さておそらく気になっていた方も多いでしょう歌姫です。これ書く前に初登場は猫かぶり、普通の少女だし怖かったんじゃね? という考察を見つけてめっちゃ助かりました。freedomの電話なった時のラクスめっちゃ可愛い。たぶんあれが素なんだろね。
というわけでどうぞ。
感想や高評価いつもありがとうございます。書く上での励みになってます。
「ほかの奴らは?」
「さぁ、どこかへ行かれましたが」
機密の塊である軍の新造艦、そこに仮にも敵国の民をひとりにするなどあってはいけない。まったくあいつ等はちゃんと仕事をしろっての、と呟くユウキ。なお叱られている回数は学生組でトップである。
もちろんラクスはそのことを知らないので真面目な人物だと思った。詐欺である。
「…………あの~それはなんでしょうか?」
「これ? 艦内用に改造したセグウェイ」
ラクスが指さしたのはユウキが乗っていたもの、普通のセグウェイだが磁力で引き付けたりガスの噴射で移動できたりと無重力空間でも使えるように改造してある。スピードこそイマイチだが小回りが効くようになっており、ナタルとの鬼ごっこでは大活躍した。叱るのに夢中で没収することを忘れたのはナタルの一生の不覚である。まぁこの先さらに増えるのだが。
「変わったものをお持ちですのね」
不思議そうに眺めるラクス。人類が宇宙に進出するようになり、この手のものは一周回って廃れていった。艦内では移動用のレバーがあちらこちらについているし、コロニーなどの私生活では自動運転の乗り物が使われている。自転車やバイクなどは完全に趣味としてでしか残っていない。その中間といったセグウェイは使われることは無くなった。
「乗ってく?」
背中を指さすユウキ、いろいろと考えはしたもののまとまる前に手をひかれて食堂から人が消えた。
「なんだあれ?」
たまたま歩いていた避難民が首をかしげる。
もし自分が見たものが事実ならセグウェイに男女が二人で乗っていた。男が前で操縦し、女の方は後ろに延ばされた足置き場に立って男の腰を掴んでスカートと髪が靡いていた。まさか軍艦のなかでセグウェイ二人乗りをするやつがいるなど思ってもいない。酔って幻覚でも見たかと思い自分にあてがわれたベッドで寝ようと思った。
「よっと、どーよ! 速かったら言えよ、スピード落とすし」
「えぇ、大丈夫ですわ」
そのまさかが事実なのだが。
二人がのったセグウェイが艦内を走り回る。ほどほどのスピードで走るよりは速い程度だが、狭い道を走るには迫力がある。最初は腰が引けていたラクスも、だんだんと慣れてきた。
「このようなことをしていいのですか?」
「ダメじゃね? 怒られたらあやまっとこ、トールあたりも巻き込んで道づれにしとくか」
いい加減である。
キラを始めとした友人たちは慣れたものだが、ラクスにとっては新鮮だった。艦内のルールに詳しいわけではないが、してはいけないことだとは分かる。真面目に生きていたことに不満はない。しかしこうして誰かと一緒にルールを破ってみるという経験はラクスにとって新鮮だった。その感動が、高揚が、ラクスの心に染みる。
「あの、ユウキはなぜこの船に乗っているのですか?」
だから少し口が軽くなった。
別に聞かなくてもよいことだ、むしろ聞かない方が良い。軍人ではないもののラクスはザフト関係者であり今いるアークエンジェルは地球軍のものである。監禁されていてもおかしくないし、下手なことを言おうものなら処刑される可能性だってある。なんせ今いるのは宇宙、人ひとりゴミになっても対処はゴミ捨て場にごみを捨てるよりも簡単だ。
「あー住んでたコロニーがモビルスーツ開発してたらしくて、そこザフトに襲われてぶっ壊れた。あいつらも一緒」
なんてことのない気楽な言葉、理解するのに一瞬戸惑ったが飲み込むと悲痛な顔になる。
「それは…………申し訳ありません」
「いーよー、別にラクスが壊したわけでもねーし」
「それでも……………まったく関わりがないわけではありませんわ」
しばらく無言でセグウェイのモーター音だけが響き渡る。どこをどう走っているのか、気が付けば外を見れる場所にいた。どこまでも真っ暗で星が輝く宇宙、そのなかに人類が出したゴミが浮かんでいた。
「…………………………ラクスはさ、どこからどこまでが正当防衛になるか知ってる?」
ゆっくりとスピードを落としそのまま止まる。ガラスには二人が映っていた。
「細かいとこ省けば、襲われた時に必要内であれば認められる、ってのが基本」
前を見るもの、俯きながらも聞いているもの。ほかには誰もいない。
「最悪の場合、防衛した結果相手が死んでも認められる」
軽く腰に添えられていた手に力が入りかける。
「大抵はさ、殴りかかって来たやつって殴られ返されることを想定していねぇんだ。なのにやり返されたら相手が悪いって言い張って、さらにやり返して、まぁ外から止められたり裁判でどっちが悪いって決まるけど、決まらない時もある」
「…………………………この、戦争のことでしょうか」
少女のキレイな声が背中で呟かれた。
「俺たちが巻き込まれた、って言うのは事実だ。けど住んでた場所が秘密に悪いことをしていたってのも事実だ。それを踏まえたうえで」
揺れる建物、悲鳴をあげながら走って行く人たち、途絶えることの無い銃撃音と爆発音。おそらく一生忘れることはないだろう。
「仮にここで、何かあっても文句は言われない」
力が抜けた。手も肩も、顔からは温度も下がっていく。しかし動くことはしない。なぜなら謝ってしまった、こちらに非があると、悪いのはこちらだと。ならば罰を受けるのが正当な社会のルールだ。それがなくなるなどあってはいけないことだが、それがありえるのが戦争なのだ。少女もその結果、この場所に立っているのだから。
「…………………………俺たちは今、地球軍の艦隊への合流、もしくは基地に向かってる。つーかそもそもこの船迷子だし」
少女の瞳が少しだけ動いた。
「その先は知らん、正規の軍人じゃないから。ただめんどくさいとは思う、期末試験のレポートとどっちがマシか分らんレベルで」
思い出したのか少年は顔をしかめる。いろいろあって徹夜で手伝わせたのに担当教授の都合で一週間伸びたのだ。ヤケクソになって学校で、焼き芋を作ろうかと考えた。隈がすごかった友人たちも賛同したところをミリアリアの布団攻撃で収まったが、思い返す度に全員でお礼を言っている。マジでやりかねなかった、期日に間に合わなくてもちゃんと寝ようと反省した。
「俺は天才だからモビルスーツも動かせるし…………………………ひとりくらいなら一緒に抜け出すの朝飯前だし」
ハッと顔をあげた。少年はずっと前を見てるので後ろ姿しか見えない。
「拾って来たの俺だし、なんか拾うなって怒られたから戻しに行くべきだろ…………………………とは思う、うん。俺責任感強いし」
聞かれれば全員から蹴られそうな言葉が出てきた。
「…………………………そうなると、どうなるのですか」
何が、いや誰が、とは聞かない。
「さぁ? 天才すぎて嫉妬のあまり賞賛されるんじゃね? あ、でもバカすぎて俺のすごさが分かんねぇかもな。そしたら追い出されるか? 生身で宇宙は死ぬから勘弁してほしいけどな」
いい加減な返しだが、もちろんそんなことはない。敵軍の貴重なモビルスーツとそのパイロット、しかも味方を卑怯な方法で撃墜しているのだ。仮にラクスが地球軍に捕まった場合の、それ以上の歓迎を受けるだろう。それに気が付かないラクスではない。
「わたしは……大丈夫ですので、やめて、ください」
「俺やめろって言われたらやりたくなる人間なんだよね」
「っ…………………………なぜそこまで」
いつの間にか軍服にしわができていた。もちろん軍人でもないただの男子学生が気にすることはない。
「引き金って軽いけど、一度ひいたらその後ずっと後悔するんだよ。でも逃げることはできない、から」
ガラスには相変わらずの見慣れた風景、その青いソラを見てユウキは笑う。
「引き金を引いた奴も引かせた奴も、そいつらだけが勝手にすればいいんだよ。俺にできるのはそんくらいしかないしな」
できることをするしかねぇんだ、それも命をかけて。
「あ! 見つけたぞユウキ! そのお嬢ちゃんを勝手に連れ出すな、ってそれ使うなって艦長が言ってたろ! バレたら怒られるぞ‼ いやもう怒ってるけど!」
「ゲッ!?」
後ろから聞き覚えのある声に振り返ればムウがいる。そしてセグウェイを指さしながら大股で歩いてきた。男同士の話はするのだが、それでもアークエンジェルでは上官。やらかしたユウキを捕まえるのは主にムウの役割だ。このままだとすぐにナタルかマリューの前に連れて行かれるだろう。
「掴まれラクス!」
「えっ、きゃ!」
強引に手を抱き着かせるように前に引っ張る。そしてセグウェイを起動、モーターがうなり二人を運ぶ。
「ちくしょう今はみがわりがいないってのに!」
そのみがわりたちは今、パイロットたちのためにがんばろうとしている。この言葉を聞けばすぐさま仕事を止めて捕まえようとするが、それも友情である。
「…………………………わたしにも、できることはあるでしょうか」
「知らね! 俺はラクスが何をできるのか知らねぇし! あぁ、歌上手いんだっけ!? じゃあ艦内放送ジャックして突発ライブやるか‼ キラに言えばできるだろ!」
「その、キラというのは?」
「ダチ! 俺には及ばねぇけど頭良いコーディネイター! 弱っちいから下がってろってのに出しゃばってくんだよ‼」
さっきまでとは段違いのスピードで艦内を進むセグウェイ、風を感じながら少女は考える。自分のこと、故郷の事、そして目の前にいる少年の事を。分からないことばかりだが、この少年といるのは楽しいかもしれない、途中で捕まったコーディネイターの少年と目の前の少年が正座で怒られているのを見てそう思った。
いつもの環境とは違い細かい調整をすることもできず、伝えることだけが目的となっているマイクから流れた歌声は、艦内に安らぎをもたらせた。うっかり切り忘れていたマイクのせいで艦長の折檻も艦内に流れたが、誰もが笑っており間違いなく平和と言える時間が流れた。
「間違いないのか」
「えぇ! 味方の通信です!」
突発的ゲリラライブが行われるようになったアークエンジェル、そのブリッジでは繋がった通信に喜ぶクルーのなかでどこか遠くを見る副艦長がいた。
男どもが正座している様子を女子三人がよく一緒に見ています。なのでかなり仲良くなってます。
なんか前回のあとがきトラウマがトラウトになってました。お腹すいてたので間違えたっぽいです。ちなみに元ネタは富士鷹ジュビロというキャラ、モデルは「うしお〇とら」「から〇りサーカス」の作者がモデルのあのキャラです。調べたら一発だと思う。
オマケ
いつかの仕返しする副艦長「あの時艦内全てに流れましたね、それ以来でしたっけ? お艦と陰で呼ばれるようになったのは」
お艦「うぅ……一生の不覚」
良い笑顔の副艦長「避難民の子にお母さんなのかと聞かれたのは最高でした」
酒飲んで逃げるお艦「」
お艦「あなたたちね、こんな勝手なことをして周りにどう迷惑をかけるのか考えたの? いつもいつも思い付きで行動して、するなとは言いません。まず先に相談しなさい、いいわね。分かったらさっさとトイレ掃除してきなさい」