SRTの生徒が転生者を拾う話   作:メリル´

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やりたいこと

 

「当ててみろよ」

 

「何を……?」

 

 

 ある昼下がりのこと、屋外訓練場で合同訓練をしている最中、メルハが突然そんなことを言い出した。主語がないせいで、要領を得ないにもほどがある。

 

 何をどう当てろというのか。唐突にクイズ大会でも始めたいのか?それとも狙撃手になったから腕を披露したいのか?……でもそれなら『当ててみせる』だよな。まさか銃弾を超音速でぶち込んで欲しいわけじゃないだろうし。

 

 しかもわざわざ私の前まで歩いてきて、したり顔をこれでもかと見せつけてくるサービス付きだ。ちょっとウザいぞ。

 

 

 SRTに来てそれなりの時間が経ったメルハは、もうすっかり輪の中に溶け込んでいる。最初はオトギ先輩に連れられて集団の中に入っていたのに、今では自分から交友関係を広げるくらいだ。

 主人である私に対してもいい意味でも悪い意味でも遠慮が無くなってきている。逆に私もメルハのことを理解してきていると思っていたのだが……うん、私の勘違いだったらしい。

 

「いきなりどうしたの、メルハ。意味が分からないわよ?」

 

「当ててみろよ」

 

 会話する気あるのかこいつ。メルハの「何で分からないのかなー?」みたいな視線と動作もムカついてきた。

 

「…………ニコ先輩、それ貸して」

 

「え?リーゼちゃん、これはマズいんじゃ……」

 

 私はニコ先輩から無理やり借り受けた爆薬――SRT採用の高性能プラスチック爆弾をメルハの顔面に張り付けた。訓練用のダミーではあるが、用途だけに偽物であっても威力はそこそこある。

 

「え、お嬢さま……?」

 

「ブリーチング*1の講義はまだよね?このセムテックス*2の威力を『実演』してみせてあげるわ。あなたでね!

 

「ちょちょちょ待ってくださいよ! 殺す気ですか!」

 

「あら、ようやく『当ててみろよ』以外の言葉を取り戻したのね?おめでとう、祝いの花火を目の前で見せてあげるわ」

 

「近すぎて見えませんけど!?」

 

「リーザちゃんもメルハちゃんも落ち着いて……ほら、皆こっち見ているから、ね?」

 

 ニコ先輩のとりなしもあって、メルハは『実演』体験をせずに済んだ。それにあんなもので別に死んだりしないだろ。チーム戦の時なんて乱戦の中、何回かニコ先輩に至近距離で爆破されたぞ。痛かったけど別に死ぬなんて思うほどじゃない。

 

 

「ほら以前、お嬢さまのEXスキルを受けたことあるじゃないですか」

 

「その造語やめなさいよ、知らない人が話に付いてこれないでしょ」

 

 案の定、ニコ先輩が戸惑っているじゃないか。さも知っていて当たり前の知識な様に話を進めるんじゃない。

 

「えーと、そのいーえっくすスキルって何かな?」

 

「お嬢さまの赤く光るやつです!」

 

「あー、リーザちゃんのあれか」

 

 それで伝わるんだ。『小隊のお母さん』は『おバカちゃん』の話を理解できるらしい。私は一回じゃ分からなかったぞ。

 

「お嬢さまってSRT最強と噂されるぐらいにはめちゃつよじゃないですか。でもそのことを知らなかった増長した頃の私は一回顔面で受けたことあるんですよ」

 

「…………メルハちゃん、良く生きてたね」

 

「え、あれって生死に関わるくらい危険な行為だったんですか!?……そんな攻撃を躊躇なく人に向けられるお嬢さまって……

 

「あの時は別に本気で撃ってないわよ。メルハはまだ民間人に片足突っ込んでいる様なもんだったしね」

 

……あれ以上あるんだ……あの時お嬢さまは疑ったんじゃないですか、メルハは馬鹿なのだと」

 

 疑ったのは正気だ。ここからは私が天に立つとか言い始めたあたりで。それにあの時には既に馬鹿ではあると思っていたし、今はもっと強く確信している。キヴォトス中探し回わっても自分を撃ってくれと叫ぶ馬鹿はこいつくらいだ。

 

「振り返れば確かにあれは愚かな行いでした……ですが今ではSRTで数多な訓練を乗り越え! 私はスーパーメルハに覚醒しました! もう弱い私はどこにもいません。そこでおぼろげながら浮かんできたんです……リベンジしたいな、と」

 

「その程度のぼんやりとした思いなら仕舞っておきなさいよ」

 

 『おぼろげながらに浮かんだ』程度なら、そのうち消えるだろ。

 

「メルハちゃん、私もやめた方がいいと思うけど……」

 

「止めないでくださいニコ先輩。女にはどうしてもやらないといけない時があるんです!」

 

「それって今かな……?」

 

 後輩を痛い目に遭わせたくない、お優しいニコ先輩がやんわり止めているが……メルハの決意は無駄に硬いようだった。狙撃手に転科したのなら、耐久力じゃなくて命中率とか連射速度とか装填速度とかそういうのを重視するべきだと思うけど。

 

 ニコ先輩がこちらにしょうがないから付き合ってあげてみたいな視線を向けてきた。説得するのを諦めたらしい。先輩なんだからもう少し何とかして欲しかったぞ。

 

「お嬢さま! あの時と同じくらいで、私がぎりぎり耐えられて、自信を持てるようになる絶妙な塩梅のデスビームをお願いします!」

 

「え、デス……?あれ、そんな呼び方しているの?」

 

「それやめなさいメルハ、広まったらどうしてくれるの?あとそんな細かい調整ができないわよ」

 

「……ふふ、今度こそお嬢さまを「今、何かしたか?」ムーブで理解わからせちゃおうっと!……」

 

 メルハはまた私の前まで歩いてきて、先ほどと同じようにしたり顔をこちらに向けてきた。

 

「当ててみろよ」

 

 そこからやるんだ……彼女にとっては大事な儀式なのか?

 

 

 

 

星は壊せても――フギャァァァァ!?

 

 私の放った赤い閃光はメルハの顔面に突き刺さり、いつかと同じように彼女はあっけなく吹っ飛んでいく。手で守ったり、何かで顔をガードしたりすることができるのにも関わらずにだ。

 うーん、愚かという単語が良く分かる光景じゃないか。失敗から何も学ばすに、同じ失敗を繰り返すところがだ。

 

「……えっと、メルハちゃん無事かな?」

 

「たぶん大丈夫よ、あれで頑丈な方みたいだし。まあニコ先輩が頭の出来の方を言っているのなら、とっくに手遅れだと思うけど」

 

「…………あはは」

 

 そうだね、と言わないのは優しさからか。そんなニコ先輩の曖昧な笑みを尻目に、私は気絶したメルハを持ち上げた。

 

「最近厳しい訓練が多かったし、それであんな『奇行』を始めたのかもしれないわね。今日はもうこのスーパーメルハ様を休ませるわ」

 

「うん、それがいいよ。明日はせっかくのレクリエーションの日なんだから、今日はしっかり体を休めないと。もちろんリーザちゃんもだよ?」

 

「お気遣いは嬉しいけど、私はあの『配役』だからね。人形でも代用できるでしょ、あの役……」

 

「まあ、みんなの投票で決まったことだから……」

 

「クルミ先輩が嬉々として票を集めていたのが目に浮かぶわ。……ニコ先輩も私に投票したの?」

 

「…………あはは」

 

 再びの曖昧な笑み。これは投票したやつだな。大方小隊のよしみで断れなかったのだろう。

 

「一回やったら交代できるから……」

 

「希望者がいれば、でしょ。SRTであの配役を希望する人はあんまりいないと思うけどね」

 

「まあ、もしそうなったら私が代わってあげるよリーザちゃん」

 

 あまりうれしそうじゃない私を見かねてか、ニコ先輩がそんな提案をしてくる。こういうところが『小隊のお母さん』と呼ばれる所以だろう。

 ちなみにこんな人でも一度ふざけたメルハに『バブゥー』された時は結構本気で引いていた。『本物のお母さん』と『小隊のお母さん』には天と地ほどの差があるのが良く分かる光景だったな。

 

「結構よ。ニコ先輩にあの役は似合わないと思うし、なったら微妙な雰囲気になると思うから」

 

「……一応、光栄なことなのかな?」

 

「SRTとしてはそれで合っていると思うわ」

 

 

 

 

 

 気絶したメルハを休ませるために、彼女の部屋に入る。私物多いな、こいつ。ごちゃごちゃしている部屋は散財癖が容易に想像できる。ちゃんと貯金とかしているのだろうか。人形にゲームに、各地のパンフレット……これはキャラクターグッズか?

 

 特にキモさを極限まで練り上げた謎のマスコットのが多いな。5年くらい薬中毒にして、9回くらいダンプカーに轢かれたニワトリを膨らませればこんな造形になるのだろうか。

 全身のどこを見てもキモいのだが、特に口からはみ出た舌とどう見ても正気じゃない目は生命への冒涜だと言っても差し支えない。確か名前は……アップルフレンズのペペぺ大王とかだったはず。名前も可愛くない。

 

 このマスコットと呼ぶにはおこがましいマスコットを通して、仲良くなりたい人がいるとメルハは言ってたっけ。でもSRT特殊学園にこんなのが趣味なやつはいなかったような……所属している生徒の『裏でこっそり』な趣味まで私は把握しているはずなんだけど。

 

 メルハをベットに安置すると、ふわりと力が抜けたように身体が沈み、すぐに落ち着いた寝息を立て始めた。

 

 

「うーん、うーん……オトギ先輩……それ以上もう入らないから勘弁して……」

 

 ……訓練中の夢でも見ているのか?そういえばオトギ先輩はメルハは反射神経がいいとか言っていたっけ。狙撃距離は並程度だけど、高速で動く目標にも上手く当てられるとか。メルハの才能を見出した先輩には、主としてお礼を贈るべきだな。

 

 

「うーん、うーん、お嬢さま……ゲーム付き合って」

 

 ……そういえば以前誘われたことがあったっけ。でも作戦があるからと断ったはず。私はゲームを嗜まない人生を送ってきたから、少し忌避感もあるんだよな。……興味が無いわけじゃないけど。

 寝言で言うくらいだし、メルハにとっては大事なことかもしれない。今度誘われたら付き合ってやるか。……従者の小さな『願望』を叶えるのも主の役目だろう。

 

 

 

「足を揉んで……あと一日だけ立場入れ替えて……私に奉仕して……」

 

「おい」

 

「お嬢さまって小さいですよね~」

 

「…………」

 

 カチャリと金属が嚙み合う小さな音が鮮明に響く。……もちろん私の銃からだ。無意識に銃の安全装置を外していたらしい。

 

「――殺気ッ!……あれ、お嬢さま?……ていうか私の部屋……」

 

 耳の近くでなった不穏な音に、弾かれるようにしてメルハが身を起こす。SRTでの訓練の日々を感じさせる動きだった。

 

 私は時計へ視線を向けた。針はまだ夜にしては早すぎる位置を指している。今日はもう訓練を休ませると言ってあるし、そもそも戻るのにも微妙な時間だ。思わずできた空白はどうしようか……せっかく時間があるし、従者の『願望』に付き合ってやるか。

 

「まだデスビームは無理だったか……〇空エミュやりながらならいけると思ったんだけど……」

 

「メルハ」

 

「は、はい! 何でしょうかお嬢さま……ゲームのコントローラーが気になるんですか?」

 

「……ゲーム、やりたいんでしょう?寝言で言っていたわよ。就寝時間前まで付き合ってあげるわ」

 

「え、寝言?……よ、余計なこと言っちゃってないよね?……原作知識とか……

 

「……やらないの?やっぱり休んだままがいい?」

 

「やりますやります!……お嬢さま、たまにそういう反則級の優しさ出すのズルい……ゲームやったことないって言ってましたよね?私が色々教えてあげますよ!」

 

「あまり操作が複雑なのはごめんよ?」

 

「大丈夫です、初心者でも楽しめるとっておきのを出しますから!」

 

 メルハが棚をひっくり返すようにゲームを探し回っていると、一つのソフトが床に転がった。英文字で『TSC』とある。何の略だろうか?

 

「落ちたわよメルハ。何かの縁だしこれをやる?」

 

「あ、それとんでもないクソゲーですよ。プロトタイプなんですけど、すでに評判がえぐいことなってますね」

 

「……何で買ったのよ」

 

「んー記念?……自分でやってみてもまあ酷評されるだけはあるって分かりましたね…………あ、ありました! これやりましょうお嬢さま!」

 

 

 

「ちょっとメルハ、肩をぶつけないで」

「いや、お嬢様がこっちにもたれ掛かってきてるんですよ! カーブ曲がるときの初心者あるあるのやつ!」

 

「あ、あんた今私に甲羅をぶつけたわね……穴に落ちたんだけど! 場外乱闘をお望みかしら?」

「これそういうゲームですから!」

 

「このままじゃ私の順位が……ちょっと待ちなさい! 今のバナナはメルハよね!? あなた主の前にバナナの皮なんて生ごみを捨てていったの!?」

「ゲームの中じゃ主だの従者だのは関係ありませんよっ! くらえっ――ってあれぇ!?」

「ふん、これを使えば無敵になれるんでしょ?何回かやったら覚えたわ」

 

「今回は私の勝ちのようね。もうアイテム出る箱もないし、挽回は無理でしょ」

「成長しましたねお嬢さま……ですがまだまだ甘い! アイテムがなくとも重量級キャラは軽いキャラを吹っ飛ばせるのさ!」

「は?……ちょっ――メルハぁぁぁ!!」

 

 異質で奇妙なキャラクター達が、安全基準なんて概念がまるで考えられていない車に乗ってレースをするゲームだった。

 

 メルハは最初「遊んでいけば慣れますから~」とか言っていたが、これある程度アイテムの仕様を理解していないとNPCにすら一方的にやられるのではないだろうか。というか私が良く分かっていないのをいいことに、メルハは『初心者狩り』を楽しんでいた節がある。

 

 バナナの皮で滑るのと甲羅ぶつけたら横転するのはまだ理解できるが、キノコで加速するのとかはどういう原理なんだ。星を使ったら無敵になれるのは結構好みだったな。……なんで虹色に光って軽快な音楽が鳴りだすのか良く分からないけど。あと順位が低くならないと出てきてくれないっぽい。

 

「どうです、ゲームは楽しいでしょう?」

 

「まあ、悪くは無いわね」

 

「ふふふ、お楽しみいただけて何よりです! もう1レース行きますか?」

 

「……そろそろやめましょう、就寝時間が迫っているわ」

 

 私が時計を指すとメルハもそれにつられたように顔を向ける。

 

「あ、本当だいつの間に……他人とやるとやっぱり時間忘れちゃいますね」

 

「明日はレクリエーションでしょう?夜更かしなんてしないでしっかり寝なさいよ」

 

「あーそうでしたね」

 

「私も日課を済ませたら寝るとするわ」

 

 私にはとある崇高な理由で行っている日課がある。人として上に伸びるためにも一日たりとも欠かせない重要なものだ。他人に見られないよう必ず周囲に誰もいないことを確認してから行っている。ここまでやっているんだからそろそろ『成果』が出てもいい頃だと思うんだけど。

 

「日課?……ああ、いつものバンザイ体操か……意外な趣味だよね……セレブは寝る前に体操するものなのかな?……」

 

「じゃあもう行くから」

 

「おやすみなさいです、お嬢さま!」

 

「おやすみ、メルハ」

 

*1
特殊部隊がドア・窓・壁などを破壊して建物や閉鎖空間に強制的に侵入する技術

*2
カルバノグの兎後編でモエがドアをこじ開けるために使ったやつ

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