最近のSNSもそうですよね、でも殴り合ってお互いの好きなものを語り合って仲直りもできるんです。だから人間はすばらしい
最終話です。どうぞ
イメージBGM「ホログラム」from:NICO Touches the Walls
真っ白な世界で揺蕩っているオルフェ。
心地よく、何物にもしばられない穏やかな時間を過ごしていたが、突如雑音が耳に挟まった。
徐々に大きくなっていくそれは流されていく自分を引き留めるものであり、無視していようにも無視できないほどの声に思わず瞼を持ち上げた。
「オルフェ!」
「う…………あぁ…………?」
ぼやけた視界に映るのは自分の顔をのぞき込む誰か、輪郭が判明するよりもはやく相手が誰なのかを把握できた。
「イングリット…………?」
「オルフェ! よかった……!」
涙を流しながら自分を抱きしめるイングリットの向こうには、こちらへ手を差し出すように膝をつく
フリーダムと、原形をとどめて居ない右腕を振りぬいた体勢で固まっているホワイトがいた。
「そうか…………私は負けたのか……………………」
頭部をなくし、大の字で寝転がるカルラの傍で、イングリットの膝の上から見上げる宇宙には満天の星空が浮かんでいた。
「なんだ、起きたか」
聞き覚えのある生意気な声の方向に振り向けば、肩を借りながら歩いてくるナチュラルの姿。
「………………負けたのか」
「そうだよ、俺の勝ちだ」
新人類を自称するアコードが、ナチュラルに負けた。たとえ影響を受けてアコードに近い能力を持ったとしても、いやだからこそアコードの価値はなくなった。
自信を構築するアイデンティティを全て失ったオルフェの顔は、
「負けた感想は?」
「…………………………腹だたしい事この上ないな」
憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
「それで? どうするつもりだ…………命が欲しいというのなら好きにしろ」
思いがけない言葉にイングリットが驚くと、庇うようにオルフェを抱きしめユウキたちに向き合う。
「お願い! 私はどうなってもいいからオルフェだけは「何も言うなイングリット」でも!」
涙交じりに懇願するイングリットの言葉を遮り、静かに自分を打ち負かせた相手を見据える。
「……………………」
「…………分かった」
「っ!」
何も言わずとも瞳から伝わる言葉にユウキは頷く。どうとらえたのか、息を飲むイングリットにチラリとだけ視線を飛ばし、再びオルフェに向かいなおす。
「…………コンパスは常に人手不足だ。バックアップこそあるが、動きやすいよう少数精鋭なスタイルのせいでもある。だから、有能な人材を募集している」
「…………え」
予想していなかった言葉に驚きの声をあげるイングリット。
「給料はいいよ、使う時間がほぼないってだけで……………………あと三食付き。昼寝時間とおやつは自分で確保してね」
微笑みながら肩を貸しながら言葉を引き継ぐキラ。何をいっているのか、何を言いたいのかは分かっている。分かっているからこそ、イングリットは飲み込むことができない。
「大雑把に前線部隊と後衛のサポートに別れるけど、どっちがいい?」
「…………そこにいるバカを殴れる機会は」
「もちろん前線だよ」
「そうか……………………」
これまでに聞いた条件を計算しているのか無言のままでいるオルフェに、看護師のいう事は聞くこと、掃除当番は週交代、機体の整備はパイロット主体ですること、など独自のルールをあげていく2人。
混乱して顔を見比べているイングリットに支えられ、痛む体を強引に動かしながら手を伸ばす。
「世話になる」
「歓迎する」
ボロボロになったまま手をつなぐことで、今回の戦争の幕引きとなった。
もはや恒例となった戦闘終了時に駆け付けたハルバートンによる停戦要請。いの一番に駆け付けようとしたが、ファウンデーションと地球軍の関係は複雑なものであり、すぐに動いてはいけないというアズラエルの指示によるものだった。
辛うじて地球軍管理下のコンパス所属であるドミニオンを向かわせるのが精一杯であったが、有事の際には動くという言葉にアズラエルは頷いていた。
プラントからもラメント議長の指示による正式なザフト部隊が到着し、ケガ人の保護、クーデター部隊の鎮圧に動いていく。
今回の戦争の主犯であるアウラは戦死、故に責任を取らせる立場の人間がいないのだが、クーデターの予兆を掴めなかったプラントと、ミケール大佐確保に協力をしなかったユーラシアの痛み分けという結果で落ち着かせることになった。
「まったく、ケガ人だというのに何をさせるのだこの船は」
「これが恒例行事だからね、数が多いほど尊敬されるんだよ」
「因みにトップは俺だ」
「聞かなくとも分かっている」
戦闘の余波によりめんどくさい後始末が始まるのだが、それはミレニアムも例外ではなく。格納庫では整備員が悲鳴をあげながらオーバーフローしたホワイトをばらし、めんどくさいからカルラのパーツを使うかなどと意見が出始めマードックに叱られた。
ブリッジでも戦闘履歴をどこまで残し、どこを書き直すかをコノエやマリューたちがアーサーを走らせ、どたばたと走り回る部下たちを背後に優雅なコーヒータイムを過ごすアズラエルと打ち合わせている。
「…………いい匂いだな」
「はぁー腹減った…………ぁ」
「何それ、なにやらかしたの」
「いやー…………やらかしたっていうか、やられたっていうか」
「あぁ…………あの件か、無視していいぞキラ・ヤマト」
「え、なになにオルフェは知ってるの? というかキラでいいって」
「断る…………引っ張ってでも連れてこい、そのほうが楽しめる」
「いやにげねぇよ…………にげてぇけど……」
ブラシなどを置いて手を洗った3人が向かうのはミレニアムの食堂。近づくほどにいい匂いが濃くなり、空腹と足が早まっていく。速足から駆け足になり、競争するように走り出す。
扉越しにも聞こえるほど騒がしい声が、彼らを待っている。
「…………少しは貴方に近づけましたか、Uさん」
自分を助けてくれた軍人の墓に刻まれた一文字。ちゃんとした名前こそあるが、家族や仲間からの呼び名で呼んでいいといわれても断り続けた自分の名前の由来。ひどく長い年月がかかったが、初めて呼べた。
理由はなんてことのない、ただ呼ぶだけの勇気がなかっただけ。
尊敬や感謝に悲しみと複雑に積み重なった感情が、なんて言い訳でしかない。
自分のせいで、という思いばかりで自分を縛り付けていた。
「…………お酒を飲んでもいい年齢になったんだ。みんなで飲んでみるんだけど、飲めるかな」
返事が返ってくるはずもないが、タイミングよく吹き抜けた風が答えてくれたように感じられ、堪えるように笑った。
「…………女の子と遊ぶ時ってさ、どうしたらいいんだろ。何もできなくて引っ張りまわされてさ」
こぼれないように空を向くが、じわじわと溢れていくのを止められない。
「妹がね、最近名前を呼んでくれるようになったんだ。知り合いが自分も呼んでほしいってよく遊びに来てさ」
とめどなく溢れる思い出に、口元が歪み嗚咽が混じる。
「すごく楽しくで、ねぇアナタがいてくれだらって、ずっとずっどざ…………」
止めることができないと、とうとう下を向いて全てを吐き散らすように声が出た。
「ありがどう、ございま、ず、おかげで…………ぼぐは、じあわぜに……いきでまず!」
ただひとりの積もりに積もった感謝の言葉が、さわやかの風と共に流されていった。
香ばしい匂い、きっと張り切って作られた料理が並んでいるんだろう。
騒がしい話声、みんなが来て楽しく遊んでいるんだろう。
扉を開けばまっすぐに飛び込んできた妹を抱きかかえ、好き勝手にお祝いの言葉を投げつけられるけど、家に入ったものがいうべき言葉などひとつでしかない。
「ただいま」
人工的にできた種の違いを気にすることなく、人を容易く翻弄する運命を切り開き、自らの意思をもって自由な未来へと歩んでいく。
険しい困難な道であろうと、振り返れば帰る場所があり、その隣には頼りになる悪友たちが並んでいる。
イメージBGM「アカシア」from:BUNP OF CHICKEN
最後まで読んでいただきありがとうございます。
主人公の設定は書きながらのアドリブが大半で、あっちいってこっちいって大変でした。モビルスーツの設定も細かいものは知らないので手伝ってもらったり、なんか知らんけどこれができる! というノリだけで書きました。
細かい感想は活動報告にて
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=346725&uid=235477
感想で突っ込まれたり、補足設定を考えていただいたりとそんないい加減な小説でしたが、皆さんのおかげでここまで続けることができました。
これまで感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございました。またどこかで