隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う 作:けーか
初対面の挨拶を交わしてからどのくらい時間が経っているのかはわからない。
おそらくは十分も経ってないうちに、SEAに持たされている携帯端末から「ブー」とも「ビー」とも聞こえるような音が鳴った。
――
「
「……! うん!」
と、もそもそと立ち上がってから、大事なことを確認していなかったことに気づく。
「えっと……絵原さんって、乗り物酔いとか、するタイプ?」
"?"って感じの
そっか、それならよかった。
「うひゃぁぁあぁあああ!」
今、私は
――テレキネシスで。
いや、乗り物酔いがどうとかって!
言ってたけどぉ!
速い! そしてすごく揺れる!
少し前では空中をぴょんぴょんと跳ねて移動する澄色ちゃんがいる。
……今までの班は運転できる人がいて、その人が現場まで車を走らせるという形だった。
ピーポーピーポーと。
あれに比べれば確かに、このテレキネシスでの移動方法は車より早い。
……けど、すっごく怖い。
普段は
感覚としては多分あれだ――安全バーがないのに、上から重力で無理やり押さえつけられてるジェットコースター。
いや、そんなものないけど。
あってたまるかという話だ。
――あ、止まった。
ふわっという感覚とともに地に足がつく。文面通りの意味で。
すごく速く、そして早く着いた。
五分もかかっていない。
「さて、直前の確認するけど酔っては……ない?大丈夫そうだね」
「ふぅ、はぁ……うん……」
どこが大丈夫に見えるのか。
と言いたいところだけど、息がまだ整っていないので無理だ。ふぅ、はぁ。
「星堕の数は一体、推定
さっきも聞いたこと、認識の相違もない。
う……ちょっとお腹痛くなってきたかも……。
いや、多分気のせいというか、気からくるものというか。
そういう感じ。
「……まだ大きく動いてないみたい。今の間に――はい、深呼吸」
暮澄さんが「すぅー、はぁー」とするのに合わせて私も深呼吸をする。
「すぅー……はぁー」
――腹痛は、ない。
気分のほうも、緊張が解けたわけではないけど、さっきよりはましだ。
「――ほんとに大丈夫になったみたいだね」
「うん、迷惑かけちゃってごめんね。」
うぅ。立場としては上長とはいえ、年下の子に気を使わせてしまった。
なさけない……。
いや、しかし。
あの移動方法にも少し非がある、と思う。
――それ以上に、こんなに早く着くというメリットがある。
そんな事実があるから、口にはしない。
――――――――――――――――――――――――――――――
既にこちらからは視認できる距離、音を立てれば気づかれてもおかしくない。
個体はS級の
顔は鳥だが、身体はカマキリのようになっている。
ただあの腕の鎌は異能ではなく、飽くまでも身体的特徴に過ぎない……と思う。
おそらく、わたし一人でも制圧できるが今回は
そういうわけにもいかないので、絵原さんのサポートを主軸にしたい。
サポートを主軸に、というのもおかしな話だが。
「じゃあ、わたしが
現場を直接見て、これが適切だと判断した。
班での活動などSEAに入ったばかりのときに数回したきりなので、こんな感じでいいのか、少し不安だ。
「そ、それだと澄色ちゃんが攻撃されちゃわない……?気づいてないうちに使っちゃったほうがいいんじゃないかな?」
「大丈夫だよ。当たらないし、多分当たっても大丈夫。もし仮に、あの星堕の固有能力が、固有能力に対する
標的がわたしでなく、絵原さんに向くこと。
一番避けたいのは、これだ。
そのためにも一度攻撃させて、それで固有能力の確認をしたい。
それで固有能力がわからなければ、攻撃が当たった後に何かが起こる能力。
もしくは
「う、うん、わかった……!」
返事を聞いて、三本立てた指を中指から折っていき、親指を折ったと同時に身体能力強化に加えて足元をテレキネシスで反発させて駆ける。
『VSD7,5T!』
こちらへ振り向き、星堕が叫ぶが、何を言っているのかはわからない。
意味がある言葉なのかもわからない。
いや、虫の鳴き声にだって意味はあるんだから、何かあるんだろうけど。
星堕がこちらへ足を踏み出し、その足が光る。おそらく固有能力だろう。
その速度は本職の
身体能力強化を続けたまま、軽く左に倒れるようにして避ける。
それと同時に。
ぐいん。星堕が肩を捻る、首を曲げる。
――絵原さんの固有能力だ。
手筈通り。
こうなれば隙だらけ、いくらS級であれど手段さえあれば、わたしでなくとも倒せる。
わたしの場合、無防備な相手にとどめを刺す方法はいつも同じだ。
元素操作でもテレキネシスでも。
いや、
――ぴた、と。
手で触れる。
今まで、何度もしてきたこと。
そうして、
人間であれ、動物であれ、星堕であろうとも許容量を大幅に超えたエナジーを流し込まれると
"ぱあん"という音と、"ぐちゃ"という音の両方の音を立てて、星堕の身体が灰色の粒子――
SEAの戦闘員――その中でも、こうやってとどめを刺す機会の多いものはこの
「制圧、完了」
確か班での戦闘が終わった後にはこう言うんだった。はずだ。
少し目線を上げてみるとぽかんと呆けている絵原さんがいた。
なんだろう。
「えっ、あ……お疲れ様!澄色ちゃん!」
ぽかんとしていたのは一瞬で、すぐにニコっとしてこちらに近づいてくる。
「うん、お疲れ。サポートありがとう。やっぱり強い固有能力だね」
ぱたぱたぱたぱた。
絵原さんの手があっちへこっちへ。
アワアワアワアワ。
何か言ってるけど、イマイチ要領を得ない。
多分、「全然そんなことないよ澄色ちゃんのおかげだよ」とかそんな感じだと思う。
確かにとどめを刺したのはわたしだけど、「二人の力だよー」みたいなことを言ってみたり。
なんかチームっぽい。
「ねえ、澄色ちゃん!さっきのどうやったの!?汎用異能じゃないよね?」
あー。
確かに、エナジー供給は効率が悪いから、あまり一般的に使われはしない技術だ。
医療現場でほんとたまに見るくらいだろうか。
だから知らないのも無理はない。
多分、先に教えておくべきだった。
自分の協調性のなさというか集団行動経験の少なさにちょっとへこむのだった。