隠居したわたしが訳あり少女に"幸せ"を教えようと思う   作:けーか

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これ書いてる時点だとまだ最新刊は出てないので楽しみです。


過去編:暮澄班、出動!……わたし14歳だけど、そういう年頃ってわけじゃないからね?(2)

 ぴた、と。

 澄色(くれあ)ちゃんが星堕に手で触れた瞬間に、()()()

 ぱぁんと。

 はぁ……? といった感じだ。

 私の記憶にある限りでは、あんな無法な能力は汎用異能にはない。

 いくらエナジー効率が悪くとも、あんなものが誰でも使える(汎用)なら、星堕(ほしおち)による被害はこんなに出ていない。

 ……私がほげー、としてると澄色ちゃんが首を傾げている。

 やはりこう見ると、少し髪の色がくすんでいるだけの少女だ。

 実際に見ていなければ、S級の星堕をぱぁんしたとは思えないだろう。

 ――ああ、(いや)

 ()だ灰色の星片(stella dust)がはらはらと散る中に(たたず)む澄色ちゃんというのは、非常に絵になる。

 ここを切り取ったのならば――って、終わったのなら呆けるより先に、まずはねぎらいの言葉だろう。

 

「えっ、あ……お疲れ様! 澄色ちゃん!」

 

 とりあえず、びっくりしたのは隠せている、はず。

 

「うん、お疲れ。サポートありがとう。やっぱり強い固有能力だね」

 

 ふぎゃ。褒められた。

 ……今までの班長さんにも似たようなことを言われてきたけど、皆さん年上の方だった。

 それに対し、澄色ちゃんのような小さな女の子に褒められるというのは、少し変な気分だ。

 あと、エスキューの人に褒められるというのは少し照れる。

 その結果、あたふたアワアワとしてしまった。

 ただどうやら、言ったこと自体は伝わったようで「二人の力だよー」と。

 ――確かに私も固有能力は使った。

 しかしあれだけの速度で動けて、触れれば討伐できる。

 私いらなくないかな……?

 というかホントに、触れただけでぱぁんとなったのは何だったのだろう。

 

「ねえ、澄色ちゃん。さっきのどうやったの? 汎用異能じゃないよね?」

 

 あんなことができるとは聞いていなかったので問う。

 できれば顔合わせのときに教えておいてほしかった、という意を込めて。

 

「あー、えっと……今のはあれ。エナジー供給だよ」

 

 エナジー供給。

 聞いたことのない言葉――いや、小学校の授業で聞いたことがあるような……?

 ただこれは多分、言葉通りの意味。

 エナジーを流し込む技術。

 そして、そんな便利な技術が一般的に使われていないということは、汎用異能と同じで効率が悪いのだろう。

 

「うん、正解」

 

 わーい。

 とはいえ、だ。

 

「エナジー供給で、なんでああなるの?」

 

 ぱぁんだった。

 あんな鮮烈(というか鮮血が散ったのだが)な討伐の仕方は初めて見た。

 というかS級があんなに易々(やすやす)と討伐されるのを初めて見た。

 私とてA級星堕直接対策隊(エーキュー)にいたときにS級の星堕との戦闘を経験してはいる。

 しかしそのときは四人がかりで二十分ほどの時間が掛かった。

 

「えっとね、人間にも星堕にもなんだけどね。個体によってエナジー量に差があって、基本的にエナジーが全回復されてる状態が上限値なの。おっけー?」

「おーけー」

 

 まるで先生と生徒だ。

 ……私の方が年上なのに。

 

「その上限値を超えると、身体が耐えられなくてああなるんだ。空気を入れすぎた風船みたいな感じかな」

 

 即死技だぁ……。

 ただやはり、エナジー効率は非常に悪いのだろう。

 澄色ちゃんの固有能力だからこそできる、とんだチート少女だ。

 

「んじゃ、次いこっか」

「うん! ……え、次?」

 

 次ってなんだ。

 

「連絡きたよ、今。次の仕事」

「うへぇ」

 

 本当に星堕の襲来頻度は高すぎる。

 それに対する給金も、見合っているとは言えない。

 ブラックだぁ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 絵原(ぬいはら)さんとの"初めまして"がだいたい午前十時ごろ。

 現在時刻は午後の九時前。

 命がけで十一時間勤務――ブラックもいいところだ。

 そして今は本部の、わたしの――いや、暮澄班の待機室に戻ってきている。

 が、また仕事の連絡が来れば深夜にでも飛んでいかなければいけない。

 まあ深夜は気持ち程度に星堕の襲来頻度は低いので、しばらくは大丈夫だろう。

 とはいえ、十四歳の少女を深夜に働かせるな、とういと本当にその通りなんだけど、わたしがいなければ日本は一ヶ月もせずに三分の二くらいの大きさになるだろう。

 世知辛い。

 

「ふわぁー……」

 

 絵原さんがぐでぇとなっている。

 気の抜けたように息を吐くが、心労を追い出すのに何か足りないといった、行き所のなさそうなもの。

 ――きっと今まで以上に疲弊しているからだろう。

 わたしのやり方は、エーキューと比べると一件の制圧にかかる時間が短い。

 そうなるとその分だけ仕事が入るので、昨日までとの仕事量の差でグロッキーになっているんだろう。

 固有能力の使用が一戦闘に一回なので思考は減っているが、単純に現場をハシゴするのが堪えているんだ。

 

「お疲れ様、とりあえず休んでて。……また連絡来たら出なきゃだけど」

「ブラックだぁ」

 

 それに関しては本当に否定のしようがない。

 "うげー"なんて言いながら、絵原さんが小さいバッグの中から何かを取り出そうとしたところで、こちらを見て手を止める。

 

「えっと、澄色ちゃんって……何歳?」

 

 なんだろう唐突に。

 こう年齢を聞かれるというのはわたしのイメージとして、子どもがされることであるため、少し変な気分だ。

 いや、わたしは子どもではあるのだが。

 

「十四だよ。今年で」

「ってことは、固有能力が発現してすぐに……。そうだとはおもってたけど……」

 

 絵原さんが目を丸くする。

 後半はよく聞き取れなかったが、彼女の言った通り、わたしは固有能力が発現するとほぼ同時にSEAの戦闘員となった。

 わたしも固有能力が発現してすぐにSEAに入った、という人は自分以外に見たことないので、驚くのも無理はない。

 しかしなぜ年齢を?みたいなことを聞いてみると、少し目を伏せてバッグから何か取り出す。

 

「……たばこ?」

 

 吸うのか。

 少し意外だ。

 ということは、子どもの前だから遠慮したというところか。

 

「別に吸っていいよ。わたしにはそういうの、害ないから」

 

 エナジーは人間が生きるためのエネルギーだ。

 これが多いと、素の身体能力だったり免疫力だったりまで向上する。

 わたしの場合は、過剰量のエナジーにより、水銀や生のフグを食べれるくらいだ。

 

「流石にここでは吸わないよ!? ……あんまり見せるのもよくないかなって思って。ちょっと吸ってくるね」

 

 絵原さんが行ってしまった。

 ……エナジーが多いと必要な睡眠時間も短く、そもそもあまり疲労をため込まないので、うたた寝などもできないので少し暇だ。

 

 てくてくこそこそ。

 

 わくわく、と少し尾行をしてみる。

 といっても喫煙所がある本部正面までは近いので、ちょっと出て覗くだけなのだが。

 ちら――。

 

「え」

 

 声に出ていたのかどうか、自分にはわからない。

 周りに人はいなかったし、いても覗きという奇行の方に目がいくだろうし。

 でも本当に"え"といった感じだ。

 まだ会って一日だが、わたしの絵原さんに対するイメージは柔らかい雰囲気を纏った感情豊かな女性――といったところだ。

 しかしわたしの目に映った、たばこを吸っている絵原さんの姿はそのイメージからは外れていた。

 酷く、厭世的な目。

 先ほどまでの彼女の姿からは想像もできない。

 それ以外、喫煙中の絵原さんの美しさを表現する言葉を、わたしは持っていないというのもあるが。

 それ以上に――その絵原さんの姿を、わたし以外が知る必要はないと思ったので、これ以上は何も思考しない。

 

 ああ、それでも。

 

 今にして思えば。

 

 その(やみ)にわたしは――。

 

 ――()がされていたのかもしれない。

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