前回が短かったので今回ちょっと頑張りました。バカのトイレ掃除はまだ先です。
「大西洋連邦との条約、プラント………………」
明るい日差しが照らす中、ひとりきりのオーブ代表執務室で頭を抱えるカガリ。
国の事を思えば条約を結ぶべき、しかし国の理念としては条約は結ぶべきではない。
かと言ってプラントの味方をすれば大西洋連邦との対立は免れない。
どう選んでも他国との衝突が目に見えている状況、それだけでなく通常の業務もありこればかりにかまけていることはできない。
国の方針か、それとも。
間違っても二十歳にすらなっていない少女が悩むことではないのだが、カガリ以外が担えば崩壊も遅くないだろう。そんな危うい状況となっているオーブ。
そしてまた、新たな悩みが生まれる。
着信音が鳴り、画面を見ればユウナの文字。
「わたしだ。どうかしたか?」
『あの…………ね、ちょっとね?』
「なにもないなら切るぞ。執務中だ」
通話に出れば煮え切らない婚約者の声、流石にくだらない事ではないだろうが、前例があるので通話を切ろうとするのをどうにか堪える。
『いやいやちゃんと真面目な話! なんだけど、その』
質の悪い嘘をつく相手ではない。真面目な話というのならその通りだろう。だが口ごもるというのはどういうことだろうか。
『えーっと、まず領海の向こう側に大西洋連邦の軍がいます』
「なんだとっ⁉」
慌ててパソコンを操作すれば、確かにオーブの領海付近で並んでいる大西洋連邦の戦艦がモニターに映し出されている。
それだけでも驚きだが、展開されている戦艦たちに向かって突き進む一隻の船。
「ミネルバ⁉ どういうことだユウナ!」
『そのことなんだけど、どうも親父たちが条約を結ぶために情報を』
「すぐに行く‼」
執務室を飛び出しオーブ軍指令部へ走り出すカガリ。
様々な疑問が頭に浮かぶが、気にすることなく走り出していく。手に持ったままの端末から響く声にうるさいと思いながらも耳に当てる。
「なんだっ!」
『も、もう一個あってだね』
「後で聞く!」
『いや大事! 結構大事なことなので聞いて‼』
「っさっさと言え!」
走りながらも叫びあうように会話をする2人。
軍司令部の隅で叫ぶユウナは何をしているんだ、という目で見られているが、気にすることなく設置されている機器を操作する。
『ミネルバの出港直前にバイクの無断侵入があった。確認したところミネルバに飛び乗ったらしい』
モニターでは警備が慌てながらも止めようとするが、相手の行動を先読みするかのように軽やかに躱していくドライバー。
船着き場を飛び出し海に落ちるバイク、足場としてさらに飛び上がりミネルバへと着地する侵入者は、ヘルメットを取ると笑顔で手を振った。
それはユウナもオーブ軍も見覚えのある人物。
『ユウキが………………ミネルバに乗った』
思わず足が止まり絶句するが、飲み込めた情報をもとにカガリが出した言葉は、
「あのっ、バカ‼」
「ふん、アレがザフトの新造艦か」
オーブを、いやミネルバを取り囲む大西洋連邦の戦艦。モニターに映るその憎き艦を睨みつける将校は、大声で指示を飛ばした。
「モビルスーツ隊出撃! あのコーディネイターの船を沈めてしまえ!」
「来たわね」
ミネルバのブリッジにて、オーブの手土産にされたのだろうと推察したタリア。怨もうにもお礼をいう若き代表、クルーへの慰安を兼ねた食事会を開いた氏族、若い女性とやっかみを受ける自分を受けとめてくれた女性の技術者。
難しい政治の関係でこじれてしまったが、感謝こそすれど怨むのは筋違いだと分かっている。
ならば、自分ができるのはひとりの軍人として、一隻の艦長として、この危機を乗り越えるのみ。
「コンディションレッド発令! シンは遊撃、レイとルナマリアは艦の護衛を!」
戦闘準備で慌ただしくなるミネルバ。
オペレーターのメイリンの声が艦内に響き、順次発信していくモビルスーツたち、なのだが。
「四機目? 誰が乗ってるの!」
予定にない新たな機体、それはプラントを出た時に偶然乗り合わせた白いゲイツ。
混乱するブリッジだが、タリアの指示にて通信をつないだゲイツのコクピットには、見覚えのある青年が赤服用のパイロットスーツを着ていた。
「⁉ あなた! なぜ⁉」
『あ、許可は取ってるんで大丈夫です』
何が大丈夫なのか、何故いるのか、聞きたいことは山ほどあるが時間がない。どうにか選んだタリアの聞きたい言葉は、
「相手は大西洋連邦よ! ブルーピリオドのあなたが何でっ‼」
ブルーピリオドは軍隊ではない。
ないが、その立場は大西洋連邦、ひいては地球軍と深くかかわりがある。もし戦闘をすれば、裏切り者として認識されてもおかしくはない。
関わりこそ薄いが、話に聞けばシンたちと深く交流をしていたらしい。
その気づかいが軍人としてなのか、それとも母親としてのものなのか、タリア本人にも分かるよしもないが言葉を受け止めたパイロットは、世話になった副艦長を思い出した。
『地球を守ってくれた相手を助けたい、他に理由がいります?』
呆気にとられたブリッジのメンバー、一瞬だけ緩んだ空気は飛来してきたミサイルの爆発によって引き戻される。
「くっ…………いいのね?」
『もちろん』
「ミネルバ後方にて援護を! 発進を許可します!」
『了解』
タリアの許可を得て正式に発進シークエンスに移るゲイツ。
『カタパルト展開。ゲイツ、発進どうぞ!』
普段よりも気持ち元気なメイリンの声が響く。
「ユウキ・イチノセ、ゲイツ、出撃する!」
ミネルバから飛び出ると同時に、ビームライフルを構えて狙い撃つ。
空を覆うウィンダムが発射されたビームから躱そうとするが、見事に腕や足、大気圏内で飛行できるジェットストライカーを撃ちぬいた。
無重力のようにはいかないが、それでも軽やかに、振動も少なくミネルバの後甲板へ着地する。
「すごい…………」
「…………」
「うそでしょ⁉」
ただそれだけの動きでザフトの若きエース、赤服たちは感嘆の息をもらした。
「えぇ⁉ 旧型のゲイツであんな動きを⁉」
「気を引き締めなさい! 戦いはこれからよ!」
副艦長アーサーも大袈裟ともいえる反応をするが、普段なら叱るタリアも驚き注意が一瞬遅れた。
ブルーピリオド所属であり盟主ムルタ・アズラエルの秘蔵っ子、と議長は言っていたがそれも信じられる。いや、それ以上の何かがあるのでは? と思ってしまった。
しかし現在は戦闘中、気を引き締め直し今はただ戦力が増えたことを喜び、この戦場を切り抜けることに集中するだけだ。
「このぉ!」
現状、ミネルバの戦力は万全とはいいがたい。
その理由は大気圏内での飛行、制空権が弱いところにある。
高機動であるフォースを装備したインパルスが暴れているが、ウィンダムより性能は上、しかし数の前ではエネルギーと体力を普段以上に削られていく。
そんなヘイトを稼ぐインパルスに、追撃するように現れたのは地球軍の新たなるモビルアーマー、ザムザザー。
ミネルバの手法であるタンホイザーを受け止めた防御力に、近距離、遠距離に対応できる高火力装備。
シンもフォースの機動性を活かして立ち回るが、決定打を撃ち込む隙間はなく時間とエネルギーだけが減っていく。
「インパルスの援護は⁉」
「こっちも防衛で手が離せん!」
ルナマリアとレイもザムザザーの厄介さを理解しているが、援護にまわるほどの余裕はない。
「! 艦長! オーブの艦隊が‼」
そこへ畳みかけるように領海付近で見張っていたオーブ軍が、その砲口を向けている。
「ユウナ! これはどういうことだ!」
「見ての通りさ。この先条約を結ぶ相手への協力だよ」
オーブ軍司令部で騒ぐカガリとすました顔で受け流すユウナ。
個による性能差はあれど、圧倒的な間での数の暴力。
だれが見てもどちらが有利なのかは明白だった。
「い、いますぐ「ミネルバを戻すのは無理だよ」ユウナッ⁉」
隣で静かに呟くユウナは戦闘が映し出されているモニターから眼を離さない。
「援護するのもだ。まだとはいえ大西洋連邦と条約を結ぶのはほぼ確定、下手をするとこっちが目標になる。それにこの国の理念はカガリが一番知っているだろ?」
叫んでいた言葉が詰まるカガリ。
何よりもその理念を大事にしているからこそ、恩人でもあるミネルバを助けることができない。
俯いている少女の横でユウナは指示を飛ばした。
「じゃ、条約を結ぶ相手の手助けでもしようか。好きに撃っちゃって」
「こういうのって恩知らず、って言うんだよなぁ。まぁ好きにやれとのご命令だ。好きにやるぞ、撃ち方よぉーい‼」
「艦長! オーブ軍が!」
「レイに対応させて!」
『艦長!』
後ろからも向けられた砲口に焦るミネルバだが、そこへ割り込む新入りの声。
『無視していい! シン! 隙を作るからソイツを堕とせ!』
「なにをっ⁉」
「っ、はい!」
腹に響く爆発の音がこだまする。
領海内から発射されたオーブの砲撃は、ミネルバを中心に、前後で挟み込むよう飛んできた大西洋連邦の弾と偶然当たり、数発だけが少しだけ離れた位置に着弾して海面を揺らした。
「なにっ⁉」
ミネルバだけでなく大西洋連邦の将官も眼を見開く。
特別連携予定も訓練もしていない2つの陣営が、たった一隻の船を狙ったのだ。
邪魔になっても仕方はない。
しかし思いがけない結果に思わず意識が削がれてしまったのも事実。
「うぉぉぉぉぉ!」
動きが鈍くなったザムザザーに、シンはビームサーベルを突き立てる。怯んだすきに距離を取るとまっすぐにミネルバへ向かっていく。
「メイリン! デュートリオンビーム、それとソードシルエットを!」
『え、あ、はい!』
「この、程度で堕ちるはずがないだろう‼」
ミネルバへと帰還していくインパルスだが、未だに撃墜されていないサムザザーが後ろから迫りくるが、
「隙だらけだな」
ミネルバ後方の白い人影から放たれたビーム。
本来なら難なく受け止めることができるその攻撃は、突き立てられたビームサーベルの持ち手を撃ちぬき、誘爆させた。
「なにっ⁉」
スピードが落ちたザムザザー、周りを取り囲んでいたウィンダムが見たのは、ミネルバからインパルスへ照射されるか細いビーム。
額で受けとめたインパルスはエネルギーを回復し、射出されたソードシルエットへと換装すると、空から飛び降りる勢いをそのままに、両手で握られた対艦刀を振り下ろした。
「このぉぉぉぉぉぉぉ!」
陽電子リフレクターを張る暇もなく、切り刻まれるザムザザー。
爆発より前に飛び上がると、勢いをそのままに大西洋連邦の戦艦に飛び移り、モビルスーツ以上の大きさを誇る二振りの刀を振り回す。
たった一隻の戦艦を沈めるために用意された数の戦力は、圧倒的な個の力によって覆された。
襲撃を受けたプラントを出港し、ボギー1との戦闘、ブレイク・ザ・ワールドと歴史に残る戦闘を繰り広げたミネルバ。
この先もまた戦火の中に飛び込み続けるが、その本格的な実戦はこの戦いがはじまりとなった。
トダカさんみたいな、あー攻撃な攻撃、めっちゃ狙うけど外れても仕方ないよなうん。みたいな奴が好きです。棒読みでの立場あるから協力できないけど無茶苦茶な理論で結果的に助けになるやつ。ただし全力だとめっちゃ強いのが味ですね。
バイクは後で回収された、と思います。前回のあとがきにてバルトフェルドが女子会に参加してましたが、女子会です。参加できるバルトフェルドさんはひとりだけです。
あと皆さんが気になってたっぽい婚約者ですが、本編入るすき間がなかった保険に↓にフレテキで置いておきます。
いつも感想や誤字報告、ここすき等ありがとうございます。励みになっています。
ほう、あの船に乗り込んだか。彼が動くというのならば、我々も動こうではないか。娘のためにも、婿殿を迎え入れるための協力は惜しまないのが、母親というものだろう?
────宇宙在住のオーブ氏族にして親バカとなった双子の姉