春姫さんは九尾の人柱力   作:寝心地

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第6話

春姫は手を伸ばす、目の前で悲しんでいる少女(怪物)がいる

 

目の前の少女(怪物)は泣いていた

 

(ああ、また守れなかった…………)

 

伸ばす手は届かず少女(怪物)は遠ざかっていく

 

『お前のせいでまた憎しみが生まれた』

 

九尾の言葉が春姫の中で響く

 

全ての出来事は【イケロス・ファミリア】が異端児達を貴族に高値で売り付けた事が始まりだった

 

その標的にされたウィーネをベルは助けるべく外部の協力者と共に【イケロス・ファミリア】のアジトに乗り込んだのだがその際ウィーネの額にある石ヴィーヴルの涙を引き剥がされた事により暴走、地上に放たれたと言う事だった

 

そして今、そのウィーネは春姫達の目の前で苦しみ暴れていた

 

「ウィーネ様!!」

 

「止めろバカ!!巻き込まれるぞ!!」

 

ウィーネに手を伸ばす春姫をヴェルフが引き戻し上から降ってくる瓦礫から遠ざける

 

「皆!!」

 

そこにベルが駆け付けウィーネを止める為走り出す

 

「あ」

 

春姫はその背中に手を伸ばすがそれより早くベルは走り去ってしまう

 

『やはり貴様は弱い、また救えないな』

 

九尾の声が響く、その声に反応する様に負の感情が胸と頭を支配し蹲る

 

「春姫殿!?」

 

「おいおいおい、まさか今か!?」

 

「だ、大丈夫です……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

そういう春姫の瞳は獣の様に縦に割れ紅く染まり犬歯が若干伸びていたがそれ以上の変化は無く春姫はフラフラと歩き出す

 

「お、おい、落ち着け、ウィーネの事はベルを信じよう……」

 

「ハァ……ハァ……それじゃあ……駄目なんです」

 

「え?」

 

「ウィーネ様は、私を恐れてました。私の中の九尾を…………彼女達に伝えないと。私は、貴女達の味方だと…………」

 

春姫はそう言うとベルの後を追う様に走り去る

 

「あ!おい!!」

 

ヴェルフ達も慌ててその後を追い駆けるが段々と距離を離されていく

 

「クソ!!俺の方がレベル1つ上なのに何で離されんだ!?」

 

「恐らく九尾の力です!!」

 

後ろで走るリリルカが叫び命は歯噛みする

 

最早春姫の背中は見えず完全に見失った所でヴェルフ達の足が止まる

 

「クソ!!何処行った!?」

 

「春姫殿…………」

 

春姫を心配するヴェルフ達が次に見たのは天高く聳える人智を超えた魔力だった

 


 

(ウィーネ様!!ウィーネ様!!ウィーネ様!!)

 

走り行く春姫の頭の中にはウィーネの事のみが駆け巡っていた

 

(大丈夫、きっとベル様が救って下さっているはずです)

 

気が付けばベルの背を追い薄暗い壊れた回廊の中を走りそして見つけた

 

ベルの手の中で息絶えるウィーネとその姿に涙を流すベルの姿があった

 

「………………………………は?」

 

『フハハハハハ!!また失ったな、だから言ったのだ。武器を持とうが力を得ようがお前は弱いままだ、だから奪われる。お前は何も救えない』

 

「あ、ああ、ああああああああああ!!」

 

(どうして……どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!何時も何時も何時も何時も奪われる!!何故何故何故何故何故!!)

 

『言っている、お前が弱いからだ。さぁ、あの時と同じだ。儂に全てを委ねろ』

 

春姫の爪が伸び犬歯が伸びる、半透明の赤い魔力が体を覆う

 

その力を見て春姫の中の九尾はニヤリと笑う

 

『【未踏の領域よ、禁忌の壁よ。今日この日、我が身は天の法典に背く。】【ピオスの杖、サルスの杯。治癒の権能をもってしても届かざる汝の声よ、どうか待っていて欲しい】』

 

ピクリと春姫の変化が止まりその横をボロボロの外套が通り過ぎる

 

『この魔力この(詠唱)、まさか…………奴が、だが、成功する訳がない』

 

九尾は喉を鳴らし忌々しい物を見た様に自身を封じる(封印)の向こうを睨む

 

『【王の審判、断罪の雷霆(ひかり)(しゅ)の摂理に逆らい焼き尽くされるというのなら、自ら冥府へと赴こう】【開け戒門(カロン)冥界(とき)の河を越えて。聞き入れよ、冥王(おう)よ。狂おしきこの冀求(せんりつ)を】【止まらぬ涙、散る慟哭(うたごえ)。代償は既に支払った】【光の道よ。定められた過去を生贄に、愚かな願望(ねがい)を照らしてほしい】【嗚呼、私は振り返らない】【ディア・オルフェウス】』

 

天を突く光が一帯を包む

 

『初めて、成功したよ。800年か、無駄な魔法だと恨んでさえいたが、ああ、意味はあったんだな。なぁ九尾』

 

『フン、相変わらず癪に障る奴だ』

 

九尾が呟くと共に春姫の変化が消え春姫はフラフラとウィーネの元へ歩く

 

「春…………姫?」

 

「良かった……本当に、良かった…………」

 

春姫はウィーネを抱き締める

 

「ごめんね、春姫」

 

2人の間に、もう溝は存在しない

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