隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う 作:けーか
お茶碗におかゆを移して五百
あとは待ってる時間にと思い、煙草に火をつけようとしたのだが――。
「子どもがいるならやめといたほうがいいかな……」
さっき吸ってしまったが。
ううむ。
やめておくか。
そして二分半の間に急いで換気をする。
元素操作は汎用異能のなかでもとりわけ便利だ。
調整は少し難しいが少量の風を回せば一瞬で空気を入れかえられる。
――ピッピッピッピ
おかゆができたようだ。
食べれるといいんだが……。
「あち」
手で持とうとしたら思っていたよりも熱かった。
……テレキネシスで持っていこう。
「持ってきたよ」
両手が空いているため扉を開けるのにも苦労しない。
汎用異能さまさまだ。
「あ、ありがとうございます」
……怯えられている。
異能研究の被験体であった者は大人への強い警戒心を持つようになるため仕方がない。
「とりあえず、君のことはわたしが保護することになったから。しばらくよろしくね」
少し驚いたように目を開いた後に、少しためらうような。
そんなそぶりを見せて少女は言う。
「あの! ほかの、私たちと同じ施設にいた、ほかの子がどうなってるか、わかりますか……!」
「――
一番最初が
「そっか……教えてくれて、ありがとうございます。あの、えっと……」
……わたし、自己紹介してない?
思い返してみればここ半年ほどは、刀坂とコンビニの店員さん意外と話していないため自己紹介の機会などなく、つい忘れてしまっていた。
「
「え、ERROR級討伐の暮澄澄色……?」
「――知ってるんだ」
ということは……いや、推測の範囲を出ない。
なによりきっと、それは、少女が望んでやったことではない。
「あー、っと。君は? 名前」
SEA時代の話は、わたしにとって。
そして小さな子どもにとってもあまりいい話ではないため、それ以上の追及を拒むように名前を聞いてみる。
が、言ってから失敗だと気づく。
この子は違法異能研究の被験者だ。
"孤児がさらわれて"というケースの子どもが多いが、場合によっては異能研究の結果として生まれた子どもといった特殊例の可能性もある。
「なまえ……ほかの子からは"おねーちゃん"って呼ばれてました。わたしが最年長だったので。大人の人からは――」
「ああいや、いい。言わなくて大丈夫。どうせ数字とかアルファベットを並べただけとかでしょ。そんなのは名前じゃない」
……困ったな。
名前がないのでは少し不便だ。
少し生活をする分には問題ないが、本格的に戸籍を確認ないし獲得しようと思ったときに必要になる。
「あの……」
「どうした?」
「もし、もしよかったらなんですけど!暮澄さんが、名前をつけてくれませんか……!」
「え? えぇ、いや、えっと……君はそれでいいの?」
「私に名前はない、ので。だから暮澄さんにつけてほしい、です」
うーむ。
こまった。
断るわけにもいかにだろうし、名前を考えることもやぶさかではない。
しかしだ。
人に名前をつけるなんて経験がわたしにあるわけもない。
「うーん」なんてかるく唸りながら少女をよく見る。
――少し乱れているが雪のように淡く白い髪と肌が、
「白……みしろ、っていうのはどう? って安直すぎるか」
「み、しろ。みしろ。私、その名前がいいです……!」
すごく喜ばれている。
「みしろ……みしろ。ふふっ」
――そんなに喜ばれるとさすがに照れるな。
「あんまり冷めすぎても美味しくなくなるからさっさと食べちゃいな」
声をかけなければずっとこの調子でいそうなため食事を促す。
冷めてきてしまっているのも事実だ。
「あ、そうですね。いただき、ます」
そういってみしろがスプーンを握ろうとして、カランという音を立て、スプーンがみしろの手から落ちる。
――力が足りないのか。
「あ、れ」
もう一度スプーンを拾おうとするその手に触れて静止する。
わたしがスプーンを手に取りおかゆを少しだけすくう。
「ほら、口開けて」
「ふぇ!?」
みしろがアワアワとしている姿にどこか既視感を覚える。
……ああ、ペンギンだ。
昔、水族館で見たことがある。
「多分、もうあんまり熱くないよ」
わたしがそういうと
みしろはゆっくりと数回咀嚼して――みしろが泣き始めてしまった……!?
「え、熱かった!? それとも何か間違えちゃってたかな……」
レンジでチンするだけのものを不味くすることはわたしでもないはずだと思っていたのに。
それともわたしが何かしてしっまただろうか……?
「い、いえ! おいしい、おいしいです……! こんなにおいしいもの初めて食べたので、つい……」
――違法異能研究の被験者はおおよそ人としては扱われていない。
わかっていた、知っていたことだ。
だとしても。
みしろのような小さな子が、こんなことを言う世界は間違っているだろう……!
そんな怒りが湧いてくるが。
SEAの立場を――救う側の立場であることを捨てたわたしには、こんな気持ちを抱く権利はない。
「みしろ」
呼びかければ――
酷く
「――これからさ。少しの間かもしれないけど。一緒にいる間に、もっとおいしいものを食べて、いっぱい遊んで、楽しいを幸せを知って。わたしが全部教えてあげるから。」
そうだ、だからきっと。
きっとこれは。
わたしがみしろを救うまでの物語。
どうも百合豚です。もちろん各種アンソロも大好きです。