「えぇこちらは問題ないので今のうちに避難を…………さて、慌ただしくなってきたな」
避難指示が出されあわただしくなったオーブで、ひとりのんびりと歩いているサングラスをかけた男。
通話を切った端末の画面にはつなぎ姿の同僚たちが映っている。
友人に誘われて避難ではなく報酬で釣りだされた男は、今頃避難しているであろう恩人の家族と恩人の友人、同僚たちを思いながら案内された場所へ進んでいく。
「共にいけなかったが、任されて残るというもの悪くない」
短命の呪いを受けて生まれたはずの男の足取りは軽い。
オーブ上空にて確認されたのは、プラントで開発されたモビルスーツ専用の大気圏突入ポッド。中にはモビルスーツのみが入っており、そのまま上空から奇襲できるというシンプルなものだが大気圏突入が可能なほどに丈夫であるため撃墜も難しい。とはいえ敵陣の真っただ中に降りるのではなく、攻め込んで確保した領地への増援とするのが通常である。
だが今回現れたのは、
「上空よりモビルスーツ降下ポッド! …………これは、フリーダム⁉」
かつてオーブを守護した伝説の機体と瓜二つな、真っ黒な影が攻め込むために現れた。
「えぇー⁉ 黒いフリーダムって聞いてたやつ⁉ めっちゃ強いじゃん! ミレニアムいないのにどうするのさ‼」
司令部で叫ぶのは報告を聞いたユウナ、かろうじてレクイエムが逸れたというのにモビルスーツによる直接の侵入は正直予想していなかったというのが本音である。
「あ、でっでも数少ないならまだ「降下ポッド追加を確認!」ですよねもー!」
確認されたのはファウンデーション製の無人機とのことだが、流石にオーブへ攻め込むのには数も足りないはず、と油断していたところを引っぱたかれた。
「数が少ないのは事実ですが、避難も満足に進んでおらずこのままでは被害は甚大になります。指示をお出しくださいボンボン」
「いやいやこういう時こそカガリを! っていまボンボンって言った? 作戦行動中の上司にボンボンって言った?」
「早くしなされバカ」
「おいコイツ不敬だぞ!」
ギャーギャー騒ぐユウナを置いておき、モビルスーツ隊の出撃が命じられた。
モニターでムラサメ改が向かってくる様子を黒いフリーダムのパイロット、キラによく似た風貌のパイロットは確認した。
彼らは怨念にも近い執念の元ある科学者によって生み出された。カーボンヒューマンと呼ばれる他者のデータをそのまま他人に移されたクローンの亜種とも呼ばれる技術、より優れた素体により優れた人物情報を上書きすること成功させた。
フラガ、と呼ばれるナチュラル最高峰のデータを移すことに成功した科学者は、より高スペックの人間のデータを求めスーパーコーディネイターへとたどり着いた。
運が良いのか悪いのか、偶然データを持ち合わせて尚且つ実験施設を確保でき、雑兵を求めていた組織と出会えてしまった。
彼らは意思を持たない
ムラサメ改の編隊がセンテンスに向けて攻撃をするも、元になった機体以上の機動力を持って回避するセンテンス。
翼を広げたハイマットフルバーストにより、呆気なく撃ち落とされるムラサメ改の部隊。辛うじて躱し落とされずとも、態勢を崩した隙をあっという間に接近されて切り落とされてしまう。
センテンスが開けた戦線の穴を、無人機であるジン-Rやディン-Rが広げるように進んで行く。
彼らの目標はデュランダルの確保、大まかな場所は既に掴んでおり主力部隊は宇宙へ上がった。後はのんびりと探すだけ、と思われていたが、
「人の留守に土足で踏み込むものではないな」
オーブの森林を踏み歩いていたジン-Rが、白い影が通り過ぎたと同時に崩れ落ちた。
「?」
「…………」
「!」
未確認機の発見にブランクたちが視線を向けた先には、
「ほう、報告にあった黒いフリーダム、そしてスーパーコーディネイターのなりそこないか」
上り行く朝日に照らされる白い機影に、太陽光を反射する両手に持たれた金色の実体剣を構える、この世界において悪魔と呼ばれる唯一の機体、
「むろん彼のクローンというのなら、トイレ掃除もできるのだろう? 見せ給え、評価しようではないか」
バエル・オルフェンが大地を踏みしめてセンテンスを見上げていた。
「甘い」
センテンスの上空からの射撃を地形の陰に隠れながら軽やかに躱す。
「遅い」
射撃が止んだタイミングで別の角度からビームサーベルを振り下ろすも、バエルを捕えることはできない。
「手ぬるい」
海上に出たバエルを追いかけ、フルバーストで狙い撃つも大きく上がった水しぶきに機影が隠れ、探そうとした時、センテンスのすぐ後ろの空間が揺らいだ。
直ぐに振り返るも×の形に振り上げられたバエル・カリバーがセンテンスの翼を切り捨てる。
まだ飛行自体はできるものの、機動力が落ちた相手に止めを刺そうと接近するバエルの背後から狙いをつける影。
直前で急上昇すればバエルがいたはずの場所を、いくつもの攻撃が通り過ぎていく。
「…………まったく、この程度か?」
3対1、機体もパイロットも全ての面においてセンテンス側の有利に違いない。せいぜいが改良されてバッテリー消費の少なくなったステルス装甲を持つという点でしか、バエルにアドバンテージはない。
だというのに、戦場のコントロールはクルーゼが握っていた。
「速く、強く、かしこく、だがそれだけだ」
出会った時と違い、上空から3機のセンテンスを見下ろすバエル。
「人の強みもない、無人機とそう変わらん」
純白の羽を広げ金色の剣を携える様は見る人によっては神とでも騎士とでも言えるだろう。
「生まれに同情しよう、在り方に憐憫を覚えよう。故に」
感情がなく、命令を聞くだけの存在であるブランクたちに恐怖というものはない。命じられ、遂行する。それだけのために生まれたのだから。
「その命を持って学んでいくといい。生みの親たちが恐れた、白い悪魔という恐怖を!」
生まれて初めて、彼らは感情が身体を支配することを感じ取ることができた。
「国際救難チャンネル! オーブからです」
「なんじゃと?」
オルフェが席を外した指令室で、新たな通信が繋がった。
訝しむアウラだが、つなぐ許可を出すよりも早く画面に見覚えのある顔が映し出された。
『やぁ、息災かな? アウラ』
「ギルバート・デュランダル!」
驚きこそあったがその顔はすぐに喜びに満ち溢れていく。
「久しぶりじゃの、遅くなってすまんな」
『なに、今の自分は囚われの身だ。連絡が取れないのも仕方ない』
「そうか…………積もる話もあるが、しばし時間をくれ。もうすぐ迎えが到着する」
全ての人類が適性のままに生きるDP、はじめて聞いた時アウラは何と革新的な計画だと感動した。優秀な人間が、ではなく全ての人間が生まれ持った適性にあった職に就き定められたままに生きる。
優秀な者だけではない、劣等な人間も余すことなく利用できる神のような仕組みだと。
だからこそアウラはアコードを作り、DPによる世界統一を目指したのだ。
『ふむ、迎えというのは外で暴れているものの事かな?』
「そうじゃ、ユーレン・ヒビキの実験結果など使う気もなかったが、利用したいという奴がおっての。試してみれば雑務には丁度良かったのじゃ」
最高峰の才能を与えられたスーパーコーディネイター? そんなものオルフェの劣化に過ぎない。ゆえに世界を統べる存在にはならないが、今回のようにお使いを頼む程度であれば役に立つ。
「かわいい我らの子もおる。最後のピースも手に入れた、後はお主もおれば計画は完璧になる!」
楽しみにしていたプレゼントが手に入ると言わんばかりに眼を輝かるアウラ。拒まれることがないと確信している手を差し出し、ナチュラルの戯言も忘れて胸中は溢れんばかりの幸せに満ちていた。
『まったく、これでは道化だよ。アウラ』
やっと言ってヤッタゼ! な議長。やっぱこれ言わせないとね?
ユウキたちが現在いないので他のキャラも書かないとですが、唐突に出てきた絶望白仮面です。アズラエルと並んでめっちゃ書きやすいです。種や運命よりは短くなると思うんですが、それでも書きたいこと多くてそこそこ長くなりそうです。
いつも感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございます。最後までお付き合いください。
ひと口メモ
・バエル・オルフェンの武器メイスにするか迷った。けどバエルだし剣にすべきだよねってことでバエル・カリバーです。すっごいビームが出るかもしれない、いや刃先が飛ぶすっごい必殺技が出るかもしれない