隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う 作:けーか
場所は試着室。
あの後、私が声をかけた店員さんが別の店員さんに何か言った後に、わたしとみしろは試着室へと連れていかれた。
それから数分待っていると、かごの中に様々な服がこんもりと積まれた状態で運ばれてきた。
「とりあえず秋物です!」と。
わたしは秋物は少しでいいといったはずなのだが。
現在はみしろがその秋服の試着をしているところなのだが、この後さらに冬物が来るのか……。
「どうでしょうか……?」
「わぁ~!とってもお似合いですよ!」
今みしろが着ているのは、長袖の白いTシャツにグレーのロングワンピース。
みしろの透き通るような白髪がよく映える。
服装などにあまり頓着しないわたしでも、これが似合っているということはわかる。
もしこのレベルで似合うものがたくさんあるのだとすれば。
わたしにはどれを買うか選び取ることができないかもしれない。
買うのは問題ないが、持って帰るのが大変だ。
なんてことを考えていると小さく、しかし強いようにも感じる、抗議するような声が耳に入る。
「あの!暮澄さんは、どう思いますか……!」
「ん、ああ。すごく似合ってるよ」
――確かに。
自然に考えれば、わたしに聞いていたのだ。
私が「似合ってる」と言えばみしろがぱあ、と笑う。
「あ、あの、えっと」
「とりあえずこれは買おっか」
「!ありがとうございます……!」
みしろが喜んでいるようで、それは何よりなのだが。
――いやしかし。
このままだと本当にぜんぶ買うルートに入ってしますのではないだろうか……?
――――――――――――――――――――――――――――――
「すみません。いっぱい買ってもらっちゃって。まだこの後もあるのに……」
「ううん、いいんだよ。これでも結構減らした方だし。爺さんに言われちゃったからね」
あの後――みしろに秋服を一通り試着してもらって、その選別に一時間半ほどかかった。
時間も時間なので一旦お昼ご飯を済ませて、今から冬服と爺さんに言われた自分の服を買いに戻るつもりだ。
ショッピングモールに入っているチェーン店のレストラン。
みしろは昨日のおかゆがお気に召したらしく、近いものがあるかということで、ドリアを美味しそうに食べていた。
「あ、みしろ。さっきのところ戻る前に、ちょっと寄り道していこっか」
「寄り道……ですか?」
「うん。ちょっと遊んでいこう」
服を選ぶのもいいが――子どもは、遊ぶのも大事だろう。
音と、光。
服屋さんに向かわずに、一旦の寄り道先。
「ゲームセンター、というんですね……!」
――そう、ゲームセンターだ。
みしろはもちろん、わたしも初めて来たのでよくわからないが、遊ぶと言ったらここなんじゃないだろうか……!
入ってすぐのあたりにはクレーンゲームがたくさんあり、これならわたしでも少しはわかるので、クレーンゲームの方に少し近づいてみる。
「えっと、これは……?」
「これはクレーンゲームって言って、あのアームで景品をとるゲーム……のはず」
「はず?」
「実はわたしもやったことないんだよね」
目の前にあるのは、小さめのもので中にはたくさんのぬいぐるみが積まれている。
ぬいぐるみの種類は、ラッコとペンギン。
あまり大きいサイズではないので、このくらいなら増えても問題ない。
ぬいぐるみなら、すでにペンギンとミーアキャットが玄関にいるが――。
一瞬、ぬいぐるみを見たみしろの目が"甘い"という言葉を聞いたときのものと重なった。
……昨日みしろに寝てもらった客間には、ぬいぐるみがひとつもない。
普段あまり使わない部屋で殺風景だから、少しくらい置いといてもいいんじゃないだろうか。
「あれ、とってみようか」
「いいんですか……?」
「うん、もちろん」
やったことはないが大人として、軽く済ませるとしよう。
「む、むずかしい……」
果敢に"くれーんげーむ"に挑んだ暮澄さんが少ししょんぼりとしている。
暮澄さんは「任せて」と言ってお金を五枚投入(これで六回できるらしい)したけど、結果はこの通り。
「流石に汎用異能を使うわけにもいかないし、もう五百円分だけ……!」
「あ、あの……!」
そう言って、またお金を投入しようとする暮澄さんを止める。
「わ、私やってみても、いいでひゅか……!」
私がやってみたい、という気持ちも、もちろんある。
しかしそれ以上に、非常に言いにくいけど――これ以上、暮澄さんが挑戦しても景品をとれるとは、あまり思えない。
頑張って取ろうとしてくれていたのはわかるけど、景品の位置はお金を入れる前から一切動いていない。
そう――暮澄さんは、アームを一回も景品に当てられなかったのだ。
「あ、うん、もちろん……やり方とか大丈夫?」
「はい、見てたので何となくわかりました」
「じゃあ……」
そう言って暮澄さんがお金を投入してくれる。
「むむ」
狙うは少し奥の方に位置する、立っている鳥のような動物。
元から少しだけ傾いていて、アームに引っかかりやすいように見える。
「あれなら……」
手元にはボタンがふたつ。
左側のボタンを押すと、右に動く。
右側のボタンを押すと、奥へ動く。
一度ボタンから手を放してしまうと、そのボタンは使えなくなる……で、合っているはず。
――左側のボタンを押す。
二秒で離す。
位置は、ちょうどいいくらい。
続いて右側のボタンを押す。
奥の方なので少し長めに――ここ。
ボタンから手を離すと、アームが降りていく。
そして爪の部分が、上手く鳥の脇の部分に引っかかる。
「……!」
ぬいぐるみが持ち上がり、そのまま景品を落とす穴のあたりまでゆっくりと移動している。
その間、ぬいぐるみは、落ちない。
ついに穴の上までたどり着き――。
「とれました……!」
かしゃん、と。
物が落ちたにしては、少し軽い音のように感じる。
アームの入り方を見るに、ぬいぐるみというのは柔らかいものなのかもしれない。
取り出し口に手を入れてみると、ふわっという感触とともに鳥を取り出すことができる。
「かわいい……」
目の前にある鳥のぬいぐるみは、クレーンゲームの中にいたときよりも愛らしいように見える。
もちろん、ぬいぐるみがかわいいのもあるけど。
お金は暮澄さんが払ってくれたとはいえ――初めて自分の手で、何かを手に入れたから。
私にはそのペンギンが、とっても輝いて見えた。