そのライネルはガノンドロフを否定する   作:ムラムリ

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まだ終わりませんでした。


ガノンドロフを殺害したライネルの話

 トーレルーフを使って地上へと戻ってきた一行。

 リンクと手を繋いで、賢者達とそれから始まりの黄金のライネルと、魔物の素材を組み合わせてスクラビルドをしてガチガチに拘束されたガノンドロフと、そして……白銀の、太古のライネル。

「……何はともあれ、また日の目を浴びるとまでは、思っていなかったな」

 

*

 

*

 

 ガノンドロフの手から転げ落ちた秘石を手にしたのは、ライネルだった。

 そして、その輝く小さな石ころを見つめて、リンクの方を向いて聞く。

『……少しだけ身に着けさせて貰って良いか?』

『何故ですか?』

 リンクが聞く前に、ミネルが聞いた。警戒心を露にして。

 それに答えたのは、ライネルではなくリンクだった。

『いや。お前、その体から太古のライネルを追い出したいんだろう』

『分かるか。外付けの力で強くなってもそんな嬉しくないし、それに……単純に私の中にもう一人、これからも居るのは嫌だ。

 ……きっとすぐ終わるから、やってしまうぞ』

 そう言って他の誰もが止める間もなく、ライネルは秘石を握り締めてしまった。そしてもう片方の手を、来た道の方に伸ばした。

 生み出され、賢者達によって倒された白銀のライネルの残香に、自身の中に居た太古のライネルの執念としての邪を送り出し、形作る。

 すると、赤い月が訪れた時のように、白銀のライネルが形を成した。

『…………』

 追い出されたように受肉したその太古のライネルは武器も持っておらず、そして複雑そうな顔でじっと始まりの黄金を見つめていたが。

『では、これはリンクに渡しておく』

 そう言って、始まりの黄金は全く惜しくないように秘石をリンクに渡してしまった。

 それから、そんな一連の様子を眺めているしか出来なかった賢者達に顔を向けて。

『あいつが生まれた時代の賢者は、もっと逞しかったが……それも無理ないか。

 封印戦争なんて時代を矢面に立って生き抜いた訳だからな』

『オ、オイラだってもっと強くなってみせる!』

 ほう? と山崩しを担ぎ直して、チューリを見る。

『妖精を持って来るならいつでも受けても良いぞ。手加減など出来やしないからな』

『……やってやるからな!! 首を洗って待っていろよ!!』

『……とにかく、後は帰ってからな』

 そんな問答をしている内に、色々な素材とスクラビルドでガノンドロフをガチガチに固めたリンクは、呆れたように言った。

『秘石を使えば、この大人数を引っ張ってもトーレルーフで地上まで連れていけそうだ。

 それで、ガノンドロフはあんた達が持っておいてくれ。それが一番大人しくしてくれそうだからな』

 そうして二体のライネルに掴まれたガノンドロフは、脂汗をダラダラと垂らしながら全身を震わせていた。

『……ああされたら誰だってああなるゾ』

 

*

 

*

 

 日の光を眩しげに見ている太古のライネルに対して、始まりの黄金が言う。

「そんな事より、まずはコレを始末するのが先だ」

 縛られたガノンドロフを指差す。

「そうだな。だが、リンクは来て貰わねばな。そのマスターソードは必要だ」

 勝手に話を進めるライネルの二体に、賢者達は懸念ありげにするが。

「来ても良いが、本当にこれからやる事が分かっているのか? 言葉通り、私とコイツで、コレを擦り潰す。

 未だコレを信奉する同胞も数多く居るのだから、今この瞬間にも魔物が押し寄せてきてもおかしくない。

 そして頭を潰しても生き返ったのだから、胴と四肢を分けるだとか、ぶつ切りにするだとか、そんな事では全く足り得ない。全ての血肉も骨もないまぜにして、更にそれにマスターソードを浸して浄化する。

 その位はしないと安心出来ないだろう」

 それを聞いてか、マスターソードが震えた。背負っているリンクからしたら、拒絶している気がした。

 そして、本当に擦り潰すつもりだと分かったガノンドロフが激しく震えるのを、始まりの黄金は首を掴んで黙らせた。

「邪の寵児たるコレの血肉を浴びる可能性もある事も踏まえて、魔物である己達に任せておけば良い。

 リンクは借りるが……それに、己達はコレが居なければ生まれていなかったが、恨みも貴様等と同等以上にある」

 多少は賢者達の事も慮っている言葉には、賢者達が反論出来る事はなく。

 ミネルだけが付き添いつつ、シーカーストーンの機能を使って、より邪が届かない浮島の一つへと移動した。

 

*

 

 縛られたまま浮島まで連れて来られたガノンドロフは、その中央に捨て置かれた。

「さて。……己が好きにして良いのか?」

「……ああ」

「……ええ」

「だそうだ」

 ガノンドロフから生まれ、ガノンドロフに抗った太古のライネル。

 始まりの黄金が自分の肉体から分離させたかったのは、尤もな理由であったが。

 このガノンドロフの命を誰よりも自らの手で終わらせたいのは、この太古のライネルだろうと、リンクもミネルも、始まりの黄金も感じていた。

 記憶を共有した。龍の泪からその記憶を見た。抗った様を直接その目で見た。

 ミネルのように確実性の高い可能性に自らを託せる事もなく、出来るかも分からない可能性に縋ったばかり。

 幸運な事にその可能性は実を結び、誰もが二度と傀儡にならない世界を手に入れたが。

 その太古のライネルが守りたかったものはそもそも、そんな大それたものではなかった。

 その妻と子は、その後どうなったか分からず、どちらかといえば後ろ暗い可能性の方が遥かに高かった。

「分かった」

 新しい肉体を得た、太古の、白銀のライネルが身動きの取れないガノンドロフへと歩いていく。

「見ていて気持ちの良いものではないだろう。私が見ているから、リンクとミネルは終わるまでどこかに行っていても良いぞ」

「いや。俺はきちんと見ているよ。俺の口からも、きちんと皆に報告しないといけないし」

「……では、私も」

 それから……確かに、リンクやミネルからすれば見ていて気持ち良いものではなくても、ガノンドロフがこれから業苦を味わされる事に嫌悪感も大してなかった。その程度の恨みは当然積もっていた。

 そのガノンドロフは必死に身を捩らせて逃げようとするも、太古のライネルはその片足の先に前足を置いて、ゆっくりと体重を掛けた。

 半人半馬の、巨馬よりも更に大きく、重い肉体。

 秘石もなくなり、未だ邪の力がその身には数多に流れているとは言え、ただのゲルド族の男に成り戻った体には耐えられるはずもなく。

「〜〜〜〜!!」

 骨の砕けた音と共に、ガノンドロフの塞がった口からくぐもった悲鳴が響いた。

 太古のライネルは、前足を少し動かして、また同じ事をした。

 そのように最初は淡々と。

「……う、う、ううう、ううううう」

 けれど、すぐに体の底から唸り声が響いてきて。背後から見える背中の筋肉が怒張し、髪の毛が騒めき。

「ウゴアアアア゛ア゛!!!!」

 そして、まるで泣くかのような咆哮を響かせながら、太古のライネルはガノンドロフの首を掴んで近くにあった壁に押し付けると、それを殴った。

「グア゛ッ、ガアッ、ゴアアアッ!!」

 何度も何度も。

 生き地獄を味わせるような手加減などもなく、感情のままに。ガノンドロフの頭も、胴体も、すぐに潰れた。殴打だけで千切れた片腕が跳ねて近くまで転がってきた。

 全てが終わって、やっとようやく、自身はもう守りたかったものにもう二度と会えない事に気付いてしまったように。

 そのどうしようもなさを、ガノンドロフはどこまでも、どこまでもぶつけられた。

 

*

 

「……なあ、ミネル。己に少しだけ付き合ってくれないか? ゴーレムに身を宿していれば、まだまだ現世に居られるのだろう?」

 夜、リンクは各所に散らばった血肉にマスターソードを当てていた。嫌がるマスターソードを宥めるように時折声を掛けながら。

「……付き合うとは?」

 そこらの草を拾って体にこびりついた血を拭いながら、太古のライネルは言った。

「北に行きたい。己の子孫が生きていないか、調べに行きたい」

「……何故、私に」

 けれど、思い直した。魂だけとは言え、どんな形であったとは言え、あの時代を生きて共闘した唯一の相手だからだろう。その共通点はきっと、同族であるより強い。

「……でも、私が首を縦に振ると思っているのですか?」

「分からないが、聞くだけの価値はあると思った」

 ミネルは、それが見返りなど何もない、単純なお願いである事を理解した。

「…………。私は、ラウル達が守ろうとした、そして今もその結果があるこの地で果てたいのです」

「……駄目か」

「駄目とは言っていません。条件があります」

「条件」

「ええ。

 一つは、何があろうとも必ずこのハイラルに戻ってくる事。

 そしてもう一つ。

 行くとしても、ゼルダが戻れる方法を見つけてからです」

「……それもそうか。でも、助かる」

 太古のライネルは、ほっとしたように息を吐いた。それから、髪の毛にこびりついた血肉を雑に払いながら。

「…………何故引き受けてくれたのか、聞いても良いか?」

 目の前ではリンクが放水柱を使って、丁寧にマスターソードを拭っていた。

 始まりの黄金が、ガノンドロフ本体には嬉々として切り裂いていたのにと、その潔癖振りを嗤っている。

「私達ゾナウ族最後の末裔が何故、地上に降りてきたのかご存知で?」

「いや」

「ラウルも、そして私も、滅びゆく孤独には耐えられなかったのですよ。

 貴方も似たようなものでしょう? だから番を為した。だから北に行きたくとも、一人で事が耐えられなかった。だから、少なくとも同じ時代を生きていた私を選んだ」

「そうだな。要するに……同情という訳か」

「不快ですか?」

「いや、全く」

「それに、そんな後腐れを残したまま成仏をするのも嫌でしたしね。

 何万年も待ったのです。これから少し延びても、ラウル達も許してくれるでしょう」

 そんな事を話していると、始まりの黄金が歩いてきた。

 そして、山崩しを渡した。

「条件を、私からも一つ足そうか。

 山崩しを返す。結局あんた、記憶の中じゃ黄金になっても秘石無しでは、これを振るうのが精一杯だっただろう。

 そんなんじゃ黄金の質が落ちる。きちんと振るえるようになって、黄金に戻ってから行ってくれ。

 そうでないと、私は不安で夜も眠れなさそうだ」

「……生意気な」

 そう言いつつも受け取ると。

「事実だろう?」

 始まりの黄金は鼻で笑って答えた。

「……記憶を共有したところから思っていたが、貴様、少し性格悪いよな」

 秘石を奪って顔を近付けて満面の笑みを向けたのは、太古のライネルが表に出てきたからではなかった。

 あれは始まりの黄金の、素だった。

 始まりの黄金は、つまらなさそうに返す。

「ガノンドロフを信奉しないというだけで除け者にされて100年も陸の孤島に閉じ込められれば、誰でもそうなる」

 リンクがマスターソードを宥め終えて後始末を再開する。

 始まりの黄金の腹から音が鳴り、そんなリンクに携帯鍋を所望して何やら色々作業をし始める。

 なだらかな時間が過ぎていく。

 

*

 

 

 

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*

 

「……という訳で、ハイラル建国の時代に遡ってしまった私は、ハイラルを建国したラウル様とソニア様とミネル様、それからアーガスタ様など、後に賢者と呼ばれる人達と、迫り来る邪との終わりの見えない戦いに身を投じる事となったのです」

「ゼルダ先生、質問良いですか?」

「何でしょう?」

「光と邪って何なんですか?」

「それは……私にも正直分かっていないのです。明確に分かっている事も、そこまでありません。

 このハイラルに建国以前よりある、相入れる事のない力。

 地底の更に奥底からそれぞれ滲み出ていて、それは尽きる事がない。

 時折そのどちらかの力を扱えるような人が生まれてきて、それは遺伝する。

 邪からは魔物と呼ばれる存在が生まれ出て、それは基本的に力を至上とする価値観を持っている。

 明確に言える事は、その位でしょうか」

「邪って悪者なんでしょ?」

「……それも難しい問題なのです。

 邪から生まれた魔物の中には、決して分かり合える事のないような者が多いのも事実ですから。

 でも決して、全てではないのです。時には、こちらに歩み寄ろうとしてくる魔物も少しは、今も居ますからね。

 そこを履き違えて、問答無用で絶滅させようとするならば、私達も邪と違わなくなってしまう。

 私はそう思っています。

 でも、貴方達は、だからと言って魔物達に迂闊に近寄る事なんてしないでくださいね?

 これはとても難しい問題なのですから。

 一つ一つ、きちんと学んでからでも全く遅くありませんからね」

 

 今日の授業が終わり、ゼルダは背伸びをする。

 目の前からリンクが走ってきた。

「もう、全くもっていつも通りですね」

「ええ。ラウル様とソニア様は凄いです。私達の想像なんて簡単に超えてきてしまう。

 ……もしかしたら、魔物が死んだら邪の力に戻るように、私達も死んだ先があるのかもしれませんね。光の力とでも言うようなそれが」

「……はい。本当に、本当に……」

 ガノンドロフを完全に浄化した後。

 完全に臍を曲げたように黙ってしまったマスターソードを宥める為にも、またまず最初に白龍であれどゼルダにガノンドロフを完全に滅した事を伝えに行こうとしたら。

 秘石を付けていた右腕が反応して、現世とは思えないような、どこか夢のような場所でラウルとソニアが力を貸すように現れて、目が覚めたらゼルダは元に戻っていた。

 この右腕も。

 …………だとしても、空中にそのまま放り出すのはどうかと後から思うところもあったが。

 その死んだ先の世界から出来る事は、きっとそこまでで精一杯だったのだろう。

「ええと、それで、これからなのですが。

 明日、北に行くようです」

「えっ、それは随分と早いですね……。私が戻れてから一月も経っていませんよ?

 まだミネル様とも、太古のライネルとも話したい事が沢山あるのに。

 でも、すぐにでも行きたかったのでしょうね」

「帰ってくると約束しているのですから、それからでも遅くないのでは?」

「いえ、帰ってきたらもうミネル様はきっと……」

「……そうですね。

 ならばせめて、もう今からでも合流してしまいましょう。今晩は思う存分語り合ってください」

「ええ、そうしましょう」




「夜飯何?」
「カレー」
「素材は?」
「持ってきてる」
 ……最初から?
 結局一つも使わなかった、属性の木の実が大量に入っている鞄をひっくり返して、奥底の方に肉やら香辛料が入っている瓶を出した。
「そろそろ香辛料もなくなるから買ってきてくれ」
「はいはい」

「魔王は……倒された……、え? 今回もライネルに? でも今回は踏み殺されたのではなくて、殴り殺されたのですね。
 いえ、あ、その、はい。ええと……はい、お似合いの最期ですね」


こっからエピローグ書いてると1万文字普通に超えそうで間延びしそうなので、まあ10話かっちりで終えたかったところもあるけど、もう1話です。

因みに今更だけど、この話必須タグにオリ主付けてないけど、両方のライネルきちんとモデル居ますからね! それをガノンドロフなんぞに従って欲しくないなあって魔改造してるだけなので。要するに、ほぼオリ主。

本当に擦り潰すのも考えたけど(時々浮島にある回転する装置を石臼のように使ってごーりごーりと二体のライネルが延々と回す感じで、そこから滲み出た汁をマスターソードに流す形)、まあガノンドロフの最期としては、自我を失うという逃げ道も塞いだ上で相応の末路を迎えさせたという、良い形に収まったと思います。
その逃げ道を塞ぐ要因も、厄災ガノン討伐後もリンクとバチボコに殺し合いを続けていたライネルというとんでもない追加戦力が追加で存在した為に、余裕が出来て、ミネルが潜んでガノンドロフの発狂に先んじて備える事が出来たという納得感ある形で。

ガノンドロフの末路

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