そのライネルはガノンドロフを否定する   作:ムラムリ

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また続きました。今回は1万文字近くです。


ガノンドロフに自らの努力の全てを無に帰されたライネルの話

 そのライネルが鍛治を究めようと思ったのは、言ってしまえば、厄災ガノンが討伐されてもガノンを信奉していたからだった。

 幾らでも生き返って死合う悦びを続けられる。この身が白銀まで至れたのもその恩寵のお陰であるから。

 厄災ガノンが討伐されてからも、その要因となった始まりの黄金が、厄災ガノンを討伐したハイリア人と研鑽を続けていると聞き。始まりの黄金が獣神と名の付いた武器をも壊すようになってしまい、足繁くデスマウンテンに通うようになったと聞き。

 自分がその始まりの黄金に、質の高い……あわよくば妖精があっても殺し過ぎてしまう程に質の高い武器を供するように出来れば、結果的にそのハイリア人を殺せる事があるのでは、と思ったからだった。

 まあ……そんな事は、自分が白銀にまで成っていた事もあって、始まりの黄金にはすぐに見抜かれたが、殺される事まではなく、また武器も受け取って貰えた事は、正直なところそれだけでも鍛治を究めようとする動機にはなった。

 白銀にまで至った自分とも更に桁の違う存在に、自分が叩いた武器を使って貰える事。それは、自分が思っていたよりも余程嬉しい事だったのだと後から気付いた。

 

 そんな白銀のライネルは、ガノンドロフが討伐された後も地底を歩いていた。

 背中には獣神の武器を幾つも携え、時折今でも瘴気より湧いて出る魔物や、元々地底で生きているデカグーマやらイワロックやらにそれを試す。それを一日中繰り返しても、担いでいる獣神の武器はどれも瘴気による腐食の気配は微塵も見られない。

 更に剣に、槍に手を滑らせる。時に切先に軽く指を滑らせて血が垂れてくる事までを確かめると、満足気に鼻を鳴らした。

「……よし」

 

*

 

 ガノンドロフの復活と共に穴の空いた地底から噴き上げて来た瘴気。それは、大半の武器を使い物にならなくした。

 デスマウンテンの稀有な金属を使った獣神の武器ですらも数度叩けば砕けてしまう程に脆くなり果てた。始まりの黄金の為に精魂を込めて叩いた武器すらも変わらずに。

 そこで初めて、そして決定的に、その白銀のライネルはガノンドロフを拒絶した。

 生き返って死合える悦びも、白銀まで至れた恩寵も、自らが努力した物事をまるっきり無視するその姿勢の前では比較にならなかった。

 また、ガノンドロフからの恩寵など微塵も受けないまま桁違いに強くなった始まりの黄金に影響されている部分もあっただろう。

 厄災ガノンがたった一人のハイリア人に討伐されたのを知って、今までどれだけ恩寵を身に受けていても敬意が薄れていった部分もあっただろう。

 しかしやはり、自分が何度も何度も試行錯誤も繰り返していったものすらも、変わらず無に返された事が何よりもそのライネルの離反を決定的にした。

 その後、始まりの黄金が再びやってきた時、思わず叫ぶ程にガノンドロフをぶち殺してくれと訴えた程に。

 今までの何よりも溜め込んでいた感情を吐き出した時は、涙すら出てしまいそうだった……いや、きっと出ていた。認めたくはないし、思い出す度に顔が赤くなるが。

 

 厄災ガノンを討伐したハイリア人と始まりの黄金が復活したガノンドロフを討伐するまでには、瘴気にも耐え得る武器を作り上げる事は能わなかった。

 言ってしまえば、単純にガノンドロフが復活してから討伐されるまで大した時間も無かったから。季節が一つ廻るだけの日数もなかった。そんな時間では、瘴気で破壊されなかった武器の共通点からの、素材集めに奔走するくらいしか出来る事はなかった。

 獣神の武器の中で唯一腐食の起きなかった弓。英傑……賢者達の武器もまた、壊れていない。正直なところ、その共通点はすぐに分かっていた。

 ダイヤモンド。

 オパールやルビー、サファイアなどと同じく魔力を込めている鉱石。

 そしてその魔力は何よりも純粋なものであり、同時に希少にも程がある代物。集めるだけでも本当に時間が掛かる。ましてや大剣なんぞに使おうと思ったら、10や20でも全く足りないだろう。更に試作まで含めたら最低でも50は欲しい。

 そして試作も順調にはいかず、ダイヤモンドは瞬く間に足りなくなる。

 ガノンドロフが滅んだ今となっては、そんな武器は地底の瘴気が濃い場所でしか必要とならないにせよ、このまま瘴気に敗北しているというのは、自らのプライドが許せなかった。

 その為ならば、デスマウンテンの近郊に生きるゴロン族との協力も厭わなかった。

 

 ダイヤモンドを集める為に各地の鉱石を採掘する旅を幾度と繰り返した。ダイヤモンドが出やすいような鉱床が感覚で分かってくるくらいには。

 デスマウンテンで採掘をするのも、もう日常だった。一時ガノンドロフの手によって大半が正気を失うに至ったゴロン族を蔑んだ目で見ながら堂々と採掘に勤しんでいたのは、正気を取り戻してからも覚えられていたらしく、そこからなし崩しにゴロン族と共に採掘をするようになった。

 ある時自分がどれだけガノンドロフを嫌うようになったかを感情豊かに叫べば、鍛治への知識の共有も出来るようになった。

 また、ライネルの鍛治に対する知識はゴロン族を上回る部分もあるとはいえ、知識の幅という点ではゴロン族の方が強く上回っていた。何せ、ライネルがする鍛治と言えばその身に纏う僅かな防具と数種類の武具くらいなものだったから。

 それらの技術も吸収し、時にゴロン族も交えて試行錯誤を繰り返す。

 出来た武具は尽きぬ瘴気で今も溢れている地底へと持っていき、ひたすらに試す。

 腐食を遅らせる事まではそう難しくなくとも、それを完全に防ぐ事は使ったダイヤモンドの数が100に到達しようともまだまだ難しかった。大剣だけは前例があったからさほど時間を要する事なく出来たものの、片手剣や槍に関しては、ゴロン族が切れ味を求めるものを殆ど作らないのもあってかなり難航した。

 それでも着実に知見を積み重ね、ライネルの深い知識とゴロン族の幅広い知識の組み合わせをから少しずつ、少しずつ最適解へと近付いていき。

 とうとうそのライネルは瘴気にも耐え得る獣神の武具を作り上げた。ダイヤモンドを含めて実用的とは言い難い数の素材を要求するものの、どれだけの瘴気を受けようとも鈍色の輝きが全く色褪せないそれを。

 

*

 

 地底にて、少しずつ、少しずつその実感が湧いて来る。

「ふふ、ふふははは、はははははっ!!」

 ライネルらしからぬ、感情を露わにした笑い。しかし、それもほぼ誰も居ない地底ならば憚る事はない。

 やっと、やっと自分はガノンドロフに抗う事が出来たのだ。聞いたところによれば、秘石とやらがなければ魔の力を多少扱えるだけのゲルド族の男に過ぎない輩に、この身で抗う事が出来た。

 生き返る事の出来る恩寵も、白銀まで至った強さの恩寵よりも、気付けば比べ物にならない程に大切だった、ライネルがこれまで培って来た技術を蔑ろにしてきた男に、抗う事が出来た。

 ……出来れば、これらの武具でガノンドロフを叩き潰して欲しかったところはあるが。

 勿論、これで終わりではない。

 各地を何度も歩き回っている内に理解した、ダイヤモンドを採掘出来る可能性のある場所の見つけ方、この新たな武具の生成の手法をライネルの間で共有しなければならない。

 そこまでしたならば、ライネルはここに来て漸く、ガノンドロフから生み出されたに過ぎない魔物の一つから独立出来るだろう。子は親から離れるものだ。親が求めていようとなかろうと。

 ……その代わりに、この武具の精製にゴロン族が一役買った事実が付いてくるが、それはガノンドロフの傀儡である事と比較したら屁でもない。

「グルルルゥ、ヴルルルルッ」

 まるで愛する我が子を撫でるように、槍の柄を撫で、剣の腹に頬を寄せる。

 他の誰かに見られたらどこまでも逃げ出してしまうような恥ずかしい行為も抑えきれない。

 この後は、多少登りやすくしてあるとはいえ、自力で地上まで這い上がらなければいけない苦行が待っているとは言え、それすらも今は上機嫌なまま出来そうだった。

 

 喉を鳴らしながら、飽きずにいつまでも自らの作った武具を愛で回していると。

 がらっ。

 近くから音がして思わず振り返った。

「だ、誰だっ!?」

 あからさまに狼狽えた声が出るも。

「……なんだ、そういう奴か。意外だな」

 そこには瘴気から生まれたばかりのようなライネルが居た。

 赤髪の、ただのライネル。全身を瘴気で覆われている。

 手に持つ武具は鍛治を究めているライネルからすれば余りにも粗末なもので、またその風貌も整ったものではなかった。

「〜〜〜〜? 〜〜〜〜」

 口から出る声も、ただ感情を伝えるようなもので言葉ですらない。

 ガノンドロフが死んでも瘴気からは魔物が自然発生しているとは言え、ライネルまでもが未だ生まれ出るとは知らなかった。

 白銀のライネルは、その赤髪のライネルに歩いていく。その粗末な武具ではこの身に傷を付ける事すら出来ず、恐れる事は何もない。

 それに対して、赤髪のライネルはただ困惑するばかりで、武器を構える様子もなければ、逃げたりもしなかった。多分、初めて見る同族だったのだろう。

「全く……」

 ガノンドロフが復活してから瘴気より生まれたライネルは、大した自我を持たない上に、更にどれもこれもが自分にも襲いかかってくるような攻撃性を備えていた。しかしこのライネルには後者はなさそうで、それ故に出会ってすぐに殺そうとまでは思えなかった。

 好きなだけ武具を愛で回したら、こんな湿っぽくて、瘴気に溢れていて、陽の光も当たらないような場所からはさっさと帰るつもりだったのだが。

 魔物なのだから、瘴気があれば飯を食わずとも生きていける。瘴気から生まれたのならば最初から成体であり、生きる術はその身に最初から刻まれている。

 とは言え、間近で見れば見るほど、ライネルらしくない程に乱れた格好。肉付きも鍛えるという選択肢が最初からなかったような、母親の胎から生まれて文化と精神性を受け継いで成長したライネルからすれば、みっともないとすら思う程。

「まずは、身なりを整えるところからだな」

 そんな瘴気に塗れているよりは、きちんと飯を食わせて肉体を晒した方が余程映える。

 また、デスマウンテンの地下には遺跡がある。適当に漁れば何かしらあるだろう。

 マグマを使えば身につける金具くらいは加工出来るかもしれない。

 そうして、白銀のライネルは赤髪のライネルの腕を掴んで引っ張っていく。赤髪のライネルは驚いて一瞬抵抗しようともしたが、有無を言わさない程の力の差にどうする事も出来ず、ただ連れられていくばかりだった。

 

*

 

「……こいつの為に何十日も地底に篭っていたのか。

 ゴロン族達も心配していたぞ」

「自分を?」

 幾ら親身になったからとは言え、魔物である自分を?

「まあ、そうだな」

 最早珍しい事ではないという様にそっけなく肯定する、厄災ガノンも、ガノンドロフ本人も討伐したハイリア人の勇者。

 その勇者は、隣に居る赤髪のライネルをじろじろと見た。

 見られているその赤髪のライネルは、本能的にか、その勇者に向けて敵意を露わにして唸り声を上げていた。

 そんな赤髪のライネルの事を、白銀のライネルは殴って止めた。

「勝てないからやめとけ」

「な、なぜ」

「何度も言っただろう。自分達が選べる世界は、自我すら自由に持てない世界か、ただの生命として生きるしかない世界か、その二つだけだったと。

 魔物だろうとなんだろうと、もうそうやって生きるしかないんだよ。

 出来ないなら、今この場で挑んで死ねば良い。自分は何もしない。そこまでする理由もない」

「う、ぐ……」

 赤髪のライネルは受け入れきれないように、どこかへと走り去ってしまった。

 それを見届けてから、その勇者は白銀のライネルに向き直った。

「回りくどい方法で俺を殺そうとしておいて、良く言う」

「それに関しては何度も言ってるだろう。ガノンドロフがあんな奴だと最初から知っていたら、最初から信奉してもなかったって」

「そう言っても信じない奴やら、それでも死合い続けられる事を望む奴等も居たからな」

「それはまあ、自分にも分からなくもないが……」

 そもそも、ガノンドロフに実際に会ったのは、ライネルでは二人だけだ。始まりの黄金と、ガノンドロフが生まれた時代に反逆を翻したと言っている、この時代に再び受肉したライネル。

 ガノンドロフの復活に伴って、再びガノンドロフを信奉し始めたライネル達——厄災ガノンの討伐に貢献した始まりの黄金を酷く恨んでいるのも少なくない——がそんな二人から発せられる言葉を信じないのも妥当な事だった。

「ただ、それよりも自分は、武具が全て使い物にされなくなった方が大事だったというだけだ。

 それに、まんまとガノンドロフの手中に嵌って族長諸共阿呆になってしまったゴロン族を見れば十分頷ける」

 それ以外にも各地で巫女に化けて色々やっていたとも聞いているし。

「ま、そのゴロン族とも引き続き上手くやってるみたいだしな。その全身の縞も、少し薄くなっているように見える」

 黄金という特異点を除いて、魔物の最上位として成る白銀の肉体に浮かぶその紫色は、そのまま魔物としての……瘴気と呼ぶべきでもあるような性質の濃さを表している。

 そう言われて、白銀のライネルは自らの腕の縞を眺めた。

 ほぼ裸でも、分厚い髪の毛に隠れて普段余り見る事のない二の腕に走るその紫色は、改めて見れば言われた通りに少しばかり薄くなっているように見えた。

「真っ白になったら締まりがなさそうだ。黄金になる努力をするべきか……」

「それで、今も背に掛けているそれが、完成したやつか?」

 次に勇者が気になったそれを指差した瞬間。

 ライネルはいきなり目を輝かせて武器を手に取り。

「……ああ、そうだ! 見てみろこの鈍色の輝きを! 全く衰えてないだろう!?

 何せこの剣にはダイヤモンドを20近くも使っているんだ。それに加えてデスマウンテンの金属は超高温でないと加工出来ないと来た。ダイヤモンドは燃えるからな、弓の場合は後から粉々にしたダイヤモンドの粉を塗すような形でダイヤモンドの持つ魔力を付与するだけで良かったんだが、剣やらの近接武器で同じ事をしようものなら使っている内にすぐに剥げてしまう。

 それを解決する為にはやはり金属の中に混ぜ込む必要があるんだが、それもやはりゴロン族の知見が無ければ辿り着くのに百年掛かってもおかしくなかった。他の宝石も色々砕いて混ぜ込んでな、それでダイヤモンドの魔力を包み込む訳だ。元々宝飾系の技術だったんだってよ、それらは。結局俺達が受け継いできた技術は確かにゴロン族を凌駕する部分もあったが、戦う事に関してしか究めてきていなかった弊害は色々とあるとも実感させられたよ。こんな予想外の事が起きた時、獣神の武器が弓を残して全て崩れ落ちてしまって、自分達は嘆くしか出来なかった。だからこれからもゴロン族には世話になろうと思っている」

「あ、ああ」

「それで話が逸れたが、この剣にダイヤモンドの持つ魔力を帯びさせる為には、ゴロン族の祭具であり、太古のライネルも背負っている山崩しとは違う技術が必要になってきたんだ。そりゃあ、大剣と違って切れ味が必要になる武器だからな。ゴロン族の武器は採掘も出来るようにか、どれもこれも叩き潰す事ばっかりしか考えられてないからな。それで…………」

 堰が切られたかのように怒涛の勢いで話し続けるライネルに対し、勇者がもうとっくに聞き流していた。

 

「……で、出来たのがこの剣と槍という訳だ」

「…………ん、ああ。まあ、相当苦労したのは伝わって来た」

 意外そうな顔をされる。

「……あのなあ? いきなり早口でまくしたてられて理解出来る奴が多いと思うなよ? 鍛治に関してゴロン族とは気が合うだろうから良いんだろうが……」

「そういうものか?」

「そういうものだよ。それで? その武具は始まりの黄金用じゃないよな? 大きさは普通のと変わらないし」

「そうだな、あの餓鬼が地上に出ても貴様にとっての討伐対象にならないくらいに落ち着いてくれたら渡しても良いと思っているんだが、それも遠そうだ。

 かと言って、置いて地上に戻るのも憚られるし、暫くはこちらに篭っている事になると思う。

 ……後、出来れば誰か寄越してくれると嬉しい。すれば、一旦地上に戻って色々持って来れるしな」

「はいはい。ゴロン族にも他のライネルにも俺から伝えておくよ。

 それで、色々食料も持って来たが、要るよな?」

「……一応聞くが、調理済みじゃないよな?」

 勇者は不服そうな顔をした。

「あのなあ、切羽詰まってるかもしれない時にもふざける事はしねえよ」

「前例を嫌と言う程聞いているのでね」

 飯に古代兵器のコアを入れただとか、マモノエキスをボコブリンの肝で代用しただとか、リザルフォスの尻尾をスパイスで炒めたら食えるのではと試しただとか。

 それには反論せず、持って来ていた袋を無言で渡してきたのを受け取った。

「あ、後一つ聞きたいんだが……自分の住処を見て来ていたりしないか?」

「……ああ、あれか。別に何ともなってなかったぞ」

 ライネルはそれを聞いて心底ほっとした顔をした。

「……あれを盗ろうとは誰も思わねえよ」

 

*

 

 それから気晴らしにと一度戦って、相変わらず何もさせて貰えないまま勇者の手にした武器が壊れるまで切られた後に、勇者は去っていった。

 程なくして赤髪のライネルが戻ってくる。

「あれは……何?」

 戦いを見れる場所には居たのだろう。最初にあの勇者に見せていたような敵意は微塵も消え失せ、整えられた髪の毛も尻尾も力なく垂れるばかりだった。

「自分にも分からん。何故あのハイリア人があそこまで強いのか。

 ただ言える事としては……結局、ガノンドロフは滅ぼされる運命だったのだろうな。

 このハイラルという大地そのものに意志があったとしたら、ガノンドロフの作る世界は認められるものではなかった、と言っても良い程に」

 邪の気配が強い地底では、すぐに傷が癒えていく。

 マスターソードを抜かれていたら、複数回死んでいたであろう数の傷も、もう半分は傷跡すら残っていなかった。体の縞模様も心なしか濃くなったよう。

「……それと、言ってしまえばな。あれを殺す術は無くもないんだ。

 自分達が心の底から望む、幾らでも死合える世界、自分みたいに白銀とまで強く至れる世界は、手段を選ばなければ今からでも作れる。

 徒党を組み、個として研鑽した実力ではなく数の暴力で蹂躙し、人質やら毒やら罠やら汚い手を何でも使えば、多分出来る。

 だがな、自分達はそれをしない。その世界には、そんな事までして実現する価値はない。こんな、あのハイリア人ですら掴めてしまえば握り潰せる強い肉体に生まれておきながら、正攻法で勝てないなら何でもする、みたいなまでの卑劣さまでは持たないようにしている。

 そういう誇りを、胎から生まれ育った自分達は誰しもが持っている」

 あの太古に生きていたライネルも、自分自身のみでそこに辿り着いた。ガノンドロフの意志に色濃く侵されながらも、だ。

 きっと教わらなくとも、邪悪な意志が入り込んで来なければ、自分達はそのように生きる事が自然となるのだろう。

「ガノンドロフ本人はそういう事を幾らでもやるだろうに、ガノンドロフを最後まで信奉していた奴等も、全員その誇りを抱いたまま散っていった。

 …………全く、馬鹿な奴等だよ」

 信じたいものだけを信じて、等しく散っていった。

 その中には、自分へと、最期の戦いを挑む為に最高の武具を作ってくれと頼みに来たライネルも居た。

 何がどうあろうとも、彼等の決心は変わらなさそうだった。

 またガノンドロフの復活までは同じ信奉者であった自分は断れるはずもなかった。

 そして、等しく作った武具だけが帰って来た。

 その武具達は、今のライネルの住処に行き場を無くしたまま墓標のように突き刺さっている。

「ライネルとしての強さを追い求めていれば良い時代が終わった訳ではないが、自分達が理想とする世界はもう来ない。

 死ねば終わり。恩寵を得てより早く、色変わりを達成出来る事もなくなった。

 それを受け入れられない奴等は、全員死に場所を自ら作って死んでいった。

 ただ、別に悪い事ばかりではないとは思うぞ? 自分は今も充実しているしな」

「…………」

「まあ、お前はまだ生まれたばかりだ。最低限の生きる道は示してやるから、後は好きにしてみれば良い。

 アレに殺されない範囲でな」

「……うん」

 

*

 

「…………ただいま」

 とても久々に帰って来た。デスマウンテンの北西にある、ライネルとすら比較にならない巨大な、クジラとやらの化石を屋根とする住処。

 そこには数多の武具が突き刺さっている。

 長く不在にしていたが、他のライネルが管理していてくれたのか、それともゴロン族が見ていてくれたのか、どれも盗まれている様子はなかった。

 今も尚生きているライネルの中では、ガノンドロフへの信奉が最も濃い方であったと自覚しているライネルは。

 ハイラルの民と共存していく未来よりも、敵う余地がないとしても戦い、散っていく事を選んだライネル達と最も親しかったその白銀のライネルは。

 死ぬまでこれらの武具と共に生きるのだろうと感じていた。

「ここが……」

 地底からその重い肉体を這い上がらせてきて、歩く四つ足も覚束ない、腕ももう全く上がらない、今となれば青髪となったライネルがそれをきょろきょろと見る。

 白銀のライネルは、武具達を見て呟く。

「長く留守にしてしまったなあ」

 屋根もどきがあるとは言え、雨風を凌げるようにまでは特段していない。雨や潮風、はたまた火山からの風やらで錆びる程度の作りはしていないとは言え、それらに晒されて輝きが鈍っているのは確かだった。

「きちんと手入れしないと……。

 あ、お前は寝てて良いからな。疲れただろう?」

「いや……見ているよ」

 そう言いつつも、程なく足を崩してしまい、化石の肋骨に寄り掛かる。

 どうしようもなく瞼が重くなっていく最中も、青髪のライネルはその、白銀のライネルの背中を見つめていた。

 前掛けを始めとして、肩当てや胸当て、それから尾の毛を纏める金具も含めて、丁寧に並べられた武具達。

 地底で自分をライネルらしく育て上げていく途中から、段々と落ち着きをなくしていった理由がそこにあった。

 そして、白銀のライネルが分かっていない、盗まれなかった理由も察していた。

 これを盗んだら、血眼で、どこまでも探して、確実に死よりも酷い目に遭わせるだろうと確信出来る。

 例えここに住む当の白銀のライネルが居なくとも、丁寧に並べられたこれらの武具には、それだけの迫力があった。

 それを盗んだのがあのハイリア人だろうとも、この白銀のライネルは、誇りを蔑ろにする事すら厭わずに、最大限に後悔を刻みつけるだろう。

 だから触ろうとも思えなかった。

「…………」

 青髪のライネルは、正直なところ、あのハイリア人とも共存しなければならない理由までは未だ腑に落ちていない。

 肉体を鍛えられ、言葉を学び、技術を学び、誇りを学び、それでも邪が集まって生まれたばかりの、魔物としての本質は、その現状を違和感として訴えてくる。

 ただ、その違和感に従おうとする事もないだろうと、どこか確信していた。

『自分は父と母が交わって生まれたし、周りもそういう奴ばっかりだったから、お前に対しても同じようにやるしかないんだが……まあ、何か変な事をしたとしても許してくれ』

 父とか母とかも、まだ良く分からない。交わるというのが、実際どういう事をする意味なのかも。

 ただ。

 気付けば地底を当てもなく彷徨っていたばかりの自分に、様々な事を懇切丁寧に教えてくれるこの白銀のライネルの事をどう称するのが自然かと言われれば。

「ち……ち」

「…………?」

 何か物凄くこそばゆい言葉を言われた気のした白銀のライネルは思わず振り返ったが、そこには寝息を立て始めた青髪のライネルが居るばかりだった。




白銀ライネル:
本編でちょいちょい存在は出てた奴。
感情はかなり豊かな方。
言ってしまえばオタク気質。
ついでに言えばガノンドロフへの反転アンチ。
ゴロン族と交流を持ち、瘴気にも負けない、新しい獣神シリーズを作り上げる。
地底で自然発生していたライネルを育て上げる事にし、そのライネルから父として慕われるようになる。
歳は始まりの黄金よりぼちぼち上だったり。
住処はオルディンの大化石。最後までガノンドロフの信奉者だった同胞の武具が並べ立てられている。後は、鍛治の素材の宝石やらがゴロゴロ転がってる。
リンクでもそれは盗もうとは思わない。

1. 厄災ガノンが討伐された後も信奉者であった為、始まりの黄金に特別に鍛え上げた武具を渡す事で、妖精を持っているリンクを殺し過ぎてしまうように仕向けようとした
2. 白銀であった事もあり、案の定ばれたが殺されはせず、始まりの黄金からも武具そのものは褒められたりした事もあった為、鍛治を究める事は継続
3. ガノンドロフがそれらの努力を(結果的なものに過ぎないが)無に帰した事により反転アンチ化
4. ガノンドロフが討伐された後、それでもガノンドロフを信奉する事を止められない同胞達から、果てる為の武具の作成を依頼されて受ける。武具だけが返ってくる
5. 瘴気にも負けない新しい獣神シリーズを作り上げる
6. 地底で試していたところ、自然発生したライネルと出会って育て上げる事に

ダイヤモンド20個と他の鉱石全て10個ずつを持っていくと、新しい獣神シリーズを作ってくれる。
威力はブレワイとそんな変わらないけど、耐久は桁違い。
他にも始まりの黄金の要望に応えて作った試作品とか色々。


リンクくん:
誰からも化け物扱いされているのに実は少し傷ついてる。


次も書くとしたら、そのリンクくんに、負けると分かってても果し合いを挑んだライネルの話とかになるんかねえ。
シドと黄金リザルフォスの果し合いとかも書きたい気はするんだけど。

後、最近発売された武器コレクション纏め買いしたんだけど、やっぱり獣神シリーズとか、竜骨モリブリンバットとか、三又リザルブーメランとか、ブレワイで世話になった武器色々欲しかったなあって気持ち。
結局私が心を奪われてるのはティアキンじゃなくてブレワイなんすね。

武器コレクション欲しいもの

  • 竜骨ボコブリン系
  • 竜骨モリブリン系
  • 最強リザル系
  • ガーディアン系
  • 獣神系
  • ロッド系
  • イーガ団系
  • 骨系
  • 古代兵装系
  • 近衛系
  • 属性武器系
  • イベント系(一撃の剣、光の弓)
  • amibo系
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