隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う 作:けーか
「
場所は
その総監、
本部に戻ってきたら来るようにと、連絡があったから何かやらかしてしまったのかと、ひやひやしていたのだが。
「――は?」
何を言っているのだろう、この人は。
脳が理解できないと文句を言うように
「無論、君たちの穴埋め要員はいる」
いや、そりゃあ、用意はされているのだろうが。
しかし自分でいうのも少しむず痒いが、ほかのエスキューと比べても暮澄班の
その穴を埋めるほどの人員がいるとは……いや、まさか。
流石にそんなことは――。
「――私と
SEA総監、唐浜 和賀。
かつてSEAの前身として存在した、民間の異能犯罪制圧組織"
Actは立ち上げられた当初、たったの四人で隣県の異能犯罪までもを取り締まっていたのだという。
その当時の四人はそれぞれ総監、副総監、刀坂作戦局局長、エスキュー総括隊長として活動している。
「……滅相もない」
エスキュー総括隊長以外は本来、現場に出る役職ではないのだが、Actの初期構成員は全員が現場出身――それもエスキュー相当の制圧力をもつのだ。
それに戦闘員の人員不足も相まって、なんだかんだで全員が時折現場に出ている。
が、それでも彼らは本来現場に出る役職ではない。
なのになぜ、わたしたちの休暇を優先しようとしているのか。
それが理解できないと問うてみる。
「……SEAの前身であるActの理念は、知っているかな?」
わたしが小学校に通っていたころの授業でもぎりぎり出るような――小学三年生で習うようなことだ。
Act設立以降の世代のもので、それを知らないものはいないだろう。
――"信念に従え、ただし信念に囚われるな"。
大した信念もなく、SEAで星堕を狩り続けているだけのわたしには、いまいちピンと来ない。
「これはさ、自由を大事にしてほしいって意味なんだ」
「自由……?」
SEAにそんなものがあるとは到底思えない。
Actが民間組織であった以上、また星堕という存在が出てきた以上、その在り方が変わるのは仕方がないことなのかもしれないが。
「私はね、このActの頃の理念を忘れたことはないんだ。SEAの皆に苦労を掛けているのも、申し訳なく思っていてね。だから順番に、休暇を与えようと」
まずは一番仕事量の多い君たちなのさ、と続ける。
「まあ、思う存分ゆっくりしてくれたまえ」
――――――――――――――――――――――――――――――
「とのことなので、明日はお休みだって」
初めましてから二か月ほど経ち、すっかり暮澄班の待機室に馴染んだ絵原さんに告げる。
絵原さんはこの待機室にいるときは、だいたい半魚人のようなマスコットの大きいぬいぐるみを抱き"ほげー"としている。
そして今の今までも"ほげー"としていたのだが、わたしの言葉を聞いて瞬間に目をばっちりと開いてこちらを向く。
「……今、なんて言った?」
目がきら――
「えっと……あ、明日はお休みだって……」
ばっ、と。
絵原さんが両腕を上げて声を上げる。
「二か月半ぶりの、休みだー!」
心の底から喜んでいるのだろう。
小さく飛び跳ねている。
はて、わたしの前の休みはいつだったかと思い返そうとして――やっぱりいいや、となる。
二年や三年も記憶を
「ねぇ、
「……へっ?」
予想外の言葉に、少し驚く。
この待機室でのイメージが強いため、絵原さんは一日"ぐでぇ"としてるものかと、勝手に思っていた。
ああいや、でも。
これだけの激務の中、笑顔を絶やさなかった辺り、意外というわけでもなのだろうか。
「せっかくのお休みなら、私は澄色ちゃんとどこか行きたいなー、って思ったんだけど……迷惑だったかな?」
「……いや、びっくりしただけ。別に大丈夫だよ」
ぱあ、と。笑顔になった絵原さんが"あれもいい、これもいい"と次々に候補を出す。
この三か月、共にしていてよく見た笑顔。
激務の中でもその笑顔が
――そのたびに思い出すのは、喫煙中の姿。
この世の中のすべてに対して、暴力性すら向ける気力のない
あれからは何となく悪いような気がして覗きに行くようなことはしていない。
「予定は私が立てちゃうから、とりあえず明日の朝は九時くらいまでに準備しておいてね!」
そう言ってわたしの返事も待たず、急ぎ足に待機室を出ていく。
それにしても、朝九時というのは早いのではないのだろうか……?
世間一般における"お出かけ"に関する経験も知識もないためわからないが。
ああでも――ああいった絵原さんの生き急いでいるような感じは、死が身近なSEAの戦闘員として非常に適したものだと思う。
それと同時に刹那的な生き方にも見えてしまうため、少し不安に感じるところもある。
――まあ真に刹那主義であればSEAで働いてはいないと思うので、そこに関してはわたしが心配する必要もないのかもしれない。