王女の目覚め
「放て~ 心に刻んだ夢を~ 未来さえ置き去りにして~♪ 」
どこか気の抜けたメルハの歌声が扉越しに聞こえる。身動きできなくなっているせいで、よほど暇を持て余しているのだろう。ついに歌い出したらしい。
淹れたばかりの紅茶が入ったカップを手にしながら扉を開けると、その声は一層はっきりと耳に届いた。トリニティではあまり耳にしない類の曲調だが、疾走感があって耳によく残る歌だ。それゆえにメルハの歌唱力が残念なことも分かるけど。
「限界など知らない~ 意味無い~ この能力が光散らす~ その先に遥かな想いを~♪ ――あ、お嬢さま!」
「聞き馴染みのない歌ね。あなたがやっているゲームのものかしら?」
「レールガンの歌です!」
「え?」
椅子に縛り付けられ、腕も足もきっちり固定されているメルハの言葉に私は首を傾げた。
レールガン――電磁気力で弾体を高速射出する武器だったっけ。理論自体は広く知られているが、少なくともキヴォトスにおいては実用段階には至っていないはずだ。しかしそのレールガンと、今の歌にどんな繋がりがあるというのか。
思い返してみても、連想させるような歌詞は見つからなかった。このまま聞き続ければそれらしい要素が出てくるかもしれないが……今の状況でメルハに歌えと頼むのもおかしな話だ。それに私にそんな事を言われたら調子に乗るだろうし。
「紅茶淹れたんですね。私にもください!」
「はいはい」
「いやー、のどが渇いていたところでし……あの、手が動かせないんで飲めないんですけど」
「自力で何とかしなさい」
「ええ……」
そろそろ飲めそうな温度になった紅茶を口に含むと、僅かに眉を寄せる。キヴォトスで一番紅茶にうるさいに違いないナギサには及ばないが、私だってそれなりの腕前なはずなのだ。久々に淹れるからって、ナギサに教え込まれた技術は忘れてはいない。
だというのに、ここ最近飲んでいたもの――メルハが淹れていた紅茶と、ほとんど違いが感じられない。私の腕が落ちたのでなければ、メルハが私に追いついたということだろう。
念のためティースプーンでかき混ぜてから、もう一度口に運ぶが味は変わらなかった。……当たり前か、我ながら情けない抵抗である。
「あー、久々のお嬢様の紅茶飲みたいなー。だからあーんしてくれると……」
「…………あなたにこの紅茶はもったいないわ。残りも私が飲むわね」
従者に紅茶を淹れさせるのは主として当たり前だが、腕であっさり並ばれるのは淑女として面白くないぞ。私はメルハの目の前に置かれたティーカップを持ち上げ、一気に中身を飲み干した。
「えっ!? 目の前にまで置いておいてなんで!? 見るだけで終わりですか!?」
「香りも楽しめたでしょ」
「喉に! 液体が! 欲しいんです!」
「これで我慢しなさい」
紅茶と付き合ってきた年季を考えると、メルハに差をつけられないのは複雑な心境になるな。裏で練習にでもしていたのか?とりあえずナギサに『補習』でも頼もうかと考えながら、私はメルハにお湯の入ったティーカップを差し出した。
片手だけ解放されたメルハがお湯――に砂糖とレモンを突っ込んだものを飲んで、酸っぱそうな顔をする。どう見てもレモンの入れ過ぎだし、そうもなるだろ。
「うへー、酸っぱい。これは口直しが欲しいなー、なんて……」
「はい、お湯」
「……あ、ありがとうございます……これ絶対飲ませてくれないやつだ……お嬢さま、なんか大事そうな書類を持っていますね。連邦生徒会からとなるとリ……主席行政官からですか?」
「アユムからよ」
内容は調停室長としての報告というより、あの堅物の後輩としての感情が滲んだものだった。主席行政官と疎遠になって以降、アユムからは定期的にこうした書類が届くようになっている。
ひと通り目を通したが、今回も特筆すべき変化はない。会長は依然として行方不明、治安の悪化も収まらず、連邦生徒会は混乱の只中にあり、人員も不足している――要するに、何一つ状況は好転していない。
連邦生徒会をまとめきれていない『人望無し』な会長代理の苦境と、末尾に添えられたアユムの「どうか帰ってきてください」の切実な一文も、もはや見慣れたものだ。私がD.U.地区を――SRT特殊学園を離れることになったのは誰のせいなんだか。先輩たちのことを考えると、今でも苦々しい感情が沸き立つ。
「……アユムからってことはいつものか……お嬢さまにはなんとかリンちゃんと仲直りしてほしいけど……カルバノグまでになんとかしなきゃバッドエンドが……カヤはニッコニッコで寄って来るし……あの細目貧乳ピンクめ……絶対もうクーデター企んでいるだろ……とっとと矯正局にぶち込まれてしまえ……」
調停室長にして、主席行政官の秘書のような役割をしているアユムの立場には同情するが、私はあの女の尻拭いに付き合う義理はないのだ。『愛想無し女』がどんな状況なのか、耳に入ってくる情報だけでも大体察しはつくが……自業自得である。
そんなに逼迫しているというなら、ご自慢のシャーレにでも泣きつけばいいじゃないか。猫の手も借りたい状況ならば、『何をしても自由』な特別扱いをさせていないで、手伝わせるべきだろ。
最近直接顔を見ていないが、間違いなく類を見ないほど視線が厳しくなっているであろう、連邦生徒会の暫定トップの顔を思い浮かべながら私は口を開いた。
「特に目新しい情報は無かったわ。堅物女が愉快なことになっているのも、相変わらずなようね。あの調子でどこまで持つのか、見物じゃない?」
「いやー、それはそのー……どうなんでしょう?……お、おいたわしやリンちゃん……FOXの先輩たちの件で盛大にこじれているし……お嬢さまと仲直りなんて今は絶対に無理ぽ……どうすれば……」
主席行政官の状況を冷笑する私に、メルハは歯切れの悪い相槌を返す。連邦生徒会がこれ以上混乱するのでも危惧しているのか。まあ、たしかあのデカ女までいなくなれば少しマズいかもしれないけど。……そうなれば後釜は誰がいたっけ?
思い浮かぶ顔ぶれの中で、最も「やる気」が見えるのはカヤだが……ここ最近の接触で、あれが器でないことはよく分かった。無能とまで断じるつもりはないが、組織を束ねるだけの求心力は感じられない*1。今の会長代理を見ていれば、カリスマ性の無さがどれだけ致命的かは説明するまでもないだろう。
強いて候補を挙げるとすればアオイか?だが財務室から彼女を離れるとなると、それはそれで代わりの人材が……いや、やめておくか。あまり考えていて愉快な話題では無いし、私の頭脳はもっと有意義なことに使われるべきである。
それにデリカシーは全然ないけど、主席行政官はあれで結構タフなのだ。今すぐどうこうなるわけじゃないだろうし、限界そうならアユムあたりが無理やりにだって休ませているはずだ。
「とりあえず連邦生徒会内の騒動には距離を置く方針に変更はないわ。今関わっても対策室にはメリットは無さそうだしね。……あなたも不用意な行動は控えなさい、メルハ。主席行政官の周囲やシャーレとの接触は可能な限り避けること」
「あー、はい、そうですよね……リンちゃんが孤立気味なのは原作と同じだから、まだ大丈夫だよね?……まずはパヴァーヌを気にした方がいいかな?……」
ティーカップに砂糖を入れながら、何か考え事をしているようにメルハがうんうん唸る。どう見ても砂糖の入れ過ぎだが、集中しすぎているせいで気づかないらしい。それともまた『お口直し作戦』でも企んでいるのか?何度やったってメルハにはお湯しか出さないぞ。
やがて考え事が終わったのか、恐る恐るといった感じでメルハが訪ねてくる。
「最近ミレニアムの会長とはどんな感じですか?関係が続いているのは分かっているんですけど……私も把握しておきたくて」
「あら、殊勝な心掛けじゃない。そっちとはあまり関わらせていなかったのに、興味を持ったの?」
調月リオが気になるのか?そういえば以前、それらしいことを口にしていた気もする。偏屈主席行政官のことも考えると、もしかしてメルハは……身長が高くて胸が大きい、長い黒髪の真面目なタイプが好きなのだろうか。リオに変な絡み方をしないといいのだが。
「ほら、三大校のトップですし、どんな人なのかなーって。お嬢さまも、ずいぶん入れ込んでいるみたいですし」
「話が分かる、力も持っている得難い協力者だからよ。特に『デカグラマトンの預言者』に関しては、彼女以上の専門家はキヴォトスにはいないでしょうね」
「おー、すっごい高評価ですね……リオが孤立しないのは喜ばしいかもしれないけど……このままだと私たちって先生と対立するんじゃ……アリスが破壊されるのはマズい……というかバッドエンドスチルだと破壊に失敗して暴走していたような……」
「いつも忙しいみたいだけど、最近は特にそうみたいね。なんでも要塞の建設とかしているらしいわ」
対策室が対峙してきた怪物の中でも、最も厄介だったのはデカグラマトンの預言者だ。何種類か存在しているのに撃退こそすれ、未だ討伐に成功した個体は一体もいないのである。
だが、それでも要塞を築くほどの脅威かと言われると疑問が残る。一体リオは何に備えているのやら……今度聞いてみるか。
「へー、要塞ですか……あ、あの横領都市出来てたんだ………そろそろパヴァーヌ編きそうだよな……だ、大丈夫だよね……先生なら全部丸く収めてくれるはず……アリスは死なないし、私もお嬢様もどうこうならないよね……ブルーアーカイブの主人公なんだし……たぶん、なんとか……胃がいてぇ……ヒフミちゃんに会いたい……」
やはり砂糖を入れ過ぎたのだろう、甘ったるすぎて胸やけでもしているのか表情が優れないメルハ。ちゃんと考えて入れないとそうなるんだぞ。私は追加でお湯を入れてあげた。
ふと、いいことを思いついく。メルハをリオの部下である飛鳥馬トキに引き会わせるのはどうだろうか。彼女のメイドとしての所作は私から見ても合格だし、戦闘もかなりこなせそうだ。性格も冷静沈着といった様子で、何でもクールにそつなくこなすに違いない。ああいう『手本』を間近で見習えば、メルハももっと精進できるはずだ。
そういえば、いつもトキ以外にリオの側に人がいるのを見たことが無いな。他に部下はいないのだろうか?三大校の生徒会長ともなれば、もう少し人を従えていてもおかしくないはずなのだけど……。まあ、トキという優秀なメイドがいて、更にあれだけ機械に囲まれているのなら、人手がそんなに必要ないのかもしれない。
「いつかリオとの顔合わせの機会でも作るわ。ミレニアムから滅多に出ないみたいだし、こっちから出向くことになりそうね」
「いいですね、ミレニアムに行くのが楽しみです。最新のゲームとかあっちでしか売ってないんですよねー」
「……別にいいけど、仕事が優先よ?遊びにかまけて本業をないがしろにするわけにはいかないわ」
「もちろん、分かっていますよ! お嬢さまだってミレニアムの技術には興味ありますよね?新装備でも探してみませんか?」
たしかに、それは良いかもな。怪物相手に隊員たちの火力不足を感じる場面もこれまでにあったし、良さそうなものがないか探してみるか。ミレニアムの技術発展は目覚ましいし、何か目新しいものがあるかもしれない。
……まあ、今の連邦生徒会の状況であまり高い装備を購入しようとしたら、財務室長のアオイに睨まれるかもしれないけれど。無駄な出費と判断されれば面倒なことになる。組織の財布を握る人間とは、無用な衝突を避けるに越したことはない。
誰が相手でも態度を変えず、賄賂や脅しなども通じそうもない杓子定規な財務室長のことを思い浮かべながら、私は口を開く。
「悪くない提案よ、メルハ。褒めてあげるわ」
「私は常在従者の心構えですからね! 対策室長であるお嬢さまの部下として、常にキヴォトスの平和と秩序のために頭を回しているんです!」
「さっきはミレニアムの最新ゲームに釣られていたみたいだけど?」
「あれも業務のうちです。お嬢さまを楽しませられるよう、情報収集をするのも従者の務めですから!……全く、なんて忠義者なんでしょう、私は」
したり顔で言うメルハに私は思わず呆れた表情を浮かべた。まったく、大した自己評価だな。馴染みのない初心者でも楽しめるパーティーゲームならともかく、メルハが遊んでいる大半は一人用だろうに。
特にあのぺ……ぺロ……ペレストロイカ殿*2のゲームなんて、ヒフミやメルハみたいなマニアックな趣味の持ち主しか楽しめない『ゲテモノ』だ。
「献身的な従者に恵まれて、私は幸せ者ね。趣味すらも主に捧げていただなんて、とっても感動したわ」
「えへへ、お嬢さまったら褒めすぎですよ~」
「ところでそんな『忠義者』に聞きたいのだけど――誠心誠意仕えているはずの主に、失神するくらい辛くてまずいデザートを出す従者をあなたはどう思う?」
具体的には妙に真っ赤なプリンと、これまた真っ赤な辛いソースがかかったマカロンの事だ。わざわざ説明するまでもなく、目の前の当人には心当たりがあるはずである。
そしてそれを言われた本人は、なぜ自分が拘束されていたのか思い出したらしい。のほほんとティータイム――メルハはお湯だけだったが――を楽しんでいた頃と打って変わって、顔を盛大に引きつらせていた。
「…………何か事情があったのかもしれません。そう、不幸な行き違いというか、事故というか……あの、本当にわざとじゃないんです、信じてください!」
「そこはどうでもいいわ。大事なのは、あなたがそれを私に食べさせたという事実のみよ」
私はあの『劇物』を口にした途端、想像を超える刺激に悶絶したのだ。それのみならず、ひっくり返ってのたうち回ったのもよく覚えている。
ここまでの無様を晒したのは初めてだぞ。昔ミカに殴られた時だって、預言者の集中砲火を受けた時だって、ここまでのダメージを受けたことはない。
SRTの生徒にだって我慢できずに文句言うレベルでひどかった豚肉の缶詰だって、メルハが出したものに比べたら『高級スイーツ』と呼べるくらい、ひどい代物だった。
「あの…その……」
「この私をあんな目に遭わせるだなんて、大したものじゃない、メルハ」
貼り付けた笑みで優しく頭を撫でてやるが、メルハの全身がびくりと跳ねる。分かりやすく怯えているようだ。この私を倒した『勇者』とは思えない小心っぷりだな。
「……や、やばい……まぐろプリンとししゃもマカロンのデスソース和え*3をいちごプリンと間違えて出しちゃったの……お嬢さまめっちゃ怒っている……どうしてあんなミスしたんだ私!……というかなんであんなもの買ったんだ私!……一時のテンションに身を任せるヤツは身を滅ぼす……」
「ふふ、ふふふふ……じゃあ、そろそろ罰を決めましょうか」
「え、えーと……二時間くらい縛り付けられていたのって罰に入りませんか?……なーんて……あはは……」
「『忠義者』はその程度の罰じゃ満足しないでしょ?二度とミスしないよう、心に刻み付けられるほどのものじゃないと。……そうね、草むしりでもやってもらいましょうか」
「……あ、あれ?……意外と普通だ……実はそんなに怒ってなかったり?……分かりました。どんなに雑草まみれの場所だって綺麗にしてみせますよ!」
内容を聞いて、緊張が抜ける様子のメルハ。草むしりなんて何とでもなると思っているのだろう。この私がそんな生半可な罰で許してやると思っているのか?
「では早速アビドス砂漠に向かってもらうわ。延々とやらせるのもあれだし、500㎏抜いたら許してあげる」
「はい、砂漠ですね――え?」
「水分不足は怖いからね、水筒も用意したわ。中身はちょっと赤いけど、気にしないで飲んでね」
「いや、あの、……え?」
状況についていけずに、呆然とするメルハ。分かりやすく言ったつもりだけど、もう一度説明するべきか?
「何を呆けているの?雑草抜きをするだけよ?……もちろん全て手作業でね。途中休憩無し、おしゃべり無し、飲食は私が用意したもの以外の摂取は認めないわ」
「砂漠で500㎏もなんて、いくらやっても終わりませんけど!? ミイラになっちゃいますよ! ってか中身が赤いって何を入れたんですか!?」
「それは飲んでからのお楽しみよ。部隊を引き連れてあなたを監視するから、逃げられるなんて思わないことね?」
「権力の乱用じゃないですか!? だ、誰か助けて!お嬢様にいじめられる!」
キヴォトス有数のエリートが集うSRT特殊学園に在籍した経歴を持ち、栄えある対策室の戦闘員でもありながら、みっともなく助けを呼ぶメルハ。
だが無駄である。この特別寮には私の手の者しかいない。今更メルハの悲鳴が聞こえたところで「ああ、またか」と皆にスルーされるだけだ。メルハの積み上げた実績の成果だな。
「誰も助けになんか来ないわよ。諦めなさい。……ふふっ、長丁場になりそうだし、追加のデスソースも用意しないとね」
「水筒の中身が赤い理由、絶対それですよねっ!?」
渇き死ぬか辛すぎて悶絶死する未来が待ち受けているのを理解したのか、メルハがじたばた暴れて逃げ出そうとする。だがきつく縛られているせいで、片手がちょっと動かせるくらいではどうにもならない様だ。
私は無駄な抵抗を続ける哀れな従者を『連行』しようと手を伸ばすと、電子音が鳴り響いた。静まり返った室内に、着信音が反響する。私の端末か、なんてタイミングが悪い。
「ほ、ほら鳴ってますよお嬢さま。そっちを優先した方がいいかと……」
ほんのわずかに延命した従者に視線を固定しながら、『従者教育』の邪魔をしたのは誰かとスマホを取り出す。すると先ほど話題に挙げた対策室の協力者、調月リオの名前が表示されていた。
「……もしもしリオ、何か用かしら?」
『単刀直入に言うわ、リーザ。名もなき神々の王女が目覚めたのよ』
「ああ、そう。それは大変――は?」
廃墟の奥に封じられていた、あの?誰かが連れ出したのか?
そら見たことか、と私はスマホを握りしめながら主席行政官に心の中で呪詛を吐いた。だからミレニアムの廃墟の封鎖はやめるべきではなかったのだ。『出入り禁止』の看板だけじゃ何の抑止力にもなりはしない。
とりあえず厭味ったらしい抗議文を書くことを決意しながら、私はリオの話を聞き続けた。
『――というわけよ』
「なるほど。ゲーム開発部の子たちは良く無事に帰ってこられたわね。度胸があるといえばいいのかしら?……褒められたことではないのだけど」
どうやら騒動の発端は、ミレニアムサイエンススクールの廃部寸前の部活――ゲーム開発部らしい。所属は三人、しかも全員一年生だという。
それにしても、大した戦闘経験もなさそうなインドア気質の一年生が、よくもまあ危険地帯に踏み込んだものだ。廃墟をうろつくロボットの群れを見て、引き返そうとは思わなかったのか?
『シャーレの先生が彼女たちの引率をしていた様ね』
「ああ、それならまだ納得――は? ……えっと、『シャーレ』の、『先生』よね?」
『ええ、そうよ』
廃墟は人を見れば無差別に襲ってくるロボットが、無尽蔵にとも思えるほど大量に徘徊している危険なエリアなのだ。デカグラマトンの預言者のような強力な個体こそ確認されていないが、それに類する存在が廃墟の奥に潜んでいても不思議ではない。
ミレニアムでも、連邦生徒会でも全容を解明できておらず、それでも民間人に自由に立ち入らせていいわけないことくらいは少し脳味噌があれば分かることだ。だから『進入禁止』なんだぞ。
そんな場所に一年生を連れて行くなんて……アビドスでの働きを多少評価していたところでこれである。主席行政官への抗議文は嫌味だけじゃなくて、皮肉をたっぷり散りばめねばなるまい。久々に聞いてなくて寂しい思いをしているだろうし、『栄養過多』になるほどぶち込んでやるとしよう。
「……とりあえずミレニアムに向かうわ。状況を把握したいし、資料を送って頂戴。行く途中で確認するわ」
『分かったわ、すぐに送るわね』
リオといくつかのやり取りをした後に通話を切る。降って湧いた災事に頭を痛めながら、私はメルハの拘束を解いた。あからさまに助かったみたいな顔をしているが、罰は後回しになっただけだぞ。『免罪』にしたわけじゃない。
「仕事の時間よ、メルハ。リオとの通話は聞いていたわね?」
「お任せください、どんな敵だって撃ち抜いて見せますよ!お嬢さまだって私の射程距離はご存知ですよね?」
「1kmでしょ」
「13kmや」
そんなに弾が飛んでたまるか。
リーザとリオの口調、若干被ってない……?