読者も参加しそうな勢いで笑いました。
「いかないって……」
マリューの驚きと心配が込められた言葉は、行かないと言ったユウキに届いた。
思いがけない人物の予想だにしない言葉に、会議室にいた全員が視線を向ける。
「別に問題ないだろ、おれがいなくても」
本来ならあり得ない言葉、信頼ではない自分を不必要だと言い切るそこにあるのは、
「アンタ何バカな事っ…………⁉︎」
思わず声をあげたフレイが合わせた目に映っていたのは、底のないやみ。
吸い込まれそうなほどに虚な瞳があった。
普段なら言い返すどころか、物理的にも言い負かせる関係であっても手出しができないものに思わず怯む。
アズラエルやデュランダルもどうしたものかと悩み、ハイネやアスランでさえも戸惑う。
説得どころか理由すらも聞き出すことができず部屋から出ようとするユウキに、
「なにバカな事言ってるのさ。ユウキも行くんだよ」
友人が立ち塞がった。
「…………どけよ」
「ヤダね、一緒に行くんだよ」
「どけ」
「何考えてるのか知らないけどユウキも行くんだよ」
「3度目だ、どけ」
「何回言おうがダメだよ」
別人と言えるほどに違う雰囲気を纏う友人に、いつも通りの態度で答えるキラ。
「理由も言わずに居なくなって良いわけないだろ」
「どけ」
「言えないなら言えないって言いなよ」
「どけ」
「言わないんじゃない、言えないんだ。ユウキは弱いから」
「っ!」
冷めていた血が一瞬で沸き上がる。
突き出された拳を軽やかに避け、空いた顔にカウンターを合わせる。
「なっ!」
「ちょっと!」
まさかここまでするとは思わなかったのだろう。見守っていた一部のメンバーが驚きの声をあげるが、2人には聞こえない。
「ユウキがボクに勝てるわけないだろ」
「…………ぺっ」
口の中を切ったのか、血が混じった唾を吐き出し勢いをつけて殴りかかるユウキ。
右ストレートに左ジャブ、顔を狙ってきた蹴りをスウェーバックで躱しすとすぐさまキラは攻勢に出る。
左フックを脇を締めて防ぎ、右ジャブを叩くも左の前蹴りがユウキの腹部に入り思わずえずく。
「ユウキさん! キラさんもやめ「シン」なんだよアスラン‼︎」
よく見るケンカではない、戦闘と言えるやり取りに止めようと駆け出しかけたシンをアスランが止める。
「ダメだ」
「っ…………チッ‼︎」
うるさいと言わんばかりに噛みつこうとするが、腕を組んで見守っているアスランのひと言に舌打ちするが割り込む事はしない。
震えながらも握り込まれている拳を見て、ヒルダは鼻を鳴らしてバカな事をしている2人を見る。
わざとなのか動かせないのか、足をほぼ動かさず殴り合っている。
「っこの!」
「ぐっ、あァ‼︎」
言葉もなく最初の頃に見かけた技術の応酬もなく、ただ殴りあうだけの2人は顔や腕に痣ができ始めている。
「さっさと、退けってんだよ!」
らしくない大振りの拳、避けるか防がれると思われたそれは、真っ直ぐにキラの顔へ辿り着いた。
「っ、ぉの‼︎」
誰が見ても分かるチャンスに、顔に入った拳ごと押し除けるように身体を起こし、同じように全体重を乗せた大振りの拳がユウキを殴り飛ばした。
大の字になって床に寝転がるユウキを、乱れた息をはひと息に吐いて整えたキラが見下ろす。
「ふぅ………………ねぇ、なんで嫌なのさ」
たった今まで殴り合いのケンカをしていたとは思えないほどに優しい声。
「………………言わないならいいけどさ、自分のせいだって思ってる?」
「!」
キラの言葉にまさか、と視線がユウキに集まるが無言である。ただその沈黙は肯定だと全員が分かった。
「ラクスがさらわれた事…………いや巻き込んだことかな。昔っからそうだよね、自分がやれば良いって思ってる」
返事はない。
「誰も、ユウキが悪いだなんて思ってないよ。だから「それでも」……」
ポツリと吐かれた言葉は誰に向けてなのか、天井を見上げたままやっと感情が込められた言葉が出てきた。
「それでも……おれが巻き込んだ。おれが弱いせいで」
これまで誰も聞いたことのないような弱々しい声、吹けば消えてしまうような掠れた声が少しづつ吐き出されていく。
「おれなんてたまたま生き残っただけの人殺しだ…………それでも誰かが戦わなくて良いなら、けど」
偶然、でもないが今この会議室にいるメンバーは全員ユウキの過去を知っている。本人がずっと悩み続けている事も、でもそれだけだ。そこまでしか知らない。
「戦っても誰かが巻き込まれていく。戦わなくて良かった人が、おれが原因で戦場に来る」
誰のことを言っているのか、自分たちの事だと気がついた兄が目を見開いた。
「ならせめて…………戦うことしかできないなら、戦場で勝つだけでも……だけど負けた。ラクスを、大勢を巻き込んで、終わった」
全員が腑に落ちた。
このちっぽけな少年はずっと責任を感じていた。
誰かのために戦い続けて関わった相手に申し訳ないと思って、せめて巻き込んだ責任として死なせないように、これ以上関わらせないようにずっとひとりで。
「戦うこともできないなら、こんな役立たずは置いて「うるさい」……キラ?」
ボロボロと吐き出される言葉を遮り、倒れたままの友人に近づいていく。
「そんな事みんな知ってる」
ヘリオポリスが崩壊した時から、
「…………尚更だろ、こんな奴ほっといて」
「いやだ」
出会った時から、
「─────戦うことしかできないのに、負けたやつなんてし「うるさい!」」
ユウキ・イチノセが戦いに向いてない優しい人だなんてみんな知っている。
「大切な、友だちの悪口を言うな‼︎」
胸ぐらを掴み、額がぶつかるほどの距離で叫ばれた言葉。それは昔からずっと心の奥底で蓋をしてたユウキの心をぐらつかせた。
そっと床に寝かせて離れていく友人の目元は少し光っている。
「…………なぁ」
「なにさ」
「おれ……………………生きてて良いかな」
「当然でしょ、何バカなこと言ってるんだよ」
背中を見せながらはき捨てるキラを見てトールは笑う。
「別にさ、ユウキだけに任せたりとか恨んだりとか…………無いこともないけど、戦いたくないっていうならしょうがねぇかなとは思うよ」
「そうね…………出会った時からユウキ君に頼りっぱなしでごめんなさいね」
少し言い淀みながらも話すトールに、マリューも出会った頃を思い出しながら続く。
「貴方が伝えてくれた技術はオーブの人たちを救ってくれたわ」
あとこの場にいないテストパイロットに関しては、エリカは言わないでいた。
「あ、あの! オレはその、上手く言えないけど、ユウキさんが助けてくれた事にずっと感謝しています‼︎ マユもそうです! 巻き込んだなんて言わないでください! 頼りないですけど、力になりますから‼︎」
不器用なりに自分の気持ちを真っ直ぐに伝える シン。
「あー1度しか言わないのデ」
柄でもないと自覚した上で前置きし咳払いを挟む。
「キミがいなければボクも彼らも、彼女たちも居ませン。誇らなくていイ、けど忘れないでくださイ」
居なければ、ここに立っていない。そんな確信がアズラエルにはある。
「ふむ…………ラウが気にいるはずだ」
周りを見たデュランダルもまた納得したかのように頷く。
「キミの適性はそこでない。だが、超えて得たものはあるだろう。彼女を迎えに行くのは君以外にはいない」
遺伝子、という絶対の指針から解放された研究者も微笑んで言葉を送る。
「隊長命令なんて使わねぇよ、こい」
不敵に笑うハイネ。
「ラクス様の迎えには不本意だがいるんだよ。あの2人だってお前との訓練のおかげで生きてる」
「いらないなんて言わないでください。ボクにとっては大切なんです……命の恩人ですから」
違和感の無いよう付け加えられたニコルの言葉に、思うことはあったが何も言わなかったフレイもいつも通りに続く。
「1人で勝手に抱えて悩みこんで、だからバカなのよ」
呆れなのか安心なのか、ほっと息を吐いた。
「お疲れなら一緒に遊びます? なーんて」
おちゃらけたメイリンもまた笑顔で声をかける。
「…………まだ寝てるっていうなら、今度は俺が相手になるぞ」
真剣な目つきで前に出てくるアスラン。このまま燻るというのならきっと言葉通りにするだろう。
自分の腕で隠された視界では、笑顔で料理と共に迎えてくれた桃色の髪の少女。
「……………」
顔を隠していた腕とは反対の腕を無言のまま上に伸ばし、友人が掴んで引き起こす。
「…………行くぞ」
元通りに、いや少しだけ大人びた表情の悪友をキラが、全員が笑って迎える。
「ごめんな…………ラクス、すぐに行く」
喝を入れるのはここではキラの役目、他にできる奴いないですからね。
さてバカの悩みですが、キラと違うのは戦うこと自体は忌避してません。その分巻き込むのが嫌でしたが、ラクスもくるしシンやキラもいるしで勝手に抱え込んでいました。戦いにしか居場所がないのに負けたから自分に価値が無いと落ち込んでました。
大人組は申し訳なさと子供っぽさの安渡、同年代はそんな事だけど気づけなかったな。というちょっと曇り気合が入ってます。
いつも感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございます。最後までお付き合いください。
ひと口メモ
・もし最初からヘリオポリスなんかの生まれなら、キラ以上に大人しく無口で研究者とか教師になってます。
・普段の騒がしさはシキの影響で作り上げた仮面と素が混ざってます。
・シキとミサキは気づいていましたが、親という立場では何もできなかったので見守ってました。成長には親元から離れないとね。