そのライネルはガノンドロフを否定する   作:ムラムリ

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なんか続きました。


ガノンドロフを魔王の座から引き摺り落としたライネルの話

 自らの生み出した魔物にガノンドロフが裏切られ、頭を潰されてから、暫くの時間が過ぎた。

 荒れ果てた各地は少しずつながらも復興が始まり、幾らでも再生していた魔物の数はめっきりと数を減らして、細々と各地に残るくらい。

 また、賢者達と同等以上に魔の軍勢と戦い抜いたコログが根差した場所は、今後、迷いの森に匹敵するであろう強い緑の気配がしている。

 

 赤い月も、どこかしこに響き渡る戦乱の喧騒もなくなり、すっかり穏やかさを取り戻したハイラルの大地。

 そのデスマウンテンや雷獣山の背後。ハイラルの北西には、数少なくなった魔物達が細々と暮らしていた。

 ガノンドロフの秘石を奪って殺した当の白銀のライネルを頂点とする、今となっては残り最大の勢力である魔物達は、しかし賢者達が討伐に赴く気配はない。

 ——ガノンドロフの求めていた世界は、力のみが全てを決める世界ではなく、己が全ての生殺与奪を決める事が出来る世界だった。

 それに対しライネルは、ラウルの統治する世界よりも受け入れられるものでない、と宣言した上でガノンドロフから秘石を奪い、結果的に殺害へと至った。

 そしていつの間にか地上へと戻ってきていたライネルは、今のところラウルの統治する世界を、その奪った秘石を使って乱すような兆候も見られないまま、細々と平穏に生きている。

 また、討伐しようするのならば秘石を使うとも宣言しているライネルに対し、ラウルもまた無理に討伐しようとするよりかは、復興を優先していた。

 

*

 

 しかしそんな日々の中、ラウルを含む数人の賢者が、前置きをした上でその地を訪れた。

 距離を取って姿を現したそのライネルは、その背後に少なくない数の魔物を備えさせていた。その中には同じ白銀のライネルが何匹も存在しており、自然と一触即発の雰囲気を醸し出される。

 だが賢者であり秘石を身につけているハイリア人が、秘石をラウルへと預ける事で敵対の意思がない事を示しながら前へと歩いて来たのならば、ライネルもそれに応えるように前へと出る。

 中央で対面した、そのハイリア人——ゼルダと、秘石を体のどこかに隠し持っているそのライネル。

 体格の差は、倍では収まらない程にあった。ゼルダの頭はライネルの腰くらいの位置にしかない。ゼルダの胴の太さはライネルの二の腕の太さと変わらず、その大きな手に掴まれてしまえば、そのまま握り潰す事だって可能だろう。

 けれども、ゼルダもまたそんな純粋な暴力に抗える力を、秘石なしでも備えている。

 そして先に口を開いたのもゼルダだった。

「武器を持っているのは申し訳ありません。そのような事はしないかと思っていますが、人質にされる訳にはいきませんので、最低限の自衛として」

 その身に備える光と時の力を効率的に扱える武具を手にしながら言うと。

「己の求める世界に、そんな薄汚い真似をしてまで叶える価値はない」

 ライネルはぶっきらぼうに返しながらも心底思う。

 それに……これは本気を出したのならば、秘石なしでも、今の己でも勝てるか怪しい。

 ただの小さい雌だというのに、その身の内に秘める力は不相応な程に強く、そして意志の強さはラウルすらも凌いでいるかもしれない。

 そんな事まで思われているとは露知らず、ゼルダは礼を返す。

「……ありがとうございます」

「それで、何の用だ」

 ライネルが聞くと。

「帰る前に、どうしても貴方ともう一度話してみたく。無理を言って貰いました」

「……帰る? 貴様もハイリア人だろう?」

「そうなのですが……実は私は、遠い所から来たのです。詳しくは余り話せませんが、近くて、けれどとても遠い場所から。

 もう私は……色々あって帰らねばいけないのです。

 それも、来た場所に帰れるとは限らないのですが」

「……良く分からんが、それで?」

「これから、貴方達とハイリアの人々がどう生きていくのか、考えても不安ばかりが募ってしまいまして」

 ゼルダは、何度か言いあぐねるようにしながら、けれど口を開いた。

「共生は、出来ないのでしょうか? ガノンドロフの眷属であった時ならまだしも、その支配から解けた今なら、出来るのではないのでしょうか?」

 それに対して、ライネルは返す。

「己も、考えている」

 そんな言葉が返って来るとは想像していなかったかのような驚きの顔。

 ライネルはそれを見て、溜息を吐きながら続けた。

「己は、いや、魔物の全ては、あの屑から生み出された。ただ、根本的な部分は貴様等と変わらないようだ。

 口から飯を食い、尻から出す。寿命があり、交わって子供を為す事で次の世代に命を繋いでいく生命だという事は貴様等と変わらない。

 ……秘石を使わなければな」

「……」

 ライネルが、来た道の方を向いた。沢山の魔物達が居て、けれどその目線は更にその先を向いているようだった。

 そしてその表情がこれまで対峙してきたどの魔物よりも柔らかいのを、ゼルダは感じた。

「己にも子供が出来た。貴様等のように守るべきものが出来た奴等は、ここから先には幾らでも居る。

 ……己は貴様等の力の源を理解した。

 貴様等は、勝ちたかった訳ではなく、負けられなかっただけなのだな」

 己は随分と丸くなったものだ。だがしかし、もしラウルが己を殺そうとしてくるのならば、己は絶対にラウルを屠る。絶対にだ。

 その覚悟が、幾度と蘇るこれまでの己には存在しなかった。

「そこまで分かっているのならば……」

「そう簡単にいかないのも、分かっているだろう? 未だ己は数多くの同じ魔物から命を狙われている。昨日なんぞ、ライネルが五体で襲ってきた。そして己達は、それらを悦びを感じながら、屠り尽くした。

 己達も、守るべきものが出来たとは言え、結局変わらないところは変わらないままだ。

 貴様等が邪と呼ぶ、己を構成する力の本性は、どこまでも力で全てを決してこようとする」

 ライネルはその時の事を思い出して血が昂ったかのように、指や蹄、尾をせわしないように動かした。

 目と目を合わせてはいないが、毛量の多い黒髪をざわめかせ、口角も持ち上がって、凶悪な笑みを浮かべているのが分かる。

 ゼルダは、黙ってしまった。

「だが、守る為以外に力を使わないとも、己は決める事が出来た。また、子供を為した者は皆そう出来るようだ。

 ……今のところはな」

 ゼルダは、聞いた。

「貴方達は、これから先の未来に何を望むのですか?」

「……これが、このまま続けば良い。それ以上もそれ以下もなく。ただそれではきっと、いつか崩れるのだろうな」

 邪の力は平穏を許さない。

 このハイラルより己達以外の魔物が消えてしまったのならば、それは即ち、破壊衝動を晴らす矛先もなくなるという事だ。

 その時、己を含む皆が、それにどれだけ鬱憤を溜めるのか、その矛先をどこに向ければ良いのか、己達が滅びに向かわない道があるのか。無かったならば滅ぶしかないのか。

「殺し合いでなくとも、その渇望を満たせるのならば、私達も多少は協力出来るかと思いますが」

「さあな。ただひとまずは、己を屠らんとする奴等は何であろうとも、手出しはしないで貰えると助かる。

 その数だけ己達は平穏を保ち続けられるからな」

「……分かりました」

「…………それだけか?」

 せわしなく動いていた体を鎮めるように腕組みをしていたライネルは、ゼルダの方に顔を向けた。

「はい。ひとまずは。

 ……出来れば、もう少しお話しませんか? 帰る前に貴方の事も知っておきたいのです。

 何故あの場所であのような行動をするに至ったのか、よろしければ聞かせて頂けませんか?」

「……変わっているな」

 つい、言葉に出てしまったが、それに対してゼルダは言われ慣れているような仕草をしていた。

「急く必要もないならば、付き合おうか。己も聞きたい事が無い訳ではない」

 

*

 

 戦闘に入るなどという事はなさそうである事に安堵したのも束の間、長引く会話にラウル達も魔物達も等しく辟易とするばかり。

 そんな最中、ゼルダが何かを察したかのように、唐突に顔を上げた。

 ライネルも、快と感じてしまえるが故に不快である、久々に覚えるそれに顔を歪めた。

 自然と、見る方向が重なる。

 ライネルが聞いた。

「……己が踏み潰した、あのガノンドロフの死体はどうした?」

「光の力が最も濃い場所にそのまま埋めました」

 見ている方向の先だった。そこから、邪の力が蠢いているような感覚がしていた。

「八つ裂きなどにはしなかったのか。己ですら擦り潰したい程に怒りを覚えていたのに。

 貴様等も、あの屑のせいでどれだけ殺されたのか、数えようもないだろうにか?」

「何であれ、死体を更に辱める行為などすべきではないと思いましたので」

「……貴様等の高潔さを否定出来る訳ではないが、しておいた方が良かったのだろうな。

 いや、己があの時そこまでしておけば良かったか」

 死にたい訳でなかった己が、賢者達の前でそんな事までしようと思えなかったからではあるが。

「……そうかも、しれませんね。

 まだ私も、帰る訳にはいかないようです」

 ゼルダは陰鬱とした顔をしていた。それはまるで……これから起きる惨事を事細かに察しているような。

 そしてライネルも、これから何が起きるかを想像すると、呑気な顔は出来なかった。

 己のようにガノンドロフの生前から覚醒したような魔物は、結局殆ど居なかったようだった。居たとしても、ガノンドロフの求める世界に疑問を抱くまで至る魔物は、多分己以外には居なかった。

 それは即ち、同じような邪の力が地上をも蝕み始めた時、正気で居られる魔物はとても少ないだろうという事。

 ガノンドロフの言いなりになる事までは望まない魔物も、体を交えて守るものが出来た魔物も、等しく邪の力に駆られてそれに逆らえなくなる。

 胸当てに手を当てた。

 その裏側に、肌に触れないようにしながらも、秘石はあった。

「……守る、為にか」

 きっと、使わなければいけない時が来る。

 その時。

「あの、手を繋ぎませんか?」

 ゼルダがまっすぐと目を向けて、片方の手を伸ばしてきていた。

「?」

「守るものがある。それならば今だけでも、私達は共に戦うべきだと思うのです」

「……己も含めた魔物達が、過去には数多に貴様等の同胞を殺していてもか? これから先、己の子孫がそうするかもしれないとしてもか?」

 ゼルダはその問いにも、目を背けずに、はっきりと口を開く。

「はい。過去がどうあろうとも、未来がどうなろうとも、現在を守れなければ、過去の軌跡も、未来の可能性も全てが掻き消えてしまうのですから」

「…………」

 強い意志。

 ゼルダと言うこの小さなハイリア人は、遠いところから来たと言う。そしてそこでも、同等以上の苦難に揉まれて来たのだ。

 そう確信出来る程の、強い意志。

 ライネルも、手を伸ばした。圧倒的な体格差の為に、それでは手と手がどうにも合わずに少しばかり身を屈めつつ。

「己は……己達はこれからの苦難に、貴様等と共に戦う。そう、ここに誓おう」

「私達も、貴方達が守りたいものを、共に守ります」

 ライネルの手がゼルダの手を傷つけないように、慎重に包む。

 すると不思議と、如何なる苦境も乗り越えられる、そんな予感がした。




歴史を捻じ曲げたライネル vs 歴史の修正力
ファイッ!!

ここから先書こうとなると本当に本腰を入れなきゃいけないので、書くかはかなり微妙。
午年になるから本腰入れて書く価値もありそうだけども。
後、ライネルのフィギュアも自作したいんだけど、まあ来年の私はどうなる事やら。

ゲーム中からのライネルの印象

  • 誉無き蛮族
  • 誇り高き戦士
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