トリカスお嬢様、転生者を拾う   作:メリル´

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密やかなる会談

 

 ミレニアムサイエンススクールを訪れた私は、生徒会長の執務室へと通されていた。リオから、もう一人来るので待っていて欲しいと告げられ、私は手渡されたタブレットで『名もなき神々』に関する資料に目を通しながら、その到着を待っている。

 

 難解だし、専門用語ばかり出てくるせいで、いまいち頭に入ってこない。別にリオを疑っているわけではないけれど、空想の設定を勉強させられている気分だ。そもそもこれは『待ち時間』で読みきれる量なのだろうか。

 

「……リオ、部屋をもう少しだけ明るくしてくれないかしら?」

 

 タブレットを渡されたので、暗闇の中でも読めなくもないが、目に悪い。ミレニアム生徒会長のオフィスがまさか照明設備が無いわけがないだろうし、当然の『要望』として口にしたのだが――。

 

「万全を期すためにそれはできないわ。この会談を外部に知られてはならないもの。この会談もデータベースには残らない。すべてはこれから話す内容の機密を守るため」

 

「……仕方ないわね」

 

 少々過敏すぎる対応だとは思うが、資料の内容を考えれば無理もないか。これらが広まってしまえば市民はパニックになるだろうし、カイザーみたいな企業が『遺産』を探し出そうと躍起になるはずだ。

 

 先生がゲーム開発部の一年生を『引率』し、廃墟から連れ帰ってきた――『名もなき神々の王女 AL-1S』。今は天童アリスと名乗っているその存在は、どうやらロボットらしい。人ならざる者が人の姿をして社会に紛れ込むというのはホラー小説にありがちな展開だが、少なくとも現時点では平和に過ごしているようだ。

 

 今ではミレニアムの一生徒として、ゲーム開発部に所属しているとか。なんでも人数不足のせいで廃部寸前だったゲーム開発部を存続させるために、学生証を偽造し、生徒名簿をハッキングして書き換えて入部させたと報告書にはあった。……うん、おかしい。

 

 まあ、ミレニアム内部の問題だし、生徒会長であるリオも把握しているならいいか。自治区内の話に、連邦生徒会の私が口を挟むべきではない。

 

 それにもっとおかしくて私を辟易させたのは、先生がそれらを報告しなかったことと、AL-1Sもメンバーに加えてもう一度廃墟にゲーム開発部を『引率』したことだ。私はリオが知らせてくるまで、何一つ把握していなかったぞ。

 

 特別扱いを受けている超法規機関とはいえ、シャーレは連邦生徒会の管轄下にある組織なのだ。あんなのを発見して回収したなら報告はするべきだし、危険地帯と定められた場所に無許可で立ち入るべきじゃないのである。もしかして気まずくて口を噤んでいるのか? 2回*1も廃墟に突入したのだから、大問題だとはとらえては無さそうなものだけど。

 

 まったく、『名もなき神』だか『無名の司祭』だか知らないが、ずいぶん迷惑な置き土産を残してくれたものだ。今のキヴォトス民の先祖と対立していたらしいが、滅ぶなら跡形もなくきれいさっぱり滅んでいて欲しかったな。 

 

 ちなみにメルハは自由行動をしている。呼びつけられた段階ではリオに切羽詰まった様子もなければ、ミレニアムで大きな被害が出ているとの情報もないので、軽く話を聞くだけかと私は判断したのだ。

 

 今からでも呼ぶかとスマホを手に持ったが、リオを一瞥してその考えを引っ込めた。身長、胸、黒髪、真面目な性格。どこぞの誰かと共通点が多すぎる。わざわざ『懸念』を呼び寄せるような真似をする理由もないし、やっぱ呼ばなくてもいいか。

 

 

 

「来たみたいね」

 

 リオの視線がドアへ向く。直後、静かな駆動音とともに自動ドアが開き、一台の車椅子が滑らかに室内に滑り込んできた。

 

「あら、超天才清楚系病弱美少女の来訪を、電気もつけずに迎えるなんて……。来客をもてなす気がこれっぽっちも無いという点、とてもあなたらしいとは思えますけど……。まあ、あなたにそれを咎める人なんて今までいなかったのでしょうね?」

 

「……いいえ、ついさっき同じことを言われたわ」

 

 私と同じ感想を抱いたらしい、白銀の髪を揺らす車椅子の少女――明星ヒマリが口を開く。随分な自己賛美とともに笑顔こそ浮かべているが、その瞳は笑っていない。対するリオは相変わらずの無表情で、淡々とそれを受け止めている。

 

 少しピリついた空気だ。ミレニアムで最高の学位である『全知』を獲得した二人だが、どうやら友好的とは言い難い関係らしい。

 

「あら、あなたに指摘する人なんて……C&Cの部長にでも言われましたか?それに暗い部屋でモニターをつけていると目が悪くなりますよ?リオ」

 

「それは――」

 

 リオはヒマリの問いに、私への返答と同じような答えを返した。つまり、機密保持の観点からとかあらゆる事態を想定して秘匿されるべきとか、そういうのだ。

 

 そのまま二人は言葉を交わす――いや、正確にはヒマリがリオの融通の利かなさとユーモアの欠如を突いているだけだが。なんというか、ずいぶん刺々しいな。ヒマリの方が一方的につっかかっているのを見ていると、どこかデジャブを感じる。

 

 そう、まるで私とリンちゃ――って何を考えているんだ、私。あれは『ノンデリカシー』で『無愛想』な『分からず屋』の『デカ女』に私が慈悲の心で構ってあげていただけだ。……それにもうすでに過去の話である。余計なことを考えていないで、仕事に集中しないと。

 

「そもそも、人目を気にするのであれば、他の場所にすればよかったのでは?ええ、例えば……誰かさんがこっそり作っている――『セーフハウス悪趣味』……とか?」

 

「……」

 

 ヒマリもあの要塞都市の存在は把握しているみたいだ。リオの反応を見る限り、彼女が明かしたわけではなさそうだが……。キヴォトス有数のハッカー集団、ヴェリタスの部長というヒマリの肩書きを考えれば、ハッキングで情報を抜いたとしても不思議ではない。

 

 それにしてもミレニアムの上層部はこんなに不穏な関係だったのか?常日頃からお互いを探っているだなんて、トリニティとあんまり変わらないじゃないか。そういう話はトリニティばかりが取り沙汰されるが、大きな学園ともなれば、どこもあんまり変わらないのかもしれない。

 

 さすがにいつまでも終わらない『アイスブレイク』を眺めていたい気分じゃなかったので、私は立ち上がり、ヒマリに歩み寄った。『協力者』への助け舟という面もあったが――まあ、ヒマリに何を言われてもリオは動じてなかったので、あんまり好感は得られないか。

 

「!……あら、他に参加者がいるとは聞いていませんでしたが、リオ?」

 

 秘匿されるべき会談に、外部の人間を招くなんて聞いていなかったのだろう。ヒマリは当然のようにリオを咎める。言っていなかったのか?

 

 それにしても、私に気付くのが随分と遅かったな。別に気配を殺していたわけでもないのだけど。ヒマリはリオしか目に入っていなかったのか?いくら私が『小さめ』だからといって、この距離で視界に入らないはずがない。

 

 あるいはリオの部屋にリオ以外がいるのが考えられなかったとか?……いや、まさかな。連邦生徒会名物の『人望無し』主席行政官じゃあるまいし。

 

「ごきげんよう、明星ヒマリ。全知の学位を持つ貴女の噂はかねがね。お会いできて光栄よ」

 

「初めまして中聖リーザさん。こちらもあなたのことは良く耳にしますよ……それで、噂とはどんなものを?私ほどの有名人になると様々なものがありますが、参考までに聞いても?」

 

 どうやらヒマリは自分の評判が気になるらしい。私が聞いたのは花とか透き通った水とかで本人を表現していたっけ。あとはミステリアスで天才で美少女とか、とにかく豊富だったはず。……ジョークがお好きらしいし、私も少しだけ付き合うか。

 

正体不明な崖の上のミネラルウォーター、と」

 

「なっ、そんな合体事故を起こしたみたいに!?」

 

「ふふ、冗談よ。超天才ハッカーで、色々な分野に精通している才媛だとか。それに今はリオが設立した特異現象捜査部*2の部長も兼ねているんでしょ?ぜひ、『仲良く』したいわ」

 

「なんだ冗談ですか。……ヒマリで構いませんよ。『仲良く』するのには私も吝かではありませんが、いくつかお聞きしても?……リーザさんは、このユーモアを解さない下水女とどんな関係なのでしょう?」

 

 もう軽口の範囲は超えているのでは?下水呼ばわりとは結構な言い草だ。友好的な関係ではないどころか、敵対しているとすら思える。まあ、そんなふうに呼ばれても、リオは相変わらず無表情のままだし、大して響いているようにも見えない。もしかして、これが彼女たちの日常的なコミュニケーションなのか?

 

「協力者よ。主に対デカグラマトン関係でのね。あの狂ったAIたちが落とすパーツの引き取り先でもあるし……まあ、他にも色々とね」

 

 『色々』というのは政治的な面も含まれる。リオにパーツやデータを提供するかわりに、私も支援してもらうこともあるのだ。連邦生徒会において、三大校のうちのトリニティとミレニアムに顔が利くというのは、私の突出した優位点なのである。

 

 だが、そこは別に詳しく解説するつもりはない。ヒマリほどの人物なら察せるのかもしれないけれど、『裏側』をぺらぺら話す必要も無いだろう。綺麗な面だけ見せるのも政治家の手腕だ。

 

「あのリオが……?」

 

 ヒマリは疑問を覚えているらしい。私の答えを疑っているというより、信じ難いといった反応に近い。取っつきにくい人物なのは間違いないし、会話が弾んだ覚えもないけれど、リオは私にとっていい協力者なのだが。

 

「『キヴォトスに起こる異変を未然に防ぎ、それに備えること』――リオの理念*3は素晴らしいわ。そのまま対策室のスローガンにしてもいいくらいよ」

 

「……ずいぶんとリオのことを評価しているみたいですね。それで、()()退()()()()()()()()()()であるリーザさん、今日はどのような用事でミレニアムに来られたのですか?」

 

 妙に私の役職を強調して話すヒマリ。連邦生徒会に不信感でもあるのか?まあ、昨今の失態を見ていればしょうがないのかもしれないけど。わずかに違和感を覚えながら、私は口を開く。

 

「リオに呼ばれたのよ。なんでも廃墟で先生がとても風変わりな『異物』を拾ったって聞いてね。今は生徒の中に紛れ込んでいるらしいわね」

 

「あら、『仕事』をするつもりですか?」

 

「それはまだ判断していないわ。正直、『名もなき神』とか『無名の司祭』については実感が持てなくてね。できれば専門家の意見を聞きたいの」

 

 私はAL-1Sに対してどんな方針を取るかまだ決めかねている。リオは今日その議題についてヒマリと話し合うといったので、それを聞いてから判断するつもりだ。

 

 軽い自己紹介も済んだし、リオに視線を送る。別にここで友好を深めるためのティーパーティーをやってもいいのだが、リオと同席するのはヒマリが嫌がりそうだ。なら、さっさと話を進めてもらおう。

 

「……本題に入りましょう」

 

「ええ、構いません」

 

「まず、お互いの認識のすり合わせを。前回、『鏡』を巡ってミレニアム生が起こした一連の騒動――それは私たちが共に仕掛けたことだったわね」

 

「ええ。私が『鏡』という手段を用意し、リオがC&Cという危機を提供する――珍しく、一つの目的のためにあなたと私が協力した事でした。そう、アリスAL-1Sの正体を明かすために」

 

 報告にあった件か。なんでも『鏡』とかいうハッキングツールを景品にして、この二人が舞台を整えたらしい。 AL-1Sを見極めるとはいえ、校内で暴れさせるとは、中々大胆な発想だ。廊下に巨大な穴が開いたと聞いたぞ。

 

 それに、また先生がゲーム開発部を指揮していたらしい。『仕込み』である以上、差押品保管所の襲撃に加担した件で、ミレニアムから連邦生徒会へ抗議してくることはないだろうけど。あの立場でそれをやるあたり、先生もある意味大胆な人物のようだ。

 

「あれから随分と経つけれど……解釈の結論は出たのかしら?」

 

「もちろんです。アリスの正体……それは――」

 

「無名の司祭が崇拝する『オーパーツ』であり――」

 

「――はるか昔の記録に存在する、『名もなき神々の王女』」

 

 言葉の終わりと共に、二人の視線が重なる。ここまでは私がリオから聞いた通りだ。全知の学位を持つ天才同士、辿り着く結論も同一というわけか。

 

 『頭でっかち堅物女』や『ぽっと出の大人』が同僚な私としては羨ましい限りである。多少不仲であっても、ちゃんと連携が取れるのなら仕事がやりやすそうだ。このまま順調に議論が進むことを確信し、私は傍聴を続けた。

 

「そう……同じ解釈になったようね。つまり……あの存在の本質は――」

 

「ええ。アリス、あの子は――」

 

「――世界を終焉に導く兵器」

 

              「――『かわいい後輩』ですよね♪」

 

 ……は?

 

 

*1
1回目はアリス回収、2回目はG:Bible回収

*2
セミナー参加の特務組織。科学的に解明しがたいとされる現象を追跡・研究することが目的

*3
デカグラマトン編2 炎の剣『邂逅・再び』より




祝!FOX小隊実装!
やっと趣味とか苗字判明しましたね。クルミってシール集めが趣味だったんだ……

SRTや連邦生徒会関連のストーリーもどんどん更新されそうですね。すごくうれしいですけど、この小説の設定が崩壊しないか、心配する毎日です……



公式Xで公開されている漫画『ぶるーあーかいぶっ!』第270話にて、クルミとオトギが面白い事をやっています。興味があればぜひ……
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