ということで記念に番外編、婚約者騒動についてです。アストレイシリーズにがっつり関わりますので、苦手な方は読み飛ばしてください。最初の頃に触れないとか言ったのにね、作者がバカすぎてね。
前作のISを超えましたが、まだまだ続けますのでこの先もお付き合いいただけると嬉しいです。
「おじゃまー」
その日、いつも通りアズラエルに呼ばれ姿を現したユウキ。
ブルーピリオド設立に当たり、モビルスーツパイロットなど多岐にわたる仕事をこなすようになった。
今日も何かしらの仕事なのだろう。そう考えて指定された集合地点に来たのだが、
「初めまして、ユウキ・イチノセさん」
本当に初めましてな少女がいた。自分と同じくらい、それでいて品のある佇まい。どこかのお嬢様だろうと当たりをつけ護衛任務かと想像したが、
「貴方の婚約者、ラス・ウィンスレットです」
「……………ほぇ?」
予想だにしない言葉に、あまりにも間抜けすぎる声が漏れた。
『言葉通りですヨ。彼女はキミの婚約者でス』
「社長俺は仕事しに来たのであってな、見合いをしにきたんじゃなくてな」
『見合いは結婚しますか、という顔合わせでス。婚約者なので結婚することは既に決定ですネ』
「俺は了承した記憶がないんだけど⁉」
珍しく心の底から困惑しているユウキを内心で楽しんでいるアズラエル。
キラやトールといった友人を見ており、この分野も流せるのかと思いきや、かなり本気で困っている。意外、とも思うが同時に微笑ましくもある。
『ま、こんな仕事もあるのだと勉強してくださイ』
そう言い切られて通信は終わった。振り返ればにこやかに笑っている少女。逃げるという案ももちろんあったが、仕事に対する責任感もある。
あ゛ーと諦めも含めた唸り声を出しながらもぼとぼと近づいた。
「あーなんだ、その、ウィンスレットは」
「ラスとお呼びください。私もユウキさんと呼ばせていただきますが、よろしいですか?」
「…………もー好きにしろよー」
かなり失礼な態度を取っているのだが、気にすることなく話をするラス。ズルズルとソファーからなだれ落ち、上を見上げる。
向かい側に座るラス・ウィンスレットはオーブにある大会社のひとり娘である。オーブ解放戦線にて父親は死亡、会社は地球連合軍に接収されラス本人は軟禁。数年後オーブ氏族であるロンド・ミナ・サハクによって救出され、跡継ぎとなり数々の出会いと戦いを得て成長していく、というのが本来の歴史だ。
「…………あーそっちの事は分かった、けど」
聞き終えたラスの身の上話、相手に苦労があったのは理解した。だからと言ってそれがどう婚約者に繋がるのか、というのは分からない。自分が直接関わったということはない。
「俺何もしてなくね?」
そんなユウキの疑問にラスは微笑んだ。
「GAT-S001バエル」
彼女の口から出てきたのは意外な名前、フリーダム、ジャスティスと並ぶ伝説の機体その正式名。通り名となった機体が複数あり、知名度と逆に機体名はそこまでしられていない。
「あの機体はW・W・Kで造られたものです」
しかしこの世界ではある日、彼女の会社
『モビルスーツを一機、作っていただきたいのでス』
後に白い悪魔の名前を受け継ぐ機体。無事に完成し、テストパイロットとして協力したラスは思い出のひとつとして記憶に残した。
そして起きたオーブ解放戦線。
巻き込まれた父が死に、地球軍に接収された会社と彼女を待っていた人物は、
「貴方とははじめまして、になりますネ。ラス・ウィンスレット嬢」
「アズラエル理事の預かりとして会社を守っていただき、その後ある方に引き取られたのです」
「…………なるほど?」
理解はできた。
アズラエルは悪人、ではないが善人でもない。もし関りがなければラスは今でも軟禁されていただろう。亡くなった父の会社を奪われ、引き取り手と出会いその後自分の道を進むのだろうがここでは違う。
偶然とは言え、繋がりを得た相手をアズラエルが無下にすることはない。
バエルのテストパイロットを務め、自分が助らえれたきっかけとなった相手にラスが興味を引くのは当然のことだろう。
そして知ることになったユウキの情報。ナチュラルでありながらコーディネイター用のOSでモビルスーツを操縦し、戦争に巻き込まれながらも仲間と立ち向かった。命を奪い合った相手すらも手を差し伸べ、オフレコではあるがヤキン・ドゥーエでも活躍したと聞いた。
「記憶にない事多いんだけど、捏造されてない?」
「アズラエル理事もそう言って誤魔化すとおっしゃられてましたよ」
「あーほらあの人、口先達者だしいい加減な」
「わたし個人でも情報通の方に調べてもらいました」
項垂れて空を見上げるユウキ。自慢も見栄も友人相手になら遠慮なくするが、今回に至っては初対面の相手に主導権を取られている。適当に煙に巻くこともできそうにできず、かといって仕事ではあるので踏み倒すこともできず、帰ったら憂さ晴らしにキラに当たることを決めた。
「…………というか今日は何するんだ?」
少し時間が経って気がついたが、仕事の内容を聞いていない。事前に聞かされることもあるが、今回のように現地に行って確認することも多々ある。のだが、初っ端に婚約者というワードを出されて忘れていた。
「ふふ、では一緒に来てくれませんか?」
2人が向かったのはアメノミハシラ。
オーブにより建造途中であった宇宙ステーション。半ば放置されていたものを、サハク家が占拠に近い形で運用している。オーブ関係ではあるが、オーブではないという立場となっておりほぼ独立している。
その主は、
「はじめまして、になるな。ユウキ・イチノセ」
長身にして美形であるがゆえに男女どちらにも見えるサハク家の当主、ロンド・ミナ・サハク。
ラス・ウィンスレットの義母である。
「…………どうも、サハク当主」
「ミナで構わない。いや、いずれは母と呼ばれるようになるのだろうか」
悪い人ではない、しかし苦手なタイプだと思ったユウキは隠すことなくその表情を顔に表す。これもまた無礼すぎる態度なのだが、気にすることなく笑うミナ。何となくラスと似ていると思った。
「ミナさん、が今回の主犯で?」
「主犯とはなかなかの言い方だな」
「じゃあ誰が…………いや何で? か」
「そう急くな。というのも無理のない話か」
ラスもそうだが、ミナもかなりの権力者である。
失礼な態度故に打ち首とされてもおかしくない。
のだが、
「理由、理由か」
ユウキの態度を気にとめることなく、窓から見える地球を眺めている瞳は、普段の鋭い目つきからは遠く離れた穏やか瞳になっている。
「……ラス、そして今はいないが風花という2人を私は後継者として育てることになった」
「…………」
「後継者、とは言うもののその実、娘のような存在である」
「………………」
「その娘が、私に頼み込んできたのだ。自分を助けてくれるきっかけになった相手と会いたいと」
遠くを見ながらも誰かを思う、ユウキはその瞳がなんなのかよく知っていた。
「ならば…………娘の願いを聞き入れたいというのは、母として当然の事ではないか」
自信があるように見えて、その奥には不安がうっすらと残っている。何度も見てきたそれをユウキが間違えるはずもなく、
「お待たせしました! …………ってあれ?」
ラスが部屋に入ると、意外な光景が待っていた。
「婚約者ってそう簡単に決めていいもんだっけ?」
「安心しろ。ちゃんとミサキ・イチノセらには確認を取っている。むしろ乗り気だったぞ」
「何勝手に決めてんだよォー‼」
「酒の席で親同士が勝手に子どもの婚約者を決める夢が叶って最高、とのことだ」
「それ言ったの絶対父さんだろ…………」
「よく分かったな、流石親子だ」
テーブルを挟んで楽し気に会話をする2人。ケンカをする、なんてことは考えていないが、ここまで仲が良くなるとは思っていなかったラス。
「楽しんでいただけているようで良かったです」
「ん、あぁ」
「親としては相手を見極めねばならんのでな」
「どうでした?」
「そうだな」
出会った当初の頃にあったペット程度の牽制、それもなくなり親しみを込めての雑な態度。事前に情報仕入れているが、実際に目にすることで分かったことは多々ある。
「ロウ、に似ているな」
双子の弟を止め、自分が変わるきっかけになった男。ナチュラルでありながらもコーディネイターに物怖じせず、差別の意識もない。あるのはただ、自分の意思で進む世界から外れた道をも突き進む意思。
「…………では、わたしは席を外す。あとは2人で話すと良い」
後継者として見定めていた。しかしその一方で、こうして親として見守るのも悪くないと思うようにもなった。
凛々しくも柔らかなミナの横顔は、誰が見ても緩やかに子どもの幸せを願う親であった。
話は盛り上がった。
会社の社長と一般の学生という身分の差はあれど、モビルスーツのパイロットとして、相手を思う些細な気づかいを持って繋がれた会話は2人の距離を縮めていく。
「…………なぁ、婚約者ってなんだ?」
そんな会話の折に、ふとユウキが呟いた。
「いまこうしてラスと知り合ったけどよ。俺はラスと結婚したいかって言われると、したい、とは思えない」
唐突な否定の言葉。にも関わらず静かに受け止めるラス。
「出会ってすぐに結婚したい、なんて思うことがあるのかと思ったけどそれもない。……なんで俺、なんだ? 会うだけなら別に婚約なんてしなくていいだろ」
ここに来てラスと話し合って湧き出た疑問。ユウキも詳しいわけではないが、偉い人たちが繋がりを求めるために結婚することがある。ということは知っている。
だが自分は一般人だ。アズラエルなんかと繋がりはあるが、どう考えてもラスがそれを望んでいるとは思えない。かといって相手を好きになる要素、なんてものは自分には見つからない。
ラスはいい奴だ。仲良くなれるし友人だと胸を張って言える。だからこそ、結婚したいかというとそんな気は起きない。分からない。
「ラスは俺に何を求めてるんだ?」
結局この疑問にたどり着いてしまう。
立場の差も通り超えて男女として人として、仮にも婚約者に聞く質問でない。かと思うが唐突に婚約者だと会ったのなら仕方ないのかもしれない。
「そうですね…………」
持っていた紅茶とテーブルに置き、両手を膝に揃えると笑顔のまま、困ったように口を開いた。
「わたしにも、分かりません」
「…………………………ん?」
思ってたのと違う言葉がきた。
てっきり何らかのよく分からない政治とか、難しい問題があるのかと予測していたのだが、ラスも困ったように苦笑している。
「助けてもらったきっかけ、その元をたどればユウキさんになります。だけど実際に動いたのはアズラエル理事、そしてミナ様です」
ユウキの言う通り、会うだけなら何も婚約者などという選択をしなくても良かった。会って話がしたい、そう願うだけでも叶っただろう。だとすると、
「…………………………ユウキさん」
ソファから立ち上がり、真剣な表情でユウキを見つめるラス。
「お仕事の説明をします」
穏やかで聡明な彼女ではなくなった真剣な眼。そこ秘められた感情、熱を受け取ったユウキもまた不敵に笑いながら立ち上がる。
「聞こうか」
「会話をしてたくさんの事を知り合えました。あなたの家族、友人、思い出、しかしまだ教えてもらってない事があります」
「…………
アメノミハシラからそう離れていない宇宙空間に向かい合う2機のモビルスーツ。
その姿はある者が見ればガンダムと呼び、ある者が見ればこう呼ぶだろう。
「
アメノミハシラから眺めるミナ。
視線の先には金色のフレームに黒き装備を纏う自身の機体であるアストレイ・ゴールドフレーム
アストレイシリーズの最初期にして、始まりの機体なのだが、
「彼がアストレイの始祖、に乗っていたというのは何の偶然なのでしょうね」
ミナの横に立つのは若くして数々の企業を経営する財界の大物、フェアネス・ツヴァイクレ。
自信が組み立てたその名を持つ中では末っ子に位置する
「ふ、急な頼みを聞き入れてくれて感謝する」
「構いませんよ。私も用事がありましたし、かのブルーピリオドのパイロットが乗るのなら機体も本望でしょう。むしろ未完成なあの機体を貸し出してこちらこそ申し訳ない」
フェアネスの目的はロードアストレイの調整、そのためアストレイにこの世で1番詳しいと言っても過言ではないジャンク屋と会うためにアメノミハシラに来ていた。
偶然にも、モビルスーツを探していたパイロットに乗せることになったのである。
お互いの胸のうちではどんな考えがあるのか分からない。しかし今だけは、相手への警戒を緩めることなく、宇宙に浮かぶ2人の行く末を見守ることに決めていた。
「依頼はこの勝負を受ける、ってことでいいのか?」
「はい」
ユウキの言葉に力強く頷くラス。
恩人、とは少し違うが自分が救われるきっかけとなった相手。話を聞き、自分でも調べ、会ってみたいという気持ちは少しずつ募っていく。
実際に会って話せばなんてことの無い普通の相手。しかしラスの心がこれだけではないと言っている。初対面の異性、経歴にある自由すぎる行動を出すには戸惑いのある相手。そんな気づかいが、優しさが嬉しくもあり悔しくもあった。
だからこその模擬戦。
遠慮のない言葉を知るためのもの。
「もしこの勝負に勝てば、婚約は白紙にさせていただきます」
「…………? どういうこと?」
「言葉通りですよ。逆に私が勝てばこのまま決定させていただきます」
彼は平穏を望んでいる。
そのために戦い、そのために歩き続けている。
婚約なんてものは邪魔になるだろう。ならこの条件を出せば、
「うん? まぁよく分からんが、勝てばいろいろ解決ってことだな」
カメラアイが輝き、ロードアストレイから圧が放たれる。貸し出されたジンハイマニューバの斬機刀を両手に構え、天ミナに向けられた。
「ま、そんな条件なくても全力でやるつもりだったけど」
そうでしょうね、なんて心の中で呟きラスもまた天ミナの武装を構えた。
「ブルーピリオド所属、ユウキ・イチノセ」
「天空の
同時に飛び出し、お互いの武器が火花を散らす。
「勝ってやる!」
「負けません!」
「良かったのか?」
「えぇ」
アメノミハシラにて、地球へ戻っていくシャトルを眺めるラス。そんな娘の後ろに立つミナ。
モビルスーツ格納庫では、首元に傷がついた天ミナとほぼ全ての関節を修理中のロードアストレイが並んでいる。
機体性能は天ミナ、パイロットは経験の勝るユウキ。その勝負の結果は首元に斬機刀を突き付けたロードアストレイが、関節を動かせなくなった時点で終了した。
何が決め手になったのか、と聞けばフェアネスは機体とパイロットの相性だと答えた。
「彼は戻って来た時にこう言っていました。性能は良いくせに窮屈すぎる、と。向こうは母から娘に引き継がれた機体、こちらは…………言い訳になるかもしれませんが、未完成でしたからね」
申し訳なさそうでありながら、悔しくも嬉しいという反する感情がフェアネスにあった。
なので勝負はラスの勝ち、となるはずなのだが、
「……………………こちらばかりわがままを言うのも悪いですから」
あーあー負けた、とため息をつくユウキに、汗を拭ったラスは勝負を引き分けだと告げた。
勝ちでもなく、負けもなく、婚約者についてはそのままに。しかし強制はしないと、言われたユウキは首を捻りながらもとりあえず納得して帰っていった。
全力ではなかった。
未完成ながらもその差を埋めるほどに培われた操縦技術、コーディネイターであるラスと対等に戦えるそれは天ミナの攻略のみに使われた。
勝気はあるが必死さは感じない。最後に首元につけられた斬機刀も刃ではなく、峰が当てられていた。
「…………優しい方でした。けど、私がまだまだ至りません」
かのサーペントテールの傭兵なら甘いと切り捨てるだろう。あるジャンク屋ならいいじゃねぇか! と笑うだろう。
お礼と称して機体にこっそりと悪戯を仕掛けられたトップ・オブ・トップは、太陽神を前に魂に無謀な炎を燃やせと歌われた。計算上は負けるはずだった勝負に正面から挑むことで見事に勝利し、くだらないことをする人だと静かに泣いた。
これまでも、これからも聞いていた活躍が増えれば増えるほど、全力を向けられるほど強くない、そう思い知らされたラスは新たな決意を胸に掲げる。
「ミナ様。これからも天空の皇女として相応しくなるよう、精進していきたいと思います」
「…………あぁ、見ておるぞ」
この先、天空の皇女としての試練、W・W・K代表としての経営、そしてウェアネスとの死闘。様々な経験を潜り抜けたラスは正式に天空の皇女としてユウキの前に再び現れる。
婚約を破棄し、自らの意思で隣にいると宣言をすることで、また別の騒動が起きるが今はまだ、未来の話である。
この後キラに八つ当たりしながら敬意を話すと、近くにいたラクスが「わたしはいま、冷静さを欠こうとしています」になりました。いつかのエターナルみたいに無言でつつかれたりしてます。
ロードアストレイはユウキと相性悪かったので負けました。何となく製作者のしがらみとか感じたので、ゴールドフレームを相手に戦闘すると発動するウイルスをこっしょり。曲は「無謀な炎」の英訳、みんな好きでしょ?
時期的には運命前ですね。天空の皇女は運命後なので結構ズレがありますが、いい感じに脳内補正をかけてください。
100話到達! 繰り返しですがありがとうございます。感想や高評価がなければ続いていません。読んでいただきありがとうございます。
先に言うと自由も考えてはいます。良ければこの先もお付き合いください。
まったく、とんだモノを残してくれましたね。良ければ式に呼んでください。私からもお礼を差し上げたいのでね。
────拳でタクティカルアームズΩに挑んだトップ・オブ・トップ