そのライネルはガノンドロフを否定する   作:ムラムリ

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筆が乗っております。


ガノンドロフを改めて否定するライネルの話

 名前、か。

 ガリガリと素手や蹄で壁面を削って荒々しく減速しつつ地底へと降りながら、ライネルは片腕で担いでいる大剣に思いを馳せていた。

 山崩し、中々に良い呼称だと思う。その名前もあって、この大剣はより気に入っている。

 だが、物にすら名前があるのに、己にはない。子供にも付けるという発想が余り浮かばなかった。

 種族としての(何故かガノンドロフが名付ける事もなく理解していた)ライネルという名はあれど、個としての名はない。ガノンドロフが名付けたものといえば、己の手で作り上げた四匹の魔人のみだ。

 そして、それらも種族としての名と個としての名は等しかった。

 これから、己達が血を繋いでいくならば。それぞれが傀儡としてではなく、意思を持って生きていくのならば、名前は必須になっていくだろう。

 ……己にはどのような名前が似合うだろうか? そして妻や子供にはどのような名前が似合うだろうか?

 己自身で名付けるべきだろうか、それとも渡し合うべきか。

 下らない事だろうと思う己も居るが、そういう事こそが今からの己達には必要なのだろうとも思う。

「……熱烈な歓迎が待ち構えているな」

 ラウルが呟く。見えて来た下には、既にライネルを含む多数の魔物達が蠢いているという程に居た。

「蹴散らす。退いてろ」

 黄金のライネルは端的に宣言すると、息を吸い、壁を蹴って山崩しを両手で頭上に構えた。

 そして。

「ゴララララッ!!!!」

 細身な人の身では出す事など到底不可能な、耳をつんざく咆哮。それと共に大剣を地面に叩きつけながら着地すると、爆炎が……通常のライネルとは比べ物にならない範囲と、熱を伴ったものが、全ての魔物を例外なく吹き飛ばした。

 距離が強く離れていても、咄嗟に光の力で防御してしまう。その直後、激しい熱波と共にボコブリンやリザルフォスなどが今ラウル達が居る高さより更に上まで、一瞬で炭化したかのような黒焦げの状態で飛んでいき、そして落ちていった。

「……凄まじいな」

「ですね……」

 地面に足を付けた瞬間、残っていた熱が足裏を焼きそうになる。

 光の力で守りつつ辺りを見回せば、それどころかモリブリンもボスボコリンも、ライネルだろうとヒノックスだろうと焼き尽くしており。

「改めて凄まじいな……」

 そう言うと、しかしその黄金のライネルは。

「それ程でもない。見ろ」

 そう言うと、辛うじて生きていたボコブリンを指差す。多分、他の魔物の陰に重なって熱波を避けられたのだろう。

 ライネルは指をくいと動かすと、そのボコブリンから邪がするりと抜けて、ライネルに向かって飛んでくる。

 そして、ボコブリンはがくんと力を失ったかのように倒れ、そして魔物としての形すらも保てなくなったように霧散した。

「……脆い、ですね?」

「そうだ。魔物だろうと、多少邪が体から抜け落ちた程度で力尽きる事はない。とりわけ、地底のこんな濃厚な場所でこんな軟弱な事は、まず無いはずだ」

 ミネルが聞く。

「それは即ち、ガノンドロフはまだ少なくとも、復活まではしていない?」

「……そう見て違わないだろう」

 ライネルは手元まで届いてきた邪を、手を振って払いながら答えた。

 そしてゼルダも、ラウルも、ミネルも、背筋に凍るものを覚えた。

 ガノンドロフを踏み潰した時と同じ、膨れ上がる怒気。

「……相変わらず、あの屑は己達を生命として見てもいない」

 

*

 

 強い光の力にも負けず、縋るように這い寄って来る邪。

 踏み潰された頭を、脳味噌を、乾き切った血の一滴までを健気に掻き集めて持っていく邪。

 それは、邪が光を上回る千載一遇の機会を諦め切れない意志に満ち溢れていた。

 満ち溢れる光の力にどれだけの邪が灼かれながらも、少しずつ、少しずつ、深くに埋められたガノンドロフの死体へと土を掘り返す。

 そして、見つけたと思えば既に腐り始めていたそれ。けれども、邪の力を無尽蔵に受け付けるようなその肉体は、邪がその身を捧げれば僅かながらでも生気を取り戻していった。

 血の欠片も、脳の欠片も邪が身を捧げれば、それ単体でも効果があった。そうして、ひと踏みで粉々に潰された頭も再び形作られていく。

 けれども、とうとう血が流れ始めた……いや、邪の力によって再び活動し始めたその肉体は、何故かただただ震えるばかり。

 それはまるで生き返る事を拒絶しているかのようにも見えた。もしくは、魂までもに刻まれた恐怖に怯えているような。

 しかし、邪はそんなガノンドロフの意志すら知らないかのように、ただただ愚直にその身を捧げるばかり。

 肉体が力を取り戻すに連れて、体内を巡って増幅した邪が無作為に吐き出される。

 まだ健常な魔物を生み出すまでには至らないが、より効率的な侵略が出来る形になった邪の力。

「————」

 邪は、歓喜の声を上げてより一層ガノンドロフの死体——蘇りつつあるそれに群がっていく。

 

*

 

 先を駆けるのはラウルとゼルダ。

 光の力を軽く放てば、それだけで半端に生み出された魔物は形も残さず霧散していく。

 それはライネルが大剣を振り回すより、余程効率が良かった。

 その後をミネルが続き、ライネルが追う。ミネルは一応、ライネルが唐突に後ろから襲いかかってこないか注意もしているが、光を放つだけでは倒せない頑丈な敵が出てきたら、その四つ足の脚力で悠々と前へ躍り出て叩き潰してしまう。

 ボスボコブリンの腹に山崩しをめり込ませ、さも当たり前のように撃ち飛ばしたライネル。

「己は貴様等の高潔さに感化されてガノンドロフに牙を剥いた部分もあるが。

 それがこのような結果を齎したのならば、その高潔さは必ずしも褒められるものではないのだろうな?」

 ライネルはそう緊張のない面持ちで、皮肉たっぷりに言った。

 ガノンドロフの放つ言葉とは異なり、ただの事実でしかないそれに、ラウルは返す。

「私が下衆だったら貴様は今頃どうしていたのだろうな? 生きていたとしても、何も得られておるまい?」

 言い返されたライネルはそれに言葉を持たず。

 ラウルは付け加えた。

「過去から学ぶ事は肝要だが、過去に囚われては何も為せる事はない。

 私達は今にしか生きる事が出来ないのだから」

 ライネルはそれに対し、試すように聞いた。

「……己達が、ガノンドロフの傀儡だった時に人を幾多に殺していても、それを言うのか?」

「……王というのは、道を指し示す者だからな。

 理想が如何に絵空事だろうと、それに向かって歩む事を止めてはいけない。

 それに貴様等は、ガノンドロフが死んでからは人を殺してはいないのだろう? 少なくとも私の元にはそのような報告は来ていない」

「……そう敵対しない道を選び続けていれば、いつか歩み寄れる時も来ると?」

「その頃には少なくとも、私も貴様も寿命が来て久しいだろうがな」

 ライネルは暫く無言になった。

 それから。

「…………己は、己が死んでも残る価値を作れるのか」

 ラウルは呆れたように返した。

「子供を作っておいて何を言うのか」

「いや……なんだ。己達はどれも一つで完結していたからな。

 まだ、子供を為すという事が何を意味するのか、分かりきれていないようだ」

 続いてヒノックスの足を鎧ごと砕き、崩れたその体に二撃目を入れようとした時、そこには既にラウルの投擲した槍が脳天を貫いていた。

 ウルトラハンドですぐに手元までに戻っていく槍。互いに一瞬目を合わせながらも、また前に向かって走り始める。

 ゼルダが小さく、ミネルに聞いた。

「息、合ってきていません?」

 ミネルは難しい顔をした。

 

*

 

「ウオ、ア、ガアアアあああアアッ!?!?!?!?」

 ガノンドロフは、目を覚ました。邪の尽きない献身によって。

「あア??」

 しかし、まだその挙動には不安定さに溢れていた。

 体の動かし方すらも分からないように、立ちあがろうとして、崩れ落ちる。受け身も取れない。

 完全に再構成された頭は特に不安定で、その衝撃でぐにゃりと歪んだ。

「ごゲぁあぅ?? ゥギィげぇ!? ゲェあアァああアア!?!?」

 そこで、再び体をがくがくと震えさせた。

 記憶から最初に蘇ってきたのは、ライネルの顔だった。地に這う自身を高みから見下し、そして侮蔑するその顔。全身で怒りを表すように怒張した肉体。

 それが隠れたかと思えば、真っ黒な蹄が視界を覆い、そして迫ってくる。

 ぐしゃり。

 自らの頭が潰れた音など聞こえたはずもないのに、そうして自分の命が潰えたところを勝手に補完してしまう程、全身に記憶が刻まれたかのように、それは鮮明な記憶として蘇ってくる。

「ぃギゅァっ、みゅメぇっ、がぁアぁっ、ぎぃっ」

 それは、恐れだった。覇道を突き進んでいた自らが唐突に道を途絶えさせられた恐れだった。

「ミ゛イ゛あ゛っ、ガァぁっ、げェっ、ぼぉッ」

 それは、怖れだった。自らの創造物に不意を突かれて王足り得ないと見下された怖れだった。

「ぅごぉ、げビゅっ、ブぅあ、ぎゃあっ」

 それは、畏れだった。自らの純粋な実力では、ライネルには踏み潰されるしかないという刻み付けられた畏れだった。

 ガノンドロフは、手足をぐちゃぐちゃに動かしながら、頭をがくんがくんと振り回しながら、ひたすらにのたうち回る。そこに魔王としての威厳は微塵もないが、しかし周囲に侍る邪は無邪気に喜んでいる。

 そもそも邪から生まれた魔物でもなく、最初から肉体を持って生まれた生物であるのに、頭を潰されながらも生き返った事自体が既に有り得ない。

 ガノンドロフは秘石を身につけて活動している内に、邪そのものに体そのものも変質していったのだろう。それを邪も理解していたのだろう。

 邪はただ、じっとそんなガノンドロフに期待を籠めている。まるで、それが再び立ち上がる事に疑念など微塵も抱いていないように。

 

*

 

 無尽蔵に居るようなボコブリンやリザルフォス、起動させられた兵隊ゴーレム達を雨のように降り注ぐ光の力で掃討する。

 数多のモリブリンを棘付きの鉄球を幾多に転がして圧し潰す。

 敵としてのライネルの脳天に槍が突き刺さる。ガノンドロフが生み出した魔物であったら体勢を崩す前に投擲しようとも避けられる事は間違いなかったが、今のどれもが虚ろな顔をしているライネルには簡単に突き刺さった。

 黄金のライネルがイワロックすらも大剣の一撃で真っ二つに破壊する。

 そして、地底では見る事のなかったグリオークが立ちはだかる。

 そこは天井も高い場所で、今は空を飛べるクラフィカなどリト族も、また騎士ゴーレムも居らず、苦戦してしまいそうであったが、黄金のライネルがおもむろに手を伸ばした。

「弓を使うのではないのか? 届くだろう」

「いや、それより簡単そうだ」

 そう言ってグリオークの頭の一つに腕の先を定めて握り締めれば、それはぷつんと事切れたように項垂れた。

 3回も行えば、グリオークそのものも墜落しながら霧散していった。

「便利なものだな」

「きちんと生まれた魔物にここまで効くとは思えないがな」

「そのような魔物も、貴様は変わらず割り切って殺せるのか?」

 そう聞くと、ライネルは目を見開いたかと思うと、腹を抱えてひとしきり大笑いしてから返した。

「貴様、いつの間にか人民と似たような目で己を見ていないか?

 己は、殺意に殺意で返すのは今も変わらず大好物だ!

 己が魔物である事には変わらんのだからな!」

「……そういえば、そうだったな」

 

 そうして何事もなく、ガノンドロフを埋めた場所のすぐ近くまで辿り着く。

 邪の力が強まっており、更に増えていくもやはり脆い事には変わらない魔物達と、邪そのもの……魔物にもならず、ただ力が形を成したものがその先にある何かを守ろうとして襲ってくるのも難なく退けながら、その先まで辿り着くと。

 そこには、ガノンドロフが居た。近くには掘り起こされた跡があった。

 だが、体を縮込めており、魔王としては余りにも覇気のない、情けない姿をしている。

「まさか、いえ、やはり……」

「信じたくなかったが……やはり生き返っていたのか」

 そのガノンドロフは顔を上げると。

「うお、ああ、あああ、ああああっ、くっ、来るなっ!!」

 ミネルやゼルダでもなく、ラウルでもなく、ライネルを見て酷く狼狽え、怯える顔をして尻を着いたまま後ずさっていく。

「……」

 哀れみからか、怒りからか。

 ライネルは駆けた。無言で、山崩しを頭上に構え、今度こそ復活出来ないように叩き潰し、擦り潰さんと。

 一瞬で詰められる距離。何の躊躇もなく振り下ろされる、その大剣。

 ドガンッ!!!!

 ライネルの後ろ足が高くに跳ね上がる。大地を割ったかと錯覚する程に、地面には長く深く入った罅。

 しかし、肝心のガノンドロフを叩き潰した感触はなかった。

「どこに消えた!?!?」

 ライネルが叫んで辺りを見回す。ミネルもゼルダもラウルも構えて辺りを見回すが、どれだけ灼かれても集まろうとしてくる邪の力が邪魔で特定する事が出来ない。

「まさか、逃げたのでしょうか?」

「有り得るが……早急に決めるのは危ない」

「……」

 ゼルダはふと、この時代に来る直前の光景を思い出していた。

 干からびたガノンドロフの額にあった秘石。ラウルが封印を成し、残った腕のみにあった秘石。

 ゼルダが持っている秘石は、元を辿ればラウルの秘石だ。では、ガノンドロフの額にある秘石は……あの光景に戻ってしまうならば……。

 奪われるのは、私の秘石か、ライネルの秘石だ。

「秘石を奪われないようにしてくださいっ!!」

 その時掘られた穴の中を覗いていたライネルは、半ば無意識に秘石を隠している胸当てに手を触れた。

「…………そこか」

 ぼたり。

 数多の邪の力が……人の形すら捨てたようなガノンドロフが、頭上からライネルに向かって降り注いだ。

「ゔっ!?!?」

 三人と距離を取っていたライネルは、その援護を受けられなかった。

 そしてライネルは……肉体がどれだけ強くなろうと、邪の力を操る力まではそう強く得られなかったライネルは、纏わりついてくる邪の力とガノンドロフを咄嗟に振り解く事も出来ず。

 大剣を叩きつけて爆炎と共に振り払うにも、溜めの時間が必要なのも変わらなかった。

「己ごと灼けぇ!!!!」

 せめて叫んで、ゼルダとラウルが光の力を放った時には。

 ぶづんっ、と音が鳴って胸当てが千切れ。

 秘石はライネルの抑える手すらもずるりとすり抜けて奪われた後だった。

 そうして、目の前には邪の力から再びガノンドロフが形作られた。

 

 秘石を奪われても、光の力で灼かれても、そのライネルは黄金色を保っていた。

 しかし山崩しを先程までのように、重量すら感じさせないように扱う事は出来なくなったのか、両腕で持ち直す。

 また……そんなライネルを見るガノンドロフの足は相変わらず震えていた。

「……この我を虚仮にした罪は、一度の死などでは償えぬぞ」

 ライネルはせめてと言い返す。

「相変わらず哀れだな貴様は! 自らが最初から虚仮でしかないと今も気付いてないようだ!!」

 それに、ラウルが隣に来て続けた。

「……そうだな。認めたくなかったが、どうにも貴様とは馬の合う部分が多いようだ」

「合わせてやる、貴様も己を上手く使ってみせろ」

 返すライネルも、その声には最早余裕はない。

 ゼルダも、ミネルも隣に並んで武器を構えた。

 そう立ちはだかった面々に対し、ガノンドロフは深呼吸を、一度、二度としてから、再度手中に収めた秘石を強く握り締めて。

「……今度は、弄ぶ事などせぬ。この世界が闇で覆い尽くされるまで、我は止まらぬぞ!!」

 邪の力が、ガノンドロフから溢れ出した。




ここで漸くライネルが操作可能になるのですね。
操作はもっさりしてるし、ゾナウギアも使えないし、防御も出来ないけど、技のダメージがとんでもないタイプ。
強攻撃の幾つかは大型エネミーすら吹っ飛ばすし、デフォルトで防御貫通するし、回避反撃で餅つきしてガードゲージを木っ端微塵にするし、(スマッシュも連携技も必殺技も即死だし)やりたい放題。

Q. 最初からライネル抜きで行ってたら良かったんじゃ?
A. その時は多分単純に逃げられていたと思う。

ゲーム中からのライネルの印象

  • 誉無き蛮族
  • 誇り高き戦士
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