トリカスお嬢様、転生者を拾う   作:メリル´

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めっちゃ強い新ボスのカニ、雌らしいですね。




おべっかの代償

 

 視線の先の画面では、メイド服の一部を脱ぎ去り、『武装』の一部を露出させたトキとC&Cが激しく戦っている。

 

「あなたの読み通りみたいね」

 

「ええ」

 

 リオは短く頷いた。

 

 当初は堂々とエリドゥへ突入し、数多のAMASをスクラップへ変えながら暴れ回っていたC&Cだったが、トキが現れると美甘ネルは「リベンジマッチ」を宣言し、他のメンバーを率いて彼女へ挑みかかった。

 

 ――全て『想定通り』だ。

 

 先生が陽動作戦をとることも、向こうが把握している最大の脅威であるトキにC&Cをぶつけてくることも、リオは予測していた。戦況はこちらが掌握していると言ってもいいだろう。

 

 私の見立てでは、C&Cの個々の戦闘力は同格であり、唯一リーダーである美甘ネルだけが頭一つ抜けている。

 

 だが『武装』を纏った今のトキは、そのネルを含めたC&C全員と互角以上の戦いを演じていた。ここまでの戦力差を埋められるだなんて、あの『武装』の性能は相当な代物らしい。

 

 やるじゃないか、流石は『全知』だ。流れを読み切ったことといい、『武装』を作り上げた技術力といい、リオはやはり素晴らしい協力者である。

 

 私は心の中で僅かにでも彼女を疑ったことを反省した。戦力をたった一人しか連れてきていないのも、それで事足りると合理的に判断した結果なのだろう。

 

 

 

 

 

 戦況を見守っていると、交戦区域のビル群が地響きを立てながら動き始めた。

 

 ネルに追従しようとしていたC&Cのメンバーたちは次々と進路を断たれ、気付けばネルだけがトキと同じ区画へ取り残される。

 

 私は思わず画面を二度見した。

 

「……えっと、リオ。私の目がおかしくなったのかしら? 建物が動いているように見えるのだけど」

 

「トキには都市構造を変化させる権限を与えているわ。それを使って分断したのでしょう」

 

「エリドゥにはそんな機能まであるのね」

 

 それでC&C最大の強みである連携を打ち崩したわけか。

 

 『武装』を使用したトキは、過去に一度ネルに勝利している。向こうが碌な対策も用意できていない以上、今回も同じ結果になるだろう。

 

 しかし、要塞都市とは聞いていたが、まさか建物そのものが動くとは。地の利はこちらにあるとは考えていたものの、流石にここまでの仕掛けがあるとは予想外だった。

 

 これほどの都市を極秘裏に築き上げるには、相当な時間と労力、そして莫大な資材を投じたはずである。いくらミレニアムの生徒会長とはいえ、そう簡単に実現できる規模ではない。

 

 特に気になるのは資金面だ。都市一つを丸ごと建造するだけでも途方もない予算が必要だというのに、その上で建築物を移動させる機構まで備えているのである。

 

 設計をリオ一人で担い、組み立てをドローンへ任せることで人件費を大幅に削減できるとしても、資材費ばかりはどうにもならないはずだ。流石の彼女でも無から鉄やコンクリートを生成できるわけではないのだから。

 

 建築分野にはあまり詳しくない私でも、必要になった金額が天文学的な数字であることくらいは想像できる。本当にどうやって捻出したのだろう?

 

 『金満トリニティ』のティーパーティーですら、こんな都市の計画書を持ち込まれたら紅茶を吹き出すに違いない。もちろんその後は窒息するまでロールケーキを捻じ込まれるはずだ。

 

 ミレニアムにおいて、セミナーの会長とはこんな都市を推し進められてしまう程、強大な権限を持つ立場なのか?だが、いくらなんでもこの規模は……。

 

 ――まさか、横領で資金を?……いや、そんなわけないか*1

 

 リオほどの人物がそんな事に手を染めるとは思えない。きっと私の想像もつかないような、効率的な資金調達の手法でも確立しているのだろう。

 

 …………そういえば急に思い出したのだけど、ミレニアムサイエンススクールって、革新的な技術で莫大な利益を生み出している割には、妙に金欠気味ではなかったっけ。

 

 ――もしかして。

 

 ……いや、うん。なにか思い付きかけたが、きっと気のせいだ。

 

 新技術の開発には莫大な予算が必要なのだろうし、実験失敗による爆発事故も日常茶飯事らしい。研究というものは、それだけ金食い虫なのだ。

 

 だからミレニアムの財政難と、この馬鹿みたいに金のかかっていそうな要塞都市エリドゥとの間に、何らかの関係があるなどということは――たぶん、きっと、おそらく無い。

 

 無いはずである。

 

 ……まあ、仮になにか関係があったとしても私には関係のない話だ。連邦生徒会の役員が、自治区の予算について余計な興味を持つ必要はない。だからこれ以上考えるのはよしておこう。

 

 

 

 私がミレニアムの財布事情について思考を放棄すると決めたちょうどその時、戦況を見守っていたリオが口を開いた。

 

「先生たちを発見したわ」

 

「あら、あっさり」

 

 画面には、別のルートから侵入した別動隊の姿が映っていた。聞いていた通り、先生に付き添っているのはゲーム開発部とエンジニア部のみ……本当に素人だけじゃないか。

 

 どうやら急にヴェリタスとの通信を絶たれたらしく、向こうは混乱しているようだった。おそらくリオが妨害したのだろう。

 

「少し先生たちと話をするわ。リーザは……」

 

「分かってるわ」

 

 私は自分が映らない様、少し位置をずらした。リオはそれを確認すると、先生たちとの通信回線を開き始める。

 

 ……うーん、私なら迷わず奇襲を選ぶのだけれど。相手はパニック気味になっているし、こちらが向こうの状況が丸分かりな事にも気づいていない。まさに今が一番崩しやすいタイミングである。

 

 リオにはまだ先生と話したいことでもあるのか?別に捕えてからでも遅くないと思うけど。

 

 そういえばヒマリを幽閉した時も、彼女にエリドゥの戦況を把握できるだけの環境をわざわざ残していたな。先生たちの敗北を見せつけ、ヒマリの心をへし折りたい……そんな趣味の悪い理由ではないだろうけど。

 

 『ビッグシスター』――それはリオが独善的で冷徹な支配者であることへの揶揄である。必要と判断すれば、誰に何を言われようと自分で決めたことを押し通す人物だと私も認識していた。

 

 しかし、ヒマリへの対応やAL-1Sを確保した時、そして今の状況でもわざわざ言葉を尽くそうとしているところを見るに――案外そうでもないのかもしれない。

 

 

 

「予想はしていたけれど……本当にここまで来たのね、先生」

 

『”リオ、君を止めに来たよ”』

 

「……そう。やはり、あの時の私の言葉と行動だけで貴方を……そしてその子たちを説得できなかったのね」

 

 リオはそこで言葉を一度切る。

 

 何かを考えこむように僅かに沈黙し、そしてすぐに話し始める。

 

「……先生、トロッコ問題をご存じかしら?」

 

 

 

 

 

 

 リオはよく聞く思考実験に例えて自分の立場と状況を説明していた。大多数を救うために、誰も握りたがらないレバーを引く役割を担おうとする彼女の覚悟を示すものだったが――

 

『そんな話通じるわけないじゃん! そもそもキヴォトスの脅威だとかなんとかつけてアリスを誘拐するなんて、スケールが小さすぎるよ! 普段私の書いているシナリオの規模の方がず~っと大きい!』

 

 ――ゲーム開発部の双子のどっちかに感情論で一蹴された。

 

 まあ、そりゃそうか。

 

 脅威と決めつけられ、攫われた『友達』を助けに来たのが向こうの立場である。エリドゥまで乗り込んできておいて、今さら理屈を並べられたところで諦めるはずがない。

 

「……そうね。今すぐあなたたちに納得してもらうのは難しいのでしょう。……私自身、すぐに納得してもらえないということは、十分理解しているもの。――アバンギャルド君、発進」

 

 リオの声と共に、飛行ドローンにワイヤーで吊り下げられた巨大なロボットが画面へ姿を現した。

 

 あれが彼女のもつ技術を詰め込んだという『傑作』――

 

 ……え?なんだあのキモいの。

 

『うわぁ!?ダサッ……』

『たしかに、あんまり可愛いデザインじゃないけど……』

 

「……見た目は関係ないわ」

 

 後輩の――主にゲーム開発部からの不評の嵐に、リオは傷ついたようにそっぽを向いた。無感情を装ってはいるが、明らかに気にしているのが分かる。

 

 AL-1Sについてはともかく、あれに関しての意見は私とあちら側では一致するようだ。先生ですら声には出していないが、「うわぁ」という心の声が聞こえてきそうな表情をしている。

 

 それにしても、この部屋の隅に堂々と置かれていた謎の――視界に入るたび目を逸らしたくなる像の正体はあれだったのか。

 

 私も散々内心で貶したが、それを口に出さなくて正解だったな。リオとの関係がこじれたかもしれない。

 

『"……本音がちょっと見えているよ、リオ"』

 

「理解されないのなら、もういいわ。そのままで構わない」

 

 これ、どっちの意味だ?

 

 AL-1Sを巡る方針についてなのか、リオのイカレた人智を超えたセンスについてなのか。

 

 というか、リオってこんな人物だったっけ?私の記憶では、彼女は理知的で合理的な人間だったはずだ。だが今のやり取りを見ていると、その評価に少し自信がなくなってくる。

 

 もしかして三大校の生徒会長という重責が、彼女をおかしくさせてしまったのか?

 

 ……確認しておく必要があるか。ミレニアムのトップが異常をきたしている場合、その影響は学園一つでは済まない。下手をするとキヴォトス全体に悪影響を及ぼしかねないのだから。

 

 リオが通信を切ったのを確認し、『疑惑』を晴らすべく私は口を開いた。

 

「その……ちょっとした確認なんだけど。最近ちゃんと休めているかしら、リオ?」

 

「?」

 

「睡眠不足だったり、過労だったり、精神的に追い詰められていたりはしない? 例えば、内なる破壊衝動が湧いてきたりとか……」

 

「そんな傾向はないわ。どうして急にそんなことを?」

 

「……ふと心配になっただけよ。気にしないでちょうだい」

 

 なるほど、リオは正気であの像を作ったということか。……正気か?

 

 

 

 

 

 画面では『傑作』が次々と生徒たちを蹴散らしていた。リオが切り札として出しただけはあって、見た目はともかく相応の戦闘力を持ち合わせているらしい。

 

 C&Cという主要戦力をトキに差し向けさせることで、先生の傍にいる護衛を減らす……しかもそれを先生自身で判断したため、それがこちらの狙いだとは気づかない。

 

 トキという札を見せることから始まった、先生の考えすらコントロールしたリオの策略は見事であった。あのロボットの性能も相まってか、このまま制圧までしてしまえそうだ。

 

 「アバンギャルド君」とかいう名前すらダサいロボットの大火力と装甲のせいで先生たちは攻めあぐねている。ほとんど無傷のままの姿はリオの執念と決心の強さを表している様だった。……戦闘中にもかかわらず飛んでくるデザインへの批判が聞こえるたびに、彼女は悲しそうに俯いていたが。

 

『外見からは想像のつかない火力してるね……』

『見た目はすっごいダサいのに、めっちゃ強いよ!? どうしよう!?』

『あんな見た目なのに!』

 

「……改めて見ると本当にダッサい……硬くて火力もあるなんて、この世界だと超技術のロボットじゃん……あれに比べればカイザーの奴なんておもちゃだよ……見た目以外、何一つ欠点ないな……じゃあなんで合同火力演習のやつはあんなに脆いんだろう……パチモンか?……」

 

「…………」

 

「大丈夫、リオ?浮かない顔をしているけど」

 

「……問題ないわ」

 

 『観戦』している本人を狙おうと意図しているわけではないだろうが、ゲーム開発部からの容赦ない評価は、確実にリオの精神を削っていた。

 

 このままだと先生たちが制圧されるより、彼女のメンタルの方が先にやられる心配をした方がいいのかもしれない。

 

「……リーザはどう思う?アバンギャルド君の見た目について、貴方の率直な意見を聞きたいわ」

 

「!?」

 

 絶対に触れたくないと思っていた話題を唐突に叩きこまれ、私は内心で盛大に舌打ちをした。関係性を鑑みてもここで痛烈な批判『正直な感想』を言うわけにはいかない。

 

 だがしかし、私からしたらあのロボットの造形には褒められる部分が一切ないのだ。例えこの世にあれを賛美できる言葉があったとして、それを自分が思いつけるとは到底思えなかった。

 

「その、ええと……なんというか……」

 

 ……。

 

 …………。

 

 駄目だ、出てこない。まるで脳があれを褒めるのを拒否しているようだ。

 

「そんなに考え込まなくても大丈夫よ。思ったことをそのまま言ってちょうだい」

 

 だったら罵倒と皮肉しか出てこないぞ。

 

「私が言葉を選ぶ人間なのよ。ちゃんと適切な言葉を探したいから、もう少し時間が欲しいわ」

 

 まあ、いくら時間を貰ったところであれを褒める言葉なんて見つかりはしないだろうが。だが、何も私だけで頭を悩ませなくてもいいのだ。

 

 この場にはもう一人、頼れ――るかは怪しいが、常人とかけ離れた感性を持つ彼女ならなにか思いつくかもしれない。

 

 私は画面に向かってて熱心に『お祈り』をしているメルハに視線を向けた。どちらを応援しているのか大体察せるが、そんな事よりも今は従者として役に立ってもらわないと。こっちの方が大問題だ。

 

「……がんばれ先生!……ファイト先生!……なんとか原作通りに事を……」

 

「メルハはアバンギャルド君をどう感じた?あなたの意見も参考にさせてもらおうじゃない」

 

「えっ、私!?……いや、私程度が口を挟む話題じゃないというか、聞かれたのはお嬢さまというか……」

 

「…………」

 

 役立たずめ!

 

 今こそあの薬物中毒の白いニワトリ――スモモフロンティアのペシャンコ君*2を偏愛する狂ったセンスを活かす場面だろうが。 

 

 投げた球を一瞬で投げ返してきた無能従者を私は内心で呪った。

 

 『感想発表』の機会を譲り合う私達を見て、リオが悲しそうに俯く。

 

「その反応……。貴女たちも薄々気付いていると思うけど、私のデザインはあまり肯定的に評価されたことがないの。機能性と合理性を追求した私のデザインは、受け入れられないらしくて……。やはり、私は間違っているのね」

 

 『機能性』と『合理性』?見るだけで呪われそうなあのデザインが?

 

 色々突っ込みたくなるのをなんとか飲み込みながら、私は笑顔の仮面を張り付けた。『おべっか』を言うのはトリニティでは日常茶飯事だし、当然私も多く経験してきた。だからこそ、ここはプライドをかけてでも賞賛の言葉を捻り出さなければならない。

 

 連邦生徒会の対策室長として、そして協力者として、ここでリオの心が折れて計画ごと止まる事態だけは避けなければ。

 

 一言目が肝心だ。そこさえ乗り切れば、あとは流れでどうにかなるはずである。

 

「アバンギャルド君は――」

 

 ……。

 

 …………。

 

 一秒、二秒と、無情にも時間だけが過ぎていく。

 

 やばい、本当に何も出てこない。

 

 リオの視線が突き刺さる。早く、なんでもいいから言葉を紡がなければ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……。

 

 ――あった。

 

 あの造形を肯定っぽく響かせられる魔法の言葉を、リオはずっと口にしていたじゃないか。

 

「アバンギャルド君は……とってもアバンギャルド前衛的ね」

 

「!!!」

 

「特に……そうね、既存の概念に囚われない……その、アンバランスな所が自由さの表現……を感じたり感じなかったり……吐き気を催……不思議な感覚にさせてくれる感じが……なんとも不思議というか――」

 

 もはや自分がなにを口にしているか分からなくなってきたが、このまま勢いで押し切るしかない。

 

「あとはそうね……既存の美意識を根底から破壊したい憎しみ――じゃなくて、世間の常識に縛られないイカレ――風変りなセンスが良く出ているわ。常人の感性では到底たどり着けない領域だからこそ、選ばれた者にしか理解できない機能美がきっとあるのね。……ああいうのはきっと世界への冒涜――じゃなくて、芸術と呼ぶのでしょうね」

 

「……芸、術?――私が……芸術を!?」

 

 リオの目が大きく見開かれる。随分大げさな驚愕っぷりだが、私なにか変なこと言ったか?……言ってるか。

 

「なんで驚いているのよ。そういうつもりでデザインしたんじゃないの?」

 

「そ、そんな発想はなかったわ。私はただインダストリアルデザイン*3を……。それに芸術とは主観的なもので、そこに客観性の入る隙は……でも、定義が難しいという意味では、誰からも誤りを指摘されない……つまり――そういうことだったのね――私は芸術活動をしていた……」

 

 なにやら一人で結論に到達したらしく、リオは目に見えて高揚していた。

 

 突っ込みたい部分は山ほどあるが、結果として元気になったのだから良しとしよう。少なくとも、先ほどまで『心ある言葉』の集中砲火を浴びて沈んでいた時よりは、ずっと晴れやかな顔をしているのだから。

 

「理解してくれる人がいる。……私は間違っていなかったのね――私には、芸術の素養があった」

 

 ……それはどうだろう?

 

 いや、もう触れない方がいい話題だ。一歩間違えれば、またリオの精神を立て直すために褒め言葉をひねり出す地獄に逆戻りである。

 

 私の語彙はとうに干からびているのだ。これ以上脳に負担をかけたらメルハみたいに『おバカちゃん』になってしまう恐れがあるぞ。

 

 『無表情女』がありえないくらい満面の笑みを浮かべていることに不気味さを感じながら、私は恐る恐るリオに声をかけた。

 

「そろそろ落ち着いてほしいわ、リオ。一応まだ戦闘中よ」

 

「ごめんなさい。これほど感情が動いたのは、初めてで……。まさか貴女がそこまで気に入ってくれるとは思わなかったわ」

 

「え?……ああ……まあ、うん……そうね……」

 

「良ければあの像をプレゼントするわね」

 

 リオが指を指した先にはあの――アバンギャルド君の悍ましい像が鎮座している。

 

は?……いやいやいや、悪いわよあんな大きい物」

 

「遠慮しないで、あの『原初のアバンギャルド君』は何体もあるの」

 

 あんなものが量産されていたらしい。リオが相手でなければ、使われた材料が可哀そうと皮肉を飛ばしているところである。

 

「本当に大丈夫よ。トリニティではあまり受けが良くないでしょうし……」

 

 なんなら正気を疑われるはずだ。自分もリオに対してそうだったのだから。というか、トリニティどころかキヴォトス全土を見渡しても、あれを受け入れられる特殊なセンスのやつなんているのか?

 

「人目に触れないところに飾れば問題ないわ。……私のセンスを『理解』できる、あなたにこそ送りたいの」

 

 いや、全く……そんな言葉を私は飲み込んだ。

 

 どうやら褒め過ぎてしまったらしい。ずっと否定され続けてきた中で、唯一理解者が現れたとでも思っているのか、リオの目は妙に真剣だった。私は受け取りたく無さ過ぎてたまったものじゃないのだが。

 

「寝室とかに置くのがおすすめよ」

 

 どれほどの罪を犯せば毎朝あれを拝む羽目になるのだろう。三日も持たずに救護騎士団に運ばれることが目に見えている。

 

「……うわぁ……あんなに引きつったお嬢さまの顔、初めて見た……何気にリオの絆ストーリーイベントをお嬢さまがやっちゃってるけど……大丈夫なのかな、これ……うう……また原作が……」

 

 リオの好感度と、像への拒絶感と、自分の本音を天秤にかけ――私はひとまずの結論を下す。

 

「そこまで言われて断るのも無粋ね。仕方な――、ありがたく受け取っておくわ」

 

「今回の件が終わればすぐに送るわ、すぐに」

 

「………………楽しみよ」

 

 たぶん人生で一番心の籠っていなかった言葉を吐き捨てると、私は内心で頭を抱えた。

 

 あの腕が四つある黒い像は一体どうすればいいんだ。もちろん彼女の勧めたとおり、自分の寝室に置くのなんてありえない。

 

 流石に捨てるのは気が引けるし、露見した場合のリスクも相当なもの。しかし視界に入るたびに精神を削ってくるような像を近くに置くだなんて絶対に嫌だ。

 

 あれを飾るくらいだったら、モモファイアーのペ・ローストチキン様*4を黒く塗って置いた方がマシ――いや、同じようなものか。デザインのひどさに関しては「目くそ鼻くそ」である。

 

 どうしたものかと考えていた時、不意に脳裏へ赤いプリンとマカロンの悪夢*5が蘇った。

 

 ……罪には罰を。うん、それが筋というものだ。

 

 アバンギャルド君の像はメルハの寝室に置くとしよう。

 

 

 

「……あれ、寒気が……まさか原作崩壊の兆し?……」

 

*1
なお

*2
モモフレンズのペロロ様

*3
機能性を担保しつつ合理的なものを追求していくもの リオの絆ストーリーより

*4
モモフレンズのペロロ様

*5
まぐろプリンとししゃもマカロンのデスソース和え「王女の目覚め」にてリーザが食わされた




アバンギャルド君ファンの方がいたらごめんなさい

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