SRTの生徒が転生者を拾う話   作:メリル´

6 / 23
悪役レクリエーション

 

「お嬢さまって昔から小さい怪獣だったんですか?」

 

「いきなり何よ?」

 

 わりと楽しめたレースゲームをした次の日、メルハはそんな事を言ってきた。怪獣というなら昨日メルハが使っていたキャラなどがそう呼称されるはずだけど。あの重量級キャラで相手吹っ飛ばせるのは楽しそうだったから、今度使ってみるか。私の使っていたキノコ頭はそんなにパワー無かったし。

 

「いやー、同級生がそんな話をしていたの聞いちゃって。私もなんでそんなに力持ちなのかなーって、昔からですか?」

 

「……まあ、そうだけど」

 

「フィジカルギフテッドってやつですか?お嬢様は特殊個体なんですね!」

 

「そこまで大仰なものじゃないわよ。よく遊んでいた幼馴染に同じくらい力持ちのやつもいたしね。そのせいでもう一人がとんでもない虚弱体質だとずっと思っていたわ」

 

「へーお嬢さまにも幼馴染が…………お嬢さま、ピンクゴリラ、歩く戦略兵器、救護騎士団団長、シスフのヒナタ……トリニティってゴリラ多産地帯なの?……

 

 あの『弱い』幼馴染、桐藤ナギサはハンドガンに撃たれた程度で痛がるし、転んだら膝を擦りむいたりするのだ。私と『同じくらい』の幼馴染、聖園ミカはそんな事なかったし、私達はずっとナギサが虚弱体質だと思っていた。ミカか私がナギサにぶつかれば、レースゲームの怪獣とキノコ頭がぶつかるのと同じように吹っ飛んだし。

 

 私たちの遊びについていけないことにムキになって、ますます無茶を重ねたりするからつい心配してしまうのだ。流石に今ではあの子の方が普通……よりちょっと下ぐらいで、私とミカの方が『特異』なのは分かっている。

 

「いつか紹介してくださいね!」

 

「まあ、機会があればそのうちね」

 

 トリニティに行く機会なんて早々無いだろうけど。SRT特殊学園はあんまり休日が無いのだ。

 

「そういえばお嬢さまって友達と幼い頃はどんな事をしていたんですか?やっぱりセレブらしく貧民街に出て人間狩りを?

 

 そんなわけないだろ。メルハの中で上流階級はどんなイメージなんだ。そんな事すればどんな金持ちだろうと、企業の重役だろうと即牢獄にぶち込まれるのは決まっている。

 

「あなたは私を何だと思っているのよ」

 

「流石に冗談ですよ。でもお嬢さまが昔どんな風に遊んでいたか気になっちゃって。まだレクリエーションも始まりませんし、時間あるじゃないですか!」

 

「……3人でごっこ遊びとかよ。みんな姫様役をやりたがったわね」

 

「へー、案外普通なんですね」

 

「人間狩りに比べればね」

 

 どこまで治安と倫理観が崩壊すればそんな発想が生まれるんだ。ほんのちょっぴり『邪悪寄り』の自覚ある私だって、考えもしない事だぞ。

 

「お嬢さまもお姫様役が良かったんですか?なんか意外ですね」

 

「そうかしら。みんな憧れるものでしょう?……まあ、私は大抵その役を得られなかったけどね」

 

 大人気だった姫様役は特にあの自分を中心に世界が回っていると本気で思っていた『わがままピンク』が「これは私の役!」と声を上げていたが……うん、結局はナギサがいつもちゃっかり『獲得』していたな。

 まずナギサはミカと組んで口で対抗できる可能性のある私を多数決の論理で悪役に押し込み、リーザと戦えるのはミカだけだといって、騎士役を押し付けていた。当然ナギサ本人は残ったお姫様役だ。

 

 もっともナギサがいつもおいしい思いをしていたかというと、そうでもなかったけど。私とミカが戦いに熱中しだしたら、ナギサは大抵巻き込まれて一番ひどい目に遭うのだ。吹っ飛ばされたり、泥まみれになったり、ケガをしたり……ちゃんと守れよ騎士役。

 

 まあこれは『配役』をミスしたナギサの自業自得でもあるか。あのわがままピンクが他人の護衛なんてできるわけないのだ。でもナギサが姫様以外をやって私達のどちらかと戦う羽目になったらどのみち同じ運命か。一番状況を掌握しているように見えても、結局一番悲惨な目に遭ってしまう幼馴染の事を考えると……やはりこの世は力が全てかもしれない。

 

 

「私はいつも悪役ばっかりだったわ。魔女だったり、竜だったり、怪物だったり……まあとりあえず色々よ」

 

「お嬢さまを押しのけるなんて……すっごいわがままな子でもいました?」

 

「わがままな子を利用するのがうまい幼馴染がいたのよ。その『やり手』がいつも配役の主導権を握っていたわ」

 

「でも姫役はその子が持っていくとして……お嬢さまなら悪役以外を狙えたのでは?」

 

「わがままな子は天真爛漫だったからね、悪役は似合わない子だったわ」

 

 純粋で他人に悪意を振りまくようなタイプじゃないのだ、ミカは。*1私たち三人を気質で悪役に振り分けるなら、真っ先に除外されるのはミカだろう。

 

「へー……聖園ミカみたいな子だな……

 

「私はほんのちょっぴり過激な面があるし、悪役にされるのは仕方ないかもね」

 

「ほんのちょっぴり……?」

 

 逃げるナギサをわざと巻き込むようミカを誘導したり、ナギサ姫を人質に騎士ミカに何でも言うこと聞かせてみたり、姫と騎士が争うように仕向けてみたり……懐かしい日々だ。キレたナギサがロールケーキを振り回す姿が特に好きだったのだが、まあ流石にもうやってくれないか。

 

 そういえば来年あの二人が派閥の頂点――つまりトリニティの生徒会長になるとか言ってたっけ。モモトークのグループにそんな報告が上がってきていた。

 ナギサには「おめでとう」と返し、ミカの方には「エイプリルフールにはまだ早いし、すぐバレる大嘘をつくのはやめなさい」と返した。ミカからはすぐに「本当だよ!!」と返事が来たが、信じられないのでナギサに連絡を取ったら本当に真実だったのは驚いた。

 

 ナギサがフィリウス分派の頂点に立つのはなんも不思議じゃない。家柄も申し分なく、権謀術数に長け、年齢を重ねるごとに『おてんば』も鳴りを潜めた彼女なら、トリニティの生徒会長として十分やっていけるだろう。

 

 しかし問題はミカだ。人々に見せている姿ほど単純で何も考えていないわけではないが、それでも生徒会長として務まるのかどうか不安が残る。悪辣さが足りないし、政治なんて性に合うタイプじゃない。家柄だけでパテル分派の頂点に?「私もナギちゃんと同じがいいー☆」とか言って、候補者全員殴り飛ばしたんじゃないだろうな。

 

 まあ、フィリウス分派とパテル分派の頂点が幼馴染同士なんだ、来年のトリニティ総合学園は今年よりも平和になるだろう。派閥のトップ同士が仲良くしているなら、水面下での足の引っ張り合いは多少あっても、表立って事を荒立てられる者はいない。もう一つのサンクトゥス分派の代表も穏やかな人物であれば文句なしだな。

 

 

 

「あ、お嬢さまそろそろ始まるみたいですよ」

 

『ごっこ遊び』をしていた頃から、未来のトリニティまで思考を伸ばしていたら、通信が届いた。どうやらレクリエーションがもうすぐ始まるらしい。準備にも手を出せないって本当に暇だったな。やっぱり人間がやる必要なんてないんじゃないか、この役。

 

「……まさかまた『悪役』をやらされるとはね」

 

「まあまあ、お嬢さまならうまく演じられますよ。みんなそう思ったから投票したのでは?」

 

「クルミ先輩が嬉々として票を集めたからでしょ」

 

 今日のレクリエーションは、三つの進入路と三階建ての迷路みたいな構造でお馴染みの『SRT屋内戦訓練場』で行われる。内容は悪事がバレて逃亡した悪人を捕まえるというありきたりなものだ。逃げ込んだ先は武装された建物で、いくつかのSRT小隊が連携して攻略することになっている。

 

 そしてその『悪役』に選ばれたのが私。なんでもドリンクメーカーの経営者で、連邦生徒会に賄賂をバラまいていちごミルクをキヴォトスから排除しようとしたらしい。……この辺の『設定』、要らなくないか?

 しかも悪人は戦闘能力が無いと決められているらしく、本人がいる部屋に踏み込まれたら時点で負けなのだ。つまり私はどの小隊かが部屋に入ってくるまで監視カメラを眺めているしかないのである。どう考えても人が演じる必要が無い、人形でも転がしておけばいいだろ。

 

 ちなみにメルハは超敏腕秘書という事になっている。公私ともに覇道を支え、そして悲しい過去があって変わってしまった主人を元に戻そうと心の奥底で願っているとかなんとか。……一体何があったらその主人はキヴォトスからいちごミルクを消そうと考えだすんだよ。

 そしてもうこれ以上罪を重ねてほしくないと主人の居場所をリークしたのがこの秘書という『裏設定』も用意されている。絶対この辺まで細かく決める必要なんて無い。

 

 

 この状況に辟易していると、扉から私の護衛という事になっているFOX小隊の面々が入ってきた。罠の設置を終えたらしい。その中で誰よりもニッコニコになっているクルミ先輩が話しかけてきた。この状況が楽しくて仕方ない様子だ。 

 

「あら、リーザ。悪役を楽しんでいるかしら~?」

 

 開口一番に皮肉。いつもの反撃が出来てご満悦らしい。

 

「ええ、クルミ先輩。FOX小隊を顎でこき使える立場になれて光栄よ」

 

「ふふん、いつもの切れ味が無――ちょっと待って、あんたに手に持っているそれは?」

 

 笑顔から一転して引きつった顔でクルミ先輩が尋ねてきた。彼女が言っているのは私が手に持っている『小道具』についてか。別に不思議じゃないだろ。クーラーなんて気の利いたものは訓練場にあるはずもないので、自分で扇いで風を作るしかないのだ。

 

「現実味がでるでしょ」

 

「ですぎよ! あんた現金をうちわ代わりにするなんて、ドラマの中でも今日日見ないわよ!」

 

「お、結構ノリノリだった?」

 

「まさか。オトギ先輩、私は嫌々やっているのよ?」

 

「そうは見えないよ、リーザちゃん……」

 

「もし次ニコ先輩がこの役やるなら、この小道具使っていいわよ」

 

「え、遠慮しとくね……」

 

 

 FOX小隊とのミニ歓談タイムを楽しんでいると、ふと外が騒がしくなる。あとはユキノ先輩が合図を出すだけでレクリエーションが始まるはずなんだけど。何かあったのか?私は監視カメラを操作して外の様子を映し出した。

 

「出てこーい!」「いちごミルクは不滅だぁー!」「ネタは上がってんだよ、この邪悪お金持ち!」「怪獣!」「ちっとは力加減覚えろー!」「サディスト!」「何が温室育ちの心優しいお嬢さまだ!騙しやがって!」「鬼ー!悪魔ー!本当はゲヘナ出身!」「トリカス!トリカス!」

 

 音に聞くレッドウィンターのデモのように声を張り上げていたのは、これから私を捕まえに来る小隊たちだった。……おかしいな、突入作戦のはずなんだけど。なんで侵入前からあんなに大声を上げているのか。あといくつかは『設定』から乖離して私個人への罵倒に聞こえる。

 

「……捕縛対象を挑発するパートがあるなんて聞いていないんだけど?」

 

「お嬢さまって人気者なんですね……えっと、色んな意味で」

 

「私に嫉妬するのは仕方がない事、ああいう粗野な『下々』の声を聞き流すのも上流の務めね」

 

 

「「「「――っすぞごらぁぁぁー!」」」」「誰が下々だ!」「降りてこい!」

 

 おっと『手が滑って』スピーカーのスイッチをいれていたらしい。外にいる面々にも聞こえちゃっていたか。……それにしてもチンピラみたいな口調だ。みんな興奮しすぎでは?ついでに注意しておくとしよう。

 

「あら、不思議ね。SRTの生徒からは聞こえるはずのない、下品な言葉遣いが聞こえるのだけど……そんなんじゃ市民の皆様を怖がらせてしまうわ。SRTとしての自覚が足りないんじゃない?向こうのため池で頭を冷やしてきたら?……今の時期は虫がたくさん湧いているけどね」

 

「「「●……■△◇……×ッ゛……×▯※……●▼◆ッッ!」」」

 

 うーん、不思議だ。落ち着けと言ったのにまさかあんなにヒートアップするとは。怒り過ぎて言語能力すら喪失したようだ。あんなんで特殊部隊らしく冷静に行動できるのか?『追撃』を放とうとしたら、ニコ先輩が横から声をかけてきた。

 

「リ、リーザちゃん……悪役嫌がってなかったっけ?」

 

「ええ、私には似合わない役でしょう?うまく演じる自信が無いわ……」

 

「演じるどころか素の部分で十分過ぎませんか、お嬢さま?」

 

「…………あはは」

 

 最近よく見る気がするニコ先輩の曖昧な笑み。私の『悪役っぷり』は少し過激すぎたらしい。責めるならクルミ先輩を責めてくれ。私を『悪役』にした立役者は彼女だ。あとは私に投票した校友たちも。

 

 

「もう禁句解放するぞ!」「「「おう!」」」

 

 ……ん?

 

「羽根付きチビゴリラ!」「チビチビチビチビ!」「ミニマリスト!」「ちいかわ!」「こども料金!」「12歳以下無料サービス!」

 

「……は?」

 

 さすがは校友たち、私が何を言われたらキレるか理解しているらしい。

 

「えっと、リーザちゃん落ち着いて……」

 

「もちろん大丈夫よ、ニコ先輩。だって今大丈夫って口にしたからね。向こうは大丈夫じゃなくなるでしょうけどね!」

 

「……手遅れだったみたい」

 

 ニコ先輩が何を危惧しているか全然分からないけど、私は最高に落ち着いている。ナギサしかり、クルミ先輩しかり、校友たちしかり……『配役』を間違えたらどうなるか教えてやろう。

 

「今からサプライズイベント! みんなのあんな秘密やこんな秘密を大発表していくわ!」

 

「「「!?」」」

 

 

「まずは一番前に立っている小隊長ね。ご存じ彼女はとっても強気な性格で、ガンガンチームを引っ張っていくタイプなのだけど……彼女には素敵な女の子らしい秘密があるのよ」

 

 そこまで言うと『強気な小隊長』あからさまに動揺し始めるのが分かった。今の小隊でいつかFOX小隊みたいに私を撃破することを目標にしているらしいけど、今の彼女にはその挑戦的な態度はまるで見受けられない。

 

「なんかリーザがあんなこと言っているけど?」

「勝気な隊長に女の子らしい秘密なんかないでしょ。いつも全部晒してやるぜ、みたいな感じだし」

「ああ、もちろんだ……うん……」

「……小隊長?なんか震えてない?」

 

「実は彼女大量のゴスロリを隠し持っているわ。恥ずかしいからみんなに見せられないけど、貴重な休日にこっそり着て外出してるわね」

 

「……え、あんたまじで?」

「ち、ちげぇ! そんなわけねーだろ!! リーザのでたらめだ!」

「そういや小隊長ってクローゼットの中、絶対に他人に見せないよね……」

「あ、あれは……惑わされるな、攪乱作戦だ! あたしを信じろ! ずっとチームを引っ張ってきたあたしの言葉を――」  

 

「あ、いまモモトークの全体グループに写真アップしたから。なかなか似合っていると思うわよ?みんな見てねー☆」

 

「ああああああああああああ!」

 

 一人撃破っと。彼女のチームでの立場も考えるなら人数以上の成果かもしれないな。

 そんなにゴスロリが好きなら堂々と着ればいいのに、彼女は自分のイメージを気にしてか隠していたのだ。私はそれに心が痛んで、彼女が誰に憚ることなく趣味を楽しめるよう『手伝って』あげただけである。

 

 

「次は右にいる小隊の狙撃手にしましょうか。ここにいるSRT生なら知っているわよね?最近凄く頑張ったおかけで、小隊の要になった狙撃手のことを。私も校友の努力が実を結んだのは喜ばしいわ」

 

 今度は連携を重視している右のチームを狙うとしよう。あの小隊は少し前まで丸い印象があった狙撃手がメキメキ腕を上げ、彼女を中心とした連携戦術を得意としている。

 その肝心の本人は私に目を付けられたと察したみたいで挙動不審になっているが。心当たりがある証拠だな。

 

「あっあっあっあっあ」

「どうしたの?私たちはあなたがどんな服を着ていても気にしないよ?」

「あんなに一緒に頑張ってきたんだもん、何を言われても私たちはチームだよ!」

 

「その子が頑張っていた理由はダイエットらしいわね。ところでどこかの小隊に支給されたプリンが一箱まるごと消えた事件が最近あったのだけれど……これって偶然かしら?」

 

「…………あれは事故だったの。でもみんな私のちょっとした間違い、許してくれるよね?」

「どう間違えたら段ボール箱全部いくんだよ!」

「プリンは許されないぞてめー!」

「ゆるじてぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 よし、これであの小隊の連携も崩壊しただろう。ついでに『プリン箱ごと消失事件』も解決だな。一番大食いの狙撃手が絶望的な顔をしたのを気にして、他の小隊メンバーが必死に捜査していたのを覚えている。まあ、あの顔はついやっちまったって*2事だったみたいだが。

 

 

あ、悪魔たんお嬢さま……」

 

「各チームの中心人物を的確に狙っているねぇ」

 

「これ収拾つくのかな……」

 

「こんなの悪役どころか本物の悪の行いじゃない!」

 

 メルハに先輩たちがドン引きしている様だが、まだまだやり足らないぞ。特にクルミ先輩は私にこの『配役』を押し付けたんだから、もう少し付き合ってもらおう。『地雷*3』の使い時はここだな。

 

「じゃあ次は我らがFOX小隊のポイントマン、FOX3クルミ先輩の話をしましょう」

 

「なんで私なのよ!」

 

「落ち着いてクルミ先輩。今回は先輩の秘密を話すわけじゃないから。それは別の時に使うわよ」

 

「まあ、それなら……って別に秘密なんて隠して無いけど!?」

 

「それある人の反応だよクルミ……」

 

「それじゃニコ先輩、画面のなかで心当たりがありそうにしているの誰か分かる?」

 

「ええーと、森の近くで待機している二人?」

 

「たしかに怪しいわね……最近私の周りをウロチョロしてたやつらじゃない!」

 

 目ざといじゃないか、さすがはニコ先輩だ。まあ分かりやすく狼狽し始めていたせいかもだが。そしてクルミ先輩もこの二人には心当たりがあるらしい。話が早くて助かる。

 

「ええ、その二人よ。最近クルミ先輩が大きめに買ったブラに胸の成長が追い付いたとか言いまわっていたけど……実はそれ勘違いなのよ。真相はそこの二人がブラをワンサイズ下にすり替えたからそう思えただけね」

 

「は?……え、は?…………あいつらぁぁぁぁ!!」

 

「やっぱり大きくなってなかったじゃん」

 

「うっさいオトギ!」

 

 クルミ先輩がオトギ先輩にカリカリし始めたのを横目に、件の二人を見ると先輩からの『指導』が確定したからか大慌てをしている様だ。この私に『こども料金』だの『12歳以下無料サービス』とか言うからこうなるんだ。

 

「違うの先輩、これは『善意』なの! 先輩の身を案じた『善意』!」

「信じて! 一緒に過ごしてきた後輩の『善意』を! クルミ先輩は後輩を信じられる人だよね!?」

 

「リーザみたいな言い回ししてんじゃないわよっ!」

 

 ……そんなに私っぽいか?『毒』が足りないと思うんだが。本家本元を聞かせてやろう。

 

「短い間だけでも夢が見れてよかったじゃないクルミ先輩。その儚い夢を()に抱いて、明日からの日々に希望を()()()()……ごめんなさい、失言だったわ」

 

「わざとでしょリーザ!」

 

 クルミ先輩はいたずらをした後輩にカリカリすればいいのか、全体放送でぶちまけた私にすればいいのか迷って『全方位カリカリモード』になっている。ちょっと面白いな。そのまま放置すると血管が切れそうな勢いだが、流石にその前にニコ先輩あたりが止めに入るか。

 

「ほら、特殊部隊らしくさっさと切り替えて。クルミ先輩は私の護衛っていう設定でしょ?」

 

「あいつら絶対シメてやる……」

 

「じゃあ、次は――」

 

「リーザちゃん、まだやるの!?」

 

 当たり前だろニコ先輩。全チームをボロボロにしてやるまではやめないぞ。わりと楽しくなってきたし。たしかこういうのは『出血大サービス』って言うんだっけ。いい響きじゃないか、特に出血するのが私じゃないところが最高だ。

 

 

 

 しばらくするとあんなに勢いよく『悪役』――もとい私に声を上げていた『正義』の特殊部隊様たちが静かになった。まるで口を開いたら大変なことになると言わんばかりの静けさだ。こんな士気で本当に悪人を捕えることができるのか?私はとても心配である。

 何せ守っているのがFOX小隊なのだ。学園一位のチームで当然、要人護衛もお手の物である。士気も旺盛だ。クルミ先輩なんて士気旺盛カリカリすぎて髪が逆立って見えるほどに。

 

「攻撃側の小隊全部が統制を取れなくなっているみたいね。レクリエーションとはいえ訓練の一環なのに……SRTとして嘆かわしいばかりだわ」

 

「あんたのせいでしょ元凶!」

 

「票を募ったクルミにも責任があるんじゃないかなぁ」

 

 よくぞ言ったオトギ先輩、まさしくその通りだ。私は何も悪くない。悪いのは後輩にちょっとした嫌がらせをしようとしたクルミ先輩と、『禁句』を言い放った校友たちだ。

 

「これちゃんとレク始められるのかな……?」

 

「私の身長に言及する奴はどうなるか『躾』をしただけよ。トリニティ流に言うなら『正義実現』ね」

 

「これのどこが正義の行いよ!」

 

「自分が悪だと気づいていない最もドスお嬢さま黒い悪……」 

 

「……」

 

 …………ふーん。

 

 あんまり存在感出してなかったけど、メルハもさっき私のことを悪魔とか言っていたよな?そして従者のくせに今も私のことを背中から刺すなんて……。彼女にも『正義実現』が必要のようだ。私はメルハに微笑みながら再びスピーカーのスイッチをいれた。

 

「……あれっ、お嬢さま何でこっちを見ているんです?その笑み……まさか……冗談ですよね?」

 

「ニコ先輩の懸念は最もね。私が責任をもって場を盛り上げるとするわ」

 

「えーと、リーザちゃん……?」

 

「まってまってお嬢さま、まって! 何言う気ですか、嫌な予感しかしませんけど!?」

 

「情報を付け加えておくわ。みんなの秘密を運んできたのはメルハよ」

 

「私ひとつも知りませんでしたけどぉ!?」

 

「嘘……」「あのメルハが……?」「でもあいつリーザの従者とか言ってたような」「今までのも全部真実だったし、まさか……」「よくもあたしの秘密を!!」「オンドゥルルラギッタンディスカ!」「メルハを吊るせ! 吊るせ!」

 

「レクを盛り上げるために『賞品』を用意しましょう。今から真っ先にメルハを捕えた小隊はこれから一年間、私がどんな秘密を握ったとしても口にしないことを誓うわ」

 

「そんなこと言ったら私みんなに狙われちゃいますけど!? 鬼!悪魔!人でなし!お嬢さま!サディスト!」

 

 そうなるように仕向けているんだぞ。

 

「出てこいメルハ!」「メルハちゃんうちら友達だよね! ちょっとこっちでお話ししない?」「首を差し出せメルハ!」「おいしいお菓子あるからこっち来て!」「命を助けると思ってさ! 一生のお願い! 靴でも何でも舐めるから私に捕まって!」

 

 うーん、性格が出てるな。力押しでいく者、搦手を使う者、情に縋る者……こうするとSRT特殊学園が個性豊かな人材が集まる学校にみえるじゃないか。

 

「メルハ()人気者になったわね……色んな意味で」

 

「こんなの嬉しくないですよ! 早く弁解しないと……みんな、今のは全部お嬢さまの嘘ですよ! このメルハちゃんと過ごした日々を思い出してください! 私はそんなことしませんし、みんなと同じようにお嬢さまの被害者で――」

 

 これで場は盛り上がったし、ニコ先輩も安心だな。『賞品獲得』を競争形式にすることで小隊同士の連携も消し飛ぶだろうし、一石二鳥だ。私は悪役だろうと何だろうと負けるのは好みじゃないのだ。

 

「なんで?……あれ?……なんか声が届いていない?……ってお嬢さま、スピーカー切ってますよね!! 早くその手をどかしてくださいよ! このままじゃ私八つ裂きにされちゃう!」

 

「ごめんなさいメルハ、手が攣って動かせそうにないの」

 

「あああああああああ!」

 

 メルハは半泣きで私の手に掴みかかっているが、彼女の力ではビクともしない。私の仮病……じゃない『攣った』手も動かせないなんてメルハは訓練不足だな。このピンチを機に成長して欲しい。

 

 私は状況を見守っていたFOX小隊のリーダー、七度ユキノ先輩に声をかけた。途中で厳しい先輩の『注意』が入ることも覚悟していたが、何も言ってこないとはね。これが本気の訓練だったら違っただろうけど。

 

「ユキノ先輩、後はお願いね」

 

「ああ、任せてくれ。……全員すぐに配置に付け、完了次第レクリエーション開始の合図を送る。各小隊員は位置を死守し、都度状況を報告せよ」

 

「「了解」」

 

 ユキノ先輩が動いた瞬間、FOX小隊の空気が変わる。ニコ先輩とオトギ先輩がすぐに動き始め……あれ?

 

「……ねえユキノ?もうレクじゃなくて実戦っていうことにしない?みんなで巨悪に反旗を翻すべきよ。一番倒されるべき邪悪でしょ、リーザは」

 

 一人動かないと思ったら何を言い出すんだ、このカリカリマンは。私は『悪役』なだけで、SRTの倒すべき『邪悪』じゃないぞ。

 

「ソックス3、謀反を起こすつもり?見下げ果てた根性ね、だから後輩からもなめられるのよ」

 

「誰が靴下ソックスよ! 絶対にあんたをとっちめてやる!」

 

 

 

 レクリエーションは大いに盛り上がった。FOX小隊は学園一のチームらしくかなり奮戦してくれたが……最近胸が成長したとぬか喜びしていた間抜けクルミ先輩が作戦やら防衛設備の位置を突入側に全部バラしたせいで私は敗北することになった。

 

 意外と楽しかったので次のゲームも『悪役』を継続することを希望したのだが、今度は反対多数で私はその座から引きずり降ろされた。

 

 

*1
ゲヘナ以外には

*2
支給された箱まるごとが自分の分だと勘違い

*3
3話「驕り高ぶり言語道断」より




ユキノ 後輩たちが楽しそうで何よりと思っている
 ニコ これ収拾つくのかなと心配している
クルミ ブラを入れ替えた後輩たちはシメた
オトギ ノリに合わせて悪役を演じている
 

 中聖リーザ
 トリニティ出身の生徒、個人単位でみるならSRT最強。ミカナギみたいな頂点お嬢さま族で学年は一個下。FOX小隊とRABBIT小隊の間の世代である。
 主な任務は暴走した自律兵器や凶悪な武装集団の制圧。校内随一の政治力を持っており、SRT特殊学園として連邦生徒会や対外的との交渉とやり取りも担っている。電子戦や長期の隠密作戦が苦手。

 入学時に飯が口に合わなくて食堂を爆破し、こんなのは人間の食べ物じゃないと備品の豚肉の缶詰をすべて燃やした。その後自分で新しくシェフを学園に雇い入れようとしたらすごく怒られた。
 寮に案内されたときも、なんでこんな犬小屋で寝泊まりを……?と本気で戸惑い、熟考の末に建物の壁を破壊した。勝手に増築しようと業者を招き入れたあたりで、またしこたま怒られた。
 トリニティの外で暮らすまで、ティータイムはどこにでもある文化だと思っていた。


 メルハ
 エデン条約ブームでブルーアーカイブを始めた元先生の転生者。もちろん原作知識を持っている。D.U.地区の治安の悪い路地裏で出会った羽根つき生徒の見た目に騙されて、SRT特殊学園に入学する羽目に。でもそんな場所に『本物の』温室育ちなトリニティお嬢さまが歩いていると勘違いした方が悪い。
 推しは補習授業学部で、トリニティに行きたいと願いながら訓練と任務の日々。なんだかんだ環境に適応して、それなりに毎日を楽しんでいる。図々しさとおバカはデフォ。



 評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。