暗い暗い、暗い底で歩いています。
なぜならあの人はこの先にいるからです。
わたしの周りを何かが飛び回っている気がしますが、気にせず進んで行きます。
進んで進んで歩き続けて、
謎の音に耳を奪われた。
少しずつ大きくなっていくその音は、少女の足を鈍らせる。
探し人がいるはずの暗闇とは反対の方から聞こえてきた騒音は徐々に大きくなり、頭の中で割れるように響く。
「やめ、やめて!」
耳を塞いで立ち止まるも直接頭の中へと届けられるその音に少女は、大声をあげて遮断しようとするが益々大きくなっていく。
「わたしは! あの人を見つけないといけないの! だから邪魔をしないで‼」
音から逃げ出すように走り出す少女。
走れども走れども音は少女を追いかけ、手の形となって後ろから追ってくる。
息を切らしてたどり着いた暗闇の底。少女の顔には隈ができており、やつれた表情で見上げた先には、
──────なにもなかった。
「えっ」
探していたはずの人物どころか、文字通り何もない。
光がない、音がない、重力すらもない。
上下すらも分からず平衡感覚が来るっていき、音の反響も自分の手足を見るための光もなく、自己を認識できなくなっていく。
目的の人物も見つけ出せず助けようとした結果、自らが闇に飲み込まれていく。
「……………………わたし、何もできなかった」
泣くことさえできなくなった少女に、
暗闇を切り裂いて現れた手が差し出された。
「マユ!」
「……………………おにい、ちゃん?」
うっすらと開かれた視界の先には、手をさし伸ばすモビルスーツ。
誰が乗っているかなど聞かずとも分かっている。
「マユ! 今行くから!」
デスティニーのコクピットを開き、飛び出して行くシンはビフレストを操縦していたヘイムダルへとたどり着く。
ゆっくりと開かれたヘイムダルのコクピットには、通常よりも厚みのあるノーマルスーツを着ているマユ・アスカが静かに涙を流していた。
「お兄ちゃん…………」
「マユ! ごめんな!」
引っ張り上げた妹をしっかりと抱きしめ、ケガはないかと全身を確認していくシン。もちろんパイロットスーツのうえから分かるはずもないのだが、それでも確認せずにはいられないと焦ったように見ていく兄を、マユは懐かしいと思いながら止めずにいた。
「…………歌が聞こえたの」
「歌? あぁユウキさんがあの、ラクス様の変わりをやってた人に頼んで歌ってもらったんだ。マユを起こすために」
「わたしの…………ために……………………」
暗闇で聞こえていたあの暖かい歌はそれだったのだろう。
思わず足を止めて振り返りたくなるほどに心地の良い歌、その出処を聞いて納得したマユ。
「ごめんな…………頼りない兄ちゃんで」
優しく、それでいて離さないよう力強く抱きしめるシン。何も言わずとも、安心させるように抱きしめ返すマユ。
武装の大半をなくしボロボロになったデスティニーとほぼ傷がなく沈黙しているビフレストの元へ、2つの光が近づいていた。
インパルスから現れた赤い髪の少女は泣きながらマユを抱きしめ、ウィンダムから降りてきた金髪の少女はシンの元へと向かっていく。
見覚えがありつつもどのような関係なのか問いただすルナマリアに、タジタジになりながら説明していくシンを、マユとステラは不思議そうに眺めていた。
手元のモニターに映っていたのは崩れ落ちるオレンジ色のデスティニー、両断されたラーフ、色の失ったれジャンド、そして墜落していくミネルバの姿。
「……………………ここまでか」
必死に攻撃をかいくぐり、武器を使い捨ててまでビフレストの元へとたどり着いたデスティニー。宙を漂う黄金のリングや背部の有線式アームこそ破壊されているが、ビフレスト本体、しいてはヘイムダルはほぼ新品の状態である。
DPを守る剣として素質を見出した兄妹だが、こうなってしまったという思いと、やはりこうなるかという2つの気持ちがデュランダルにあった。
2人にあった戦闘の素質、DPを行う上で必要だった戦力でこれ以上はなかったと今でも思っている。
アスラン・ザラやキラ・ヤマトの存在を差し引いてもレイやネオがいることで上回っていると考えていた。
のだが、
メサイアを覆う陽電子リフレクターの発生装置は破壊され、明かりは落ち床や壁には罅が入っている。
部下には退避命令を出し、たったひとり残ったデュランダルは静かに待っている。
「……………………まさか君が一番最初とはね」
鳴り響く足音とともに現れたのは、セレニティのパイロット、ユウキ・イチノセだった。
「さて、まずはおめでとうと言っておこうか」
拍手もない称賛の言葉、与えられた本人は聞いているのかいないのは反応しない。
「これで私の計画は潰えた…………平和な世界もね」
イスに座ったまま懐から出した拳銃をユウキへと向けるデュランダル。
「キミも見てきただろう? 欲に塗れ、他者をないがしろにし、己こそが良ければよいとする者たちを」
ゆっくりと歩き出すユウキをしっかりと銃口で狙い続ける。
「故に世界は求めているのだよ。自分の未来を定めてくれるものを」
止まることのない足取りはまっすぐとこちらに向かってくる。
「…………撃たれないとでも?」
「当たるとでも?」
徐々に詰まっていく2人の空間、経験のない者でも当たるだろう距離にまで差し迫った時、
乾いた破裂音が鳴り響く。
「…………!?」
確かに射線上にいたはずのユウキが消え、驚いた瞬間には視界いっぱいに広がる振り上げられた拳が真っすぐにデュランダルの顔へと突き刺さった。
「ごがぁっ!」
椅子から崩れ落ち、花か中心に広がる痛みに反射的に手を抑える。
揺らいでいく視界では背中を向けて立ち去っていくユウキの姿。
狙おうにも視界と手と両方がブレて碌に狙いも定められない。
「……っ!」
何度か引き金を弾くも定まっていない銃弾はあちらこちらへと飛び、ゆっくりと歩いていく人影には掠りもしない。
当たらない拳銃を構えたままフラフラと立ち上がり、その背中を追いかけようとし……………………デュランダルの足は止まった。
「……………………おや、先に来ていたのか。……その様子を見るにキツイものを貰ったようだねギル」
「……………………ラウ」
震える声で呟かれるのは友人の名前。
死んだと思っていたはずの友人、ニセモノではない正真正銘の友人の姿。
「ラウ!」
固まった自分とは違い、横から大声で走ってきたのはレイ。
戦闘こそできないが、辛うじて動くレジェンドを操りデュランダルの元へと来たのだが、
「ラウ! いきて、いきでっ‼」
「久しぶりだねレイ…………大きくなった」
愛おしくレイ抱きしめながら長い髪を撫でるクワトロ、もといクルーゼ。
「あ、ユウキ! 何してるのさ!」
「議長はどこに、隊長まで?」
続いて現れたのはメサイアへと入っていくセレニティを追いかけてきたキラとアスラン、さらには、
「ギル、ギルバート!」
「タリアまで…………どうしたというのだ」
ふらつくデュランダルの元へ走ってきて支えるタリア。
大事な人に会えた喜びと一緒に困惑も生まれている中で、デュランダルから疑問の視線を受け取ったラウが口を開いた。
「ヤキンでね、彼らと戦って負けたのだよ。その後死亡扱いとしてもらいオーブにいたのだ」
「そうか…………しかしなんでまたオーブに」
「やるべきことができたのでね……………………キミ達にも私の様な存在を忘れて、生きて欲しかった。申し訳ないなレイ」
「いい、良いんだよラウがいぎててぐれたがら!」
幼い子どものように泣き叫ぶレイ。以外だと思いながらも辺りを警戒するアスランだが、隅で何かしているキラとユウキからも眼を離さない。
ひとまず聞きたいことは聞けた、とはいえ思うことがあったのか再びデュランダルの視線を向けたクルーゼは誇りを込めて口を開いた。
「いろいろとあるが…………彼のおかげなのだよ」
最後の問答で2話使うとかマジで?
いつも感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございます。励みになっています。
ほっといても良い気はするけど、あ、そっちの銅線つなげるから。
────後ろの事を気にせず悪友と作業を続けるスパコ