「パイロットが手を大事にしなくてどうする」
二人がいるのはナタルの自室、副艦長用の他よりも豪華な部屋、にもかかわらず私物はそれほど置かれていない。
「別に大丈夫ですけど」
「なら医務室に行け、それが嫌ならさっさと手を出せ」
ムスッとしたまま無言になりベッドに座り手を差し出すユウキ。 医務室に行けば最近よく顔を出しているフレイと出会うかもしれない、そう考えていたユウキが行くことはない。そんな様子を見たナタルは救急箱を用意してガーゼや消毒液などを取り出すと、教科書通りの丁寧な手当てをする。
「貴様、あのままだと頭も打ち付けるところだっただろう」
「………………」
図星だったので何も言わない。手際よく、ではないが丁寧に処理されて行く様子を無言で見続けた。
「………しばらくここにいろ、今の貴様は目を離せん」
手当も終わり道具を片付けるナタルを見て腰をあげようとしたユウキだがそのまま押し戻される。何か言おうとするも有無を言わせぬ目つきで睨まれ、不貞腐れた顔をして横になった。その様子を見て机に向かうと書類などを取り出した。
そのまましばらくの間、ペンの走る音が響く以外には何も無く、静かな時間が過ぎた。
「はい、ナタルです」
部屋に通信を告げる音が鳴った。
『ナタル? 戦闘被害の把握も終わって間もなく先遣隊との合流が始まるの、この先についての相談もあるし来て欲しいのだけど』
「分かりました、すぐに向かいます」
聞こえたのはマリューの声、つい今の今まで戦闘をしていたのが嘘みたいな穏やかな時間が流れていたが離れた場所では未だにクルーゼたちがいる。そのことを忘れないよう再び気を引き締めると、置いておいた軍帽を被りなおした。
「………………聞いていただろう、間もなく先遣隊との合流が始まる」
「………………………」
独り言のようにつぶやくが、聞くことができるのはひとりしかいない。
「未だザフトの戦艦は近くにいる、戦闘になれば呼ぶぞ」
「………………」
「それと」
真面目な軍人の鑑のように冷静な言葉。聞いていた本人はピクリとも動かない。
「………向こうの艦隊には脱出用の船もある。………………………………………………移動のためにも出入りは多くなるが、一隻くらい数が合わなくてもすぐに分かることはない」
その言葉を残して部屋の主はいなくなった。残された怪我人は不器用に巻かれた包帯を見て起き上がった。
「パパ!」
「フレイ!」
アークエンジェルではコープマン率いる先遣隊との合流が始まり、アルスター親子は感動の再会をしていた。お互いに何があったのか、ケガはなかったのかを確認し合い無事を喜んでいた。
通りかかったキラはその様子を見て少しだけ胸のモヤモヤが晴れた。未だに会えない悪友、ラクスもどこにいるのか分からず地に足つかない浮いた状態でストライクの整備をしていたのだが、少しだけ頑張った甲斐があったと誰かを助けることができたと、そう思えた。
「ん、彼は? 友人かね?」
そして、
「そうよ、さっきパパを助けてくれてたモビルスーツに乗ってたの」
「モビルスーツに? ………もしやキミは、コーディネイターなのかな?」
「あ、はい。そうです」
人の悪意は平和の中でこそ際立つ。
「パパ!? 何をしてるのっ!?」
「下がっていなさいフレイ、助けてくれたとはいえコーディネイターに近寄ってはいけない」
感動の再会が一転、不穏な空気が流れ始めた。
汚らわしいものを見る目つきでキラを睨むジョージ・アルスター。庇うように後ろへフレイを下がらせると、近くにいたブルーコスモスの私兵を呼び出す。手に持っていた銃口がすべてキラへと向けられた。
「えっ、なんで、ボクはなにも」
「そうよパパ! キラが何をしたって言うのよ!」
突然のことに戸惑い何もできないキラを助けようとするが、紛れもない自分の父親が壁となる。そのせいで強引に割り込むこともできず騒ぐことしかできない。
「コーディネイターだからだ」
簡潔なひと言に騒いでいた二人が固まった。分かってはいたつもりだった、だが知ることはなかった戦争の根幹。敵が憎いという人を殺すほどの感情を二人は初めて浴びたのだ。
固まったキラの両腕を掴もうと私兵が手を伸ばした時、
「何してんだテメェら」
「ユウキ!」
怒りに満ちた表情をする友人が立っていた。
「キミも娘の友人かね? 今は取り込んでいるのでまたあとで礼を「うるせぇ」ん?」
穏やかな顔をしているジョージに向かってずかずかと進みだす。途中にいた私兵も間に割り込んで止めようとするが、ギロリと睨まれると身体がこわばりユウキの歩みを止められない。
「え、いったい何を?」
「分かってねぇのが問題なんだよ」
近づいてくる少年の顔を見てようやく焦り出すジョージ、しかし何に怒っているのか分からず困惑するばかり。その態度がまたユウキの怒りに火を注いだ。
「ヒィ!?」
振り上げられる拳に悲鳴をあげるジョージ、キラも私兵たちも割り込む暇もなく、
パンッ、と乾いた音が響いた。
誰もが目を見開いて驚くなか、顔の前に手をかざして目をつぶっていたジョージ。しかしなにも起こらず薄っすらと目を開くと、そこには手を振り切った娘がいた。
その先に赤くなった頬の少年がいる。
「バカ! 日頃のお礼よっ!」
「いまかよっ!」
「隙見せたからしょうがないでしょ! ほら、行くわよキラっ! あんた達もどいて‼ わたしのボディガードなんだから近寄らないの!」
自分が見たことの無い剣幕で少年に怒鳴る娘、何が何やら分からないままコーディネイターの少年を連れてどこかへと消えていった。
「チッ、おら邪魔だ。どけよ」
ひとり残った少年も銃を持った私兵を相手に睨みつけながら出ていった。
取り残されたブルーコスモスたちは、騒ぎを聞きつけてきたコープマンによってアークエンジェルから追い出されて行った。その時、俯いたままなぜ、と呟く父親がいたらしいが気にするところではない。
命をかけて守ってくれた少年を守る、ただそれだけのことをするのに相手は味方だった。そんなチグハグなことが起きてしまう。
「フレイ、もう大丈夫だから」
少し離れた場所でキラは自分の手を引くフレイに声をかける。ずっと手を握ったまま前を歩き、すれ違う人の誰もが顔を背けて道を譲る。どんな顔をしているのか後ろからは分からないが、それでもキラが想像することは難しくなかった。
ようやく歩くのをやめて立ち止まったフレイ。
振り返った少女の目には涙が浮かんでいた。
「分かんないの、パパが言ってることは昔から一緒なのに、何も変わっていないのに、わたし、なんで」
止まることなく溢れていく涙、その理由が何なのか少女が分かるにはまだ若すぎた。同じように慰め方が分からずつられて涙が零れて来たキラも、そっと抱きしめることしかできなかった。落ち着くまでの間、二人はずっとお互いを慰めようと抱きしめ合った。
「………キラ、お願いがあるの」
赤くなった目でキラの目を見つめるフレイ。不思議なことにキラも何を言うのかが分かった。
「ラクスを、助けてあげたい」
「うん、もちろんだよ」
目元をこすり、落ち着いた心と頭が何をするべきなのか答えを出す。
「………ユウキにも手伝ってもらおう」
その名前にぶすっとした顔をするフレイ。ようやくいつも通りの顔が見れたと安心したキラは少し笑った。笑われたことにまた顔をしかめるフレイ、また笑うキラ。いつも通りの学生同士のやり取りがお互いの心を癒した。
「そんなにいや、というか嫌いなの?」
「当然よ! あんなデリカシーなくてバカなことするなんて!」
友人の悪口だが否定出来ることが何もなく、苦笑いで受け流すしかない。それでも元気になった少女を見てまた元気になるキラ。共に友人を助けようと、笑い合いながら歩き出した。
「………………………………ユウキ様?」
「………………」
向かう先では先回りしていた悪友が、ラクスに迫っていた。
うーん、雑になった気がする。ゆるして
オマケ
コープマン「先ほどは助かった、おやこれはセグウェイ? 艦内移動用か、最新鋭の戦艦にもなるとこう言ったものもあるのだな」
お艦「え、えぇ。普段はあまり使わないのですが(ちゃんと片付けておきなさいって言っておいたのに!)」
持ち主「今年度もどうぞよろしく!」