そのライネルはガノンドロフを否定する   作:ムラムリ

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リンクと共にガノンドロフを討伐するライネルの話

「リンク乗れっ!! 最初から仕掛けるぞ!!」

「分かった!」

 そうしてリンクは、一瞬スピードを落としたライネルの馬部分の背中に乗り、そして上半身に身を預ける。前方からすれば完全に隠れた形。

 そこまでイメージの共有が出来ている事に、賢者達はそれだけで置いて行かれた気持ちになる。

 ……出来る事はあるのだろうか?

 ただ、それは口には出さなかった。気持ちまで負けてしまっては、本当に何も出来そうになかったから。

 

 そして、玉座に辿り着く。咽せ返る程に濃厚な邪の力で溢れた空間。

 既に金棒を手にして待ち構えていたガノンドロフ。

「どこまで我を虚仮にすれば気が済むのだ!?」

 既に表情を怒りの一色に染め上げていた。

 その苛立ちと共に、邪の力の波動がライネルに向けて放たれる。ライネルは高く跳躍してそれを躱しつつ、大剣を、山崩しを掲げて、振り下ろした。

 ガァンッ!!

「ぐぅっ!!??」

 秘石を身につけた程ではないが、太古のライネルの執念を受け継いで、通常時より遥かに強化されるに至った肉体。それは無尽蔵のように邪の力を放出出来るガノンドロフでさえも易々とは受けられない威力だった。

 即ち、ガノンドロフが今その身に備えている邪の量に、確実に損害を与える威力と化していた。

 そしてその衝撃と共にリンクは宙へと跳ね出された。そしてガノンドロフの背後へと着地したリンクは、ガノンドロフの背中へと、マスターソードを引き抜いて切り掛かる。

 ゼルダやラウルの光の力は、秘石を手に入れたガノンドロフの前では、どこまで行こうとも致命傷にはなり得なかった。しかし。

 ギィンッ!!!!

「ぐああああっ!?!?」

 ゼルダが身を捧げて、万年以上もの間光の力を浴びてより強く、より輝かしく復活したマスターソードは、ガノンドロフの肉体に痛烈なダメージを与えていた。

「虫ケラ共があっ!!」

 叫び、邪の力を暴れさせるようにその身から吹き上げさせたガノンドロフ。

 リンクはマスターソードでその濃厚な靄を切り、邪の影響から逃れたが、しかしガノンドロフの第一の標的はリンクではなかった。

「我がまた変わらず待ち構えていると思ったのか!? さっさと染め上がるが良い!!」

 ライネルの周囲から巻き上がるようにして邪の力に包まれる。

 しかし、嵐の中から。

「……私も、太古の時代に貴様と戦ったライネルではないのだぞ?」

 冷静な声で、ライネルは返した。

「……は?」

 一時離脱したガノンドロフは、太古のライネルならば十分に染め上がる程の邪を与えた上で、その嵐を止めた。

 そこには、変わらず黄金色を保ったままのライネルが居た。

 ガノンドロフは、思わず唖然としながら、聞いた。

「…………何故だ?」

 ライネルは、山崩しを肩に担いで返した。

「私はな。

 生まれた時から今に至るまで、200年は行かないくらいか、その期間、一度も赤い月で蘇っていない。

 私の父母も、その祖父母の四人もきっとだ」

 意図した事ではない。しかしこのライネルのその代々の先祖からして、最後に邪の力で産まれ直したのは、最も早くとも、リンク以前に厄災ガノンが復活した時だった。

 故に、邪の力から生まれた魔物である事は変わらずとも、その身の中に邪は存在していないに等しい程度にしかなかった。

 また、その身に宿った太古のライネルも、外付けの鎧のように纏っているに過ぎない。

「私を邪に染め上げたいならば、この程度ではまるで足りないという事だ」

 実は……十回も繰り返されたら危ないだろうという感覚はあったが。

 始まりの黄金は、そして太古のライネルの助言もあり、ガノンドロフを精神的に追い詰める為に余裕の表情でそう言い放った。

「くっ……糞が糞が糞が糞が糞があああああ!!??」

 唖然としている隙に背後に回ったリンクが再びガノンドロフを切り裂き、そして追撃を避けた瞬間。膨大な量の水が浴びせられ、雷が落とされ、幾多の氷の属性を秘められた矢が突き刺さって、ゴロン族の猛烈な突進が凍った体をバラバラに砕く。

 確実に死へと追いやる力を秘めているマスターソード。邪で染め上げる事の出来ないライネル。そして、その二人と比較してしまえば大した障害ではないものの、一時この身の動きを封じるくらいは簡単にやってのける賢者達。

 更に、ライネルは山崩しを真っ直ぐとガノンドロフに向けて言い放つ。

「それから……コレの持ち主から伝言だ。

 今度こそ、貴様を擦り潰す。二度と復活出来ないように」

 ガノンドロフの片足が、意志とは関係なく後ろに動いていた。

 

*

 

 生まれながらにして自分が世界の中心だと信じて疑わなかった男は、初めてそうではないのかもしれないと疑念を抱くに至った。

 しかしそれは、自身が追い詰められたからではなかった。黄金のライネルに幾度と肉体を叩き潰されたからでもなく、賢者達の連携によって動きを阻害されるからでもなく、マスターソードによって自身の命が確実に削られていくからでもなかった。

 マスターソードを持つとはいえ、一人のハイリア人には変わらない相手に、全力の金棒の叩きつけを弾かれたからだった。

 こちらは黄金のライネルを凌駕する膂力を手にしているというのに、ただの何気ない盾の振りで方向を強く逸らされ、隙を作らされた。

「化け、物……」

 思わず口に出た言葉。

 何がどうしてそう出来るのか、理解すら拒みたくなる。

 それでいて目の前のリンクというハイリア人からは、ラウルのような王たるような雰囲気は微塵もない。ただただ優秀な兵士であり、忠実に命をこなすしか能のないような、見た目としてはどこにでも居るような凡夫。

 マスターソードを持つこのリンクとやらを殺せれば後はどうとでもなると考え直したその計画は、木っ端微塵に砕かれた。

 最初に邪の力を飛ばして、不意打ちで仕留められなかった時点で、自分の敗北は確定していた? そんな馬鹿げた事があって溜まるか!?

 また、後ろから押し寄せる魔物の大群も、賢者達によって抑えられていた。

 

 その賢者達は後ろから来る魔物達をこの場にまで通さない事に全力を尽くしていた。

 それは必要な事であったが、正直その責務は気が楽であるものにも程があった。どれにもこれにも攻撃が通じる。あの黄金のライネルから感じる、自分ではどうしようもないという絶望を覚える事が全くない。

 目の前から来るのが白銀のライネルであろうとも。

 雷を落として、シドの一閃がその首を貫く。怯んで急所を晒してくれるし、その上で刺さってくれる。そんな当たり前の事がここまで安堵出来るものだとは、あのライネルが居なければ思う事すらなかっただろう。

 そうして深くまで攻め込んだシドに魔物達が群がろうとするが、その片方は的確に弓矢によって急所を射抜かれもう片方はその身を転がしての突進で轢き殺される。

 ファントムガノンが奥に何人か控えているのが見えるが、きっとそれもそう変わらない。ガノンドロフは最早リンクとライネルに押しに押されて何も出来ていない。

 また、ミネルはいつからか身を隠していた。そのゴーレムはリンクの持つゾナウ文明の機器を使って出し入れ可能で、備えるべき事があるのですと言って。

 余裕が出来た一瞬、チューリは後ろを振り返る。

 すると、ガノンドロフの顔が見えた。

「……」

 あるはずのない勝機を見出そうとする必死さに溢れるそこにはもう、魔王としての威厳など微塵もなかった。

 

 以前の持ち主は秘石を奪われれば力任せに振り回すのが精一杯だった大剣を、このライネルは体の一部のように自在に扱い、時に攻撃を弾くまでしてくる始末。

 また弾かれれば、隙だらけになった肉体を叩き潰してくるよりも、リンクに場を譲ってマスターソードで命を削る事を優先してくる合理性すらある。そこには、才能だけでは到底成し得ない、ひたすらに積み上げられた研鑽を感じずにはいられなかった。

 ガノンドロフにはないそれ。如何に優れた素質を持っていようとも、積み上げた重みが全く異なるという実感。

「う、うぐおおおおおおおお!!!!」

 どうにか距離を取って、邪の弾を幾多に放つ。リンクはマスターソードで一つの漏れもなく切り捨て、しかもそれらはマスターソードの力によって光の力に反転してガノンドロフに襲いかかった。

 それと共にライネルが大剣を掲げて駆けてくる。刀に持ち替え、躱す事に集中してから切り裂こうとするも、ライネルはガノンドロフに直接、ではなくその目の前に大剣を叩きつけた。

「あ゛があ゛っ!?」

 それだけで、足が棒になったように動かなくなった。

 リンクには通じなかった、初見殺しの一つだった。

 同時に反転した光の力がばちばちとガノンドロフに刺さり、更にはそのまま突き出された大剣によって壁にまで押しつけられる。

 全く、動けない。びくともしない。

 駆けてくるリンクにマスターソードによる致命傷を喰らう前に、また実体を捨てて移動せざるを得なかったが。

「鬼ごっこも飽きたぞ!?」

 ライネルが呆れた顔をして叫んでくる。

「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!」

「さっきからそればっかりだなあ!?」

 ライネルからは明らかに飽きた顔を向けられる始末だった。

 しかし……こちらを見るリンクは油断なんぞ一分たりともしていなかった。甚振るまでの余裕があるだろうに、リンクはただ淡々と、ガノンドロフを殺す為の最適解を叩き出し続けている。

 言ってしまえば、リンクの精神性はただただ優秀な兵士なのだろう。目的の為ならばどこまでも自分を殺す事が出来る。

 この世界に自らの名を刻むだとか、人の上に立ちたいだとかそんな、ガノンドロフからしたら誰もが持っていると信じて疑わない欲求が、何一つとして無い。

 それが、ライネルや賢者の助力がなくとも自身を圧倒して見せるであろう剣術を持っている事も、ガノンドロフからしてみたら到底受け付けられない。

「化け物め……」

 何度その台詞を言ったかももう分からない。

 

*

 

 ガノンドロフは抗った。

 

 黄金のライネルに向けて金棒を振るい、槍を振るい、刀を振るった。

 しかし、この濃密な邪に満たされた空間の中でも、どれだけ時が経とうとも一切邪に染まる気配のないライネルの、その自在に操られる山崩しの前ではどれもが通じなかった。

 弾くだけでなく、その小回りの利かない体で避ける事までしてくる。攻撃や防御の手段も大剣一本だけで実に多彩で、ガノンドロフはそれに対応する事がどうしても出来ない。

 100年もの研鑽を経ても、黄金に至ろうともリンクには敵わなかった。そこから妖精を山のように使って更に積み上げ、そしてどうにか3割の勝率を得るに至ったライネルの技量は、最早ガノンドロフとしても比較出来るものではなかった。

 

 それに対し、リンクの攻撃は、ライネルと比較してしまえばその範囲は狭く細い。

 一撃一撃に強い殺意のようなものが篭っている訳でもなく、盾と剣を同時に構える攻撃の手法も別にそう多彩な訳ではない。

 けれども、この世の理を理解しているかのように、その剣筋は、体捌きはどこまでいっても的確だった。

 避けられる事もあった。しかしその後どれだけ反撃を試みても、最後に攻撃を喰らっているのはガノンドロフだった。

 黄金のライネルと打ち合える程の膂力を持っているのに、どうしてか無造作な攻撃のどれもこれもは盾を横に振るうだけで無力化された。

 

 そして、それらが重なれば。厄災ガノンが討伐されてからも研鑽し続けてきた二人の息はどこまで行ってもぴったりだった。

 迫り来る魔物の全てを倒し切った賢者達が介入出来る隙間など、最初からどこにもなかった。

 例え直接的なダメージに至らなくとも、ライネルの重量と殺意に溢れた攻撃は防御を強要させる。

 もっとその肉体で在った時間が長ければ、自らの肉体を人としての姿に依存せず動かす事も出来たのかもしれないが、少なくとも今のガノンドロフには出来ず、危機に迫られて出来るようになる事もなかった。

 それより何より、過去にライネルに踏み潰された身としては、そもそも無視する事も出来なかった。

 そして防御を強要されれば、隙を作られてしまえば、リンクの攻撃は、マスターソードによる邪を一方的に滅してしまう程の光の力はガノンドロフの肉体に深くまで食い込んだ。

 何度も何度も、何度も何度も繰り返される。

 一時的に退避して状況を改めようとガノンドロフは武器を持ち替え、手を変え品を変えて襲いかかるも、そんな即興は、少し考えれば思いつくような攻撃は、死すら当たり前に受け入れて戦い続けてきた二人に通じる事もなかった。

 

 ギィンッ!!

「うぐ、が、ぐぅっ」

 その一撃を以てして、自身を構成する本質が半分以上削れたと実感すると同時に、ガノンドロフはとうとう心に刻まれてしまった。

 これらに勝つ術がない、と。

 リンクに至っては未だに何一つとして傷を受けていない。微かにすら邪をその身に受けてもいない。

 頭の中が敗北に染まりきる……だけではなかった。

 更に、秘石を持っているはずの賢者達は後ろで控えているだけだった。

 自身をそこまで追い詰めたのは、マスターソードを持っているとは言え肉体はただのハイリア人に過ぎない一人と、どれだけ優れていようとも邪から生まれた魔物には変わらない一匹だった。

 そのどちらも秘石は持っていなかった。

「ぐ、ぐぐ、ぐああ……。

 認めぬ、認めぬぞ! たかが、たかが、秘石も持たない魔物と人の子にここまで虚仮にされるなど、あって、あって溜まるものか!!」

 そう言って、ガノンドロフはその額から秘石を外し。

 その瞬間。

 ゾナウギアの一つ……光線の頭に意識を移して身を潜めていたミネルの一撃が、その腕を貫いた。

「……は?」

「待っていましたよ。その瞬間を!」

 がらんっ。

 それは、山崩しから手を離した音。ライネルが今の今まで使う事のなかった弓を手にする為に。

 しかしそれより先にチューリの弓矢がガノンドロフの腕を的確に突き刺した。

「はっ!!」

 掛け声と共にルージュの雷が落とされる。

「うぐ、お」

 それでも腕が動くのに対し、ユン坊がガノンドロフに向かって体を転がし、そのまま轢き潰した。

 そして最後に、シドの槍がその秘石を握りしめている腕を固定した。

 ガノンドロフの禍々しく、爛々と赤く輝いていた体色が色褪せていく。邪の力そのものだった体が少しずつ血肉を取り戻していく。

「この糞共が、放せっ、我を誰だ、と……」

 その罵声も、武器を収めて歩いてきたライネルとリンクに見下されると、口から言葉を発する事すら出来なくなる。

 ライネルは、そんな口をぱくぱくとさせるだけになったガノンドロフの前で、皆に告げた。

「まずは血の一滴までも残さず持って帰るぞ。

 こいつは頭を潰されても生き返ったからな。

 二度とそのような事がないように、今度こそ完全に滅する為に、な」

 それから太古のライネルが前に出てきたのか。

 態々身を屈めて、間近で満面の笑みを向けられたガノンドロフは、その表情すら凍りついて、指の一つさえもが動かなくなった。




ガノンドロフは(死刑宣告はされたけど)まだ死にませんでしたね。
後1~2話かと。

始まりの黄金から:
シド、チューリ:
お前等の事滅ぼそうと思えば私一人で簡単に滅ぼせるが、鍛えたり備えたりしなくて良いのか?

ユン坊、ルージュ:
お前等はまあ、里の全てと命を賭けられたらもしかしたら負けるかもしれんが、もう少しは頑張れよ。

ミネル:
覗き見た過去の記憶ではまともそうな奴に見えたんだが……。

太古のライネル:
ガノンドロフから直接生まれたのに反逆を翻したその精神から、尊敬すべき同族ではあるが、もしかして、これからずっとこいつが頭の中に居るのか? それはちょっと……。

リンク:
厄災ガノンを討伐して、他の同胞達も含めてガノンの呪縛から解き放ってくれた恩人。
それでいて今でも同胞を超える友であり、超えたい壁。

リンクとライネルの強さ

  • やり過ぎ
  • 妥当
  • もっと盛れる
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