隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う 作:けーか
――カチッ……カチカチ
少女への処置を終えて、寝室を後にしリビングで煙草に火をつける。
……さすがにこのままどこにも連絡しないわけにはいかない。
公的機関はおそらく同じような境遇の子どもたちの対応に追われているだろう。
となると
悪い人たちではないがちょっとめんどうだ……というか暇なんだろうか。
まあ、最近はB級以上の
――今日は水曜日なのであいつが連絡を取ってくれるか。
SEAの戦闘員をやりながら小さい喫茶店でも働いているかつての同僚へと連絡をすると3コールほどで耳なじみのある声が聞こえてくる。
『はい、喫茶ぺネイトレイトです』
スマートフォン越しに凛として鋭い声がする。
「あー……久しぶり、
『ほう、珍しいな。暮澄からかけてくるとは』
「ん、ちょっと込み入ってて。今、時間いい?」
『ああ、構わん。うちの店はどうせこの時間は暇だ』
まあそうだろう。
時間……もあるだろうが立地も悪いし、SNSどころかホームページもない。
SEAでの稼ぎが十分にあるため、経営難になることはないだろうが。
「直近でSEAの新人が違法異能研究をしょっぴいたって」
『カロスナック製薬だな。それがどうかしたか?』
「……その被験者の子どもを保護した」
少しの間。
『君らしいな。――警察は他の被験者の捜査に。SEAは保護と治療にあたっている』
「うん、どうせ余力はそこまでないんでしょ。確認したかっただけ。問題がないなら、あの子はわたしが保護しておく」
『ああ、助かるよ。その子に関しては私が上に伝えておく。君が保護したというのなら、何も言われはしないさ』
「お願い。……あの」
『どうした。まだ何かあるのか』
「えっとさ、あの、食べるものとかって何を用意しとけばいいんだろ」
『……君、家に何がある?』
「冷凍した食パンと二週間十食の冷凍弁当」
『……君らしいな』
「えへへ」
『褒めていないからな? 君の家、近くにコンビニがあっただろう。レトルトの白がゆを買ってきなさい、レンジでチンするだけのやつ』
「……しょうがない」
わたしのせいで子どもがお腹を空かせる、それはよくない。
「ありがとう。買ってくる」
『ああ、そうしろ。じゃあな』
「うん、また」
通話が切れたことを確認し、煙草の火を消す。
さっき行ったばかりのコンビニに行って店員さんに怪訝な目を向けられるのは嫌だが仕方ない。
「行ってきます」
返事はない。
――――――――――――――――――――――――――――――
「んぅ……」
目が覚めていつも最初に感じるはずのずぅーんという頭痛が、ない。
いつもと違う。
目に入ってきた光景も、いつもと違う。
次の瞬間には崩れてしまうと思えるような檻の天井ではない、真っ白な天井。
前に怒鳴り声以外で起きたのはいつだったか、と記憶を
「起きた?」
――いつかに当てられた、どこか懐かしさを感じる秋風のような声だった。
その声で人がいるということにようやく気づく。
何で気づかなかったんだろう。
すごいエナジー量。
多分、私の十倍以上はある。
少しくすんだような黒い髪の女の子。
それを片側だけ耳にかけている。
見た目は私と同い年くらいに見えるけど。
雰囲気は施設にいた子どもたちより大人の人の方が近い。
「身体はどう? 気になるところ、ある?」
「えと……大丈夫、です」
「そう、よかった。なにか食べれそう?おかゆ買ってきたから」
「あ、ありがとうございます。――じゃ、なくって!あの、ここどこっていうか、そもそもあなたは……」
「ここはわたしの家。君、家の前で倒れてたんだよ。おかゆチンしてくるから待ってて」
――行ってしまった。
とりあえずは助けてくれた親切な人、ということでいいのかな。
「名前、聞けてない」
わからないことだらけだ。
施設で急に警報が鳴りだしたと思ったら、外に放り出されて。
そこからはただ歩き続けた。
いつも外に出るときは目的地に着くまで目隠しをされていたし、施設の大人が一緒だった。
そして外では――。
無意識のうちに噛んだ唇が少し痛む。
大丈夫。
もうあの施設はないんだ。
「そういえば……」
起きたときにも違和感を覚えたけど、身体が軽い。
まるで薬の影響なんてまったくないみたいに。
……本当に、わからないことだらけだ。
わからないことだらけだけど。
私の身体に、寄り添うようにして満ちるエナジーは、とても温かくて、どこか懐かしいものを感じる……気がする。
どうも百合豚です。もちろん"ロンリーガールに逆らえない"も好きです。