後輩は大人気VTuber   作:高宮 八郎

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~Day9:配信者、空を飛ぶ

初日に呼び出された手頃な無職たちは皆稼ぎ終えていなくなってしまったが、彼らが納入した燃料で、ひとまず街中のガソリンスタンドは殆どが残燃料50%を超えたまま1日目を終えることができた。

 

その後、俺と炎心さんは運営に交渉を行い、残燃料が20%を切った状態のガソリンスタンドは、開始時に30%まで自動補填されるようにパッチを当ててもらった。これで、燃料問題の過半は解決。遠隔地のGSは利用者がさほど多くなく、残量アラートが出てから補給に向かっても十分間に合うからだ。

 

そうなると、リソース管理のゲームとしては、途端に退屈なものとなるが。

ストリボの目玉はそこではないので、特に誰も問題視しない。

 

『良い提案だったと思いますよ、後半になるにつれて燃料需要はどんどん上がりますし』

 

『左様ですな。資金集めとしては問題なく使えるわけですから、あとは我々が程々に供給してやるだけで、街が死ぬことは無くなるでしょう』

 

3日目が終わるまで、俺と炎心さんは無線でお喋りしながら、ひたすら各地に燃料を運び続けた。

時々飲食店などに顔は出したが、ほぼ道路を往復しているだけの単調な配信である。

 

 

 

4日目の配信開始時、同時接続数は普段よりわずかに多い、250人前後だった。

コメントの内訳をみると、自分が想定していたよりも、意外にも新参リスナーがかなり残っている。古参リスナーは、俺が退屈な裏方作業も必要であればやることを知っているので、あまり視聴割合に動揺はない。普段より減ってはいるが。

 

「燃料状況は……良好のようです。なんだかんだで、アルバイト的にちょくちょく輸送してくれる人もいましたしね」

 

 

・本当に助かった

・ボン氏とアル氏に感謝を

・まあなぜ燃料輸送をやってたかというと。。。

・なんやかんや知り合いも増えたのでは

・知り合い(知り合っているだけ)

・犯罪に失敗してるから来てるというのがな

 

 

犯罪は配信映えするが、ゲーム的にはハイリスクハイリターンである。

失敗して色々失った人が、資金を捻出するために時折やってきていた。

 

「さて、本日は念願のマイカー2台目を買うつもりです」

 

 

・お!

・やったじゃん

・昨日色々調べてたね

 

 

「チェイスでぶっ飛ばす必要がないので、低価格から中価格帯の操りやすいものを……え? 電話?」

 

車の説明をしようとしたところ、ゲーム内で電話がかかってくる。炎心さんとは無線で繋がっているので、通話は不要。連絡先を登録した人は一応名前を設定している。名前が表示されないので、相手はまだ話したことのない誰かだ。

 

 

・???

・誰だろ

・シゲさんに?

 

 

「はい、燃料屋の重稲です」

 

 

・草

・燃料屋w

・確かに直接売ってることもあるがw

 

 

「おう重稲か。俺だよ俺俺」

 

声で権藤さんだとアタリはついたが、詐欺っぽかったので一度切る。

本当に必要ならまたかけてくるだろう。

 

 

・草

・草

・草

・先輩だったのでは?w

・オレオレ詐欺とかいつの時代だよw

 

 

すぐにかけ直されたので、こちらもすぐに電話を取る。

 

「やるようになったなあ、重稲。権藤だよ権藤」

 

「まあ声でなんとなく想像はつきましたが、こうしたほうが良いかな、と」

 

「はっはっは、良い度胸だ。……じゃなくて、今ヒマか?」

 

「街の燃料事情は良好ですので、動こうと思えば動けますが」

 

「ちょっと手伝ってほしいことがあってよ。街に金属が足らねぇんだわ」

 

「金属?」

 

「そう。銃弾やら武器やら車の修理まで金属を使うんだが足りてねえ。今スーパーで品薄なんだよ。他の資源も必要だから、人の割り当てに今困っててな」

 

「バーチャルアメリカでは金属インゴットもスーパーで売ってるんですねえ」

 

「おうよ。スーパーマーケットで揃わねえものは……結構あるな。燃料とか車とか」

 

「まあそこはいいとして、ファーム*1を手伝えばいいんですか?」

 

「いや、採掘自体はいい。結構コツがいる共同作業らしくて、慣れてる連中がチーム組んでやった方が速いんだとか。お前にやってほしいのは、鉱山からスーパーまでの輸送作業だ」

 

「なるほどそれで」

 

 

・あー

・権藤がスーパー担当なのか??

・裏方に回るなんて珍しいこともあるもんだ

・輸送車による輸送なら自信はあるか

 

 

そういうことなら、輸送ばかりやっていた人間に声をかける道理は理解できる。

 

「デカい車とか持ってるか?」

 

「いえ、全然。まだ最初の車のままです」

 

「それはそれですげえな」

 

「今日というか今から何買おうか決めるつもりだったんですよ」

 

「あー、そいつはすまんな。じゃあこっちで……ん? すまん、いったん切る」

 

「どうぞ」

 

 

・おや

・何だろ

・嫌な予感しかしないw

 

 

ガレージから車を呼び出して、とりあえずスーパーマーケットに向かう。

輸送係になるとしても、在庫への投入権限は店員にしかないはずだ。

 

道中で再び電話がかかってきたので、待ってましたとばかりにワンコールで出る。

 

「どうも」

 

「はいよ。その様子だとヘリ運転したことは無いよな?」

 

「無いですねえ」

 

「だよなあ。ただ空輸のほうが速いから……うん。ちょっと重たい輸送ヘリなんだが、そいつを運転してもらえないか? 無理そうなら陸路でいいが」

 

「ヘリの操作難易度によりますね。初心者が動かして爆死するようだと逆に迷惑でしょう」

 

「おそらくお前ならちょっと慣れれば行けると思う」

 

「じゃあ、まずは試しに使ってみます。ヤバそうならすぐ言います」

 

「頼む」

 

などと言っているうちに、車はスーパーにたどり着いていた。

 

「スーパーまで来ました」

 

「おっけー、すぐ出る」

 

電話が切れて、権藤さんが店から出てきた。アバターは本人をイメージした厳つい角刈りの男で、スーパー店員というより犯罪者といった方がしっくりくる。

 

「権藤さん今回はスーパーなんすか?」

 

「まあな。ちょっと予定が合わなくていつもの裏方組の主力が今回ごっそりいないんだよ。それで何でも屋の面々のところにお鉢が回ってきたってわけ」

 

「なるほど……」

 

さらりと言うが、撃ち合いをする適性・人間管理をする適性・ファームをする適性と、在庫管理をする適性は全く別物である。記憶の限りでは、権藤さんは在庫管理を担当したことは無いはずだが、それでも依頼されるくらいに信頼されているようだ。

 

「――これでお前も肩書上はスーパー店員だ。まあ品出しとかファームそのものとかはやらなくていい。店舗用ガレージはこっちだ」

 

駐車場の端から現れたのは、ティルトローター式の大型輸送ヘリ。なるほどこの機体(の元ネタ)であれば、スペックを十全に生かし切ればかなりの輸送力になるだろう。

 

「見るからに操縦が難しそうなんですが……」

 

「モードを切り替え無けりゃいい。ヘリ形態のままでも十分役に立つ」

 

 

・ヤバイ

・落ちそうw

・ええ…

・絶対落ちる

・初心者に運転させる機体じゃねえよwww

 

 

「キーバインドは変えてあるな?」

 

「ええ、一通りは。……何なら、燃料輸送仲間も呼びましょうか?」

 

「おお、マジか。正直助かる。金属以外のところも効率化のために分業が必要そうだからな」

 

「まあ私が呼べるのは炎心さん1人しかいませんけどね」

 

 

・草

・草

・悲しいw

・ぼっちじゃないだけマシ

 

 

「炎心さんか。どちらかというとバックヤードで全体を見てもらった方がいいかもしれねえが……本人次第か。声だけかけてみてくれ」

 

「了解です」

 

炎心さんに無線で話をすると、快く了承してくれた。

むしろ困難であればあるほど燃えますな、などと言っていたので、性格面も多分大丈夫だろう。

 

権藤さんに鉱山の座標を教えてもらったので、ノートにメモしておく。

今後何十回と使うはずの座標は、素早く取り出せた方がいい。

 

「じゃあ一度行ってみますね」

 

「おう、爆死したらちゃんと救急隊に拾ってもらえよ」

 

「あはは、頑張ります」

 

ヘリに乗り込んでエンジンを始動させ、空に浮き上がる。

周囲の建物や看板などにぶつからない程度の高度まで上げて、鉱山に向けてゆっくりと前進。

 

 

・危なっかしいw

・こわごわやってるな

・空からの景色はいいな

・昼は良いけど夜が怖くないか

 

 

「まあ……ギリギリ何とかなりそうか……離陸と空中は。一番ハイリスクなのは着陸ですが」

 

 

・草

・それはそう

・本当にギリギリw

 

 

空の利点はなんといっても、あらゆる障害物を無視できること。

直線距離で、輸送用の大型車よりも高速に移動できるとなれば、空路を選びたくなるのも無理はない。しかもこのバーチャルアメリカでは、大型輸送ヘリは大量の荷物を運べる。

 

鉱山前の駐車場の上空につくと、小さな車が駐車場を埋め尽くさんばかりに大量配備されているのが見える。どこかの配信で見たことある光景だな、などと思いながら、車の群れの隣にそろそろと着地する。

 

「えー成功です。1回目は」

 

 

・おめでとう

・1回目はw

・どこかで爆死はしそう

・多分爆死込みでも陸路よりは速そう

 

 

俺がヘリから下りると、待ち構えていた3名がわっとヘリに荷物を積み込み始める。その手際たるや、下手に手伝おうとすると逆に手間取りそうだったので、(ゲーム内で)煙草をふかしてピストン輸送の光景を眺めるしかない。

 

1台、2台と小型車がガレージへ消えていき、合計で4台が消えたところで、代表らしき人が敬礼のエモートをした。

 

「どうぞ、ほぼ満タンです」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

採掘と輸送のプロフェッショナルに、余計な言葉をかけて時間を浪費させるのは惜しい。

俺はすぐに飛び上がって、一路スーパーマーケットを目指す。

 

金属を含むあらゆる物資が、補充した端から誰かに買われて消えていく。

採取量の調整や在庫倍率の変更、使用量減など、運営もいろいろと手を尽くしたようだが、根本が需要に対する供給の人手不足なので、金属が充足しても今度は別の物資が不足する。

 

しかも片手間とはいえ燃料輸送も行っておかないと、マイカーの普及に伴って燃料在庫が尽きるGSも出始める。

途中からは金属以外のものも運ばされるようになり、結局、俺がヘリ輸送の任務から解放されたのは、9日目も終わるころになってからだった。そのころには各種資源の調整も済み、現行の人数でもファーム負けしないようしっかりと修正されていた。

*1
資源稼ぎの作業のこと。

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