隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う 作:けーか
二時間以上の睡眠をとったのはいつ以来だろうか。
おそらくこれも思い出せないのだろうと思い、すぐに思考を切り替える。
現在時刻は午前八時五十分。
昨日の夜に"朝は一緒に食べよう"と連絡が来たので、朝食以外の準備を済ませて待機室に来ていた。
――すっ、といった感じの。
扉の開く音がして、そちらを見やると、私服の
「あ……
普段と違うのはもちろん、喫煙中ともまた違う、日常っぽさがあるというか。
薄手のブラウスの上から、淡いベージュのカーディガン軽く羽織るような形。
わたしがいるのを見て小走りになったことで、明るいブラウンのスカートと絵原さんの髪がわずかに揺れる。
手のかけられているであろうサイドポニーテール。
普段は時間がないからただまとめられているだけなので、これも新鮮だ。
「……おーい、大丈夫?」
はっ、と。
――わたしは、絵原さんに見とれてしまっていたのか。
いくら休日とはいえ、朝から気を緩めすぎていることに驚く。
朝から気を緩めすぎているだけ、のはずだ。
「ごめん、
「……体調悪いとかじゃない?」
「大丈夫だよ」
――見とれてしまっていたということを、
本気で心配をしている
絵原さんの前で呆けていると、本気で心配されてしまうので気をつけなければならない。
「それじゃ、プランは立ててきたから。行こっ」
ふわっ、と。
わたしの手が、自然に絵原さんの手につかまってしまう。
少し肌寒い秋の空気を、絵原さんの体温に上書きされるような。
――まだ室外にも出ていないのに、そんな感覚がわたしを満たしていく。
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――澄色ちゃんの手は、自分のものと比べて非常に柔らかいように感じる。
事実、私のものよりも柔らかいのだと思う。
私の左手と繋がれている、その外見通りのぷにぷにとした手が心地いい。
「ねえ、どこ行ってるの?」
澄色ちゃんの声がいつもより少し幼く聞こえる。
仕事中の澄色ちゃんは、やさしい声に落ち着いた態度。
それに加えてあの凄まじい制圧力により、とてもではないが学齢期の少女とは思えない風格のようなものがある。
「商店街だよ。食べ歩きとかどうかなー、って思って」
澄色ちゃんと知り合って一か月がたったけど。
仕事ばかりで、個人的な話というのはあまりできていない。
そうなると食事に行こうにも、澄色ちゃんが何を好きなのかがわからないのだ。
でも商店街なら色々なものがあるので、困ることはないだろうと思っての選択だ。
「ああ、あそこ……」
「行ったことある?」
「ううん、行ったことない。確かちょっと大きいんだっけ?」
澄色ちゃんの言葉に同意する。
大きいといっても、そんな"全国上位!"とかそういったほどではないけど。
食べ歩きで朝食を済ませる分にはもってこいだ。
「色々あるよー。クレープとかお団子とか、たい焼きとか!」
「甘いの、好きなの?」
聞かれて、自分がスイーツしか挙げていないことにきづく。
――少し、子どもっぽい気がして恥ずかしい。
「……うん。よく食べてたんだ、あの辺のお店で色々。だから私の好きなものを、澄色ちゃんにも知ってほしいなって」
澄色ちゃんが何を好きなのか知りたくて。
その言葉を飲み込み、この気恥ずかしさを紛らわすため、何か喋ろうと。
そう思って出た言葉。
さらに、恥ずかしい。
目に見えて赤くなっているとか、そういうわけではないと信じたいけど。
肌にあたる秋風が、さっきまでよりも冷たいからあまり自信はない。。
――まあでも、左手に感じる
こういうのもいいかもしれない。