後輩は大人気VTuber   作:高宮 八郎

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Day1~:リソース管理シミュレータ

第一日、開始時刻直後。

 

全プレイヤーの出発地点であるロビーには、多数の人間がたむろしていた。見知った人間に話しかけて近況交換をし今後の予定を相談する者、おそらく初参加で勝手がわからずウロウロする者、スタートダッシュを決めるべく出口へ飛び出していく者。全員が配信者だからこそ、周囲は声で溢れかえり騒々しさを極める。彼らの頭上の名前欄をみやれば、超大物やストリボ常連勢のほか、知ってはいるが初めて見る存在や、そもそも見たことのない名前も多数ある。

 

とにかく、ここにいては自分の配信どころではない。俺はスタートダッシュ勢と同じく早々に街に繰り出して、ようやく一息ついた。

 

「いやー、聞きしに勝るとはこのことか。とんでもない喧噪でしたね」

 

 

・うるさいw

・やっとシゲの声が聞こえた

・初見です

・誰が何言ってるかマジわからんかった

・今回は声優とかも来るらしいね

・見たことない名前でしたので見に来ました!

・初見

 

 

初日なのもあってか、同接数は500超え。

むろん一定数は複窓なのだろうが、普段を考えればとんでもないブーストだ。

初見さんも結構多いようで、この力に溺れてしまう配信者が出てくるのも無理はない。

 

「初見さんはようこそ、常連さんもいらっしゃい。場末の居酒屋の主を自認する者としては、飲食店をやってもよかったのですが……どうも過去のストリボ配信を見る限り、飲食店は初心者にはかなりハードルの高い職業のようで。なので、さしあたって燃料輸送で当座をしのぎます」

 

 

・ファームがなw

・メニュー画像考えてメニュー作って素材集めて

・ファームは最悪買えばいいけど

・画像周りが、箱パワーか周到な準備が無いとできないやつ

・ソロでやる職業じゃねえよあれはw

・店員を募集しないとだけどシゲさんな・・・

 

 

「一応グレスタに新人が入ったことは主要な事務所の方々には認知はされているようです。ただ、箱外の方と絡んだことはありません。まあ、まず街に慣れることを優先しましょう。私の方から飲食店を訪ねる必要があるわけですし、その時にご縁が出来れば儲けものぐらいで」

 

街全体のワールドマップを開くと、ガソリンスタンド組合の所属メンバーだけが覗ける、各GSの燃料残量がゲージとパーセントで記されている。それによると、ガソリンスタンド自体は北から南まで配置されており、残燃料は一律30%となっていた。

 

「さて……支給されたスケボーの出番ですか」

 

地図から中古車ショップを探して、ナビ機能をオンにする。

走るよりはマシ、ぐらいの速度のスケートボードで、のろのろと目的地に走り出した。

 

 

・おっそ

・遅いw

・まあエンジンついてないし…

・今回は原付支給なしなのか

・初日で誰かと仲良くなっておきたいね

 

 

「そうですねえ。お気づきでしょうがロビーで権藤さん見つけたんですけど、まあ……初手から頼り切るのもどうかと思いますし。どうしても配信の絵面的に詰んだ場合、初日撤退でもいいですし。誘われたとはいえ参加は自由、気楽にいきますよ」

 

 

・いたなw

・誘われてたのか

・グレスタは男性陣は積極的に参加してるイメージある

・1日だけ参加とか割といるよね

 

 

シュガーさんも参加表明しているのを確認したが、あの人も多忙を極める人なので、毎日全時間でログインできるかは定かでない。

 

ちんたらスケボーで走っていると、窃盗車らしきプレイヤーと思われる車が豪速で追い抜いていく。何台かそれらを見送りながらも目的地へ向かい、やがて中古車店にたどり着いた。

 

「初期投資ですね、初期投資。このやっすい車から始まるんです」

 

最安値だが性能最低限の車を買い、ひとまず地図を開く。

手元のカウンター(アナログ)でガソリンスタンドの数を数え、ノートに記しておく。

 

・めでたい

・早速仕事か?

・おや

・んん?

 

 

「……まずは港に行きますか」

 

流石にスケボーよりは圧倒的な速さで、タンカーの待つ港へ向かう。

このゲームの車の運転は初めてだが、WASD操作の車は例の強盗ゲームでも操作したことがある。

 

「慣れてる人からすると遅いんですかね?これでも十分なように思いますけど」

 

 

・ごく一般的な乗用車っぽい

・速くはない

・比較対象が原付とか自転車だろうから速いんじゃない

・上限80km/hしか出ないのはなあ

・アクセル全開で80はきついな

 

 

「ああ、確かに。安価な移動手段の中では最もマシ、ぐらいですかね。終盤の最高級車とか平気で時速200キロ越えしますからね、しかも超加速。この車は……」

 

いったん停車してから、アクセル全開で再スタートする。

上限速度が大して速くないにもかかわらず、スピードの乗りは決して良くはない。

 

「……こんな感じですねえ」

 

 

・まあこんなもん

・見慣れた開幕の光景って感じ

・60ぐらいまでは割とすぐ行くんだけどな

 

 

コメント欄と会話をしつつ、マップ南東部にある港湾に到着する。

タンクローリーに乗り換える場所の手前にあるガレージに車をしまい、スマホ(ゲーム内)を開く。

 

現在、ガソリンスタンド組合員としてログインしているのは、俺を含めてたったの2人。

いま無職の連中が糊口凌ぎにいくらかやってくる可能性はあるが、あくまでも可能性だ。

 

 

・うわ

・2人!?

・えw

・やばww

・コメ欄に有識者いない?これ2人で大丈夫???

・あんまり大丈夫じゃなさそう

・なんやかんや小銭稼ぎで来る人もいるけどね

 

 

「そういえば先日、サキと直接会う機会があったんですけどね。私の前でテンションが高いのはいつものことなんですが――」

 

最近会ったことを話していると、一台の車がガレージに滑り込んでくる。

その車から出てきたのは……スキンヘッドに和風の服を着た、中年どころの男性アバターだった。

 

「こんにちはー」

 

「おや、こんにちは。もしかして、拙僧を待たれていましたかな?」

 

「ええ、まあ。初日のこの時間からここにいるってことは……」

 

「そうですな。おそらくあなたと同じです」

 

「おっと、私は重稲銀輔と申します。シゲでもギンでも、お好きなように」

 

「これは失礼。拙僧は穂村炎心(ほむらえんしん)。炎心とお呼びくだされ」

 

 

・炎心だ!?

・また濃い人が出てきたなあ

・おーー

・自称リアル僧侶の人

・リアルではモンクタイプを擦ってるだけなんだよなあ

・この人も裏方好きだぜ

・SLGとか結構やる人

・ここにいるのも納得だわ

・ブロンティストの坊主いやだなw

・なんやかんや毎回裏方してる人

・モンクなのかナイトなのかハッキリしろ

 

 

わっとコメント欄の速度が増すのを横目に、連絡先を交換し無線を作成する。

 

「炎心さん、給油って既にやってみました?」

 

「ええ。といっても給油先は一斗缶ですが約1%、これを多いとみるか少ないとみるか」

 

「1回の給油満タンでざっくり2%ですか、きついかな……」

 

ノートに記すべき必要事項が、続々と埋まっていく。

あと足りないのは、1回あたりのタンクローリーの輸送量。

 

「とりあえず1回、適当なところに運んできますね。もしかするとスタンド毎に容量が違うとかある可能性も」

 

「ふむ、否定できませんな。別の街では、そのような機構を備えたこともあったはず。拙僧も出発するとしましょう」

 

お互い指定位置について仕事用車両のメニューからタンクローリーを呼び出し、乗車する。

 

「ギン殿、その車は急激に曲がることはできませぬぞ、内輪差も強烈ゆえお気をつけなされ」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

小突くぐらいなら平気だが、大事故を起こせば間違いなく爆発炎上。

慣れるまでは慎重に行こうと、そろそろとアクセルを踏んで動き出した。

 

一方の炎心さんは慣れたもので、速度を出しながらコンテナや路肩などにぶつけないよう、颯爽と去っていった。

 

目指すのは、街中のGSの中でも特に中心部にあり、利用者が多いと思われる場所。ミニマップにはカーナビによる進路の誘導機能があるが、あまり誘導精度は良くない。なるべく直線を進み、カーブを曲がる回数を最小限にするように、地図を見ながら少しずつ進む。

 

 

・慎重すぎw

・あー、カーブ減らしたいのか

・でもちんたら走ってると暴走車に激突されるぞ

・交差点を通るたびにヒヤヒヤする

 

 

コメントにもあるように、一番怖いのが交差点だ。横合いから超速度で突っ込んで来られたら、鈍重で車体の長いタンクローリーは避けようがない。しかしまあ、お相手だって爆発すれば漏れなく巻き込まれて死亡なので、なるべく回避はしてくれる……はず。

 

『10%でしたな』

 

無線から、炎心さんの声が届く。

 

『こちらはあと少し……あー、こっちも10%ですね』

 

まだ誰も使っていなかったのか、燃料を届けたガソリンスタンドの残燃料率は40%。輸送を終えたタンクローリーはその場で消滅するので、近場のガレージから車を呼び出し、港に戻らなければならない。延々と続けていると虚無配信になる一方、特別な準備もいらず犯罪でもない初期資金調達として、短時間ならやっている人も多い。

 

ただ、俺とおそらく炎心さんも、こうした数字を管理することに面白さを見出すタイプだ。

最終日までいるかどうかはともかく、飽きるまでは続けてみようと思う。

ノートに、最後の要素を書き込む。

 

『1回の給油で2%減少、1回の輸送で10%上昇、輸送員はなんと2人。ここから導き出される結論は……』

 

『やはり、選択と集中しかありませぬな。拙僧この言葉は嫌いなのですが、人手が足りぬ以上やむを得ず』

 

『北側とか東側とかの街から離れた場所をしっかりケアしないと……』

 

『まさに。しかし街中をおろそかにもできませぬ。まずは拙僧の伝手にて手頃な無職を呼び出しますぞ。初日、否、数回だけでも働いてくれれば儲けものと致す』

 

 

・手頃な無職www

・手頃な無職ってなんだよ

・繋ぎのバイトに街中させて自分たちは遠距離か

・輸送距離によって給料変わるんだっけ?

・一応変わるがそんなにメリットある額じゃなかったはず

・今まではな、今回どうなってるかは分からんぞ

 

 

僅か2人で全ガソリンスタンドを稼働状態で維持するのは無理。俺と炎心さんは早々に同じ結論に到達し、街の機能停止を避けるためにはどこのGSを削るべきか、相談を始めた。

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