そのライネルはガノンドロフを否定する   作:ムラムリ

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残念ながらガノンドロフはまだ生存しています。


ガノンドロフの軍勢を灰燼にするライネルの話

 リンクと常に秘石を通じて繋がっていたはずの分身が引っ張られていくような感覚が強くなっていったかと思うと、ぷつんと切れた。

 川を下り、空を飛び、山道を転がり、スナザラシを走らせて、賢者を継いだ者達が猛然とハイラル城へと集結した。

 シドが大穴を覗いて、覇気のない声で言う。

「何も言わずに行ってしまって……」

 けれど、怒りは湧いてこない。続けるべき言葉を言いあぐねるほどに。

 秘石を身につけようとも、妖精を懐に忍ばせようとも、アレとは絶対に戦いたくない、出来れば近寄りたくもないという思いは変わらなかったから。

 リンクとしては、皆はそれぞれの地方を守ってくれという、無言のメッセージでもあるのだろうとは分かっていた。

 だがそれ以上に、アレと対等以上に戦えるリンクとしては、自分達などより余程に信頼出来るのだろうとも思ってしまう。

「……それでも僕は行くよ。ここで折れたら、オイラたちこれからずっとアイツに頭が上がらなくなっちゃう」

「そうだゴロ! ボク達がハイラルを守れなきゃ意味がないゴロ!」

「わらわ達が怖気付いている訳にはいかぬな」

 それらを聞いたシドは。

「……ははっ、はははははっ!!」

 何故か唐突に笑い出した。

「何がおかしいのだ?」

「いや、俺達はどうしてガノンドロフより味方であるアイツを恐れているんだゾ!?

 やはりガノンドロフなんぞ大した事ないという事だゾ!」

「ははははっ! それもそうだね! じゃ、行こうよ、みんな!」

「突撃だゴロ!」

 

*

 

 大剣が地面に叩きつけられる。

 それだけでガノンドロフの軍勢の一勢力は纏めて灰燼と化した。僅かに生き残っていたボスボコブリンに対して、ミネルのゴーレムの発する防壁からリンクが躍り出ようとしたのを、ライネルは止める。

「リンクは温存だって言っただろう」

 そう言いつつ、起き上がろうとしたボスボコブリンの方へとかつかつと歩いてその頭を蹴り飛ばす。

 太い首でも関係なくぼきりと折れると、それは邪へと戻っていった。

「それにまだ邪の気配はたっぷり残っている。ここは私に任せておけば良い」

「いや……俺、地下に潜ってから本当に何も……」

 リンクは呟く。

 道中、殆どの敵はライネルによって片付けられた。

 ミネルが遠くから弓を構えているような敵や、瘴気の手に対してゾナウギアを使って動きを止める事もあったが、大剣を直接当てられる相手ならば、それを一振りして潰れない相手は居なかった。

「正直言ってしまえば、私も何も出来ていないなと思う位ですが……ガノンドロフを滅する事が出来るのは貴方だけなのですから。ここは素直に従っておきましょう」

「それはそうなんなんだけど……」

 また魔物達が邪の力から形を為して生まれて来る。色濃く邪を纏い、今度は数を為してライネルに襲い掛かろうとするも。

「何もって、私を運んでくれているじゃないか」

 そう言って無造作にまた大剣を地面に叩きつけると、爆炎と共に全ての魔物は再び灰燼と化した。

「それはそうだけど」

 地下へ、地下へと道なき道を潜っていくその旅路。巨体のライネルを下に運ぶのは、ゾナウギアとウルトラハンドを組み合わせてリンクが器用にやっていた。

「マスターソードが寂しそうにしてるんだよなあ……」

 三つ目の軍勢は数多くのモリブリンだったが、結局のところボスボコブリンより頑丈でなければ、爆炎で纏めて消し炭になるのは変わりなかった。

 

*

 

 敵一匹も残っていない、快適にも程がある道中を進む。

 所々には、ゴロン族だろうと出せないような真新しい破壊の痕跡が残っていた。

「山崩し……」

 ユン坊が呟く。

 ライネルが唯一使えそうな武器だという事で、それを見たリンクから貸与して貰えないか打診されていて、個人的な心情から一旦保留にしていたもの。

 それではないが、今ライネルが使っているのも山崩しではある。

「ユンも使えないのか?」

「使えない訳じゃないゴロ。ブンブン振り回すまでは出来ないだけゴロ。

 でも……鍛えてでも使えるようにした方が良かったのかもしれないゴロ……」

 そもそもゴロン族の体格でも使えるものではないのではないか? という言葉は飲み込んだ。

 

*

 

「終わりか?」

「いや」

 リンクの見る先には、フリザゲイラが姿を現していた。吹雪の如き強風が吹き荒れ始める。

「ああ……うざいな、あれは。私の弓でも届くか微妙なところだ。

 それにしても……ガノンドロフは随分と怯えているようだ」

「それは、ライネルがここまでに一匹しか出てこなかった事でしょうか?」

「それもあるが……それより、魔人ですら考える意志というものが無くなっているところだ。

 魔物に自由を与える事を恐れているように見える」

「……あんな事をされては当然でしょうね」

 自我を獲得した魔物に裏切られ、踏み潰された事。

 それから、聞き覚えのない言葉にリンクは疑問を投げかける。

「魔人?」

「……ああ、そこの記憶は龍の泪では出てこなかったのですか。

 今回ハイラルの各地を荒らしていた魔物は、封印戦争の時はそれぞれ自我を持っていたのですよ」

「己も実際には見ていないが。結局はガノンドロフへの崇拝が前提にあった、傀儡と変わらない哀れな奴等だった。別に貴様等にとっても大した奴等ではなかったのだろう?」

「強敵ではありましたが、そうですね。記憶にも強く残らないくらいでした」

 それから。

 ミネルは、パラセールを広げようとしたリンクを遮った。

「それにまだガノンドロフは完全復活していないようですね。

 万を超える歳月の封印は、ガノンドロフさえも治すのに時間の掛かる後遺症を残したようです」

「それは、どういう?」

「あんな、見るからに弱点な部位が出来ているじゃないですか。

 魔人にはそんなもの無かったので」

 そう言うと、ミネルは光線をフリザゲイラに向けた。それは胴体の太くなっている、氷で覆われた部分に的確に照射され続けて、そう時間の経たない内にぱりんと割れた。

 二枚目も、三枚目も大して動かないまま破壊されると。

 怒って大顎で直接噛みつきに来たフリザゲイラは、ライネルの大剣の前に沈んだ。

 

「フリザゲイラが来たって事は……」

 次のボルドゴーマは咆哮している間にライネルに脚の一本に大剣を叩きつけられていた。

「〜〜〜〜!?!?」

 一撃で破壊まではいかなかったものの、派手にヒビ割れた岩石の脚と、声にならない悲鳴をあげるボルドゴーマを見てしまえば、寿命が近いのは明らかな事だった。

「……纏めて掛かってきてもどうにかなる気しかしませんよね」

 緊張感のない会話。

 

*

 

 地下へ、地下へと進んでいくに連れて、賢者の名を引き継いだ者達は無言になっていく。

 邪の力が濃くなっていく事よりも、ガノンドロフとの決戦が控えている事よりも、やはりあのライネルに近寄る事自体を恐れてしまっていた。

 厄災ガノンを討伐した後に、各地を周遊していたリンクとゼルダ、そして時折共に付いて来るアレを見た時……渾身の一撃が生身で容易く受け止められる想像がついた。遠くからどれだけ矢を撃ち込んでも全く堪えずに、こちらが冷徹に射止められる気がしてならなかった。英傑から受け継いだ絶対的な守りでさえも破られる悪寒がした。雷を落としても平然としているであろう確信があった。

 絶対に敵に回してはいけないという恐怖を、見ただけで刻みつけられた。

 それは正直なところ、今回新たに現れた魔物達よりも余程に強いものだった。更に秘石を受け継いでも追いつけるとは思えない実力差がそこにはあった。

 ……妖精を持っていたとしても、致命傷を受ける事など恐ろしくて堪らない。そもそも、そんな傷など受けた事がない。

 しかし、リンクとあのライネルは違う。厄災ガノンを討伐した後も鍛錬の名の元に、共に死に続けている位には、そんな傷を受ける事すら慣れきってしまっている。

 そしてそれはきっとゼルダも似たようなものだろう。100年もの間、厄災ガノンを封じ続けたというその意志も言ってしまえば、常軌を逸している。そして……自我すらも喪って、マスターソードの復活にその身を捧げたという行為も。

 そこまでした者達が、ガノンドロフを討伐しにいく。

「……あ」

 先を飛んでいたチューリが声を上げる。

「どうした?」

「繋がったよ。でも……」

 立ち止まったチューリのところまで行くと、他の皆もリンクと繋がり直した感覚を得た。

 そして分身を通して見えたものは。

 クィンギブドの頭に大剣を振り下ろすライネルの姿だった。ミネルがゾナウギアをふんだんに使って周りに出来ている巣を破壊していたりもするが、リンクは、マスターソードを引き抜いてすらいなかった。

 リンクを、マスターソードを温存させる為に、そのライネルは各地で暴れてきた魔物を屠り尽くした。ミネルの助力も大したものではないだろう。

 更にそこまでやっておきながら、山崩しを担ぎ直すその姿に疲弊の色は全く見られていない。

「これは、でも、だゾ……」

 

*

 

 唐突に棘付きの電流が流れる金網で囲まれたフィールドに閉じ込められて、目の前には邪を纏ったミネルとそっくりなゴーレムが。

「……これは、ミネルの趣味か?」

 始まりの黄金の方のライネルは、呆れたようにミネルに聞いた。

「そうですけど、何か?」

 欠片も疑問に思っていない口調。

「…………」

 その、元の姿とはかなり異なる、屈強そうなゴーレムの肉体も見るに、ミネルも小細工を捏ねくり回すより、シンプルな暴力に訴えかけるのが好きなのではないか?

 その疑問に、内側の太古のライネルは当たりだ、と返してきた。

 あれより比較にならない大きさのゴーレムを操っている時、凄く生き生きとしていたとか。ミネルに殺された時は最終的にこれより余程大きなゴーレムに叩き潰されたとか。

 ……嫌な死に方だ。

 溜息を吐いて、ライネルは続けた。

「別にあれも私が壊した方が早そうだが。それで良いだろう?」

「ええ……はい。ですが、私が過去に作ったものですから、手助け出来るところはありますよ」

 大砲が飛んできたのを跳ね返そうとして、大剣で迎え打とうとしたが跳ね返す前に爆発した。大剣を叩きつけようとしたが、張り出された防壁に阻まれ、反撃に殴打が飛んでくる。

 それを受け止めつつ。

「……そうだな、頼ませて貰おう」

 

 ライネルの一撃も受け止めて見せるような硬い防御も、一面にしか張る事が出来ない。また雷などにも弱ければ攻略に苦労する事はなく、ゴーレムも簡単に沈んだ。

「パワー型として作ったのですが、やはり耐久性を犠牲にしてまでやるものではないですね。

 それで……これで流石に店仕舞いですかね?」

「いや……まだもう少しありそうだ」

 そう返すと、未だ閉じている壁の前に、ファントムガノンが現れた。それも何体も。

 だが、どうにも覇気がないというか……。

 龍の泪の記憶の一つを思い出す。邪に呑み込まれようとも反逆したライネルに対して、ガノンドロフは余裕を失うどころか、再び恐怖を露わにしていた。

 リンクは予想を口に出した。

「自我を与えたとて、黄金のライネルを恐れる性質が付くようになっているんじゃないか?」

 ライネルが鼻を鳴らす。太古の方が言う。

「あの屑は、自分の物にならない存在を受け入れられない。万年の封印が解けても変わらないままだな」

 そして、リンクはマスターソードを引き抜いた。

「ここは俺にやらせて貰えないか? やっぱり体を動かしておきたいし、それに、こいつらにはマスターソードがてきめんに効きそうだしな。

 後……皆も、もう近くに来ている」

 いつの間にか再び姿を現していた賢者達の分身。

 ただ、ライネルからすれば、自分を見ただけで怯えるような賢者などは。

「別に私が居れば不要だろうに」

 ……実際、倍になって纏めて襲いかかってきても……雷だけは厳しそうだが、それでもどうにか勝てそうな予感までしていた。

 そんなライネルにリンクは返す。

「俺達みたいな戦うしか能がない化け物だけに、国の命運というものは任せてられないんだよ」

「……化け物と、自分でも言ってしまうんだな」

 どこか認めたくない口調。

「妖精を使うのに慣れてしまった時点で、俺もお前もそうだよ。自分で認めようと認めまいとな」

 そうする事でしか到達出来ない技量に在る事も含めて。

「……」

 黙ってしまったライネルを傍目に、リンクはファントムガノンの前に、賢者の分身と共に立った。

 ファントムガノンは、ライネルが様子を見るだけで居るのを確認すると、一斉にリンクへと襲いかかったが。

「私より強いのにな」

 一番先に飛んできた槍の一閃を躱したと思った直後、滅多切りにされていたファントムガノンは、邪の力にも戻らず無となるかのように消えていった。

 

*

 

 全てのファントムガノンが無へと帰されると、壁を構成する為の邪の力も使ってしまったのか、先へと進む道が開いた。

 そして、賢者達も追い着いた。

 しかし倍近くにまで威圧感を増しているライネルに、どうしても恐れ慄いてしまう。

 そんな賢者達に、ライネルは蔑んだ目を隠さずに言った。

「別に着いてきても構わんが、貴様等程度と協力する気はないぞ。巻き込まれても知らないし、命が危険に晒されても私は助けない」

 冷徹な言葉。けれどチューリは真っ直ぐな目で返した。

「それでも、行く。せめて行かなきゃ、オイラ達、アンタにずっと頭を下げたままになる」

 他の賢者達も決意を固めていた。

 内側の太古が声を掛けてきた。

(こいつらも、ガノンドロフより己達の方が恐ろしいようだ)

(リンクの方が強いのにな)

(共に苦難を乗り越えてきたからだろう。しかも2回も)

 ……もしかして、単純に互いを知らないだけか?

 別に親しくなろうだなど、これっぽっちも思っていないが。

 その時だった。

「皆、様子がおかしい」

 リンクが警戒するように呼びかけた。

「何だ? …………なるほど、ようやく、ガノンドロフは私達がここまで来た事に気付いたのか?」

 邪の気配が再び濃くなってきていた。そして、先へと通じる道に再び壁が出来始めている。

「奴の力は無尽蔵です。

 気付かれてしまったならば、悠長にしていてはいけませんっ!」

 更にファントムガノンを含む数多の魔物が新たに生み出され、先へと進む道が阻まれ始める。

「そうだな、突っ切る。付いて来い! あぶれた奴は知らんからな!!」

 阻もうとする魔物達を等しく蹴散らしながら、ライネルが駆け始める。

 欠ける事なく皆はそれに続いた。




軍団戦は簡潔にするつもりだったんだけど、賢者達の事を考えると吹っ飛ばせなかった。
オクタコスはミネルのゾナウギアで引っ張り出された後に、ライネルに拾い上げられてそのまま握り潰されました。


始まりの黄金に対して。

シド、チューリ、ユン坊、ルージュ:
人智を超えた化け物。戦ったら絶対に負ける。敵でない事を頭で理解していても近寄りたくもない。里の近くにも来ないでくれ。
ミネル:
前例があるのと、妖精も使えるので信頼してはいるが、それはそれとして(リンク諸共)化け物として見ている。
リンク:
恩人。ゼルダと同じくらい信頼している。幾らボコっても良い遊び相手。
太古のライネル:
生き続けて鍛錬し続けられたらこの位になれたのだろうと思って羨ましい。
拠点の人達:
マスターソードを入手後に不眠不休で動いてそのままくたばりそうだったリンクを強制的に寝かせた功績により親しまれている。

次回こそガノンドロフが死ぬかな……。
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