「皆様、聞こえていますか?重稲銀輔です」
・OK
・OK
・NP
・NPは紛らわしいからやめれw
音量確認を経て、今日も配信が始まる。
「今日はですね、なんとチャンネル登録者数一万人記念……をどうしようかという話だったのですが」
・過ぎてる過ぎてる
・もう3万人やぞ
・3万越えしとるやろが
・中身決めてなかったのかよ
・小金丸サキ:歌枠してください歌枠
・出たな
・サキもよう見とる
そう、先日のコラボ前の登録者数がざっくり1万に届かないくらいで、俺としてはコラボ効果で1万人を到達し、その次の配信は1万人記念かなあ、ぐらいの軽い気持ちで予定を立てていた。ところが蓋を開けてみれば登録者数は想定以上に爆伸び(当社比)し、俺が手をこまねいている間に、あれよあれよと一気に32000ほどになってしまった。
登録者数より大事な同時接続の方も、初配信を除いても200程度で安定しており、定着率としては抜群の数字……だったらしい。
今日は一万人記念企画を視聴者の皆に相談する配信のつもりだったのだが、予定が完全に崩れてしまった。
もうひとつ、大きな問題もある。
「ちなみに今日私は新たなボタンを手に入れましてね……今スイッチをONにしました」
・うん?
・は?
・まさか
・\500 テスト
・!!!!!!!!!!
・マジか
・おめでとう
そう、収益化が通ったのである。
「とうとう収益化が叶いました。応援ありがとうございます。今ONにしたのは、いわゆる投げ銭機能ですね。まあ普段は使わないからいいとして、問題はメンバーシップ。メンバーシップ限定のコンテンツを用意しないといけないのですが……スタンプなどの通り一遍のコンテンツはいいとして、問題はメン限配信のほうです」
・\1000 おめでとう
・普段から使えw
・赤字を解消するとは何だったのか
・投げ銭はサイト側に税金取られるから……
・メン限でゲームしてる人もいなくはないぞ
「うーん、ゲームで良いのでしょうか。それなら例えば、今まで避けていた視聴者参加型のゲームなどはどうですか」
・ありよりのあり
・お、一緒にゲームか
・特別感は出るな
・でもそのうちメン限外でもどうせ参加型やらなきゃいけなくなりそう
・あー
・この伸びだとそうなりそう
「そこは頻度調整でどうとでもなりますよ。例えば通常配信では月イチで参加型、何と今なら!メンバーシップに入ることで月に3回の参加権が追加で!」
・商売がうまいw
・草
・うまいか?
・わりと常套手段ではある
・小金丸サキ:入りたいけど入れない!
・契 約 事 項
「えーサキさんは参加型の枠を潰さないでください。そこは視聴者さんの席です。あなたはちゃんと裏で遊んで雑談のネタにするか、ご自分のマネージャーに同時配信を申し込んでください」
・草
・草
・草
・遊んではくれるのな
・ネタw
・優しい先輩(後輩でもある)や
・先輩なのか後輩なのかハッキリしろ
・小金丸サキ:予定送りますね
約1名、自分の仕事が何であるか分かっていないやつがいたが、それ以外は好感触だ。
あとは普段やらない雑談なんかを交えれば良さそうである。
「そんな感じですかね……」
机に広げたノートに、急いでメモを取る。入力速度ならパソコンのキーボードのほうが速いが、画面外という別次元の領域にデータを保管できるのが手書きの強みだ。なので俺はノートとボールペンをゲーム配信などでも愛用しているし、古参リスナーならそのことも知っている。
「思っていたよりアッサリ決まってしまいました。視聴者の皆様のご協力に感謝します。……おかげで時間がかなり余りましたがどうしましょうね」
・小金丸サキ:歌枠!!!
・後輩の熱い主張
・この男ノープランすぎ
・ゲーム以外では割とポンコツ
・ゲームでも時々アレだぞ
・我々も想定していなかったからしゃーない
・どう見ても1万人達成の前振りコラボだったからな・・・
・あそこから跳ねるとは想像できんてww
投げ銭機能を閉じていないのにピタッと止まったのを見て、よく訓練されているなと感心する。
「そうなんですよね。私も完全にその予定でした。あれで1万人達成やったーで、そのあとに収益化が来ると思ってたんですよ。そしたら先に登録者のほうが爆増してしまい、企画がおじゃんになったところで収益化の連絡が届き……混乱というかため息ですわ、どこから手を付けよみたいな」
・草
・草
・さすがに想定外かw
・あーもう滅茶苦茶だよ
・汚い言葉を使うな、常連客に消されるぞ
・言葉狩りのほうを止めろ
「仕方ないですねえ」
下3つのコメントを剪定して、ギターを手に取る。
「言っておきますが私はどちらかというと古い世界で育った人間なので、今時の音楽とかあまり知りませんからね。あと学生時代に作った曲はまだ再練習中なので出しません」
事前練習無しで今すぐ披露できるものとなると、どうしてもジャンルが偏りがちになる。
「――ミーティア」
SEEDからn年、などというふざけた言葉遊びをしていた学生時代、熱心に練習した曲。
エレキならともかくアコギ1本だと流石に音数が足りないが、世の中ではアカペラでこの曲を歌っている人もいることを考えれば、手元で動かせる音があるだけ有難い。
・涙が
・やっぱり上手だよな…
・ビブラート完璧やん
・原曲の再現じゃなくて重稲アレンジって感じ
・割と最近に流れてなかった?
・最近(数年前)
・それは映画版やね
正しさよりも
音楽をやって食べていくことなどあの頃は考えもしなかったし、何なら今でも考えてはいない……はずだ。けれど、あと少し手を伸ばせば、もっと時間を傾ければ、届きそうな位置まで来てしまっている。迷いと誘惑を振り払うように、弦を強く弾いた。
・\500
・\1000 明日の昼飯
・\500
・ウマイヘタはわからんが好き嫌いは言える、好きやで
「ありがとうございます。曲がりなりにも音楽の世界に生きるものとして、これほど嬉しい賛辞はありません」
畳みかけるように、今度は別の曲調のものを。
・えっ
・これ何だっけ
・荒城の月wwww
・小学校で習ったやつ
・ウチは習ってないな
・選曲がマニアックすぎる
・逆にこれがぱっと出てくる方が何なんだよ感はある
・覚えてる常連客も凄いわ俺なんか忘れてるよ
雑な宴会芸で使えるものを探していた時に見出した、「荒城の月」。「
・\500
・さっきから無言で\500刻んでるニキがおるな
・1曲500円か……
・生々しい換算はやめてもろて
・\500
・\500
「あとこれは……本当はサキさんと練習しようかなと思っていたんですが、まあいいかなって。"忘却にて"」
本当はギターではなく電子ピアノで弾きたいところだが、俺の防音室はそんなものを置けるほど広くないので、ギターで練習しているうちに慣れてしまった。*1
・草
・草
・まあいいかなってw
・\10000 小金丸サキ:どういうことですか!!!!!
・草
・これはまた通知爆撃やろなあ
・古い歌扱いか…
・インターネットは時が流れるのが速いので
"あの頃"のエロゲソングの系譜をなぞった様でいて、微妙に異なるような。根底にアスリートの文脈が流れているので、単純なコピーとは言い難い、不思議な曲だ。
・あれ
・泣いてる?
・珍しいな
・押し殺してるのが伝わる…
・小金丸サキ:先輩の真骨頂ですね
・知っているのかサキ!
・多分そのネタ伝わらんぞ
最後のサビだけは、あえて郷愁と懐古の念を強く爆発させて。意図的に、強い感情で震えているような、堪えている涙声を作り出す。
「……はー、上手くいったようでよかったです。戻すまでに少しかかるのでお待ちくださいね」
・小金丸サキ:音楽の世界では、コンマ数秒で泣けないと駄目なんです
・普通は泣きながら収録する曲なんてないんだよなあ
・ライブ専用技術過ぎる
・意図的にやってる!?
・意図的にやった後元に戻せるのがすげえよ
・\1000 技術料 ええもん見せてもらったわ
「別にコンマ数秒で泣いてるわけではないですよ。やっぱり徐々に感情を動かしていかないと今度は前の部分に不自然さが出るので、合計すると30秒とコンマ数秒くらいですかね。戻すのに時間がかかるので、基本的には最後の曲専用です」
・それでもすげえよ
・ただ泣きながら歌うだけなら我々でもできるけど。。。
・目に涙を浮かべしかし零れさせないみたいな高等技術
・謎の言語化ニキもおる
・言語化ニキがサキさんと別人であることのほうが怖いわ
「この曲は昔歌ってたり好きだったりした曲の流れを感じるので特に好きですね。2番のここから選べるのは一冊だけ、とか100%ワザとでしょ」
・そんな歌詞だったっけ
・分かる人にしか分からないやつww
・年齢がバレますわよ
・大体バレてるだろ
「まあ視聴者さんの年齢層もね……というわけで次も刺さりそうな曲を狙って行きます。"君をのせて"」
この後も何曲か歌い、1時間ほどで配信を終了した。
なお、後輩からは「絶対に、歌ってみたを"先輩の演奏で"出しますからね」と直接通話が飛んできたことを申し添えておく。