入道少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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風雲急を告げる

 爆豪勝己及び雲居一輪の拉致という最悪の事態で幕を下ろした林間合宿。

 そして翌日……警察で事情聴取を受けている相澤とブラドキングを除いた全ての雄英高校教職員による緊急会議が開かれていた。

 議題は今回の拉致に対して。

 議長を務めている根津が重々しい空気を破るかの様に口を開く。

 

(ヴィラン)との戦闘に備える為の合宿で襲来されしかも合宿地の森林は火災でほぼ全焼……恥を承知で宣おう……“(ヴィラン)活性化の恐れ”という我々の認識が何処までも甘すぎた……奴らは既に戦争を始めていた、ヒーロー社会を粉々に砕き壊す戦争を……結果論かもしれないけれど少数精鋭にしたのも間違いだった……人員を倍以上増やして……合宿に臨むべきだったね」

 

 根津が重々しい口調でそう語り結果論とは言え少数精鋭にした事を悔やみつつ語る……。

 ミッドナイトはソレに対して頷きつつ、いつもの軽薄さを感じさせる事なく神妙な面持ちで口を開く。

 

「仮に認識できていたとして……防げていたかと言われれば……それはまた別問題と言わざるをえません……これ程執拗で矢継ぎ早な展開……“オールマイト”の台頭以降は組織犯罪がほぼ淘汰されていましたからね、必然的に対応出来る者も少なくなっていたのが現状です」

 

 ミッドナイトの言葉に肯定の意を示して頷きつつもプレゼント・マイクが大仰な身振りと手振りを交えつつも口を開く。

 

「要は知らず知らずのうちに平和ボケしてたんだよ俺ら……“備える時間がある”っつー認識だった時点でよ……(ヴィラン)連合の事を所詮は一蹴して居なくなるもんだと思い侮って慢心し、増長してた、備える猶予があるなんて甘い認識が良い証拠さ……」

 

 その後、この合宿の件は教師陣とプッシーキャッツしか周知しておらず又、生徒だろうとケータイのGPSなりなんなりを使えば位置情報の開示が可能というマイクの叫びが響き『内通者』探しを行うべきと告げるがミッドナイトやスナイプからは否定的な意見が出る。

 当然だ……100%白という証拠を出せる者などいやしない、そして疑いの眼を向ければ向けるほどに疑心暗鬼になり内から崩壊していく……。

 それを踏まえているとすれば内通者はかなり切れ者だといえる。

 スナイプ教諭は認識の甘さとこれからについて語りだす。

 

「とにかく……襲撃の直後に体育祭を行うなど今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れないでしょう……生徒の拉致……雄英最大の失態だ……奴らは爆豪と雲居の拉致と同時に我々ヒーローの信頼をも奪ったんだ」

 

 スナイプ教諭の言葉に対し根津校長が新聞やネットニュースなどを開いたタブレットを他の教職員へ見える様に持ちながら告げる。

 

「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ……爆豪君が狙われたのも体育祭で彼の粗暴な面が少なからず周知されていたからだろうね、もしも彼が(ヴィラン)に懐柔でもされようものならば教育機関としての雄英は地の底まで落ちるだろうね……雲居さんの事は間違いなく白雲君絡みだろうね、マスコミに蒸し返されるのは好ましくない、雲居さんの改名理由に密接に関わっている、プライバシーの事もあるしね」

 

 そうして、根津校長は言葉を続けて学校として急務なのは生徒の安全保証であり内通者の件も含めかねてより考えていたことがあると告げてその全体像を話し始めた。

 


 

 雄英高校で緊急の会議が開かれているのと時を同じくして警察署の取調室で事情聴取を受けているブラドキングと相澤。

 塚内と三茶が同席しており状況を再度確認して……それが終わると塚内から見せられたのは数枚の写真であった。

 

「合宿地襲撃の直前にトガヒミコとブローカーの義爛……それに身元不明のツギハギの男が同じBARに入っていくのが確認されててね……それだけじゃ根拠が薄いからどうしようもなかった……この中に君達の合宿地を襲撃した者がいてくれると決め手になるんだが……」

 

 そう告げられて見せられた数枚の写真……かなり不鮮明な写真ではあるが其処に映る男をブラドキングと相澤は絶対に忘れられない。

 全身ツギハギの男に2人とも襲撃され剰え生徒を拉致されたのだから。

 写真を握りつぶしそうな感情に呑まれながら写真を指差しながら塚内へと語る相澤。

 

「このツギハギの男が施設を襲撃し戦闘に発展してます……トガヒミコの方は生徒2人が戦闘しています、特徴や聞き及んだ似顔絵からも十中八九トガヒミコでしょう」

 

 そう語る相澤に対して塚内は短く礼を告げて写真を受け取って退室すると、とある相手に電話をかけ状況を説明して逮捕状と捜索差押許可状を発行してもらう。

 捜索差押許可状は2枚発行されており……1枚はBAR、そしてもう1枚は神野区のとある倉庫。

 その倉庫はBARを所有している人物と同じ人間が所有している事が判明し……尚且つその倉庫の利用目的が物品保管とされていたのに電気使用料を調べると他に比べても格段に、飛び抜けて電気消費量が多く、その使用目的では絶対に到達しないと断定できる有り得ない量を使用していた。

 ……また実に巧妙に土地の利権書やBARと倉庫の所有者がロンダリングされておりどちらの所有者も書類上には存在しているが実在の証明できない所有者であった。

 それ故に公文書偽造でも捜索差押許可状を発行してある……。

 塚内は今回の拉致被害者の救出及び(ヴィラン)組織掃討作戦に必要な人員とヒーローを脳内で弾き出すとそれを踏まえて作戦立案する為に三茶へと指示を出して対応を始め……最速で行っていった。

 


 

 事件発生から3日が経過した夜22:00。

 

「ガハッ⁉︎」

 

 爆破の爆煙が勢いよくワープから抜け出て……うつ伏せに倒れ込むのは(ヴィラン)連合の面々。

 全員雲で両手両脚をガッチリと捕縛済みの状態で一輪と爆豪が背中合わせになりながらゆっくりと潜り抜けてくる。

 一輪はBARを見廻し視線を特定の方向へと向けて短く呟く。

 

「初めましてだなクソ野郎」

 

 その言葉に対して唯一そこに居た死柄木弔は不満げに、この結果は予想外とでも言うように苛立ちを極めて隠す事なく呟く。

 

「初めまして? 前に一度あってるだろうが? あぁ、そうだよ、USJでよ?」

 

 そう告げられるも一輪は死柄木弔には目もくれずに常にモニターを見ている。

 そして死柄木弔以上の苛立ちを殺意に変えて、ドロリとした濃厚で濃密な死を漂わせ語る。

 そのドロリとした濃密な殺意は冷気となって空間に拡散される。それは眼に見えないなれど一輪の背後に居る爆豪にも確かに感じ取れる物であった。

 

「私が話してるのはお前じゃねぇよ、お前に死体を切り刻んで脳無にするとか、そんな事出来るほど知識はないだろ? だからしばらくの間お前は黙ってろ不愉快だ」

 

 そう語り一輪は死柄木弔が口を開く間も、撃退の為の攻撃の所作に移る時間すらも与えず雲により口と両手両脚を拘束、床に転がすとドロリと昏い眼をモニターに向けて語る。

 

「要件をお互い手短に伝え合おう、私の要件はただ2つ……呼吸をするよりも簡単な事だ、私達を無傷での解放と黒霧……いや正確に言えば兄だな? 私の兄を返せAFO」

 

 それを伝えるがモニターから響く音声は僅かな溜息、そして続くは人を舐め腐った様な言葉。

 

「そうか……君の要件は分かった、少し昔語りでもしようじゃあないか白雲一輪」

 

 白雲……その名を紡がれた刹那、実際には低下などしていないがBARの室温が急激に低下したのがしっかりと感じ取れた、それ程までに濃密に放たれるは致死の殺気。

 一輪の背後に居る爆豪ですら首元に死神の鎌を幻視するに至った濃厚で濃密な死の存在。

 それを振り撒きながら一輪は怒りを隠さないまま呟く。

 

「次にその名前で私を呼んだらAFO、お前の大事な大事な手駒の両手両脚を2度と使えなくしてやる」

 

 一輪にとっては白雲の名はこの世で何よりも大切な名前、それを呼んでいいのは家族と亡き兄、そして極めて一部の間柄の相手のみ。

 兄の遺体を切り刻んだ相手が呼んでいいものでは断じてない。

 極度の苛立ちと怒りと殺意に塗れる一輪。

 それを踏まえてAFOの声がモニターより響き渡る。

 

「まぁ落ち着いてくれよ? 要件は理解したよ……交渉にも前向きに良い方向で取り組もう、一旦落ち着いてこれを確認してくれると嬉しいな」

 

 それを見た刹那、一輪から発せられる殺気が更に濃密な物へと変化した。

 


 

 モニターから流れる声音がそう語るとBARに設置されていたテレビの電源が勝手に入り映されるは雄英の謝罪会見であった。

 

 一方その頃、ヒーロー科1年A組とB組の面々は自宅のTVの前に悲痛な面持ちで座っていた。

 雄英生徒1年生達は……生徒達はそれぞれの自宅で、TVの前にいた……見ずにはいられなかった。

 雄英高校の記者会見が開始されてそこには正装に身を包んだ根津校長、相澤先生、ブラドキングがいた。

 記者会見がスタートして開口一番、謝罪の言葉が根津校長より告げられる。

 

「この度……我々の不備からヒーロー科1年生の林間合宿中に(ヴィラン)の襲撃を受けて32名が被害に遭い……また2名が拉致された事……そして、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に多大なる不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます……まことに申し訳ございませんでした」

 

 そう告げてたっぷり30秒程であろうか、お辞儀をして頭を下げる3人。

 そして、質疑応答となる

 NHAの記者が挙手をして質問を行う。

 

「雄英高校は今年に入ってから4回も生徒が(ヴィラン)と接触していますが……今回、生徒が拉致されると言う失態を犯すまでに各ご家庭にはどの様な説明をしていたのか、また具体的にどの様な対策を行ってきたのかをお聞かせください」

 

 それを受けて根津校長がマイクを取り口を開く。

 

「周辺地域の警備強化・校内の防犯システム見直し・そして『強い姿勢』で生徒の安全を保証する、と説明を行なっておりました」

 

 そうして……質問は続いていき生徒に出した戦闘許可命令の必要性を問われる。

 

「生徒の安全……と仰りましたが……イレイザーヘッドさん、貴方は事件の最中に生徒に戦う様に許可を出したそうですね? その意図をお聞かせください」

 

 その問いかけに対してイレイザーヘッドがマイクを手に取り答える。

 

「私共が状況の把握が遅れて(ヴィラン)による山火事もあり即時の救護救援が不可能であった為に最悪の事態を避けるべく許可を出しました」

 

 イレイザーヘッドのその答えに記者は更に言葉を続ける。

 

「『最悪』とは? 合宿地の森林はほぼ全焼……32名もの被害者と爆豪勝己さんと雲居一輪さんの拉致は『最悪』の結果ではないと?」

 

 そう語る記者に対してイレイザーヘッドは再度マイクを取り語る。

 

「私があの場で想定した『最悪』とは(ヴィラン)の襲撃により生徒が成す術なく殺害される事でした、また……被害生徒のメンタルケアも行っておりますが今の所、深刻な心的外傷は見受けられません」

 

 それに対して記者は変わらず告げる。

 

「不幸中の幸いだ、とでも言うおつもりですか?」

 

 それに対して根津校長が言葉を語る。

 

「未来を侵される事が『最悪』だと考えております、我々もただ手を拱いている訳ではありません……警察や他のプロヒーロー達と共に調査を進めております、我が校の生徒は必ず取り戻します」

 

 そう話す根津校長に対して、記者はあからさまに煽るようにして質問とも言えない呆れた様な口調と共にイレイザーヘッドを見つつ、口を開く。

 

「攫われた爆豪勝己さんについても同じことが言えますか? 体育祭準優勝、ヘドロ事件では強力な(ヴィラン)に対して単身抵抗を続けて経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが反面……決勝で見せた粗暴さやそれに至るまでの態度や言動……精神面の不安定さも散見されています……そして雲居一輪さん失礼、白雲一輪さんの過去はそれはそれは悲惨でした、私の独自調査によりますと彼女は最愛の兄である白雲朧さんを喪っているそうですね……イレイザーヘッド、他ならぬ貴方が1番ご存じの筈ですが? そしてその後、雄英高校入学時点まで白雲一輪さんは聖白蓮さんの命蓮寺に修行の名目で過ごしていました、暴走を矯正する名目で自分から入信したそうですよ? ご存知でしたか? イレイザーヘッド、貴方を見て彼女、白雲一輪さんはどう思ったのでしょうね? 身内すら満足に救えなかった相手から指導される屈辱、私には想像もつきません……もしも、万が一白雲一輪さんが其処を突かれて復讐に駆られた場合を考えていらっしゃるのでしょうか?」

 

 その質問に対して……イレイザーヘッドこと相澤消太はマイクを握り潰す勢いで掴みながら、極めて冷静に思考する様に自身に言い聞かせて語る。

 

「……爆豪勝己の行動に関しましては私の不徳の致す所です、ただ、体育祭でのそれらは彼の理想の強さに起因しています……誰よりもトップヒーローを追い求めもがいている、アレを観て隙などと捉えたのなら……(ヴィラン)は浅はかであると私は考えております……雲居一輪の過去に関しましては彼女のプライバシーなどに密接に関わりますので私の方からは返答を断らせて頂きます……質問が他になければ以上で会見を終了とさせていただきます」

 

 そうして会見は終了した。

 


 

 それを見終わって……今、一輪と爆豪勝己が受けているのは勧誘。

 ヒーロー側でなく……(ヴィラン)として思うがままに暴れてみないかというお誘い。

 TVに映る雄英の謝罪会見を横目で見ている2人、モニターからは声が響き渡り語る。

 

「何故奴ら(ヒーロー)が責め立てられている? 奴らは少しだけ対応が後手に回っただけだ……護るのが仕事? 誰にだってミスの一つや二つあるだろう? 僕はいいけど君達は完璧でいろって? 現代ヒーローは堅っ苦しいなぁ……爆豪くん、復讐したくないかい? 雲居一輪さん……兄を見殺しにした世界に、僕の手を取ればそれが出来る」




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