【Blue &WhiteArchive】   作:いくら丼うずら卵

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Vol.1 燦然と咲き誇る一輪の野薔薇

 “ 学園都市キヴォトス“。それは、名の通り様々な学園が連なり出来た都市である。

 ここでの法律は、殆ど無いに等しいと言っても過言では無い。それを証明するかのように、一般人が銃を所持して戦闘を行うといった風景が日常茶飯事だ。

 そんなキヴォトスでも、一定の治安を保たんとして存在する組織がある。各学園の生徒は、問題を抱えるとそこの門を叩く。そうして、その組織は問題を解決へと導く。

 

 混沌には、秩序を。“連邦生徒会”、秩序の無い国で秩序をもたらす組織の名だ。

 

 しかしそれほど影響力が強い組織ともなれば、上に立つ者は多忙を強いられるであろう。

 どこで何が起きているのかも予想の付かない都市を守る組織を束ねる。そんなことが可能な人間は、普通であれば存在しない。

 

 …そう、“普通”であれば。

 

                   ◇◆◇◆◇◆◇

 

「…チッ、ここもハズレか」

 

 大雨が降る春の日。人の影すらも寄り付かない路地裏で、ゴミ箱を漁る一人の少年が悪態をついた。

 

「もう4日も何も食べてねぇ…流石にそろそろ限界…」

 

 少年は肩を落とし、仕方がないと路地裏を後にする。降り止まぬ雨は、まるで少年の心境のようだ。

 

 少年の名は“ミカド“。今年で7歳となる幼子だが、彼に両親はいない。他界したのか、それとも捨てられたのか。彼はそれすら知らずにいる。両親から与えられた物は、その名ただ一つであった。

 ミカドの最も古い記憶は、ゴミ捨て場でゴミを寄せ集め震えながら夜を越したことだ。つまり、物心が付いた時から孤独なままこの歳まで生きてきたということ。

 見窄らしく、人の温かみすらも知らない可哀想な子供。今まで、ミカドに手を差し伸べる大人などいなかった。だからミカドも、誰かに助けを乞うという簡単なことも出来ない。人に助けられるでも無く歩き方を覚え、人に教わるでもなく言葉を覚えた、孤独な家なき子なのだ。

 

「はぁ…この辺のヤツらも俺のコトが鬱陶しくなったのか、最近マトモに残飯すら捨てやがらねぇ。雨風凌げる場所は多かったけど、流石に潮時かな」

 

 道ゆく人々は皆傘を差し、急ぎ足で歩を進める中、ミカドはそれと真逆に頭から雨に打たれ、ゆっくりと歩み続ける。目的も無く、ただヒタヒタと。

 近辺の住民もミカドの存在を認知こそしては居たが、誰も彼に声をかけるようなことはしなかった。無理もない、薄汚い布を纏った子供など面倒事の塊のような物だ。触れぬが吉。そうして誰も彼もがミカドを無視し続けた。

 

「次は何処に行けばいいかなぁ…隣町まで出るか…?いや、あそこは金持ちが多くて俺がいたらすぐしょっ引かれる…でも…うわっ!?」

 

 憂鬱すぎる現実を見つめるミカドは、通行人の一人とぶつかってしまった。

 

「ッチ、気ぃ付けろやガキ!」

 

 通行人はその場に倒れ込んだミカドを蹴り上げ、そそくさとその場を去っていく。当たりどころが悪かったのか、その場でうずくまってしまうミカド。

 雨の中で年端も行かない少年が道の真ん中でうずくまっているというのに、誰一人として見向きもしない。その冷たさに曝されながら、ミカドは苦痛を噛み締める。

 

「っでぇ…あぐっ…やべぇ、腹減って…身体、チカラ…はいんな…」

 

 身体が痙攣し、ミカドは身動きが取れなくなってしまった。

 

(…あ〜、これ、本当にまずいな…こりゃあ、死んだかなぁ…)

 

 空腹、寒気、痛み。様々な苦痛が同時に走り、誰であっても“死“を連想する状況。ミカドは、それでも冷静であった。

 雨に打たれながら、静かに死を待つミカド。しかし、そんなミカドの頭に振り続ける雨が遮られた。

 

「君、大丈夫ですか?」

 

「あ、んた…だ、れ…」

 

 ミカドは薄れゆく意識の中、先ほどまで自分を打ち続けていた雨水を遮った物の正体を確認する。それは白い制服に身を包んだ、綺麗な水髪に桃色のインナーが入ったショートヘアの少女。その人に差された傘であった。

 今まで他人とマトモに会話を交わすことがなかったミカドにとって、初めて女の子と話すのがこんな惨めったらしい格好である事が少々悔しかった。

 

「…酷くやつれた顔。君、数日は何も食べていませんね?私について来てください。ご馳走しますよ」

 

「それは…あり、がたい…こ…った…」

 

 いまだ身体に力が入らないミカドは、ままならない口調で話す。

 

「立てますか?」

 

「む、り…」

 

「困りましたね…私もか弱い女の子です。君をおぶって行きたいのは山々なのですが…」

 

 えぇい、ままよと少年を抱き抱えようとする少女。目一杯力を込めるも、予想は打ち砕かれた。

 

…軽い

 

                   ◇◆◇◆◇◆◇

 

 目覚めの時。それは、今まで見ていた夢を忘れる終着点。そして、新たな記憶を紡ぎ始める夢の始発点。

 

 夢とは記憶の整理。

 

 つまり、見たことのない景色を夢で見ることは不可能なのだ。少年少女は夢を見て、そしてまた新たな夢を作っていく不確かな存在。

 これは、少女達の“夢を守る少年”と、少年少女達に“夢を唱える大人“の、“青春の物語(ブルーアーカイブ)“である。

 

「ん…」

 

 既に時計は午前から午後の時を指し始める時間。一人の少年が夢から覚め、現実を認識し始めた。

 

「ふわぁ〜あ…寝ちまってたのか、俺…なんっか夢見てた気がすっけど、なんだっけ…?」

 

 彼はミカド。9年前道の真ん中でくたばりかけていた彼と同一の存在である。

 

(…そういえば、例の“先生“が来るのって確か今日だったよな)

 

 キヴォトスには現在、規律となるはずだった“超人“の存在が失われている。

 要するに、“連邦生徒会長“が失踪してしまったのだ。彼女が失踪してから数週間、キヴォトスの各地区が混乱に陥っている。

 

 そんな混乱を鎮静化させるため、外の世界から呼び出された大人。それこそが“先生“。ミカドはその先生にここ“シャーレ“の説明をする為地下室で待ち構えているのだ。

 

(会長によればその人はシッテムの箱を扱えるって聞いたけど…まずこれ、ちゃんと起動すんのかね?まぁいいか、俺の仕事は先生が来るまでここでシッテムの箱をちゃ〜んと守ること…そんじゃもう一眠り_____)

 

 彼は画面の点かないタブレットを掲げ、気怠げに憂う。

 

 いい加減待ちくたびれたと言わんばかりにあくびをかき、もう一度眠りにつこうかとソファに身を投げた瞬間、入り口の扉が開かれる。

 

「!?」

 

 咄嗟のことで驚愕の色を示すミカドだが、訪れた人物は先生などではなく…

 

「情報によればここにあるという話でしたが…」

 

 矯正局を脱走した“七囚人“の一人、災厄の狐(狐坂ワカモ)だった。

 

「あぁ!?災厄の狐ぇ!?」

 

 思わぬ来客に声を荒げるも、その声によって災厄の狐は自身以外の存在がこの部屋にいることに気が付いてしまった。

 

「っ!?あなた様は…!」

 

 災厄の狐もまたミカドの存在を予想出来ていなかったのか、焦燥を顕にする。

 

「テメェまた脱獄しやがったのか!勘弁してくれよこれから重要な責務を果たそうってのにさぁ!」

 

 ダウト、君めちゃくちゃ二度寝する気満々でしたよね?

 

「え、えっ…と…その…」

 

「あン?」

 

 急激に様子が変わる災厄の狐。ミカドもまたそんな彼女の姿に疑念を抱くが次の瞬間、

 

失礼いたしましたぁ〜!!

 

 災厄の狐は大慌てでその部屋を後にした。

 

「…何だったんだ?」

 

 いや、本当になんだったんでしょうね。

 ミカドは頭をかきしばらく直立したまま呆然としていたが、いい加減立っているのも怠いと思ったのかソファに寝転がる。

 

 そうするとまたも扉が開く。どんだけ人来るんですかここ。

 

(ッ…!今度こそは先生だろうな!?)

 

 ソファの影に隠れ、若干の警戒をしながら扉を開いた主の姿を視認するミカド。

 

「何だったんだろうあの子…?」

 

 今度は二十代前半程度の女性が入って来た。かなり整った顔立ちであり、切れ長の目尻の下にある泣きぼくろには思わず見惚れてしまうほど。恐らく災厄の狐とすれ違ったのであろうその人の声は、温かく安心感さえ覚えてしまう。

 

 そんな彼女に対するミカドの印象は…

 

(ケツがデケェ!!)

 

 めちゃくちゃ男の子であった。

 

「よう、アンタが先生だな?」

 

 ミカドはソファの影かひょこりと顔を出し、先生と思しき女性に声をかける。

 

「おわっ!?びっ……くりしたぁ…!そ、そうだけど君は一体?」

 

 そう、彼女こそが“先生(せんせい)“だ。

 誰もいないであろうと思っていた中、唐突に呼びかけられた先生は驚いて尻もちをついてしまう。ミカドはそんな彼女の眼前に立ち、話し始めた。

 

「…コホン。私は連邦捜査部シャーレ所属、部長の夢守(ゆめもり)ミカドです。本日よりシャーレの顧問となった先生とはいわば“相棒(バディ)“といった形式で組ませて頂くことになりますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 まるで予め用意していたかのような口上を連ねるミカド。先生はその丁寧な口調に多少の困惑を見せつつも、立ち上がりながら彼に訊ねた。

 

「あ、あぁこれはご丁寧にどうも。なんて呼べばいいかな?」

 

「別に呼び方は先生に任せるよ」

 

「わかった、じゃあミカドだね。えっと私は…」

 

 ミカドの自己紹介になぞらえ、自分も同じようにしようと意気込む先生だが彼はその言葉を遮る。

 

「あぁ〜細かいこととかアンタのプロフィールは別にいいよ。はいコレ、生徒会長からの預かり物」

 

 ミカドはそう言い、シッテムの箱を手渡した。

 

「…これは?」

 

「う〜ん…三行以内で説明し切れる気がしねぇな、面倒。これはシッテムの箱。これがあればサンクトゥムタワーの制御権を回復させられるはずだ」

 

 いきなり手渡された物に疑問を持つ先生だが、ミカドは肝心の説明を端折った。言葉足らずは争いの元ですよ。

 

「テキトーだなぁ…ていうか、若干引っかかってたんだけどバディってどういうこと?見たところ連邦生徒会の生徒だってことに違いはなさそうだけど君って普通の男の子だし…」

 

「普通の男の子…ね」

 

 ミカドのテキトーが過ぎる説明に先生は難色を示すが、ミカドもまた“普通の男の子“という言葉に疑念を抱いた。ミカドは一拍置いた後、また言葉を重ねる。

 

俺は連邦生徒会が誇る最強の戦力だ

 

 へ?君いきなり何言ってるの?

 

「…?」

 

 ほら先生も頭にハテナ浮かんじゃってますから。本当に何言い出してるの?

 

「コホン」

 

 ミカドは咳払いをして、何やら自慢げな様子で話し出す。

 

「先生。ここへ来るまでに銃撃戦を目撃したり巻き込まれたりしたと思うんだが、どうだった?」

 

 先生はその言葉に息を呑む。自身の知っていた“日常“と大きく乖離した情景が、もしやここでの“日常“なのではないかという可能性を感じ取ってしまったからだろう。

 

「…すごいね、その通り。そんな頻繁に銃撃戦が起こるの?ここだけ時代背景バグってない?」

 

「そういう都市だからな、ここは。ルールなんてあってないようなもの、真面目に守ってる奴の方がバカだ」

 

 ミカドは人差し指を立て、キヴォトスの惨状をつらつらと述べていく。その言葉の通り、キヴォトスで“規律“などというものは大した効力を持っていないのである。

 

「だが、ルールを守らない奴らを“お仕置き“する為に俺はいる」

 

「なんっか話が掴めないなぁ…それと私のバディってことにどんな繋がりが?」

 

 それは私も思いました。なんか脱線してません?

 

「コホン」

 

 また咳払いした…

 

(また咳払いした…)

 

 先生も思っちゃってるじゃないですか!

 

「俺は連邦生徒会の戦闘員みたいなもんだが、それと同時にここシャーレの“部長“を任されている。ということは…あ?どういうことだ…?」

 

 自身の言葉に疑問を持ち始めるミカド。どうやら、元々用意していた話とは別の方向に行ってしまっていたようだ。要は完全に脱線してしまったということ。

 

「君、もしかして説明は苦手?」

 

 流石の先生も頭を抱え出したミカドに心配の意を示す。そんな先生の意思をよそに、ミカドはいまだ難儀の最中である。

 

「…あっ!つまり俺は最強の戦闘員ってことだ!…あれ、なんか違くね…?いやまぁ合ってるか…?」

 

(アホの子だぁああ!!)

 

 …ミカドはアホの子であった。

 

「えぇっと…なになに…?」

 

 しきりにポケットから紙を取り出し、チラチラとその紙を見るミカド。

 

(ついにカンペまで読み出した…)

 

「え〜とつまり、至る所で銃撃戦が繰り広げられているここキヴォトスで、外の世界から来た存在である先生を単身で行動させることは危険と判断…よってトリニティ総合学園高等部一年生の夢守ミカドを連邦捜査部シャーレ部長に任命し、先生の補助を命ずる…ってことだ!」

 

 カンペを確認しながら説明する様子は正にアホの子そのもの。あまりに素っ頓狂なミカドに対し、先生は苦笑いを浮かべる。

 

「そのカンペ最初に読めばよかったんじゃないかなぁ」

 

 至極真っ当な意見である。

 

「あ?すぐカンペに頼ってたら成長出来ねぇだろ」

 

 こちらもまた至極真っ当な意見である。

 

(純粋だ…)

 

 ミカドの調子外れな言動に呆気に取られる先生だが、ふと一つの疑問が過った。

 

「…あれ?君今トリニティ総合学園高等部一年って言った?」

 

「言った」

 

「連邦生徒会は連邦生徒会で学園としての機能を果たしてるって聞いたけど…どうしてわざわざ連邦生徒会の仕事をしながら別の学園に所属してるの?」

 

「トリニティにダチがいるから」

 

「それだけ!?」

 

 勿論それだけという訳でも無いのだが、今この場で事細かに説明していては日が暮れてしまうだろう。ミカドは先生の疑問を一旦無視することにし、本題へ移る。

 

「別に、今はまだ俺のことを理解しようとしなくていい。さ、アイスブレイクはこの辺にして、シッテムの箱を起動してみてくれ」

 

「あっ、そうだった!急がなきゃ…!」

 

 いやそうだよ!シッテムの箱!!何悠長にアイスブレイクかましてたんですか!?

 

 先生はミカドから渡されたシッテムの箱を起動し、まじまじと画面を眺める。そして画面に人差し指を重ねたかと思いきや、ピタリと直立したまま動かなくなってしまった。

 ミカドもその様子を訝しげに思い、先生の目の前で手をひらひらと振り、意識を確認する。

 

「ん?おい、先生?お〜い、もしも〜し?聞こえてますか〜?返事してくれなきゃそのデカケツ揉みしだいちゃいますよ〜?…どうなってんだこりゃ」

 

 彼の呼びかけに一切応答しない先生。ミカドは少し悩んだ末、手をポンと叩く。

 

一旦揉んどくか

 

 なんでそうなるんですか。

 ミカドは先生の左側にしゃがみ、右手でその大きな臀部を揉みしだく。その感覚は実に耽美なもので、あまりに揉み心地のいいその………いやこんな文章読ませないでくれませんか?

 

「ほぉ〜、こんなデカいもんだからピチピチのズボンで誤魔化してるのかと思ったけど、しっかりハリがあって柔さもちょうどいい。こりゃなかなかの…」

 

 先生の臀部を堪能していたミカドがふと顔を上げると、先生がこちらを見下ろしていることに気が付く。

 

「ミカド?」

 

 その声に先ほどまでの温かみはなく、ただ冷徹で殺意を感じさせられる声色に変化していた。

 

「…あ」

 

 ミカドはその瞬間死を悟り、心の中でこう思った。

 

(モンブラン食べたい)

 

 アホですか。

 

出会った初日で堂々と先生にセクハラする生徒がいるかぁぁぁ!!

 

ほげぇぇえええええ!!?

 

 先生とミカドが邂逅を果たす日。それは、特大ビンタによって幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに6m吹っ飛んだ。

 

                   ◇◆◇◆◇◆◇

 

 _____時刻は16:00。初日ということもあり、“先生“に一通りの業務内容を教え終えたミカドはそこで本日の業務を終了としてサンクトゥムタワーに出向き、一日の業務報告を行う。

 各学園の書類消化や問題鎮圧作業のデータ化。元々は連邦生徒会長が一人で担っていた役割であり、このような二度手間となる行動は本来必要ないのだが、その連邦生徒会長を失ってしまった彼女らは組織の統括を目的として施行した。

 この業務報告は、毎日欠かさず行わなければならない“義務“なのだ。

 

「その頬の手形は一体なんなの…?」

 

「…きにひにゃいで」

 

 ミカドが先生にセクハラを働いたことによる“罰の痕“は、いまだ消えずにいた。

 

「それで、今日赴任した先生の様子はどうだったかしら?」

 

 七神(なながみ)リン首席行政官。現在は連邦生徒会長代理という役職も兼任している三年生。ミカドよりも歳が二つ上なのだが、ミカド本人から敬称で呼ばれたことがない。実はそのことについて少しだけ悩んでいる。

 

「あ〜…まだよくわかんないけど、多分悪い大人じゃねぇな。あの人からは一切の悪意を感じられなかった」

 

 ミカドは頬をさすりながら答える。

 彼は自らの観察眼に自信を持っていて、それは彼の為人を知っている人間も同様。彼の所謂人を見る目を信頼する生徒は少なくない。

 

「あなたがそう言うのなら、きっとそうなのでしょうね。これから先生のサポートは任せるわ」

 

「…リンちゃん俺に対する評価高すぎねぇ?俺なんてただのヤンチーだぜ、ヤンチー」

 

 想定外な高評価を受けたミカドは、本音を晒さない為に戯けて見せる。要は照れ隠しだ。しかし、その照れ隠しの精度がこれまた非常に高い。既に数年目の付き合いであるリンでさえ見抜くことが出来ないのだ。

 

「ただのヤンキーは都市の命運を任せられたりしないわよ。それとリンちゃんはやめて頂戴」

 

 リンはこめかみを押さえ、ため息を吐く。

 

「でも、本当に大丈夫かしら。私にはどうにもあの大人がキヴォトスを守れる器とは思えないわ」

 

 正直な話、当然の不安だろう。

 今まであらゆる業務をそつなくこなし、無法地帯であるキヴォトスの“規律“として存在していた連邦生徒会長が失踪してしまい、その後継として呼ばれた人物の詳細が全く不明瞭なのだ。寧ろ、手放しにキヴォトスの命運を任せられる方がおかしいと言える。

 

「リンは変に心配性なとこがあっからなぁ…ま、大丈夫なんじゃね?そんな狭々とした心境でいたら溜め込むぞ?」

 

 おかしいヤツここにいました。

 

「それは…はぁ…私も自覚している悪癖よ。でも、不安は拭えないの。生徒会長が失踪してしまった今、彼女の穴埋めとして使える人なのか、とね」

 

「言い方ひでぇな!」

 

 割と当たり前の言い分でしょうボケナスマンゴスチン。

 

「あの人がどんな人間なのかは現状全くの未知。だが、会長が“生徒を守る“という役割を担わせるに相応しいと判断して呼び出した大人だ。それだけで信用に値するよ」

 

 彼はまだ出会ったばかりの大人に、信頼とそして“期待“をしていた。それがどのような結果を生むのかなど、まだ誰にもわかりようがない。

 

「リン、俺達の役割を忘れるなよ」

 

「わかっているわ。私はキヴォトスの政治を、あなたはキヴォトスの治安を。そして先生は、キヴォトスの生徒を守る。誰か一人が欠けても成立しようのない三すくみ。ミカド、ここからが本番ね」

 

 行先が希望なのか、絶望なのか。いまだ終着点さえも見定まらない電車の始発点を、今。

 

 彼らは出発したのだ。

 

「さぁ〜て、始めるとしますかぁ!俺達の、“青春の物語(ブルーアーカイブ)“を!」

 

 これが、“青くも白い物語(Blue&WhiteArchive)“の始まりだ。

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