店員さんも見つからないし、あの人に聞いてみようか……。

 来て早々に店員さんに頼るのは少し格好がつかないかもしれないが、店員さんに頼らずにただぶらぶらしているというのも、結局格好がつかないだろう。

 

「みしろ、わたしじゃ服はちゃんと選べないと思うから、あの人に聞いてみようと思うんだけど……えっと、大丈夫?」

「は、はい……!」

 

 うーん。

 本人はこう言っているが。

 とてもじゃないが大丈夫には見えない。

 しかしみしろを一人にしてまたせるというのもよくないだろう。

 みしろの気持ちももちろんだが、何より心配なのだ。

 違法異能実験を行っていたカロスナック社は壊滅したとはいえ、その残党がいるかもしれない。

 先ほど見たデータにも、みしろにだけ「星片(stella dust)の投与」という実験が行われていた。

 であれば、だ。

 みしろはカロスナック社にとって、ほかの子どもよりも重要度の高い可能性がある。

 そうでなくともまだ外での暮らしに慣れていないみしろを、ここで一人にするなんてことができるはずもない。

 ――などと。

 思考していると……ふと。

 先ほど声をかけようかと思った、店員さんと目が合う。

 って、あれ、こっちに来る……!?

 

「先ほどから迷われてるようですけど、何かお探しですかっ?」

 

 バ、バレてた……。

 それはまあ、そうか。

 なんだかんだこのフロアに来てから数分ほど、商品を手に取るでもなくウロウロしていたのだ。

 それに加えてわたしやみしろみたいに、まだ小さい子どもに見える(みしろは子どもなのだが)ような()だけで、というのは大人の人にとっては心配の種だ。

 

「ああ、えっと、この()の服を探してて、秋物を少しと冬物を……あ!お金なら預かってきてるので、似合いそうなもの選んでもらえますか?」

「承知しました!これからの季節でしたら、あちらに新しいの入ってるので、ついてきていただけますか?」

「ああ、はい。お願いします」

 

 わたしの後ろにいるみしろにそっと目を向ける。

 やはりまだ少し怖がっているように見えるので、握った手の力をほんの少しだけ強くすると、みしろの方からも気持ち程度に"ぎゅ"っと握り返された。




エスカレーターは二列で、歩かずに、安全に乗りましょうね。
お姉さんとの約束です。
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