「そう……彼は最後まで戦い抜いたのね」
「はい。色々と考えたのですが、連れていかなくとも、きっと今より悪い方向に事は進んでいたと思います。
邪に愛されて復活したガノンドロフが、秘石を奪う為に何をしてくるか……それは何にせよ防ぎようがなかったでしょうから」
事が終わった後。
自らを山崩しの中へと封印したライネルの妻に、ゼルダは会いに行っていた。
妻である白髪のライネル。
「おとーさん、いつ帰ってくるの?」
子供が、そんな無邪気な顔で聞いてきているのに、妻は答えられない。
ゼルダは恐る恐るというように聞いた。
「……これから、貴方達はどうするか決まっているのでしょうか?」
妻は少し迷ってから、答えた。
「このハイラルの地から、出ようと思っています。そこで……邪の力がそのものがもしかしたら無い場所で、私達が本当に生きられるのかは分からないけれど。
それでも、この場所でずっと、私達が私達らしく生き続ける事は出来なさそうだから」
邪の力は僅かながらも、じんわりと地下から漏れ出し続けていた。ガノンドロフは封印されようとも、地下から影響を及ぼし続けている。
北東の魔物達の中でも、ガノンドロフの傀儡と化してしまった者がちらほらと出てきていた。
「北に見える大陸へと海を越えて行くか、南の砂漠の先へと進んでみるかも決まっていませんが。
準備が出来次第、私達は発ちます」
「……はい」
そして、別れの挨拶を迷うようなゼルダに、妻は、白髪のライネルは付け加えた。
「……私達は、貴方達を恨んではいません。寧ろ、感謝すべきだと頭では理解しています。
貴方達が、彼とラウルが命を賭してガノンドロフを封印出来なければ、私達は今頃傀儡に戻っていたのでしょうから。
けれど……やはり……私達は、いや、私は、彼を喪った事を受け入れられそうにないのです。
未来でガノンドロフを倒す礎になるより、帰ってきて欲しかった…………」
堪えきれない涙がぽろぽろと零れ始めていた。
ゼルダはその顔をじっと見た上で、返す。
「せめて、私達は彼の事を無駄にはしません。
そして私達も……身を捧げる覚悟です」
そのライネルは驚くも。
「……ごめんなさいね。私達は、誰も彼やラウルのようにまでは、強くなくて」
「いえ、私も恵まれただけですから」
*
*
*
*
「……姫は、相変わらず強いですね」
「俺なんかよりよっぽど強いですよ」
龍の泪からの事の顛末を聞いた人は誰でもそう答える。そして同じように俺は返す。
「……明日、行きます」
「えっ!? なんでそんな急に!? 皆には伝えたの!?」
「いや。各地の魔物も強くなりつつあります。今、長となっている皆まで連れていっては却って不安要素が増えてしまう。
それに俺にはミネルも……そしてアイツも居ますので」
「アイツ、ね……」
始まりの台地のライネル。100年前からガノンドロフを信奉せず、その結果、同族によって陸の孤島へと島流しに遭い、皮肉な事に眠っていたリンクを見つけたライネル。
厄災ガノンの討伐にも、一役どころか二役も三役も買った。
黄金に至った事もあって『始まりの黄金』と呼ばれるようになった。
そしてつい最近、ある出来事があったせいで、拠点の皆も信頼するようになっている。
「彼は変わらず?」
「地底にも一緒に行きましたけど、狂う様子は全くないですね。今もきちんと妖精にも愛されていますし……それどころか、表には余り出しませんけど、また同胞達を狂わされた事に、彼も相当にブチギレています」
たった一人のハイリア人に100年もの間封じられ、たった一人のハイリア人に討伐された、神とまで崇めていた存在。
それは元々ガノンを信奉していたライネル達から信仰心を失わせるには十分過ぎた。彼のライネルも、黄金になった事もあって無事に同胞達に認められる事となったのだが。
ガノンドロフの復活によってそれもまた、崩れる事となった。
前回とはまるで異なる様相に再び信奉するようになった個も多ければ、単に死んでも赤い月が訪れれば生き返れる事に歓喜して殺し合いに励むような戦闘狂も居れば、手ずから鍛え上げた武器を使い物にされなくされたりしてガノンドロフに怒りを抱くようになった者まで今回は様々だが、ともかく。
「まあ……それなら安心か」
「武器の目処も立ちましたし」
雷が落ちて黄金となってからは、獣神の大剣ですら壊すようになってしまったのに、錆びた武器なんぞ全力で振るっただけで壊れる始末。
「じゃあ、今日はしっかり休んでね。
見張りもつけておくから、くれぐれも、くれぐれも! 万全の体調で臨むように!!」
「……信用ないなあ」
「あんな事しでかしておいて、言うんじゃない!」
「はいはい」
*
翌日。ハイラル城の近くで落ち合う。
「よう。始まりの黄金」
「おう。リンク」
「準備は出来てるな?」
「言わずもがな」
ライネルは妖精のビンを5つと、属性の木の実を大量に詰め合わせた鞄を見せた。それから弓矢と盾。
「後は武器だけだ」
「そうか」
「それで? その山崩しとやらはどこにあるんだ?」
「まだ俺も聞いていない。ミネル?」
ミネルがその魂を宿したゴーレムと共に出て来ると、まずは一礼をした。
「……初めまして」
「初めまして。始まりの黄金と呼ばれている」
初対面の二人。どちらかといえばミネルの方が警戒しているが、ミネルはライネルをじろじろと見てから、俺に聞いてきた。
「彼……ひょっとして、私達が共闘したライネルより数段強いのでは?」
「ああ、それは間違いない」
雷が落ちて黄金になってから、こいつは出来る事の幅が一気に増えた。
多分100年もの間愚直に一人でハイラル王と研鑽を積んできたのもあるのだろう、その実力の伸び幅は他の黄金となった魔物のどれよりも段違いだった。
厄災ガノンを討伐してからも腕が鈍らないようにひっそりと何度も落ち合って戦ってきたが、普通に俺も10回に3回は負けてしまう。
「だってその太古のライネルって、一年も鍛えていないんだろう? その期間で黄金になったなら、私より才能はあったかもしれないが、その程度で負ける訳にはいかない」
「…………。それで、疑うようですみませんが、本当に妖精が効くのか、この目で見させて貰っても良いのでしょうか」
「良いぞ」
そう言って、ライネルはさも当然のように、自分の爪で首筋を切り裂いた。どば、と出てきそうになった血が瓶の一つから出てきた妖精の力によって瞬く間に治っていった。
「なんでっ、そんな簡単に……」
俺とライネルは目を見合わせる。
「いや、あれからもずっと殺し合ってきたから……」
「72勝203敗。私はリンクにそれだけ殺されているからな。
ただ、赤い月で蘇った事はないぞ。蘇れるかと言ったらそれも無理だろうがな」
あからさまにミネルが俺も含めて思い切り引いているのが分かった。
「…………案内します。場所はローメイ島です」
シーカーストーンを使って、共にローメイ島までワープして。
「何でこんな場所に?」
「あの後、あのライネルの妻と子供と、それから少しの魔物はここから海を渡って北の大陸に行ったようです。
光も邪もきっと無いであろう場所に行って、その後どうなったのかまでは分かりませんが、その北の大陸を見渡せる場所に眠らせる事を、ゼルダは提案しました」
「ゼルダ……」
ハイラルの大地の方の空を見ると、小さくその白龍が見えた。
始まりの黄金たるライネルはそんなリンクを見る。平然としているように見えるが、その内心はどうしようもない程の焦燥に駆られている事を、ライネルが一番知っていた。
不眠不休で動き続けて、動きがどうしようもなく鈍っている事すらも分かっていないリンクをぶちのめし、首根っこを掴んで、拠点まで乗り込んで丸三日も徹底的な監視と共に寝かせたのは、つい最近の事だった。
「付いて来て下さい。封印を解きます」
「……ああ」
そうして、何の変哲もない石壁の前にミネルは立ち、何度か目印になっているようなものを確認した後に、ゾナウの機械を操作するように腕をせわしなく動かすと。
ぱっと岩が消えて、その山崩しが出てきた。
「……私に肉体があった頃と、全く変わらないですね」
「ゼルダの記憶で見たままだ」
「これが私の武器か。その太古の同士の意志が込められていると聞いているが、さて」
そうしてライネルは柄を掴んで……そのまま固まった。
「……何が起きているのでしょう?」
「俺がゼルダの記憶を覗いた時ときっと同じだ」
独り言を言うように、口が小さく開いたかと思うと。
「…………擦り潰さねば」
その声と共に、山崩しの中にあったであろう邪の力が、ライネルに向けて染み込んでいくのが見えた。
リンクとミネル一瞬身構えるが。
「……傀儡にはならない………」
「……ああ、彼は、ガノンドロフを倒せたら、今度はバラバラにする事を決意していました。
頭を潰すだけでは生き返ってしまったのですから、私達もそうするつもりでしたが……」
「バラバラ、か」
「己は……己は……貴様を否定する…………。
終わってたまるものか。終わって、溜まるものか!」
そして、目を覚ましたように顔を上げると。
「恥ずかしい事言ったりしなかったか?」
「……最初に言う事がそれかよ」
それから、何故かライネルは、始まりの黄金はミネルを見て抑えきれないように笑い始めた。
ミネルが恐る恐る聞いた。
「もしかして、中に入っているのですか?」
「そうだ。今の私は、体は同じでも二人分の力を振るえる。山崩しも、持ち上げるのも簡単だ。
それにしても……それにしても……いや、笑ってしまうな」
万を超える眠りの先にまず見たものは、すらりとした身のゾナウ族だったミネルがごつい機械になっていたという光景だった。
「不愉快です。それにこの体は逞しいのですよ?」
「ならば、己と撃ち合ってみるか?」
いきなり口調が変わった。
……主導権も変えられるのか。
「……今はそれより、ガノンドロフを討伐するのが先でしょう」
「それもそうだな」
再びシーカーストーンを使って移動する。
*
そして、ハイラル城の地下。
ガノンドロフへと続く道中にて、魔物を薙ぎ倒しながら、邪が濃くなって来るのを感じるようになってきた頃。
賢者達の分身も消え失せてしまった深さ。
太古のライネルが表に出てきて、口を開いた。
「さて。ガノンドロフ……あの屑に関してだが。
もうアレにはその光の力をこれまでかと帯びているマスターソードでしか有効打にならないだろう」
「でしょうね」
「そして、己が邪の力として出来る事もあるかもしれないが……きっとそんな必要はない」
「何故?」
「この肉体の……始まりの黄金の技量は、既に屑を超えている。
リンクで言えば、きっと屑が二人居ようとも敵わない程だ」
ミネルが思わず声を上げる。
「まさか」
「思い出せ。純粋な技量で言えば、ラウルより下なのだぞ、あの屑は」
それぞれが秘石が無い状態では、ガノンドロフはラウルに傷を与えられもしなかった。
「言ってしまえば……己がこの体に取り憑いていなくとも、この始まりの黄金は既に化け物だし、リンクはそれを超える化け物だという事だ。
ならば、勝敗は最早問題ではない。
問題は……ゼルダだ」
いきなり出てきた名前にリンクがビクついた。
「ゼルダ?」
太古のライネルは、髭を弄りながらリンクを見てきた。
始まりの黄金が太古のライネルの記憶を見たように、太古のライネルも始まりの黄金の記憶を見ていた。
ゼルダと共に生きる安寧を手に入れて柔和な顔をしているリンク。
ゼルダに化けたイーガ団を、らしくない残虐さで殺したリンク。
ゼルダの覚悟を見てマスターソードを再び手にした後、寝食を忘れてゼルダを戻す方法を探していたリンク。
「リンク。貴様にとって、ガノンドロフを討伐出来ようとも、ゼルダが元に戻らなければ意味が無いのだろう?」
「…………」
いきなり図星を突かれたリンクは何も言えなかった。
「……屑の欠片といえど、まさか100年もの間、意志のある状態でそれを抑え込んでいたとは。
しかもあの後、秘石を飲み込んでマスターソードを復活させる為に身を捧げたとは……。
強いな。強過ぎるな、あのハイリア人は」
「ええ。私よりも比べものになりません」
「ゼルダは報われるべきだ」
「ええ」
太古のライネルはリンクに向き合った。
「要するに、龍から人に戻す可能性はあるだけあった方が良いという事だ。
そしてあの屑は、プライドだけは異様に高い。それが折られた時、敗北が確定した時、アレが何をするのか、己にも分からない。
その結果、もし秘石をどうこうしようとする素振りを見せるものならば、己もミネルも、全力でそれを妨害する。
それで良いな?」
「ええ。そこに関しては同意します」
「……頼む」
太古のライネル:
才能+++++
筋力++++++++
技量+++
努力++
=> 才能があったからこそ秘石込みとは言え黄金に至れた。努力する時間があればもっと強くなれた。
始まりの黄金:
才能+++
筋力++++++++++
技量++++++++++++
努力++++++++++
=> リンクが眠っている100年もの間、ハイラル王と共に研鑽し続けた & 厄災ガノンを討伐した後もリンクと時折研鑽と言う名の殺し合いを続けていた、で化け物。
太古のライネル+始まりの黄金:
才能++++
筋力++++++++++++++++
技量++++++++++++++++
努力+++++++++++
=> 単純に各能力が1.8倍くらいになってる。2倍じゃないのは、太古のライネルが始まりの黄金よりちょっと弱いから。
リンク:
才能++++++++++++++++
筋力+++++
技量++++++++++++++++++++++++
努力++++++++
=> 生まれながらにして化け物 & 更に努力も欠かさないが、100年眠っていたので、努力の量は始まりの黄金より少ない。
ガノンドロフ:
才能++++++
筋力++++++
技量++++++++
努力++
=> リンクがいない時代に生まれただけの凡夫。
ゼルダが人に戻る条件 ≠ ガノンドロフが黒龍と化す
だとは思ってる。
次回「ガノンドロフ死す」デュエルスタンバイ!