セレニティがビフレストに勝てる点はどこにもない。
精々が機動力、小回りだが最大加速はジェネシスが使えるビフレストが上回る。耐久力、攻撃力は言うまでもなく、パイロットの空間把握能力はミラージュコロイドを見破るほどである、
大袈裟に言えば、武術の達人でモビルスーツに挑むような差が存在している。もしその差を覆そうとするのなら、モビルスーツを拘束具と言えるほどに流派東方不敗を極めるか、
「助けに来ましたユウキさん!」
数で勝ればいいのだ。
「って、どうするんですか!?」
ビフレストとセレニティの戦場にたどり着いたシンだが、何をするのかも聞いていない。とりあえず呼ばれたので忠犬のようについてきただけだ。指示を出すのは飼い主の役目である。
「何度か声をかけてるけど反応がない! 目を覚まさせたい、何か声かけてみろ‼」
「はい! マユ!」
「……………………」
声をあげてビフレストへ突撃していくデスティニー、だがオールレンジ攻撃による返答しか返ってこない。
「マユ! 何があったか分からないけど、もう大丈夫だ‼ 戦わなくていいんだ!」
「…………」
「おれも! ユウキさんも争ったりしない! だから、目を覚ませ‼」
デスティニーの高出力砲とビフレストの腹部から放たれたカリドゥスがぶつかり合う。爆炎にも怯まず、佇んでいるだけで変わらず圧を放つビフレストが静かに2機を睨む。
「おいシン! お前お兄ちゃんだろ! 起こせないのか‼」
「そう言われても! 別に俺が起こしてたわけじゃないんですから!」
叫びあいながらも豪雨のごとく放たれる攻撃を躱していくセレニティとデスティニー。攻撃が通らないことを自覚しているからこそ、防御以外で武器は使わず、お互いにダメージを与えられない千日手となっていた。
「つぅ…………あっ! ユウキさん‼」
「どうした!」
姿を消していても何故か見事に狙われるために、ミラージュコロイドを使わずにいるセレニティ。戦況と時間を計算していたユウキは振り返ることなくシンの言葉に返事を返した。
「前にマユが言ってたんですけど! アラームより好きな曲をかけた方が起きやすいって言ってました‼」
「なるほど…………? ……………………よし」
シンの言葉で何を思ったのか動きを止めるセレニティ。絶好の攻撃の機会だが、怪しんでいるのかビフレストは動かない。
「用意する、時間を稼げ!」
「分かりました‼」
選手交代と言わんばかりに飛び出していくデスティニー。狙いを絞ったのかビフレストが動き出すも、攻撃は高速で移動するデスティニーの残像ばかりを狙っていく。
「メイリン! ミーアにつないでくれ‼」
裾から取り出したキーボードを叩いていくユウキ。戦場にもかかわらず微動だにしないセレニティだが、ビフレストが狙う合間は全てデスティニーによって潰されていた。
「ライブって言われても、何で!?」
関係者とはいえ戦闘員ではないミーア。中継コロニーへの攻撃を仕掛ける前にエターナルへと移り与えられた部屋で大人しくしていたところ、何故か急に呼び出された。
『ユウキさんからはそれだけしか言われてないので…………』
理由を聞かれたメイリンも困惑しかない。なにせ急に通信が繋がったと思えば、「ミーアライブ頼む‼」とだけ言われて切れたのだ。
戦闘中だというのだから忙しいのは分かっているが、それはそれとして理由は教えてほしいというのがミーアとメイリンの素直な気持ちである。
「まぁこんな時にふざけることはないですし、必要になったんでしょうね」
隣にいるニコルは慣れているのか疑問を浮かべるよりも前に動き出していた。
2人がいるのは安易なライブハウスのように改造されたエターナルの一室。手の空いていたザフトの軍服を着た兵士たちも準備しているが、やっていることは音のチューニングなどである。所属部隊はあっているのだろうか。
「マイクチェック完了です!」
「音程の調整終了!」
「いつでもいけます!」
と、瞬く間に準備は終わったのだが、ここでひとつ問題があった。
「…………何歌えばいいの?」
ライブをするというのなら歌うべきだが、曲については聞かされていない。何か必要に駆られてと言うのなら、それに合わせた曲を歌うべきだろう。
とはいえ確認する時間も惜しい。
ミーアは頭の中にある曲目をリストアップし、勘で決めた。
「セレニティにつないでください!」
ニコルの合図の元、セレニティで待ち構えていたユウキはつなげられた通信の元に、エンターキーを叩いた。
国際救難チャンネルを通じて、エターナル、アークエンジェル、ドミニオンと戦場にいる味方機を元に、戦場にいる全ての者へと通信を繋ぐ。
厳かな前奏を聞きながら、マイクの前に立つミーアは静かに瞼を閉じて集中していた。
マユ・アスカは軍人ではない。
だが、プラントでのモビルスーツ強奪事件に巻き込まれた際にミネルバへと乗ることになった。軍人として、などという以前に幼すぎる少女には、戦争という劇薬は彼女の世界をたやすく壊した。
ただ運が良いのか悪いのか、心を病むことはなく、むしろひとりの人間としての覚悟を決めさせるきっかけとなった。
なってしまった。
ズボラでどこか抜けている兄、自分の事を守り助けてくれたユウキ、それだけでなくミネルバで出会ったクルーたちはみんなマユに優しくしてくれた。
そんな彼らを助けたいと思うのは、似たような兄を持つ妹にとっては何もおかしくなかった。
だからと言って戦うには自分は幼い、それを解決してくれるであろう人物にも偶然心当たりがあった。
「やぁ、よく来たね。マユ・アスカ」
プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダル。
簡単に会えるものではないが、ミネルバへ乗り続けるためにマユへ許可を出した人物。聞けば兄のモビルスーツも同じ人からの贈り物だという。
タリアを通じてプラントへ戻ったマユをデュランダルは優しく歓迎した。
「…………本音を言えば、キミのような幼い少女が戦場に出るのは私としても忍びない」
「そうかもしれません……………………だけど、戦えるんですよね?」
プラントでのシミュレーションで出された結果、それは彼女の才能を認めさせるには充分すぎるものであった。
圧倒的な空間把握能力に、無意識とはいえ複数の武器を同時に扱える並列処理能力、デュランダルの机上の空論となりかけていた機体のパイロットに、これ以上ないほどの適任者はいなかった。
身体のあらゆるデータを元に、無理のない最大限のパフォーマンスを出そうと様々な研究者たちがたちあいトレーニングを積み重ねていく日々。
だが1点だけ、経験という点だけが彼女の弱みであった。
それを解決したのが、ネオ・ロアノークによってもたらされた「ゆりかご」である。
睡眠時間にも学習させ、集中力を常に高められるようにかけられた暗示によって、大きかった振れ幅が安定して実力を発揮できるようになった。
脳への負荷を軽減するために、メサイアへ迫りくる敵のみを迎撃するという簡易な指示以外は本人の意識に任せている。他にも特定の音、デュランダルやネオ以外の男性の声も聞かないようにしている。
とはいえ雑音が耳に入らないほど極限の集中力を発揮し続けているマユに、小難しい判断は下させない。
デスティニーが自分に迫ってきた時も、襲いかかってくる敵だとして処理しただけだ。
誰が乗っているのかなどとは気にすることではない。いや、気にかけることはできない。
ゆえに専用の装置でも使わない限り家族であろうと、守りたいと願っていた相手であろうと、ただの声では彼女の心に届き目を覚まさせることはできないのだ。
そう例えば、好きな女性アイドルの歌声でもない限りは、
──────────運命の意図を、断ち切ったその先に』
世界を導ける、そうコーディネイトされた歌姫の代理を成せた、天然のコーディネイターの声が戦場へ響き渡る。
ミーアのできる事なんてこれくらいしかないですからね。逆に言えばミーアにしかできない事ですが。
キルラキルのOP「ambiguous」から初の歌詞引用です。いつもみたいにボヤかしても良かったんですが、歌いはじめがピッタリなので入れたかったてのがあります。歌詞コードミスしてたら教えてください
いつも感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございます。励みになっています。
なんのつもりだ? ラクス・クライン
────メサイアに座る最高評議会議長