後輩は大人気VTuber   作:高宮 八郎

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プロ野球同時視聴配信①

「試合開始には間に合いませんでしたが室坂さんの初球には間に合ったのでセーフ判定とさせてください」

 

 

N G

・草

・ギリギリセーフ

・セーフか?

・もう1回表の攻撃終わりだぞ

・アウトだろw

N G

 

 

室坂投手の登板を同時視聴する配信。

開始時間には余裕を持ってかなり前から枠を立てていたのだが、急な割込み作業のためにどうしても帰宅できず、なんとか配信を始めたときにはギリギリ1回の裏が始まるところだった。

 

「仕事はしょうがないです。もうちょっと遅れてたら来週に配信ずらしてましたね」

 

 

・まあ仕事はなあ

・配信開始ポストもしてなかったシゲさんが珍しく投稿した回

・いうて最近はちゃんと開始宣言やってるだろ

・企業所属になるとその辺は色々言われるんじゃない?

 

 

「ええ、無所属のころと比べるとしっかりしてくれと言われるようにはなりましたねえ。……やっぱり室坂さん、今シーズンも初球からガンガン入れてきます」

 

 

・室坂はとにかくS先行したがるらしい

・初球は見ろとか言ってるとあっという間に追い込まれる

・かといって手を出すのも地獄の3択だぞ

・速並遅だっけ?

 

 

「確か直球系だけで3択のはずです。速度が全部違うので、読み外すと当てることもできなかったりするとか」

 

アンダースローの特権である、減速しにくいジャイロボール。

普通のフォーシーム。

止まって見えると評判のチェンジアップ。

 

同じフォームから速度と伸びの違う3種類のボールが飛んでくるので、打者はまずこの3択を頭に入れなければ勝負の土台にも立てない。これらに加えて本人曰くのワンシームがあり、いわゆるシンカー的な動きをするので、速度差だけに意識を取られていると縦変化でやられるケースもある。

 

「おー、3球でショートゴロ。上々ですね」

 

 

・三球三振と考えれば凄い

・振らされたな

 

 

「初球打ち!……これは余裕のセンターフライ」

 

 

・当てはした

・当てるだけではダメなゲームなんだよなあ

・ちゃんと当てて飛ばしてるぞ

・当てて飛んでるが守備範囲内

 

 

「投手もマシンじゃなくて人間ですから、その日の調子とか力みとかで微妙に速度差が出るので、なかなか連続でとらえるのは難しいようですね。だから今シーズン暴れてるわけですが」

 

 

・三凡なるか

・多分みんな真っ直ぐで張ってるんだろうけど

・ストライク先行しまくるから下位打線なんかはメンタル的にしんどいやろな

 

 

野球ゲームなどでも、室坂さんのコントロール値は並より少し良い程度。

しかし極端にストライク先行するその投球スタイルがフォアボールを減らし、フォアボールが減れば総投球数も減る。投球数が減れば長いイニングを投げられるようになり、結果としてHQS率の高いエースが誕生する。

 

 

・あっ

・単打ならセーフ

・室坂「失点しなければ全部OK」

・それ偏向報道で実際には言ってないやつ

 

 

3番には単打を打たれたものの、続く4番を三振に切って交代。

 

「私、グリフォンズ自体はにわかなんですが、打撃陣のレベルというか能力というか層というか、どんなもんなんですかね」

 

 

・可もなく不可もなく?

・リーグ3位相応って感じ

・抜けたバッターがいないんだよな

・栗花落遥:上位打線が他より打たない代わりに下位打線が他より打つチームです!

・お

・でたわね

・遥もよう見とる

 

 

「おや、いらっしゃい。初めまして、重稲銀輔と申します」

 

栗花落遥(つゆいりはるか)さんはその名前に反して晴れ女であることが有名なVTuberで、野球だけでなくスポーツ全般の話題に食らいついていく人だ。

同接をちらりと見ると、普段よりは多い300人。

どうやって重稲を見つけたのか疑問だが、SNSで検索でもしたのだろうか?

 

「うーん、すると上位打線から始まる2回は……おっ」

 

先頭打者が四球を選び、塁に出る。

続く6番打者は最初からどっしりと構え、バントなどはしないようだ。

 

 

・栗花落遥:守備力と投手力が高いので守り勝つチームに見られがちですが、指標で言うとリーグ3位ぐらいの打撃力もありますよ!

・リーグ3位は誉め言葉なのか……?

・実際3位につけてるから実力通りと言えばそうだが

・不思議な負けをしないチームとは言えるかもしれない、言えないかもしれない

 

 

「あ、甘い――ですよねえ」

 

 

・当然の結果

・長打で1点か

・序盤の先制点がどう転ぶか

 

 

やや浮いたボールをしっかりと捉え、先制タイムリーツーベース。

なおも無死二塁、続く7番が内野ゴロで一死三塁。

 

「犠牲フライでも1点とはよく言いますが、そんなもん狙って打てれば苦労しませんよね。そもそもヒットならワンアウト二塁でチャンス続行な訳で」

 

 

・それはそう

・犠飛は成立条件があるから本数記録ってもな

・二塁打とかのが記録狙いなら数稼げるよね

・栗花落遥:かつてグリフォンズには犠飛の達人がいましたが、数年前に引退しちゃいました

 

 

「フライの達人、そんな人が居たんですか。でも流石に2回では出しづらいですねえ。代打の2番手とかそういう微妙な位置になりそうです」

 

 

・三塁ランナー絶対返すマンか

・犠牲フライだけじゃなくてイレギュラー誘発ゴロもスクイズも上手いぞ

・それでいて代打打率3割超えだからポテンヒットも上手かったぞ

・打つ方は良かったんだけど守備がね…

 

 

コメントを見るに、勝負どころではかなり頼りになる打者だったようだ。

数年前に引退したらしいので、後継者がいればいいが……。

代打はスタメンとはまた違う精神性が求められるようなので、どうだろうか。

 

「まあ、室坂さんは同級生の同級生だったというよしみだけなので。

 ちゃっかりサインは頂いていますが。寝室に額縁入りで飾ってます」

 

 

・あーそういうこと

・なんで急に投手の話をと思ってたが友達繋がりだったか

・栗花落遥:羨ましい!!!!!

・草

・草

 

 

惜しくもこの回は1点どまり、続く打者は2人とも打ち取られてしまった。

だが援護が1点でも相手に圧力を与えるのがエース。

 

緩と急で相手の意表を突き、多少打たれても負けなければ問題はないとばかりに平然と投球を続け、あっという間に9回を1失点で完投してしまった。

攻め手としては、相手の継投で格が落ちたところの代り端を叩きに叩き、4連打2得点で3-1にて終戦。

 

 

・とんでもない投手

・MLB行かなさそうというのもでかい

・アンダーだもんな

・平然と完投すな

・マジで時代に逆行しとる

・栗花落遥:素晴らしい投球でした

 

 

「いやー凄かったですね……まさにエースの貫禄です」

 

勝負は時の運で打線は水物だが、長く投げて後続に負荷をかけないことが一番凄いと思う。ここで休みを入れた中継ぎがまた回復して次の試合以降に臨めるわけで、チーム全体にプラスの効果をもたらす。

 

と、スマホが鳴りDMの通知が届く。

表示された名前は予想通り「栗花落遥」。

メッセージは短く、"直接お話ししませんか"だった。

 

 

 

 

 

通話を配信に乗せるかどうかは、かなり迷った。

栗花落さんは女性だけが所属する箱のメンバーであり、箱自体が男女問題に敏感なグループでもある。一応、彼女自身は今日のように自分から積極的に外部に打って出るタイプの人なので、完全に閉じこもっているほかのメンバーに比べれば、炎上リスクは低いかもしれない。

 

ただ、扱うネタが野球なので、そちら方面で喧嘩になるやもしれず。場合によっては本気で喧嘩別れをしかねない。結局俺は、何事もなかったかのように配信を終わらせて、裏で栗花落さんと通話を始めた。

 

「こんばんは、重稲銀輔です」

 

「こんばんはー、栗花落遥(つゆいりはるか)です。初めまして」

 

第一声は、落ち着いた低音の声だな、という印象だった。

サキと組み合わせれば……と本能的に湧いたイメージを、頭を振って振り払う。

とりあえず、一番疑問だったことを質問してみる。

 

「野球の同時視聴なんて今時いくらでもやっている人がいたでしょうに」

 

「ええ、数自体はあるんですが……やっぱり大御所さんの配信は中々なくてですね。かといって零細VTuberさんの配信は……」

 

言い淀んだ言葉を、大体察してしまう。

 

「まあ、伸びない人には伸びない理由がありますよね」

 

「そんなところです……重稲さんの配信だと、喋りとコメントの流れとが程々にあって、雰囲気もそこまで悪くなくて、って感じだったので」

 

完全な格上から素直に褒められると、くすぐったい。

 

「なんとまあ、ありがとうございます」

 

「えへへ。それで、えっと本題なんですけど。もしよろしければ、どこかのタイミングで同時視聴配信のコラボをやりませんか?」

 

「こちらは大変ありがたいですが……よろしいので? 貴女にメリットが無さそうですが」

 

栗花落さんは確かチャンネル登録者数が50万人だか60万人だったか、その辺りのはずだ。対する俺と言えばまだ5万人も到達していない訳で、一方的にキャリーされる形になる。

 

「はい、ただ、ジャンルはなんでもいいので、スポーツの同時視聴配信は続けて欲しいです。界隈にもっとそういった配信が根付いてほしいので、草の根活動をやってます」

 

「なるほど。今回の私の配信は完全に興味本位というか、上手くいくかもわからないがとりあえずやってみよう、で始めたので、続けるかどうかは微妙なところですね」

 

「うーん……競馬とかは興味ないですか?」

 

「競馬はそこそこ好きですが、配信する意義はあんまり感じませんね。素人の予想を聞いてもって感じですし」

 

「確かに予想はみんなやりますよねぇ、むしろそれを見に来てるまであるというか」

 

「当てても外しても運が良かったね悪かったねレベルで片付いてしまうので、ちょっと距離を置いてますね。そもそも私の本命はゲーム実況ですので……」

 

「ああ、そうなんですね。そうすると難しいですか……」

 

「せっかくお誘い頂いたのに、申し訳ないです」

 

「いえ! 私が無理に誘ったので、気にしないでください」

 

そんな感じで、コラボの話はひとまずお流れとなった。

なお、一応という感じで、サキが了承するなら彼女と共演してみませんか、と声をかけておいた。これなら栗花落さんもキャリーされることになるので、双方の箱のつり合いは取れる。栗花落さんは快くOKを出してくれた。問題は小金丸サキ個人の感情だが……。

 

■GS_小金丸サキ

 いいですよ!歌唱力でぼっこぼこにして分からせてやります!


◆GS_重稲銀輔

 そういう趣旨じゃねーんだわ


■GS_小金丸サキ

 分かってますよ。栗花落さんは名前だけは知ってます。6期生だったか7期生だったかは忘れましたけど。きれいな低音の人ですよね


◆GS_重稲銀輔

 そう。一度重ねてみたくてな


■GS_小金丸サキ

 先輩のそういう欲望に忠実なところは好きですよ


◆GS_重稲銀輔

 俺もお前のバッサリ直言するところは好きだぞ

 

返答が返ってこなくなったが、既読はついていたので、目は通しているのだろう。

翌日になぜか通話がかかってきて、息も絶え絶えに「OKです」と絞り出すような声が届いて、そのまま通話が切れた。

可愛い奴である。

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