とりあえずメルハには銃を買い与えることにした。前の銃をどこかで落としていたらしいので、新しい愛銃をということだ。
まあ、市販されている銃よりSRT入学後に支給される物の方が優れているのは確かだから、『暫定』愛銃をというのが正しいか。ところでメルハはなんでずっとそわそわしているんだ。
「あの、お嬢さまって本当にSRTの……?」
「そうは見えない?……ほら、これが校章よ」
私はそう言って彼女に、左を向いたヤギの上に「SPECIAL RESPONSE TEAM」という文字が刻まれた校章をみせた。厳しい訓練を選抜されたメンバーにしか所有が許されない、所属する生徒にとっての『誇り』だ。
「……原作で見たやつ……ああ、やっぱ聞き間違いじゃなかった……今から断れば路地裏生活に逆戻りだし……ていうか雰囲気的に無理……」
なぜか私の校章を見つめて立ち尽くしているが、きっと喜んでいるのだろう。SRT特殊学園はキヴォトス最高のエリート校であり、資金・装備面でもヴァルキューレなんかとは比べ物にならない待遇だ。ここでしか学べない技術もあるし。
「ほら、あの火炎放射器とかどう?」
「いえ、モヒカンになりたくないので」
「え?」
ジョークで勧めた色物を良く分からない返しで捌かれたことに戸惑いながら、あっちこっち歩きまわるメルハを見守る。大型店ではあるけれど、何がそんなに物珍しいのだろう。どんな田舎だって銃器専門店くらいあるはずだけど。
「このアサルトライフルはどう?中々扱いやすいみたいよ、カイザーインダストリー製ね」
「じゃあそれで――あ、ダメです。カイザー製は嫌です。私アンチカイザーコーポレーションなんで」
ダメなのか。弱弱しい態度のメルハにしては強い意志で断られたな。どうもカイザーインダストリーの製品を使いたくないらしい。
たしかに多くの会社を後ろ暗い手段で従え、何回もSRTによって違法行為が摘発されているカイザーコーポレーションは警戒すべき対象ではある。しかし傘下の一つであるカイザーインダストリーが製造している武器の品質自体はそう悪い物ではないのだ。粗悪品しか作れないのならあそこまで大企業にはなっていない。
別にメーカーに拘るのもおかしいことではないが、グループ単位で拒否感を出してたし、過去に何かあったりのかな。
「これにします!……最強候補にあがるホシおじとツルギが使っているし、ゲームでも大抵強い武器……一番高いの選べば問題ないでしょ……」
ふらふらと店を散策した結果、メルハが選んだのはショットガンだった。射程距離の問題で私はあまり好みじゃないが、無難な選択肢ともいえる。近距離に限れば最適という状況も多い、優秀な銃種だ。……でもそれカイザー製じゃないが、近々カイザーに買収される予定と報道されたメーカーなのだが。エンブレムさえ入っていなければいいのか?
「これ高いですけど……いいですかね?」
「構わないわよ、大した値段じゃないし」
若い店員に分割払いですか、とか尋ねられたので背中の羽をバサバサさせると、すぐにバックヤードから店長が現れる。最高品質のメンテナンス用品を全部持ってきて、と指示を出すと店員全員での対応が始まった。棚から小物を取り、工具を揃え、消耗品まで箱に詰める手際は慌ただしい。
買い物が済むと店員全員が出口まで列を作って並び、揃って見送る。店を出る時、メルハは相当縮こまったままだったので、こうした応対は慣れないのが分かる。私としてはここまでお金を使ってやったんだから、当然の対応だと思うけど。
「……へへ、これが私の初銃……毎日ピカピカに磨いてあげるからねぇ……お嬢さまって本当のお嬢様だったんですね……金の使い方とか……見送られ方とか……」
「言ったでしょ、あなたの面倒はすべて見ると。衣食住も武器も揃えてあげる」
「は、はい! ありがとうございます!……やっぱりUR確定……トリニティ出身らしいし里帰りに付き合えば私も行けるよね?……休みの日とかも……あれ、従者とSRTを兼業って休みあるの?……」
「はい、これがあなたの携帯よ、連絡先も登録してある。お金もいくらか渡しておくわ」
「ありがとうございます! ……至れり尽くせりすぎる……もうSRTでもいいかも……愛してますお金さま!――じゃないお嬢さま! 一生ついていきます!」
ついてくるのは当たり前だろ、『従者』なんだから。ところで聞き間違いだろうか、私をとんでもない呼び方していた様な……
「……えへへぇぇ……札束ってここまで厚くなるんだ……へへ、全部でいくらだろ……元気になっちゃう……お札の匂いたまらない……さよなら自販機漁りの日々……」
メルハはお金を受け取ると、しばらく眺めていたが……それに頬ずりしたり匂いを確かめたりし始めた。いくらちょっと前までホームレスだったとはいえ、公共の場でそんな『奇行』はやめてもらいたいのだけど。隣にいる私まで変人だと思われる。
「今日はこれで解散としましょう。何か任務が入らなければ明日も来るわ、あなたの訓練をしないとね」
「はい!」
身体能力は自慢だとか言っていたわりには……うん、彼女が商品なら『優良誤認』で捕まっていたところだ。たしかに運動をしてこなかった素人にしては少し動けるなという印象だ。
だがその程度じゃヴァルキューレでやっていくのにも不足である。不良になめられがちな存在ではあるが、あそこだって犯罪者に後れを足らないように定期的に訓練を行っているのだ。
私が少し『トリニティ流』な手段を使えば、現時点でも入学できなくはないけど……メルハが転入するのはエリートの集うSRT特殊学園なのだ。生半可な実力でやっていけるわけはないし、『裏口』で入ったところで実力が伴わなければ落第の烙印を押され続けることになる。それに私の学園内での風評も消し飛ぶ。
なので厳しい訓練を課すことにした。最初は「こんなの無理」「この訓練を考えたやつはハートマン軍曹」とかよく分からない事を口にしていたが、彼女は私の想像を超える成長速度を見せた。長い時間をかける覚悟もしていたが、この様子ならSRTに転入するのにもそう時間はかからないかもしれない。
でも時折彼女がぼそっ口にする『天性スペック*1』という言葉は言い過ぎだと思う。私がメルハの半分の年齢の頃でも彼女よりはるかに動けていたのだから。まあ高いモチベーションで訓練を行う事は悪い事ではない。……と放置したのがまずかった。メルハは増長してしまったのだ。
「……気が高まる……溢れるぅ……ああ、始まってしまったか、私の転生チート無双が……」
「……メルハ?」
「はい大丈夫です! ここからは私が天に立つので!」
は?天?
「どうしたのよ、急に」
ある日の事、メルハは急に意味不明な事を叫びだした。
最近の彼女はなんというか『お薬』とか強い武器を手にいれたばかりのチンピラ集団みたいな調子の乗り方をしているのだ。私も何度制圧したか数えきれないタイプの。
メルハしかりチンピラしかり、多少力を手に入れただけで人というのは驕り高ぶってしまうのだろうか。そろそろ何とかしないとまずいかもしれない。
「だから決闘です! お嬢さま相手してください!……あんなに鍛えたし、思ったよりも銃が当たるし……お嬢様ってSRTらしいけど別にネームドでもないから、相手になれるでしょ……ここで私の価値を見せつけておくってのもあり……」
正気かこいつ。特殊部隊に所属している人間に、少し前まで素人だったやつが『決闘』?想像よりも症状は進行していたようだ。
「今ならあの時の不良に襲われても余裕で返り討ちにできます。20人に囲まれたって大丈夫な気がしてきました」
ちょっと訓練して多少成長して、少し銃器に囲まれただけでここまで調子に乗るとは。これは早急に対処が必要だな。慢心まみれのSRTなんて、ユキノ先輩あたりが聞いたら即刻『指導』ものだ。早く矯正しないと。
「ええ、いいわよ」
「本気でやってくださいねー、何発かは耐えられると思うんで!……ふふ、お嬢さまを「なんなんだぁ今のは……?」ムーブで理解らせちゃおうっと!……」
「ライフで受けるっ!……え、赤い光――フギャァァァァ!?」
私の放った初弾はメルハの顔面に突き刺さり、彼女はあっけなく吹っ飛んでいく。避けるそぶりすらなかったぞ、一体何を考えているのやら。
個人単位で見るならSRT最強である私の一撃は、熟練のポイントマンだって盾を放り出してまで回避するほどのものだ。そのあたりの説明はした……記憶が無いけれど、それにしたってなぜ棒立ちで受け止めることになるのか。
「EXスキルはずるいですよっ!! 私は使えないのに!!」
気絶から覚めて、私に向かってメルハが放った一言。目覚めたばかりなのに意外と元気だ。ところで聞きなれない単語は造語か何かか?
「EXスキルって何よ」
「必殺技の事です!」
「……?」
分からん、何の話だ?あまりにも堂々としているメルハの態度だが、私の理解が全く追いついていない。
「えっと……お嬢さまの弾、光っていたじゃないですか」
「ええ、そうね」
「だからそれです」
「……?」
全然わからん。さっぽり、これぽっちも。言葉は通じているよな?メルハが単語を羅列するだけで会話できると思い込んでいるチンパンジーに見えてきた。
「ああいうのってどうやるんですかね。ずっと試していたけど、どうしてもできなくて……やっぱり神秘の込め方にコツとかあったり……?」
神秘?を込める……?
「あのねメルハ、人体には不思議パワーなんて宿っていないし、魔法とかは使えないのよ。体のどこを探したって未知の力は湧いてこないの。ここは現実でファンタジーとの区別は付けるべきね、分かった?」
「へ?……アッハイ、ワカリマシタ……」
メルハは釈然としない様子だ。私は何もおかしなこと言ってないだろうが。
「え、じゃあどうやって光らせるんですか?威力も違いますよね?」
「気合よ。光るかどうかは個人差はあるけど、威力は精神状態に左右されるの。強い一撃を望むなら気合を入れなさい」
「お、覚えておきます……そんな感じの認識なんだ……神秘って……ん-じゃあ、お嬢さまのEXスキルって名前無いですよね」
その造語使い続けるんだ。
「私がつけますね!」
「なんでよ」
本当になんでだ。自分の射撃にいちいち必殺技とか言って、名前つけている奴なんていないだろ。私は特殊部隊の人間であって、魔法少女やヒーローショーのキャストじゃないんだぞ。
「ほら、拾ってもらった恩返しをしようにも、私が贈れるものってあんまりないじゃないですか。せめてこういうのはやらせてください!」
……まあ、いいか。メルハが勝手に呼ぶだけなら実害も無いはず。あんまり変なのじゃなければ。
「あの赤い光線にぴったりの名前があるんですよ! もうこれしかないって感じの!!」
「言うだけ言ってみなさい」
「デスビームなんてどうです?」
「却下」
良いわけないだろ。私は正義のSRTなんだぞ。
「あれが食堂よ、入学したときはあまりの不味さに驚いたわね。安物なんて口にしたことなかったから」
「……うわぁ、ナチュラルお嬢さまセリフ……えーと、まあトリニティで貴族みたいな生活していた人が、急にこういう所来たらそうなりますよね」
「あっちは食糧庫よ、銀蠅*2はしないように。ニコ先輩っていう人が結構怒るからね」
「しませんよっ!お嬢さまは私のことを何だと思っているんですか?……いなりずしの人……ようやく原作キャラの名前出てきた……」
私が『誠心誠意』施した訓練のかいあってか、メルハは無事にSRT特殊学園へ入学することができた。もうバカみたいな増長はしないはずだし、身体能力や技術も最低限……スレスレだったが、何でこの人ここにいられるの?みたいな視線は浴びないはずだ。
何より幸いだったのは、転入試験に面接が無かったことだろう。*3会話能力や思考のまともさを見られる試験があったら、メルハは少し危なかったかもしれない。
彼女はちょっと『おバカちゃん』なきらいがある。個人的にはSRTという組織の性質上、生徒の人格はしっかり審査すべきだと思うのだが……まあ、今回は助かったからよしとしよう。
「次は――おや?」
「お嬢さま?……すっごい悪い顔してますけど……あ、生の原作キャラ……」
適当に施設を紹介していると、前から因縁のオトギ先輩とクルミ先輩の二人が歩いてきた。次に紹介するには場所じゃなくて人にするか。メルハもお世話になるだろうし、向こうもこちらに気づいたようだ。それに久しぶりに『挨拶』をしなければ。
「やあリーザ、しばらく見なかったけど、どこに行っていたの?」
「ごきげんよう、オトギ先輩。まるで私が行方不明だったみたいに言わないで。ちゃんと帰ってきていたわ、FOX小隊とは運悪くすれ違っていただけね」
「ふん、どうだか! リーザ、あんたまた悪だくみしてるんじゃないの!」
おっと先手を取られてしまった。さすがは私を教導した先輩だ。
「これはこれは……我らがスター、栄えあるFOX小隊ポイントマンのクルミ先輩がいらっしゃったとは。ごめんなさいね、胸が小さすぎて存在に気付かなかったわ」
私の放った『軽い』ジャブで、顔が一瞬で真っ赤に染まるクルミ先輩。「ポイントマンは冷静さと柔軟さを~」とか普段言っている人とは思えない有様だ。相変わらず沸点が低い様で。
「え、なんで両方ともこんな喧嘩腰なの……?」
「胸に言及すんな! ちゃんと成長しているわよっ!」
「そうかなぁ、変わっていないように見えるけど……」
「うるさいオトギ! ちょっと大きめなブラ買ったけど、最近きつくなってきたんだから間違いないわ!」
うーん、安心感すら覚えるカリカリ具合だ。やはりクルミ先輩はこうでなければ。それに彼女が言っていたことに関してはオトギ先輩の方が……いや、この『地雷』は別の時に使おう。今は畳み掛けなければ。
「クルミ先輩、私に殴られたおなかはもう治ったかしら?どうせまたぶん殴られるんだから、早く治した方が身のためよ?」
「はぁ!? リーザの攻撃なんて全然効いていないけど!?」
「一撃でダウンした人の言葉とは思えないわね」
「ふん、あんただって私たちにしこたま撃たれて泣きわめていたじゃない!」
は?泣いた覚えなんて無いんだが?
「オトギ先輩の狙撃は効いたけど、クルミ先輩のはまるで豆鉄砲だったけど?ちゃんと整備しているの?それとも間違えておもちゃの銃を振り回していたの?」
「上等よ!今からおもちゃか本物か教えてあげるわ!」
「まあまあ二人とも……相変わらず仲いいのは分かったから」
「誰がよっ!」「誤解では?」
仲裁してきたオトギ先輩の勘違いは心外だ。私はこの生意気な先輩に『教導』してあげているだけなのに。
こんな関係になったのは、入学時にポイントマンを志望した私がクルミ先輩の指導を受けるために初めて邂逅したときからだ。正確に言えば、彼女が「小さいわね、こんなんでポイントマンが務まるの?」*4と言い放ったその瞬間からである。
戦いのゴングを鳴らしたのはクルミ先輩の方で、優しい私が今の今までずっとそれに付き合って『あげている』のだ。
「オトギ協力して! 今日こそリーザに先輩の偉大さを教育するわよ!」
「二人じゃ無理だよクルミ……それよりもほら、リーザちゃんの後ろにいるのは誰かな?」
小隊結成前からの友達同士で組んでいるFOX小隊の中でも、この二人は特によく絡んでいる印象だ。そんな親友と言える間柄でも、私との無謀な戦いに巻き込まれるのは嫌なようでオトギ先輩が器用に話題を逸らした。……まあ、正解だぞ。この二人だけが相手なら私は負ける気がしない。
「リーザ、どうしたのよそいつ?この時期じゃ新入生じゃないわよね……あんたまさか民間人を連れ込んだの!?」
「拾ったの。ほら、自己紹介しなさい」
ようやく自分にスポットライトが当てられたメルハがおどおどしながら前に出る。緊張しているのか?……彼女の自尊心を少し減らし過ぎたのかもしれない。増長モードのメルハ成分をもう少し残しておくべきだったか。
「はい! わ、私は――」
「拾った!? ダメでしょ、さっさと拾ったところに戻してきて!」
「分かったわ」
「へ!?」