仮免試験から数日後。
19:00。食事も終わり、寮内の自室でゆっくりしている一輪は、久しぶりに送られてきた脅迫状に眼を通していた。
差出人の名前は当然記載されていない、一応封筒には『貴方の熱烈なファンの1人から』と書かれてはいるもののそれはまるで意味をなさない。
そして脅迫状にしては比較的丁寧な文面かつとても綺麗な文字で書かれた封筒の中身をその手で弄びながら思案していた。
なんの事はない、過去にも幾度となく送付されてきている単なる脅迫状である。
兄が死んだ時にも同様の物が1日に3桁を超える量で送られてきたし文面もアレよりは遥かにマシなものだ。
再度その手に持つ手紙の内容に眼を落とす一輪。
血のように赤いインクで書かれた文字がびっしりと埋め尽くされている。
『お前がやった事を知っている、ヒーロー気取りの偽善者め‼︎ お前の兄と同じ所へ送ってやる‼︎ 女に生まれた事を後悔する程の屈辱と恥辱を与えて、犯して、嬲って、四肢を捥いでゴミのように捨ててやる‼︎ 死ね‼︎ 死ぬべきは貴様だ‼︎ 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
途中からはもはや同じ文字の羅列がびっしりと犇くそれを眉ひとつ、感情1つ動かす事なく手紙を丁寧に封筒へお仕舞い込む一輪。
座布団に座りながら溜息を1つ吐きこの封書の送り主を心の底から憐む。
余程の暇人でもいるのだろうかこの世には。
こんなくだらない事に時間を割ける残念な頭が心底羨ましいと一輪は考える。
この封筒が他の人にバレると面倒ごとしか出てこないのは理解しているので見えない所でとっとと捨ててしまおうと燃えるゴミへと出そうとした時……背後から上鳴さんが声をかけて一輪の手に持つそれが気になるようでグイグイっと踏み込んできた。
上鳴の隣に居た耳郎さんやお風呂上がりの葉隠さん、芦戸さんからもワクワクとした視線を向けられてどう答えようかと思案する一輪。
「あー……これはですね、ファンを自称している人からの熱烈なファンレターと言った所ですかね」
そう語った瞬間、いつの間にか一輪の背後にいた葉隠さんが素早く手紙を一輪の手から掠め取ると『取ったどー‼︎』と透明ながらも喜色満面の声と身振り手振りを示す。
いつの間にか他のクラスメイト達も集まってきておりワイワイと姦しい。
まぁ……姦しいのは一輪も結構好きなので問題ないのだが、問題は脅迫状を見られる事……一輪は既に慣れたが悪意に慣れていない他のクラスメイト達がアレを見ればどうなるかなど手に取るようにわかる。
ワイワイガヤガヤとする中で葉隠さんがとても嬉しそうに開けていい? と問うてきた。
一輪はやんわりと拒否の言葉を告げてにっこりと笑みを作って返してもらうとそのまま封筒をゴミ箱へと放り捨てる。
「さて……私は部屋に戻ります、宿題やらないといけないので──では」
会釈して部屋に戻る一輪であった。
一輪が部屋に戻って2〜3分後。
上鳴電気が口を開く。
「なぁなぁ、今なら一輪居ないし見てもいいんじゃね? ファンレター……中身すら見られずにゴミ箱行きなのもどうかと思うしさ」
未だにワイワイとしている中、皆が気になっていた。
一輪の貰ったファンレターの内容に。
上鳴はゴミ箱から摘み上げて封筒をクルクルと回している。
芦戸や葉隠は賛成派であるが八百万や耳郎は気にはなるものの本人が先ほどやんわりと拒否の言葉を告げていた以上開封には否定派であった。
そこへ相澤先生が現れる。
「プライベートの時間に悪いな、少し報告が……ってどうしたお前ら?」
上鳴はその手に持った手紙と先ほどの内容を相澤先生へと伝える。
相澤は手紙を受け取り生徒には見えない様にして内容を確認する。
その内容を確認した相澤はいつもと変わらない口調で呟く。
「はいはい、ただのファンレターだよ……なんの変哲もない……」
そう告げて本題の内容を伝達し終わると一輪の捨てた脅迫状を回収して教師寮へと戻り教師間での情報共有を行い、以後の手紙などに検閲が入る事となった。
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