SRTの生徒が転生者を拾う話   作:メリル´

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昔話と今の話

「このっ……相変わらず口が悪いんだから! SRTに行ってもリーザちゃん全然変わってないじゃん! もっといい子になって帰ってくると思ったのに!」

 

「人はそう簡単に変わらないわよ」

 

 もしそうなら、私はメルハの教育にあれほど手を焼いていない。

 

 この先もミカやメルハは、きっと変わらず騒がしいままだろうし、ナギサが優雅さをかなぐり捨てる日なんて来ないだろう。私も同じだ。環境が変わったくらいで、性格まで塗り替わるほど素直にできてはいない。

 

「というか、なんでSRTなんか行ったの?リーザちゃんなら絶対ティーパーティーに入るって、みんな思ってたよ?」

 

「そうですね。リーザさんがティーパーティーに入ってくだされば、次の世代の心配もしなくて済んだのですが……」

 

 探るようなミカの声。横からは、興味深そうに細められたナギサの視線。これまでも何度となく聞かれてきた問いだ。私が答えないからこそ、なおさら気になるのだろう。

 

 カップを持ち上げ、ひと息つく。

 

「秘密よ」

 

「「……」」

 

 きっぱりと言い切った私に、二人は無言のまま顔を見合わせた。

 

「えー、どうしても教えてくれないの?」

 

「ここまで一貫して伏せられると、逆に気になりますね」

 

「淑女は多くを語らないものよ」

 

 まあ、言えないんじゃなくて、言いたくないだけなのだけれど。……特にこの二人には。

 

 

 

 ほんの一瞬だけ漂った沈黙を、最初に破ったのはミカだった。

 

「あーあ。リーザちゃんがティーパーティーの後輩になるなら、思いっきりこき使ってあげようと思ってたのに!」

 

「家柄で言うなら、私はフィリウス分派だけど?」

 

 少なくともパテル分派に入る未来っていうのは無かったはずだ。まあ、ミカに泣きつかれて手伝うくらいなら、ありえたかもしれないけど。

 

「そうだ! ねぇねぇ、ちょっと私のことをミカ様って呼んでみてよ!」

 

「は?なんでよ?」

 

「思い付き! 一回だけでいいから、私の従者やってみて!」

 

 そう言われて、パテル分派に所属する自分を想像してみる。

 

 衝動で突っ走るトップの後ろを、常に書類と火消しで追いかけ回る毎日。問題が起きるたびに「リーザちゃん何とかして!」と丸投げされる未来が、ありありと目に浮かんだ。……うん、舌を噛み切りたくなる毎日だな。

 

「嫌よ」

 

「えー、いいじゃん! 少しくらい付き合ってよ! 小生意気なリーザちゃんが、私を敬うところ見てみたいの!」

 

 わがままピンクめ。誰が小生意気だ。

 

 チラリとナギサを見ると、微笑ましげに眺めているだけだった。『観戦』に徹している以上、ミカを制御してくれるつもりは無さそうだ。

 

 私はため息を吐いて、ミカに向き直った。ここで頑なに拒み続ければ、ミカは意地になってさらに騒ぐだろうし、少しだけ付き合ってやるか。

 

 私は背筋を伸ばし、指先でスカートの裾を整える。そしてわざとらしいほど優雅に一礼。

 

「……今までありがとう、ミカ様。これにてパテル分派を卒業させていただきます。これからはナギサ様のフィリウス分派で頑張っていく所存です」

 

「え、なんでいきなり裏切られているの私?」

 

「部下の新たな門出を祝えないの?粗暴なミカ派から外に羽ばたく私に裏切りだなんて……上に立つ者としての器が知れたものね?」

 

「リーザちゃん、今私の事粗暴って言った?これでもちゃんとトップやっているんだけど?」

 

 よく言えたものである。ナギサに事務仕事を手伝ってもらっているって聞いたぞ。どうせ他派閥には見せられない書類や分派の管理とかも下の子に丸投げだろ。トップっていうよりは、アイドルやマスコットみたいな扱いだ。

 

「ナギサ、判定」

 

「ミカさんはもう少し頑張り――」

 

「もう、ナギちゃん!」

 

 最後まで言わせたくなかったらしいミカが、横からぐいっとナギサの肩を押す。抗議というより、半分じゃれつくような動きだ。だがそれだけで、ナギサの細い体はぐらりと揺れる。

 

 淑女らしい優雅さを何より重んじるナギサは、姿勢を保つための体幹くらいは鍛えているはずだ。だが、遠慮という概念を欠いたミカの力加減の前では、さすがに分が悪いらしい。

 

「やめなさいよミカ。そんなに強く押すと、もやしっ子のナギサが壊れてしまうわ」

 

「そんなに貧弱じゃありませんよ」

 

 乱れた姿勢を正しながら、ナギサがきっぱり言い返す。ミカの『ついうっかり』の被害を一番受けてきた人の言葉とは思えないな。もう少し警戒するべきじゃないか?

 

「もやしっ子は言い過ぎだけど、たしかにちょっと心配にはなるかな。最近体育で百メートル走の授業があったんだけど、ナギちゃんったら――だったの!」

 

「なるほど。……まあ、その……頑張ったんじゃない?」

 

「なんですか、その反応は?そんなに悪い成績ではないはずですが」 

 

 私の苦笑いが不満だったのか、ナギサはすぐに抗議してくる。でもそのタイムは少なくとも私の知る『基準』では、落第もいいところだ。

 

「いや、だいぶ遅いと思うけど……」

 

「昔、三人でかっけこした時よりも、差が開いてきてる感じするよね~」

 

 いつもナギサだけ取り残される結果になるから、いつの間にかやらなくなった遊びだ。走り終わったあと、私とミカが平然としている横で、ナギサだけ荒い呼吸で青い顔をしていたのが忍びなかった。

 

「それは貴女たちがおかしいだけですっ!私は普通程度には動けます!」

 

「そうは言ってもね……私の周りSRTでも、ここまで遅い人はいなかったわよ?」

 

「特殊部隊の人間と比較しないでいただけますか!?……っていうかリーザさん、分かってて言ってますよね?」

 

 少しだけ冷静さを取り戻したナギサが、じっとこちらを見て問い詰めてくる。どうやら、いじっていることは完全に見抜かれてしまったらしい。私がニヤニヤしていたのがいけなかったか。

 

「……ふふ。たしかに私もミカも『ちょっぴり』おかしいのは知っているわ。昔は自分たちの方が普通だと思っていたけど……ミカが近くにいたせいで、気が付くのが遅れてしまったみたいね」

 

「ちょっぴり……?」

 

 何か言いたげにナギサが首を傾げている。私は何もおかしいことは言っていないはずだけれど。

 

「なんで私のせいみたいな言い方をするの、リーザちゃん?あと、運動不足なのは事実だよ。ナギちゃんったら、ティーパーティーになってから書類仕事ばかりのせいで、お尻が大きくなったんだからっ!

 

「ミカさん!?」

 

「言われてみれば、たしかに……?」

 

「!?!?」

 

 ちょっと背を伸ばして確認しようとすると、ナギサは慌てて椅子ごと半歩ほど距離を取った。こういうときに自分の身長の低さが恨めしい。ミカぐらいの背があれば、見えていたはずなんだけど。

 

「確認していただかなくて結構です、リーザさん。……ミカさんも変なこと言わないでください!」

 

「本当のことでしょ☆ ……せっかくだしさ、三人で何かスポーツしようよ! 私もちゃんと仕事頑張るから、ナギちゃんもリーザちゃんも時間作って!」

 

「あなたたちと運動するのは遠慮しておきます。……やるなら、お二人でどうぞ」

 

 身をもって学んだ経験からかナギサは、きっぱりと言い放った。幼いころはムキになって付き合ってくれたのにな。

 

「寂しいこと言うじゃない。昔はあんなに一緒に……お転婆だったナギサ*1はもう見れないの?両手にロールケーキ持って振り回している姿が好きだったのだけど……」

 

「いつの時代の話ですか!」

 

「あー、なつかしいね!今でもナギちゃんは怒ると人の口をロールケーキで塞ぐんだよ!*2 」

 

「あら、ティーパーティーになっても童心を忘れていなくて何よりよ。機会があればぜひ披露してちょうだい、ナギサ」

 

 もちろん私にではなく、ミカに。じゃないと鑑賞できない。

 

「……昔のことをいうならミカさんだって今以上にわんぱくで、修学旅行の時なんか*3――」

 

「わー、わーっ!それは駄目!ナギちゃんその話はもう忘れてよ!」

 

 言われっぱなしで終わる気はないらしい。ナギサもすぐに昔話を持ち出して応戦した。しかも狙いがいい。話題を変えると同時にミカを黙らせる、実に見事な一手だ。

 

「ナギサだけ忘れても意味ないでしょ。下級生にもあなたの『伝説』は広まっていたわよ?」

 

「もう最悪!こうなったらリーザちゃんの恥ずかしい昔話も出して!」

 

 おっと、こっちに飛び火したか。

 

「道連れを企むなど、あさましいわね。大体、私はミカと違って恥の多い人生を送ってないわよ」

 

「私だってそんな人生送ってないよ! ナギちゃん、なんか思いついた?」

 

「中等部の頃、リーザさんがクラスの生徒を確か……」

 

「あ、それ知ってる!リーザちゃんが相手をにしたやつでしょ!」

 

 相手が陰湿ないじめを仕掛けてこようとしたからだ。人を集めて私をリンチするつもりだったらしいが……まあ、相手が悪かったな。私を恐れた周囲に捕まって、そのまま彼女は私の前に差し出されたのだ。

 

 その後、十字架に括り付けたところまでは良かったのだが、『魔女狩りごっこ*4』をするまえに相手が気絶したから解放してやった。 

 

「ちなみにあれ、ミカにも責任があると思うけどね」

 

「え、なんで!? 私関係ないじゃん。どう考えてもリーザちゃんが暴走しただけでしょ?」

 

「あの子、あなたの熱烈なファンだったらしいのよ。それで憧れの先輩の側にいた私が気に入らなかったみたい」

 

 誰彼構わず愛想を振りまくからだ。それでミカの輝きに惑わされて、信者になってしまう者は多い。あの子もその一人だったのだろう。

 

 ――スプーンより重い物を持ったことないミカ様のようなお姫様に、お前のような凶暴な奴が!

 

 そう叫ばれたことをまだ覚えている。後半はまだ甘んじて受け入れてもいいのだが、前半は本当に納得いかない。どれだけ節穴なら、そんな勘違いをするんだ?

 

「え、そうだったんだ……」

 

「私は降りかかる火の粉を払っただけ。この話は私には恥ずかしい話じゃないってことね。羞恥心と共に生きていくのはあなただけよ、ミカ」

 

 私に恥など一切ないのだ。挑発するように皮肉げな笑みを浮かべてやると、ミカはむっとした顔になった。悔しそうに黙り込んだまま、次の反撃を必死に探している。可愛いものだ、どうせ何も出てこない――

 

「じゃあ身長

 

「戦争がしたいの、ミカ?」

 

 昔は学年が一つ上だった分、あちらの方が若干身体能力は上だった。だが今はどうだろう。トリニティでお姫様生活をしてきたミカと違い、私はSRTで特殊部隊として鍛えられてきたのだ。戦闘経験も技量も、雲泥の差のはずだ。負ける気がしないぞ。

 

 それに私は日課*5を毎日欠かさずこなしている。まだはっきりと効果は出ていないが、これは身体が力を溜めているだけだ。私が三年生になる頃には、二人とも見下せるほど身長は伸びているに違いない。絶対にそうだ。

 

 戦闘での勝利と、将来的な身長の勝利。その二つが得られることを『確信』しながら、私はミカを見据えた。

 

「本当にいいのかしら?ここでやりあったら、ひどいことになるわよ?……ナギサが

 

「確かに大変なことになるよね……ナギちゃんが

 

「二人とも絶対にやめてください」

 

 割と切実な顔でナギサが仲裁に入った。こうも貧弱だと、少し心配になって来るな。いざという時は、ミカが来るまで逃げ回ることすら危ぶまれる。

 

 まあ、立場的に正義実現員会が周囲に目を光らせているだろうし、危険な目に遭うことはそうそうないだろうけど。

 

「巻き込まないように、外でやりましょうか」

 

「リーザちゃんとやるのは久しぶりだね。SRTでどれだけ強くなったか、見てあげるよ☆」

 

 ミカは自分が負けるとは微塵とも思っていないようだ*6。その顔をがいつまで保っていられるか見ものだな。

 

「落ち着いてください。トリニティの生徒として、そんな淑女らしくない行動は慎んで――」

 

「ああ、いいこと思いついたわ。勝った方がナギサの運動、もといお尻のダイエットに付き合うというのはどうかしら?」

 

「なっ!?」

 

「お、いいね! 丸いなぎちゃんも可愛いけど、健康には気を付けてほしいからね!」

 

 ミカと楽しそうに笑いあっていると、ナギサが急に立ち上がった。まさか参戦したいのか?

 

「そ、そこまでですっ! 私はダイエットの必要なんてありませんし……お、おしりも大きくありません! お二人とも、それ以上言うならロールケーキを――」

 

「「ナギちゃんこっわーい☆」」

 

「……」

 

 ミカと声を合わせた途端、ナギサが無言でロールケーキわしづかみにした。目が笑っていないし、ちょっと迫力がある。二つも掲げる姿はまさしく幼いころ見ていた姿と同じだ。

 

 このあと私とミカがどんなに目に遭うかも、私たちは知っていた。

 

 

 

 

「以後、この話は禁止です。……いいですか、二人とも?」

 

「「はーい」」

 

 まだちょっと視線に冷徹さは混じっているが、私とミカにロールケーキをぶち込んだおかげか、ナギサは少し落ち着いたようだった。

 

 昔よりも振り回す姿が様になっていたし、見ない間でも弛まぬ鍛錬を積んでいたみたいだな。この様子だとミカは結構な回数、口にロールケーキを突っ込まれていそうだ。

 

「ほら、言った通りだったでしょ!」

 

「ええ、恐ろしいロールケーキ捌きだったわね」

 

「……先ほどの『楽しいお話』もよいのですが、そろそろ真面目な話に戻りましょうか。リーザさん、一つ確認したいことが」

 

「何かしら?」

 

 真剣な表情になったナギサに、私も思考を切り替える。だが、改まって言うことなんてあったっけ。

 

「対策室やあなたの母校、SRT特殊学園についてです。リーザさんが話してくださるよりも、状況は芳しくないのですよね?」

 

「……そんなことはないわ。大丈夫よ」

 

 予期せぬ話題に、私の反応は一瞬遅れる。ほんのちょっぴり強がっていたのには気づかれていたらしい。まあ、転校なんて選んだ時点でナギサなら察していたかもしれないが。

 

「それならいいのですが。……私はリーザさんに無理をしてほしくはありません。もしいよいよ手に負えないと感じたのなら、連邦生徒会の立場なんて投げ出して帰ってきてください。そのときは、私のフィリウス分派でお迎えします」

 

「……ナギサ」

 

「あっ、ずるいよナギちゃん! どうしてもっていうならパテルに入れてあげてもいいけど? こっちはあんまりリーザちゃんの知り合いはいないけど……ほら、私がいるよ!」

 

 思っていたよりも二人には心配をかけてしまっていたらしい。こうならないように、情報を吟味して伝えていたつもりだったが、今の連邦生徒会の状況じゃ誤魔化すのは無理か。

 

「……ふふ、人気者は困るわね。サンクトゥス分派のあの『預言者』もいれば、同じように勧誘されたのかしら?」

 

「セイアちゃんはどうだろ……いつも小難しいこと言っているし、考えが読めないよ」

 

 ミカはサンクトゥスのトップがあまり好きでは無いらしい。確かに伝え聞く人物なら、あまりミカとは合わなさそうだ。

 

「リーザさんはサンクトゥス分派に興味が?」

 

「いいえ、『預言』が少々気になっただけよ。百合園セイアは病弱であまり表に出てこないと聞くし、『一般生徒』の私が気軽に会える立場ではなさそうね」

 

 リオの影響で、そういう特異現象オカルトが少しだけ気になるようになってきたのだ。

 

 だが、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というように、大抵は噂話が独り歩きしただけのことが多い。怪物の情報を聞いて駆けつけても、ただの野生の猛獣でした、なんてことは対策室ではよくある話だ。

 

 トリニティの預言者は信憑性のありそうな情報が多いし、ミカもナギサも信じているみたいだけど……やはり自分で確かめてみるのが一番だ。

 

「ふーん、じゃあ機会があったら紹介してあげるね! で、どう?」

 

 何が「どう」なのか、わざわざ尋ねるまでもない。だが、私には責任と立場があるのだ。

 

 正直、心が揺れなかったと言えば嘘になる。だが私までもが投げ出してしまえば、キヴォトスはいよいよ取り返しのつかないことになるかもしれない。そうなれば、連邦生徒会長に顔向けなどできない。それに、SRTの先輩たちにも。

 

 ――お前は私たちのことは気にせずに、市民の助けに専念してくれ。……私たちの、分までな

 

 ユキノ先輩との最後の電話はまだ記憶に新しい。あの会話を脳裏に焼き付けているからこそ、私はヴァルキューレにも手を貸しているのだ。

 

「二人とも心配は不要よ、私は強いからね。『庇護』を受ける側じゃなくて、与える側なの。……正義の味方みたいでしょ?」

 

「リーザちゃんが正義の味方って……ちょっと似合わないね」

 

 ……まあ、そうだけど。自分でも言っていて違和感を感じた。

 

「それに対策室の理念は『キヴォトスに起こる異変を未然に防ぎ、それに備えること』――とてもやりがいのある仕事よ、誰かに譲るつもりは無いわ」

 

「なんか凄そうだね。リーザちゃんが考えたの?」

 

「最近『仲良く』なったミレニアムの生徒会長よ」

 

「あら、いつの間に……」

 

 ナギサは感心するように目を丸くする。セミナーのトップ、調月リオと言えば関係を結ぶのが困難なことで有名なのだ。顔を合わせるのも難しい、多忙な人物である。

 

 ……私の場合は、なんか向こうの方からゴリゴリ迫ってきたようなものだけど。

 

「別に私は一人で抱え込んでいるわけじゃないの。ちゃんと支えてくれる部下も仲間もいる。ナギサの方こそ、困ったら私を頼っていいわよ?」

 

「……ふふっ、それは心強いですね」

 

 二人の表情が和らいだのを見て、私は少しだけくすぐったいような安堵を覚え、それを誤魔化すように冷めかけの紅茶を啜った。心配されるのは苦手だが、心配を解くために言葉を尽くすのも私らしくない気がする。

 

「ナギサが気になっているキヴォトスの外から来た大人――『先生』についても調査を進めるわ」

 

「よろしくお願いしますね。シャーレの権限は三大校にすら介入できるもの、トリニティのためにも必ず見定めなくてはなりません」

 

「アビドスで風紀委員の足を舐めて協力を仰いだとか、ブラックマーケットで覆面の強盗団と接触したとか……信憑性のない情報*7ばかりが錯綜しているみたいだけど……」

 

「えー、さすがにデマじゃない?連邦生徒会長が選んだ人なんでしょ?」

 

「主席行政官は、そう言っているわね」

 

 唯一情報を持っていそうな、もう『仲良くない』堅物の姿を思い浮かべながら言う。私みたいに心配してくれる周囲が全くいないわけではないが、それでも人と関係を結ぶのが苦手な彼女は、さぞ苦労しているに違いない。

 

 

 

「あー、また難しい話になってきたね。トリニティの外のことまで考えたくないよ……」

 

「これぐらい普通でしょ。ミカももっとナギサを支えなさいよ。最近学園の外まで、フラフラしているって噂を聞いたわよ?」

 

 自治区の外にこそ行っていないようだが、あちこちに出没しているって聞いたぞ。一番多い目撃証言はたしか地下墓地カタコンベの付近だったっけ。ミカにはあまりに似合わない場所だ。

 

 そんな場所ほっつき歩いている暇があるのなら、もっとティーパーティーとしての業務をこなすべきだと思うけど。

 

「まぁ、そうなのですか、ミカさん?」

 

 ナギサも知らなかったらしい。過保護気味の彼女とて、四六時中ミカの行動を把握しているわけじゃないか。

 

「……あー、ちょっとやりたいことがあってね。サプライズにしたいからまだ秘密! 二人ともきっと驚くと思うよ!」

 

 ウインクをしながら笑うミカ。一体何をやるつもりなんだか……まあ、そんなに悪いことにはならないか。

 

 この旧友は、気まぐれでわがままだと自他ともに認められているが――きっとナギサも私も、彼女の天真爛漫で善意に溢れているところを知っているからこそ、大切な友人だと思えるのだろう。

 

 

 

*1
先生、少々お時間いただけますか?#15 より

*2
ロールケーキをぶち込みますよっ!?

*3
先生、少々お時間いただけますか?#15 より。何やらかしたの?

*4
磔にして火あぶり。普通に火炎放射器を武器として使っている生徒がいるし、ギヴォトス人にはそんなにひどいことにはならなさそう

*5
バンザイ体操

*6
力が足りないって思ったことはないけど……←ミカの強化時の台詞

*7
全 部 本 当




桐藤ナギサ
 身体能力が違いすぎる二人に挟まれて、過酷な幼少期を過ごした。普段は二人とも気を遣ってくれるが、身体を動かす遊びになるとひどい目に遭いがち。そのためミカとリーザは、彼女のことを虚弱体質だと思っていた。

 実は家柄の関係でリーザとは以前から面識があったが、ミカが引き合わせるまではほとんど交流がなかった。ミカに出会う前のリーザの人格を見て、ナギサが一方的に距離を置いていたためである。

 三人組になった後は、怒らせると一番怖い存在として恐れられていた。キレたナギサが最終手段として取るのは、「いけ、ミカチュウ‼」相手にバスターゴリラ二人をけしかけるという、人道に反した技だったから。



聖園ミカ
 ご存知の通り、実装されるまでの間、プレイヤーにミカミカゼミをやらせた女。実装された瞬間、石がすっからかんになるまで彼女に捧げた先生も多いはず。

 ずっとナギサの傍にいたし、エデン条約編前半で暗躍していた通り、決して『政治』ができないわけではない。性格的にやりたがらないだけ。

 原作通り、現在はアリウスと接触できないか試行錯誤中。幼馴染たちにはサプライズにするつもりらしい。――私もやるときはやるんだよー☆……なお。



メルハ
 権力の蜜の味を知った彼女は、トリニティで自己紹介するとき、枕詞のように「中聖リーザの従者の~」を付けるようになった。トリカスムーブをかましてきた相手にそれを言ってビビらせるのにハマっている。相手の態度がコロッと変わる様子を楽しむ、カスの趣味を覚えてしまった。

 補習授業部が推しなので、同じクラスになったヒフミにペロロ様を使って急接近。他の三人――特にハナコは今の状況でお近づきになるには難易度が高すぎるため、彼女の心が補習授業部で『氷解』してから、ヒフミ経由で仲良くしようと画策している。

 夢のトリニティ生活を満喫しすぎているせいで、体重が徐々に増えているが本人は気が付いていない。



中聖リーザ
 各校にいる最強格、その連邦生徒会枠。政治力も武力も兼ね備えた頂点お嬢様族。その代わり性格が……。 
 実はこれでもだいぶ丸くなった方。本人は「人はそう簡単に変わらないわよ」と言っているが、ミカに感化され、自分を見つめ直した過去がある。

 幼いころはフ〇ーザのように他者を平然と踏みにじれるタイプだった。もしアリウスに生まれていたら、ベアトリーチェに嬉々として女王に仕立て上げられ、恐怖政治をやっていたかもしれない。
 
 今章で黒服との関係が示唆されたが、実際には二、三回取引しただけの薄い関係。黒服からすると、リーザの状況ではホシノのように追い詰めるのはほぼ不可能で、手中に収めるのも難しい。加えてリーザという生徒の致命的な本質にも気づいているため、実験材料としてもそこまで魅力的ではない。
 
 アビドスでの出来事を経て、先生への警戒は一応取り下げた。完全に信頼したわけではないが、悪事を働くタイプには見えない。それに互いの立場的にも、対立することはなさそうだという判断である。ただしシャーレの権限については、まだ不信感が拭えていない。

 ロールケーキはもう飽きた嫌いじゃないがそんなに好きでもない。でもジャンキーの手前、口に出さないようにしている。



プロローグ編はここまでです。
次回からリオ側にたって時計仕掛けの花のパヴァーヌ編に入ります。

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