あの浮かれた馬鹿は、超絶ご機嫌で突然2時間のラブソング歌枠などを始めた。
当然「匂わせか」「相手は誰だ」などの声が上がる一方で、「あいつにそんな高度な真似できる?」「腹芸とか無理でしょ」など、偶然を主張する声もある。
ただ、最近のサキがずっと雑談やゲームなどでニコニコなのは確かだったため、「少なくとも何かいいことはあった」「それは長時間持続するものだ」ぐらいの認識は広まっていった。
それから色々あったが、どう考えても隠し通し続けるのは無理そうだと思った俺は、ある程度の情報開示を決めた。
「えー。皆様こんばんは。重稲です」
・O K
・おめでとう!
・\500 おめでとう
・サキが浮かれまくりなの何か知ってる?
「ありがとうございます。弊チャンネルもついに登録者数7万人を突破しました。個人で細々やっていた頃と比べると隔世の感がありますが、企業勢としてみればまだまだ。まあ登録者数はともかく、黒字を目指して頑張っていきます」
・\1000 まだ黒字じゃないのかw
・普段あんまり投げ銭オンになってないからだろ
・いうて投げ銭で大した収益出るか?
・グッズも出てないから再生数だけか
俺がグレスタ入りしてからの活動の通算で言えば、収支は赤字である。
案件やらライブやらがもらえる格にはまだまだなので、地道に活動を積み重ねていくしかない。
「そこでですね。今回はほかの配信者さんがいうところの所謂告知がいくつかあります。」
・ん?
・\500 おめでとう
・サキがニコニコなのと関係ある?
「ひとつは、サキとは関係無くもないです。まあだいぶ揉めはしたんですが……有難いことに、2ndシングルの発売が決定いたしました」
・おお
・2曲目!
・もめたんか
・踏ん張りどころだからなあ、意見も衝突するか
「選曲で色々、ですね。最後には私がプレゼント攻撃で押し切りました。やつがお浮かれちゃんなのはそのせいです」
・なるほど?
・それでか
・サキすんげーテンション高いままでちょっと怖いぞ
・何渡したんだ……
「渡したのはペアリングの片割れです。画像はこちらになります」
精一杯の身バレ防止用として指抜きグローブをした、2つの右手の画像を表示させる。それぞれの右手の中指に、四つ葉のクローバーを模したエメラルドのペアリングが燦然と輝いていた。
・は????
・えっ
・ちょっとまて
・\10000 ご祝儀
・シゲさん側から出てくるとかそんなことある???
・マジかよ
・\5000 おめでとうございます
・そりゃニコニコだわ
・\10000 薬指用は無いんですか!?
・交際宣言と捉えてよろしいか
投げ銭も含めて、コメント欄が一気に加速する。
「こちらとしては、別にTシャツでもペンダントでもキーホルダーでも、お揃いなら何でもよかったんですけどね。一番ダメージを与えられるアイテムを探したところやはり指輪かなと」
・ダメージw
・草
・モンスターかよ
・そこまでこじれた交渉だったのか
・\500 逆にモノで黙っちゃうサキちゃんって……
・サキはシゲさんへの好き好きオーラを全然隠してないんだよなあ
・その好意がどれに分類されるかは議論の余地があり
・\1000 苗字、変えるのかしら
・苗字の変わるVTuberwwww
「結婚によって苗字の変わるVTuberとか前代未聞ですね……いやそもそも、VTuberで結婚を公表している人が何人いるかっていう。昔から内縁の妻、内縁の夫、という言葉もありますし」
・怪しい人は何人かいる
・本人たちが公表しない限り真相は闇の中
・どんなに怪しくても疑惑止まりや
・単純に仲がいいだけとかもあるし
・同僚というか究極的には同業者だもんな
・で、シゲさんとサキさんはどうなんすかね
「仮に付き合っていたとして、馬鹿正直に付き合っていると発言するわけがないでしょう。仮に付き合っていなかったとして、炎上リスクを取ってまで付き合っていると嘘をつく必要がないでしょう。なので、どちらにしても回答は"付き合っていない"となります。二度とは言いませんので、いま覚えて帰ってくださいね」
・それはそう
・公式の回答はそうなるよな
・既に何人かの絵師が素振り始めとるぞ
・仮に付き合ってないとしたらそんな異性にペアリング贈るとかマジ?
・いつか刺されそう
「で、CDの次はこちら。私のアイコンに使われているお狐様のアクリルスタンドが発売されます。人生初グッズです」
出していた画像を引っ込めて、別の画像を表示する。
金の稲穂を咥えた銀狐が、実体を持った絵として出力されている。
・おお!
・定番ではある
・まじか
・やったぜ
・よう出たな
「まあ権藤さん全身アクリルスタンドを出している会社ですからね。私のアイコンぐらいどうってことないってことでしょう」
・伝説の権藤通全身アクリルスタンドwww
・草
・あれ撮るために3か月かけてダイエットと筋トレしたらしい
・今の権藤と比較すると笑えるぞ
・なんやかんや顔出し勢は皆出してる
・アイコンすらグッズなってない六花のほうが例外なんだよな
・六花はほかで稼いでるから...
「私も少し前に権藤さんのアクスタを買ったのですが、確かに今の権藤さんと比べるといささか……」
・草
・草
・実写勢は誤魔化しきかないのきついよなw
・草
「これの売れ行き次第では、キーホルダーなどが出たり、クリアファイルの集合絵に重稲が入ったり入らなかったりするらしいです。よろしくお願いいたします」
・おっけー
・まあ入らなくてもシゲさん気にしなさそう
・確かに
・どちらかというと赤字の方を気にしそうw
「確かに、より心配なのは赤字の方ですねえ。グッズが出ても売れなきゃ赤なので、何なら出す前より赤が増えたなんて話も……噂話ですよ、噂話」
・世知辛いのじゃ
・うへえ
・それ本当に噂話なんですかね
・普通はそうならんようにグッズ出すだろ
「ええ。赤字にならないと踏んだからこそグッズが出るのは、おっしゃる通りです。なので、まだ売られてもいないんですが、出ること自体、今までの活動が少しは認められた気分ですね」
アクスタの画像を引っ込める。
「これが最後です。グレートスターズのボイス企画"お誕生日ボイス"に重稲銀輔も加わることになりました。既に撮り終えておりまして、発売は来月1日です!」
・やったね
・\1000 先払い
・「仲間入り」だ
・仲間入りきたわね
・お誕生日ボイス発売のこと仲間入り呼ばわりされてんの何度見ても草
・実際全員が一番最初に出すボイスだからしゃーなし
「これで私も胸を張って仲間入りですよ。ただまあ、自分の声を切り売りするようになるとは……やってることはCDの録音と本質的に変わらない気がするんですけど、なんだか複雑というか」
・もうゲームをやるだけの存在ではいられないんやなって
・そもシゲさんのボイスに需要はあるのか
・無さそう
・なさそうだけど仲間入りはしておかないと...
・ボイスには在庫の概念が無いのがいいよな
・倉庫勤務者もよう見とる
「そうなんですよ。一番自分のボイスに需要が無いと思ってるのが私なんです。いるか? 底辺配信者のボイス」
・よそ様の収入源は男>>>女だぞ
・あの箱はちょっと特殊だから
・普通に考えると、女性のボイスに比べたら需要は少なそう
・でも熱心に金落とすのは女性ファンの印象
・なお重稲の女性ファン
・おるやろ(該当一名)
・そういやおったな……
みんな同じ顔が思い浮かんでいるようで、少し笑ってしまう。
箱内でカネを回しても大した意味は無いのだが……。
「例の一名はまあ、直通の連絡先があるので……ね」
・そりゃあるか
・シゲさん、本当に必要ならどんなボイスでも送ってくれそう
・サキがウキウキなのは実は重稲の声質が上昇したから説
・一理ある
・サキとあんまりコラボしてないのはなんで?
「サキとほとんど表で絡んでないのは、裏で遊んでるからですねえ。流石に気軽にとはいきませんが、一応会いに行ける距離ではあるので。私のファンはともかく、サキのファンから見たら、私とばっかり何かやっててもつまらんでしょうし」
・そして指輪を贈る
・遊んで遊んで指輪贈って、それで付き合ってませんは嘘だろ
・でもどう考えてもサキ側から突撃してそうなんだよな…
・わいシゲサキ過激派、情報封鎖に激怒する
・過激派はサキの雑談枠でだいたい昇天してるだろ、お前偽物だな
・格の差がまだちょっとありすぎるんだよね
・シゲさんは対人も麻雀ぐらいだし絡みにくいか
「そう。半分は欲張りすぎですがせめて30万人、いや20万人でもいいですが、とにかく配信者としては向こうが圧倒的格上なんですよ。色の違いこそあれど、大前提としてサキの配信の方が面白いと思われてるわけです。そこでコラボすれば、キャリーされるならまだしも、せっかく増えてきたファンの皆様を根こそぎ向こうに吸われる可能性があります。私がゼロからデビューなら逆にそういうことも気にせずに済んだんですがね……」
・なまじ固定客がついてるとねえ
・ウッ耳が
・頭を抱えている常連客もおる
・シゲさんは雑談やらんからな……
・まあ雑談やらんでも7万人までは来たわけで
「そうですね。赤についても累積が大きいだけで、このまま順調に活動出来ていればいずれ回収できそうです。今後ともよろしくお願いいたします」
この後、SNSではサキに贈られた指輪について議論が沸騰し、サキの配信枠にも多少のユニコーンや杞憂民が湧いたらしい。
が、サキは「僕が誰を好きになるかは僕が決めます」と一蹴。
事実上認めた、いや憶測で物事を語るのは良くない、など、またひと波乱を呼ぶのだった。
なお、最終的な結論は「サキは限りなく黒に近いグレー」および「重稲は付き合ってもない奴にペアリングを贈る軟派野郎か、そうでなければサキ並に隠し事が下手」に収束したらしい。
返す言葉もない。
怪鳥を未完成のまま出すよりはマシだと考えて、甘んじて批判を受け入れよう。