「…………戦闘か」
戦闘配備となったミネルバのブリッジ、デュランダルに招かれたカガリとアスランは思うことがあるのか、出撃していくシンのインパルスとルナマリアのザクを迷いのある瞳で見送る。
「ボギー1か…………名はその存在を示すものだが、それが偽りであるのなら存在すらも偽りなのだろうか」
デュランダルが静かに呟いた言葉、ひとり言のようだがそれが自分に向けられたものだとアスランは気が付いた。
偽名であるアレックス・ディノと名乗り……………いやついさっきバカのせいで「ズラじゃない! アスラン・ザラだ!」と暴露してしまったが、今の自分は偽りの存在なのだろうか。
少なくとも普段と想像できないほどに名は体を表しているバカもいるが、存在は隠蔽、いや改変されている。
自分もカナーバ前議長の計らいでオーブの警護に就いているものの、これでいいのだろうかと考えた夜は数え切れない。
そんな出口のない思考の渦にとらわれかけた時、船体が大きく揺れた。
「っ! 何がおきた!」
ボギー1との戦闘中、相手からの誘導に引っかかり宇宙を漂流する小惑星の隙間に挟まれ足を止められたミネルバ。
残っていたレイがザクで出撃するも、クラシックの旋律を流すネオのダガーWによって足止めを喰らっている。
追いかけていたはずのボギー1によって逆に追い詰められた中、
「モビルスーツはないのか!」
「パイロットがいません!」
そのやりとりを聞いてアスランの心が激しく掻き立てられる。
今の自分はオーブ代表のアレックスであり、アスラン・ザラではない。
ザフトのモビルスーツを操る資格はない、しかしその技術は、隣にいる愛する人物の顔を見て答えを出そうとした時、
懐に入れておいた携帯端末が震えた。
「ユウキ⁉」
船内にいるはずだが、わざわざこんな遠回りな方法で連絡をしてきたことに警戒しながらも通話に出ると、
『よう、揺れたけど大丈夫か?』
「…………っ!」
『必要なら俺が出るけど』
これまでの付き合いからして勝手に出撃してもおかしくないというのに、そんなことをせずこのタイミングでの連絡、未来が分かるのかと思ってしまうほどの先読み。
その裏側に隠されている気づかい。
アスラン・ザラはそれを鼻で笑い飛ばす。
「そんなものはいらない、揺れるからあの子をしっかりと守っておけ!」
『あいよー』
通話を切ると前のめりになり声をはりあげた。
「現在生きているスラスターの数、使える砲塔は⁉」
「あなた何を」
「いいから早く! このままじゃ狙い撃ちだ‼」
勢いに押され答えるタリア、そこから導き出した答えは、
「まさか撃ちだした勢いをそのまま脱出するとは、先の大戦の経験は伊達ではないね」
デュランダルに宛がわれた部屋にて集合したタリア、アーサー、アスラン、カガリ。
うんうんと頷くアーサーだがもっといい案があったかもしれないと謙遜するアスランをデュランダルは褒めた。
「本艦はこれ以上の追撃は不可能と考え、プラントへと戻ろうと思います」
タリアの言う通り半ば自爆にも近い脱出、初陣による経験値の低さが船のダメージとなっていた。
「お2人には戻るまでもうしばらくお時間をいただくのと、情報の共有を改めてしようかと思いまして」
「…………白いモビルスーツ」
デュランダルが神妙に頷くのと部屋の扉が開いたのは同時だった。
「お、どうしたどうした揃いもそろって」
「ちょうどいい、キミ達にも聞いておいてもらいたい」
入ってきたのは報告に来たシン、ルナマリア、レイのパイロットたち、それとこの部屋に向かってくる途中で出会ったユウキとマユ。
デュランダルは立ち並ぶ顔ぶれを見て改めて姿勢を整えると、まずはレイに顔を向けた。
「あの白い翼のモビルスーツ、最初に接敵したのはレイ、君だね?」
「はい」
伝えられる相手の詳細、白い翼から繰り出されたドラグーン、そしてふざけているようにも思える戦闘中の鳴り響く音楽。それらはザフトにとって都市伝説のように扱われるも、生き残っている兵士たちからは事実だと伝えられている存在。
「白い悪魔、の可能性は充分かと」
「え、えぇ⁉ あの、白い悪魔ですかっ⁉」
アーサーの驚く声にいつもなら視線でたしなめるタリアも難しい顔をする。
ザフトの赤服であるエースたちが束になってもかなわず、自分たちをあざ笑うかのようにふざけた戦法で甚大な被害を加えたという謎のモビルスーツ。
地球軍かと思われていたが、ヤキン・ドゥーエではラクス・クラインの下で戦っていたという話もあり、その後存在を確認できずどこかで朽ち果てたとされていた。
どの陣営なのかも怪しく、パイロットもコーディネイターなのではないだろうかと言われる謎の存在。
それが再び現れたことにザフトのメンバーは誰しもが顔をしかめた。
「な、なんですって! 白い悪魔がいたんですか!」
「そうだ、と言い切るには尚早かもしれないが可能性は高い」
マユの隣に立っていたユウキも驚き大袈裟に声をあげる。
「そんなやつがまた現れたら、ど、どうしましょうか」
「今すぐ襲ってくる、ということはないでしょう。お2人は何か気づかれたことはありませんか?」
不安そうなユウキを落ち着かせるように話すデュランダル。その視線は先ほどの指示も的確であった、戦闘の経験であればシンたちの赤服のメンバーよりも豊富なカガリとアスラン。
「…………自分は分からないです」
「……………………同じく」
何故か顔を逸らしているが肩を震わせているあたり何か思うことがあるのだろう。
わざわざ掘り起こすこともないとこの先ミネルバの修理、迎えが来るまでの間待機という話で終わろうとしたのだが、
「…………違いますよ」
「シン?」
ひとり俯いていたシンがぼそりと呟いた。
「あの機体は…………違いますよ!」
顔をあげて力強く叫ぶ、しかし全員の注目が自分に集まっていることに気が付くと小さく謝って部屋を後にした。
「ちょ、シン! どうしたのよ!」
「…………失礼します」
慌てて後を追いかけるルナマリアに敬礼をして部屋を出ていくレイ。
その様子に謝罪をするタリアだがデュランダルは微笑んで流し、カガリも無礼な態度よりもあの行動に疑問が浮かび気にすることはなかった。
「…………議長、彼はいったい」
「あぁシン・アスカ、彼の家族はオーブからの移住者でしてね」
「!」
「……もしや」
「想像通りだよ」
アスランの疑問から出てきた答えは2人を驚かせる。
もちろんどこに住むのかなど個人の自由だが、オーブが攻め込まれた時に戦争に巻き込まれたくないと他の国へ移住したものもいる。
その際にオーブの技術者も他国へ渡り、帰ってくるものもいればその腕を活かしてその国で生活している者たちもいる。
カガリたちがプラントへお忍びで来た理由もそのひとつなのだが、当人たちからすれば生きるために働いているに過ぎなく。無理やり帰ってこいとも言えないが技術の流出も問題である。
「白い悪魔…………噂が多すぎてもはや何が真実なのかは不明だが、その中のひとつにあるでしょう。地球軍の下を去り、オーブを守ろうとしたという逸話が」
無言で話を聞くも少しでている反応をどう取らえたのか、面白そうに笑い話を続ける。
「彼は、シン・アスカとその家族は助けられたらしいのですよ。迫りくるミサイルの中、白い悪魔に」
「…………だから、ザフトではいろいろ言われてるけど俺は……………………」
少し離れた休憩室で静かに話すシン、その傍らでは神妙な顔で話を聞くルナマリアにレイがいた。
「そうだったの…………」
「議長は………………敵かもしれないって言ってたけど、いや戦ったけど…………」
自分を、家族を助けてくれた存在がいま、今度は敵として立ちふさがっている。
現状に頭を悩ますもルナマリアには欠ける言葉が見つからない。
「…………白い悪魔はあくまで噂だ。正体は不明、生きているのかも分からない」
「レイ!」
「そして同一人物なのか別人かは分からないが、俺たちと戦闘になったのも、プラントを襲ったのも事実だ」
「ちょっと! 待ちなさいって!」
慰めるのかと思いきやルナマリアの静止も止めず、淡々と真っすぐに現実を突きつけるレイ。
項垂れていたシンの握っていた拳に力が籠る。
「ならばお前は撃たれるのか? 自分の恩人だからと言って」
「レイってば!」
「そんなこと!」
「ならば戦え」
「⁉」
顔をあげたシンに向かってあるいてくるレイ。その表情は普段と変わらず、冷静でありながらもどこか熱を持っているようだった。
「相手は悪魔だ。人助けをするかもしれないが命を奪い、暴れている。撃つしかない」
「っ! で、でも!」
「さもなくば、死ぬぞ」
間違いのない言葉。
戦場では一瞬の油断が命取りとなる。
実践を経てその身に刻まれた現実がシンの心を悩ませる。
恩人ではある。しかし敵でもある。なら次に会った時に自分は「あ、いたいた」
「え」
「悪いな、マユちゃんから聞いた。オーブで助けられたんだってな」
「あ、はい」
現れたのはユウキ、マユの恩人であり所属組織は違うものの話しやすい相手だ。
おちゃらけたふざけた陽気な人だと思っていたが、今はなぜか優しい眼で自分を見ている。
「あ、あの」
何故か差し出された手を立ち上がって握る。
あいさつはしているし、改めてというにはタイミングがおかしい。
差し出した手は両手で握られ、しっかりと少し痛いほどに包まれた。
「いっ⁉ あの! ちょっといた」
「…………生きていてくれて、ありがとう」
握られた両手を、祈るように額をつけてお礼を言われた。
外から見ていた2人と同様に何も分からなかったが、心の底から出てきた言葉なのだとシンだけが気が付いた。
痛いほどに握りしめられた両手から、その思いは少年に伝わる。
「ユウキさん、お兄ちゃんいました?」
「あぁ、見つかったよありがとう」
休憩室に入ってきたマユに顔をあげてお礼を言うユウキ。
もし仮によく知る相手がいたら気が付いただろう、珍しく今にも泣き出しそうな表情であったと。
運命を書くにあたり、書いておきたかったワンシーンです。
バカもバカ成りに思うことがあったんですね。それに気がついているのは何人いるのか不明ですけど。
そして申し訳ありませんが、しばらくトイレ掃除はないです。いや求められすぎて作者困惑ですよ。