よくある後出し能力で学園最強になります   作:かっぱかぴ

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初投稿・初執筆です。
よろしくお願いします


裏庭の異変

放課後の裏庭。

僕――ルカ・シグナは、今日も例の場所へ呼び出されていた。

 

入学してから一年。

入学式の日、誰もが一つは持つはずの異能を測る“判定の儀”で、僕は無能力――ノーギフトと宣告された。

歓声と期待の視線が、まるで針のように胸に突き刺さった瞬間だった。

それ以来、この裏庭は僕にとって、半ば“日課”の処刑場のような場所になっている。

 

「また負けたんだって? 星導演武、九連敗だろ?」

 

嗤う声の横で、取り巻きがゲラゲラと笑いを重ねる。

魔法学園二年でも悪名を轟かせる乱暴者――

ガルド・バルクス。

 

彼は、さっきの星導演武での僕の惨敗を楽しむかのように、

放課後の裏庭まで呼び出してきたのだ。

 

星導演武――それは、異能と戦技を披露する学園の格式ある試合。

“星を導く者”を示すとされ、将来の評価にも直結する重要な競技だ。

 

でも、僕は勝ったことがない。今日で九連敗。

 

異能を持たない僕に勝てるはずもなく、それが彼らの格好の嘲り材料になっている。

無能力ゆえに、二年生になって始まった星導演武でも一度も勝てなかった僕についたあだ名――「能無し」。

 

ガルドが笑えば、取り巻きが殴る。

取り巻きが煽れば、ガルドが蹴る。

毎度お決まりの流れだ。

 

「おい、九連敗の能無しィ? 立てよ」

 

鋭い衝撃が腹を貫き、膝から地面に落ちる。

痛みがじわりと全身に広がるが、顔を歪め、歯を食いしばるしかなかった。

 

立ち上がろうとしたその瞬間――

ガルドの拳が頬を撃ち抜き、視界がぐらりと揺れる。

背中が壁に打ちつけられ、頭の芯が鈍くぐらついた。

 

そして――その瞬間だった。

 

視界の端が、まるで光を吸い込むかのように白く滲み、次の瞬間、世界そのものが止まったかのように静まり返った。

 

音が消え、色が消え、痛みすら遠のいていく。

脳の奥が“水底まで澄んだように”静かになる。

 

暗闇に、無関係なはずの映像が次々と浮かんだ。

 

キーボードを叩くリズム。

試合前の張りつめた緊張。

モニター越しの激しい読み合い。

データで作り上げた戦略と、その検証。

勝ち筋を探し続けた無数の試行。

何度負けても、何度でもやり直す執念。

 

――これは、“俺”の記憶だ。

 

この世界じゃない。

前の世界――eスポーツの舞台で戦っていた、もう一人の“俺”。

 

(転生……? いや、憑依……?)

 

自分の意識なのに、自分の場所が曖昧になる。

“この体”は僕のもので、でも“今の記憶”は僕だけのものじゃないような感覚。

 

二つの自分が重なり、軋むように統合されていく。

 

(……なんでもいい。

 ただ――)

 

目を開けると痛みは戻った。

状況も変わらない。

ガルドはまだ目の前にいる。

 

けれど、ただ一つだけ確かな感情が胸の奥から湧き上がっていた。

 

――負けたくない。

 

拳が自然と握られる。

 

ガルドが再び拳を振り下ろすのを見て、

体は考えるより先に転がるように動いた。

 

「は? 避けてんじゃねぇぞ!」

 

怒号とともに飛ぶ、勢いを増した拳。

次の一撃は避けきれず、肩にぶつかる――はずだった。

 

拳が肩に触れる直前。

 

視界がぐにゃりと歪んだ。

 

光も、音も、空気の流れさえも一瞬だけ消え、

世界そのものが黒い闇に沈み込む。

 

「……え?」

 

声だけが浮かび上がり、

僕は自分の身に起きた異変を理解できずにいた。

 

瞬きをしたら、裏庭に戻っていた。

ついさっき見た“闇”は跡形もない。

 

それに――

 

あの拳は確かに当たった。

なのに、痛みがない。

 

「は? 避けてんじゃねぇぞ!」

 

同じ怒鳴り声。

同じ角度の拳。

同じ踏み込み。

 

――まるで、さっきの“繰り返し”だ。

 

反射的に体が横へ滑り、拳を避ける。

そして気づく。

 

――俺は今、“巻き戻った”のか?

いや、もっと根本的に……そもそも、今の俺は誰だ?

 

さっき脳内を走った“前の世界”の記憶。

eスポーツの大会、配信のライト、モニターの熱。

それらが今の僕の意識と自然に混ざっている。

 

これは一時的な錯覚か?

それとも――

 

憑依?

転生?

記憶の混線?

 

ガルドの暴力を前にしたこの状況で、

そんな非現実的な単語が、妙にしっくりくる自分が怖かった。

 

痛みは……来ない。衝撃もない。

“決められたレールを走ったかのような虚ろな感触”だけが通り過ぎた。

 

「二回も避けた? 能無しが……?」

 

ガルドが舌打ちし、顔を歪める。

 

二回……?

――いや、違う。

 

さっきの感覚を反芻する。

一回目は、思わず体が反応して避けた。

二回目は、肩に拳が当たったはずなのに、痛みが消えた――まるで存在しなかったかのように。

――その瞬間、俺は“何か”が起きたことを直感した。

そして三回目は、意識的に横へ避けた。

 

記憶だけじゃない。

足の運び、呼吸のリズム、重心の移動――

体が全部“覚えている”。

 

胸の奥でざわりと波が立ち、心臓がひとつ強く跳ねた。

これは、ただの偶然じゃない。

 

「おい、何やってんだよ!」

「なめられてんぞ、ガルド!」

 

取り巻きのヤジが飛び、裏庭の空気がざわつき始める。

 

「テメェ……調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

怒りに呑まれたガルドの呼吸は荒く、拳の軌道は目に見えて雑になっていく。

そのぶん避けやすい。

かわすたび、周囲はざわめきと焦りを混ぜた視線でこちらを見る。

 

――いける。

――これなら、勝てる。

 

そう思った瞬間だった。

 

ガルドの足元から、空気が“沈む”ような重苦しい圧が噴き上がった。

 

地面がわずかに震え、裏庭全体の空気がざらつく。

目に見えない魔力の粒子が肌を刺すように散り、緊張で呼吸が浅くなる。

 

「……おい、ガルドのやつ、マジで“使う”気じゃねぇか?」

 

誰かの震える声。

その一言で、場の温度が一気に下がった。

 

ガルドの右拳に、淡く光る魔力がじわりと滲みはじめる。

空気が歪み、チリチリと火花のような粒が舞い、裏庭がじんわりと熱を帯びる。

 

これはもう、いつもの暴力じゃない。

ただの嫌がらせでもない。

 

“異能”。

本気で、俺を――殺しに来ている。

 

次の瞬間、炎が拳から花開いた。

 

「――燃え尽きろ、《爆焔球(バクエンきゅう)》ッ!」

 

ごぉッ――

拳から撃ち出された炎の塊が、爆ぜるような勢いで迫ってくる。

 

「うわ、やべぇ! 本気じゃん!」

「いや、あれ食らったら死ぬぞ!?」

「おい誰か止め――!」

 

周囲がざわつく暇もなく、炎が視界を覆い尽くす。

 

避けられない。

理解するより早く、俺の体は熱と衝撃に呑まれ――

 

ああ、終わった

 

……はずだった。

 

視界が黒に染まり、音も痛みも消え失せる。

まるで世界ごと巻き取られるように、意識が闇へ落ち――

 

瞬目した次の瞬間。

 

「――燃え尽きろ、《爆焔球》ッ!」

 

裏庭が戻っていた。

ガルドの姿も、放たれる炎も、“さっきと全く同じ角度・同じタイミング”。

 

(……やっぱり巻き戻ってる)

 

理解が追いつかない。

けれど、ひとつだけ確信がある。

 

攻撃が当たると、俺の異能が発動する。

 

胸に手を当てても、鼓動は正常で、“死の感触”はどこにもない。

ほんの数秒前まで俺を焼いたはずの痛みも、跡形もなく消えていた。

 

視線を上げると、ガルドが再び拳を振り上げ――

炎の塊が発射される“直前”の、あの動き。

見覚えのある構え、同じ踏み込み、全く同じ角度。

 

「……さっきと、全く同じだ」

 

胸の奥がざわつく。

時間が巻き戻ったのか、俺だけが何かを“遡った”のか。

理屈では説明できない感覚が、体の隅々にまで広がる。

 

頭の中で、前世の記憶とこの世界の感覚が入り混じる。

何度も負けをやり直し、最適解を探してきた――ゲーム的な試行錯誤の記憶。

その感覚が、今、現実として目の前にある。

 

(……これが、俺の異能!)

 

混乱と驚きの中で、思考が徐々に整理されていく。

攻撃が当たる直前へ巻き戻る――

まるで、永遠に“後出しじゃんけん”が許されているみたいだ。

 

(……強すぎる)

もし最初から使えていたら――。

 

(いや、今まで発動したことは一度もない)

(何か条件がある……そう考えるのが自然か)

 

思考の渦は止まらない。

だが、考えている暇はない。

 

ガルドの炎は再び形を成し始めている。

 

――まずは、目の前の現実に集中するしかない。

 

その瞬間、直感が閃いた。

理屈じゃない。

体が、次の行動を“選んで”いた。

 

ジャストガードというものを知っているだろうか。

格闘ゲームで、相手と同じタイミング・同じ位置で攻撃を放つことで、

攻撃を防ぐのではなく弾く技術だ。

 

この世界にも似た現象が存在する。

魔術戦闘において、

“同じ魔力量・同じ波長・同じタイミング”

を完璧にぶつけたときだけ発生する、極めて稀な現象。

 

相手の魔力そのものを弾き、相殺して消し飛ばす――

 

《魔力相殺(まりょくそうさい)》。

 

世界最強の能力者でさえ狙って再現するのは難しいと言われる神業。

 

(ただ……俺の魔力量はガルドの百分の一だ)

 

魔力相殺を発生させるには相手の攻撃と同じだけの魔力量が必要になる。

ガルドの《爆焔球》が“魔力100”だとしたら、俺は“1”出せれば良いほう。

普通に考えれば不可能。防げるはずがない。

 

……けれど。

 

(炎の玉自体の魔力量が100でも、表面の魔力量は1なんじゃないか?)

 

前世の経験から、そして実際に異能を目の前にした感覚から、

俺はこれで対策できることを確信していた。

 

(表面だけを、ピンポイントで弾けば……軌道を、ずらせる)

 

まずは炎の玉を弾く様に手を伸ばし――

失敗。爆ぜる炎。闇。巻き戻り。

 

「――燃え尽きろ、《爆焔球》ッ!」

 

再挑戦。

失敗。黒。戻る。

 

「――燃え尽きろ、《爆焔球》ッ!」

 

何度も、何度も。

気が遠くなるほど繰り返す。

 

闇の中で、俺は感覚を研ぎ澄ませていった。

リズム、揺らぎ、魔力の流れ……表面の“薄い1”だけを狙う。

 

そして――

 

キンッ!

 

空気を裂くような乾いた音。

炎の玉が、俺の指先に触れた瞬間、弾かれた。

 

わずかに揺れた軌道。

成功……した。

 

でもまだ終わらない。

この程度逸れただけでは回避できない。

もう一回。

もう一回。

もう一回――。

 

表面を弾き、軌道をずらし、熱をそらす。

失敗。爆ぜる炎。闇。巻き戻り。

繰り返し、繰り返し、繰り返し――

魔力の“薄膜”だけを安定して弾くタイミングを探す。

 

そして、ついに。

 

炎の玉が、俺の横をかすめて大きく逸れ、地面に爆ぜた。

 

「……は? なんで……どうなってやがる……」

 

ガルドの瞳が見開かれる。

理解できない、と顔に書いてある。

 

その隙にガルドの懐へ入る。射程距離圏内だ。

 

(魔力がすべて異能のためじゃない。

異能が無いのなら、純粋な魔力を拳に込めればいい)

 

戦闘向けの異能を持たない者の戦い方。

教本の片隅にしか載っていない地味な技。

 

《魔力纏拳(まりょくてんけん)》――

わずかな魔力を拳にまとわせ、打撃力を底上げする。

 

俺の持つ魔力は少ない。

だが、“ない”わけじゃない。

 

拳に微かな光が宿る。

 

「な……っ、おま――」

 

ガルドの問いかけが終わるより早く。

 

俺の拳は、ガルドの頬へ――

乾いた音を響かせて叩き込まれた。

 

ガルドの体が揺れ、膝から崩れ落ちる。

地面に片手をつき、荒い息を吐きながら顔をゆがめた。

怒りで血管が浮き、目の奥には煮え立つ炎。

 

「クソ……てめぇふざけやがって……!」

 

怒声とともに、ガルドは獣みたいに立ち上がった。

その動きに連動して、掌がギラリと赤い光を帯びる。

 

次の瞬間、迸った魔力が空気を焼いた。

手のひらに膨れ上がる熱――炎の核がうねり、形を成していく。

《爆焔球》

さっき俺を殺しかけた、あの魔力の塊。

 

それが、迷いもなくこちらへ向けられた。

 

「――学園内で人に異能攻撃をするのは禁止されています」

 

落ち着いた声が、空気を断ち切った。

 

視線を向けると、黒髪の女子が炎の軌道上へ、

まるで“滑るように”踏み込んでいた。

制服の腕には、風紀委員の紋章が光る。

 

ガルドの《爆焔球》が迫る。

女子は一切怯まず、細い指先を横へ払った。

 

その瞬間――

 

キィン、と澄んだ音が鳴る。

 

彼女の足元から生まれた光の鎖が、蛇みたいにしなり、

炎の玉を真正面から貫いた。

 

《爆焔球》は触れた途端、

熱を失った雪みたいにふわりと崩れ――霧のように消えた。

 

ガルドはその光景に一瞬だけ目を見開く。

だがすぐに怒りが上塗りし、眉が吊り上がる。

 

「邪魔すんじゃねぇッ!」

 

怒号と同時に、再び掌に炎の核が膨らみ、

赤熱した魔力が弾けるように《爆焔球》が放たれる。

 

しかし――。

 

風紀委員の少女は、微動だにしない。

冷え切った瞳のまま、細い指をひと振り。

光の鎖がまたたき、迫る炎を絡め取ると、

音もなく霧散させた。

 

「なんなんだよ……てめぇはよぉっ……!」

 

怒気と焦燥が入り混じったガルドの声が響く。

 

少女はその声に応えるように、ゆっくりとガルドへ体を向けた。

黒髪が揺れ、冷たい眼差しがまっすぐ突き刺さる。

 

「――アリサ・ノワール。三年。風紀委員です」

 

静かな名乗り。

それなのに、場の空気が一段冷え込むほどの威圧があった。

 

「はっ……風紀委員だかなんだか知らねぇが、邪魔すんじゃねぇ!」

 

ガルドの手が再び掲げられる。

掌に集まる魔力が渦を巻き、

空気そのものが熱を帯びて震えはじめる。

 

炎が――また形になろうとしていた。

 

ガルドの手が再び掲げられる。

掌に収束する魔力が渦を巻き、

まるで周囲の空気そのものを煮え立たせるように、熱が震えを生んでいく。

 

炎が――また形になろうとしていた。

 

だが、その瞬間だった。

 

アリサの足元から光が奔り、

走る稲妻のように一直線にガルドの腕へ巻き付いた。

 

「な――っ!」

 

異能を妨害されたガルドの掌から熱が抜け落ちる。

形になりかけた炎は、支えを失ったようにふわりと崩れ、

霞のように消え失せた。

 

アリサは静かにひとつ息を吐くと、

指先をわずかに振り、光の鎖をほどいた。

 

「……チッ」

 

舌打ちは低く、濁った音を残す。

“撃つ前に止められる”など想定外だったのだろう。

その目に浮かぶのは、露骨な苛立ち――そして、

ごくわずかだが隠しきれない警戒の色だった。

 

「校内での異能攻撃は禁止されています。

これ以上続けるなら、正式な処分となります。」

 

アリサの声は、氷のように冷静だった。

 

「……わーったよ。俺もそこまでバカじゃねぇ。」

 

ガルドは大げさに肩をすくめ、

両手を上げて降参のポーズを取った。

だが、その身振りとは裏腹に――

瞳の奥では怒気がまだ燻り続けていた。

 

そして、くるりとこちらへ振り返る。

 

「おい。良かったな。風紀委員サマに守ってもらえてよぉ」

 

吐き捨てるような声音。

その目には、消え残った火種がチラついていた。

 

「覚えとけ……この借りはぜってぇに返すからな」

 

低く唸るように告げると、ガルドは取り巻きを従えて踵を返し、

足音を荒々しく響かせながら裏庭を出ていった。

 

その背中が完全に見えなくなったころ、

アリサは満足そうにひとつ頷き――

次の瞬間、ハッと目を見開いた。

 

「……あ、調書。忘れてた。報告書……」

 

ぼそりと呟くアリサ。

そして、こちらをちらりと見たかと思うと――

一瞬で“都合のいい解釈”に飛びついた気配がした。

 

抗議の声が完成する前に、

アリサがすっと腕を伸ばし、ルカの手首をつかんだ。

そのまま、当然のように歩き出す。

 

半ば引きずられる形で連行されるルカ。

そんな二人の背中を――

木陰から、じっと見つめる視線があった。

 

細い指が枝葉をそっと押し分ける。

影の奥からのぞく瞳は、静かで冷たく、それでいて研ぎ澄まされていた。

 

「……やっぱり、見に来てよかった」

 

メガネを指で押し上げた少女――

少女は、微かに吐息をもらした。

 

ノートを開く。

その端に、迷いのない筆致で書き込む。

 

セリス・アークライト

星導演武ランキング3位

 

「能無しって噂だけど……あの“異能の弾き”。

 偶発じゃない。――意図してる」

 

ルカの動き、表情、反応。

すべてを一つひとつ、

ひとつの齟齬もなく整理するように口に出していく。

 

開かれたページには、これまでの対戦相手のデータがびっしりと並んでいた。

分析、考察、弱点の推定。

ページの重みが、そのまま努力の時間を物語っている。

 

天才には勝てない。

努力しても届かない。

 

だからこそ――。

 

「研究だけは、誰にも負けない」

 

セリスの瞳が冷たく細められる。

アリサに連れられていくルカの背を、刺すように見つめ続ける。

 

「……3位のままじゃ終われない。

 今年こそ、1位に届くために」

 

その呟きは、祈りではなかった。

宣言にも似た、揺らぎのない決意だった。

 

ノートを閉じる。

風がいたずらに最後のページをめくる。

 

そこには、こう記されていた。

 

『第10回星導演武:対戦相手

 ルカ・シグナ 異能を弾く異能?』

 

「……ふむ。対策は――いや、まだ早い。

 もっと観察が必要ね」

 

光の届かない場所で、

セリスは静かに次の行動プランを組み立てる。

 

――勝つために。

情報は一つでも多く。

 

その言葉を胸の奥で繰り返し、

少女は気配を残すことなくその場を去った。

 

こうして、誰に知られることもなく――

ルカの星導演武十戦目の幕は、すでに静かに上がり始めていた。

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