……………………ガンダムってすごいね。
キラ・ヤマトはある世界に比べて充分幸せと言える人生を送っている。
大事な人を失うこともなく、自分ひとりで戦わないといけない強迫観念もなく、弱みを吐くことができるほどに健康である。
だからと言って、不幸がないわけではない。
「闇に堕ちろ、キラ・ヤマト」
「んっ?」
心臓の鼓動が一瞬だけ跳ね上がった。
自分のバイタルを確認しても問題はなく、作戦通りミケールを捕獲するために飛行形態のフリーダムを操縦する。少し疲れていたのかもしれない。そう、この作戦が終われば久しぶりにフレイの墓参りに、
「え、あ」
キラの中にありえた記憶が沸き起こった。
大事な友人が死に、辛いときに付き添ってくれた彼女を守れず、幼い頃からの友人は戦場で血まみれの手を自分の首へ「違う!」
思わず頭を振ってイメージを振り払う。
「みんな生きている! 生きてるんだ‼」
体中から汗が流れ、乱れた呼吸がヘルメットを白く染める。それでも思い浮かぶのは黒い機体を庇う様に爆発に巻き込まれた白い機体。
笑ってた。
あぁ、やっと安心して。
「そんなことあるわけないんだ‼ 帰らないと! 早く!」
無事を確かめたいという不安がキラの心を掻きむしり、必要もないモニターを点けては辺りを確認する。そのひとつに映ったジープに乗る地球軍将官の服を着た男。
何の証拠もないはずなのに、不思議とキラは確信した。
「ミケール! ここで捕まえる‼」
大事な人を亡くしたかもしれないという偽りの記憶。そこへ混ざりこんだたったひとつの正しい記憶は、身内をなくした時の焦燥を充分に思い出させた。
「隊長?」
「キラ?」
ブルーコスモスの砦へ向かっていたはずのコンパスの部隊から、急に離れたフリーダムをシンとハイネは疑問に思った。
とはいえデストロイのような隠しだねはなくとも、拠点だけあって守りが硬くなっておりよそ見ができるほど気は抜けない。
「隊長? どうかしましたか?」
砦の防衛陣へ切り込み、いくつかの戦車やモビルスーツを撃破したシンが声をかけると、
「ミケールを見つけた! 捕まえてくる‼」
「えっ!? でも、え?」
思ってもいない言葉に動揺し思わず動きを止めるシンだが、かまうことなく突き進んでいくキラ。
「おいどうしたキラ!」
「バカ野郎! 軍事境界線に近づきすぎている離れろ‼」
ムウの言葉やハイネの注意も今のキラには届かない。
『どうしたのキラく、ヤマト隊長!?』
「終わらせて、帰るんだ‼」
『どういうこと!? フラガ大佐!』
オペレーターからの報告を聞き通信を繋げるも、帰ってきたのは答えにならない答え。これまでにない行動に焦りを感じつつ現場にいるパイロットへ通信を繋げた。
「フリーダム軍事境界線に接近!」
「事前協議を奴は知らんのか!」
「進路を変更されたし‼」
ブルーコスモスを逃がさないよう待ち構えていたユーラシア軍も、警告を発しているのにも関わらずキラが止まる様子もなく近づいてくる様子を見て焦りだしている。
「なぜユーラシアに…………」
「どういうことだ総裁!」
「フリーダム、止まってください! キラ!」
ファウンデーションに設置されていた司令部でもフリーダムの様子は確認しており、焦った声と怒号が飛び交っている。
「警告射撃開始!」
「待ってください!」
ラクスの声もむなしく直撃するものではないが、境界線に並んだ兵器からフリーダムへ向けて攻撃が発射された。
「はやく帰らないと! 邪魔をするなぁ‼」
しかし今のキラに正常な判断ができるわけもなく、攻撃を躱しフルバーストでミサイルの迎撃、ミケールの逃亡の妨害を行う。
「これは明らかな侵略行為だ‼」
「キラ! 止まってください! 止まりなさいキラ‼」
『隊長!』
『おいどうしたってんだキラ!』
誰からの呼びかけにも答えることなく、ミケールを捕まえて帰るという言葉しか返ってこない。彼ひとりの独断だ、こちらも対抗手段を、と言い争い始める司令部ではラクスが必死に喰いとめている。
もし今のキラを止めようとするのならば、止められるのは2人しかいないだろう。しかし1名はこの場におらず、もう1人はマップ上では遠く離れており────────────
「なんなんだよお前らは……………………」
アークエンジェルやハイネ達よりも後方で足を止めていたユウキの前に現れたのは、継ぎ接ぎ模様のジン。ブリーフィングではファウンデーションの機体だと言われていたが、ユウキは目を離すことなく睨みつけている。
救護活動を許可されたという連絡は受けている。だというのに動くそぶりすら見せず、ユウキから目を離さない。
怪しすぎる行動だが、これもまた普段のユウキならば無視していただろう。
「
キラの行動は聞いている、動くべきだとは思うがそれよりも問題だと本能が言っている。
細部が違うジン、それも数基並んでおり外観からの情報を脳内の知識にあてがい整理していく。使われているパーツ、武装、それらを見てユウキの頭に浮かんだのは何かを覆い隠す継ぎはぎの布────────
「キラを…………止めます」
「我々もお手伝いします」
せん妄状態か反逆、と言われ否定したが現在は作戦行動中。すぐにでも動かなければいけないが、コンパスのメンバーは戦闘中であり動けない。ゆえに、
「……………………お願いします」
「ヤマト隊長への攻撃を許可するということでよろしいですね?」
もし仮に彼女がいればどう答えるだろうか、謝れば許してくれるだろうか、いや彼女ならきっと、
「はい」
ラクスから目を離し、前を向くオルフェの口元が歪んだ。
「待ってくれ総裁! もう少しでこっちの手も空く! そうしたら───こっ──が───なん───が─」
自分が止めに行くと言いかけたハイネの言葉がノイズでかき消された。
「NJダズラーによるジャミングです。これはまだ実用化には至っていない量子スパッタリングの制御をどう解決したんだ!?」
「? ……………! ルナマリア機緊急発進! 狙撃用ライフルと通信用スレッドもだ!」
前線にいるアークエンジェルもだが、ファウンデーションで待機していたミレニアム内でもその現象は確認されており、手段について疑問を抱くハインライン。報告ではなく自問自答とでも言うべき言葉を聞いたコノエも、何か気づいたのか珍しく焦ったように指示を飛ばす。
「作戦開始だ」
フリーダムを追いかけるブラックナイツスコードと、周囲を随伴する無人機へと改良された特徴的な頭部になっているディン-Rにジン-R。
シュラの合図と同時に、装備されている遠距離装備をフリーダムへ向けて一斉に撃ちだした。
「くぅ!?」
レーザーによるロックオンアラートが鳴り響くと同時に接近する黒い影、辛うじて致命傷は避けたものの、ビームライフルなどの武装を切り落とされその隙にミサイルの集中砲火を受けたフリーダム。
片翼を失いがらも不時着し、すぐに態勢を整えることができたのは流石と言えるだろうか。
「ブラックナイツ!? なんでっ!」
「なんで? 周りを見てみろよ」
「ごめんねェ! ラクス姫もうアンタいらないってさ!」
キラが振り返れば背後からシュラの乗るシヴァ、グリフィンとリデラートの乗るルドラがフリーダムの周囲を囲んでいた。ここから分かる相手の返答は1つ。
「お前を殺す」
シュラの言葉を引き金にタイミングをずらしながら襲いかかるブラックナイツ。四方八方からの攻撃にキラも反撃しようとするが、地に足のついたフリーダムでは鳥のように上空からの攻撃には対処しきれずバランスを崩し隙を見せてしまう。
「しまっ」
そこを再びミサイルキャリアとして随伴していたディン-Rの攻撃を受け、フリーダムは爆炎の中に閉じ込められた。
「俺はキラの援護にいく、ユウキの方は頼んだぞ」
一話で進みたいところと文字数とで端折ってるところが多くてやきもきしてます。書き終えたら全部直したい。でも他の小説も書きたいうーん。
闇に堕ちろ効かないんじゃね? と言われてましたが、ちゃんと効きます。NTR耐性がある人でもキラキラした青春ものの前では塵になるでしょう? そういうことです。幸せは奪うために与えるのだとマキマさんから教わりました。
いつも感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございます。最後までお付き合いください。
ひと口メモ
・プラウドディフェンダーとパイスーラクスは出ません(予定)
・書きながら思いつきで展開を変えてるので伏線貼り忘れとか湧いて出てきた設定とかたくさんあります。