【Blue &WhiteArchive】   作:いくら丼うずら卵

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Vol2.1凸凹コンビのお仕事初日 (前編)

 小鳥はさえずり、花は咲き誇る。そして愉快な銃声が響き渡るキヴォトスの朝。

 申し分のない快活さに満ち溢れたD.U郊外の一際目立ったビル“シャーレ“の執務室で、一人の女性が希望と期待に胸を膨らませていた。

 

「ん〜…!うん、いい朝だ!絶好のお仕事日和って感じ!先生二日目がんばるぞ〜!」

 

 彼女は先生。今をときめくピチピチの22歳だ。

 職場に到着し業務に取り掛かろうと意気込む彼女だが、やはり普通とは言えないこの場所で働くということには多少の不安があった。

 

(そういえばミカドはいつ頃ここに来るんだろう?トリニティの生徒らしいし来るのは午後かな…?丸腰でこの都市を歩き回る勇気は正直まだ無いけど、この辺の土地勘も付けておきたいんだよなぁ…う〜ん…)

 

 自身の立ち回りについて難儀していると執務室のドアが開かれる。来客だろうかと目を向けるとそこには…

 

「ふわぁ〜あ…おぁよぉ〜…」

 

 タンクトップパンツ一丁という非常に間抜けな格好のミカドがいた。

 

「えええぇぇぇぇぇ!!?」

 

「ぁんだよ、朝っぱらからうるさいな…」

 

 思い切り絶叫する先生を横目に、ミカドは真っ直ぐコーヒーサーバーの方へ歩みを進める。

 

「い、いや!いやいやいや!見られたら大分恥ずかしめの寝巻きじゃん!!それで外歩いて来たの!?」

 

「はぁ?こんな格好で外彷徨くバカがどこにいんだよ」

 

「今!私の目の前にいる気がするんだけど!?」

 

「…?あそういうことね」

 

 微妙に噛み合わない会話に違和感を覚えたミカド。何か食い違っている点に気が付くと何やら思いついたような口調で話し出す。

 

「俺、シャーレに住んでんの」

 

「ほへ?」

 

 突拍子のない言葉に一瞬思考がシャットアウトする先生。無理もない、ここは連邦捜査部シャーレの本拠地で彼女らの職場だ。

 職場に住んでいるという言葉を聞けば誰しも理解に苦しむものだろう。

 

「昨日説明するの忘れてたけど、ここってオフィスと居住区の二種類があるんだよ。俺2年前からずっとここの休憩室で暮らしてんだけど先生もここに住めばいいんじゃない?結構楽だよ」

 

 ミカドはカップを口元に寄せ寝起きに嗜むコーヒーの香りを愉しんでいるが、目の前には情報の処理が間に合わず頭を抱える先生が。

 

「しょ、職場で寝泊まり…過酷な労働環境…?」

 

 ここそんなブラック環境じゃありませんから。誤解しないでください。

 

(なんか変な勘違いしてそうだけど、面白いからそのままにしとこ)

 

 君が説明ぶん投げたら終わりでしょうが!せめてそれくらいはやってくれませんか!?

 

「ふぃ〜…コーヒーも飲んだし着替えるかぁ。あ、先生の仕事はとりあえずそこに山積みンなってる書類の整備。午前中に終わらせてね」

 

 ミカドはデスクの上で積み重なり、ギリギリのバランスで支えられている紙の山を指差した。

 シャーレは連邦生徒会と各学園の繋ぎ役という役割を担っていて、様々な報告書が寄せられて来る。シャーレで確認された書類を連邦生徒会本部に送り連邦生徒会本部が最終的な処理を施すことでようやく事案や決算書類等の片が付くのだ。

 要はシャーレが書類の消化を怠っていると面倒が重なってしまうという事である。

 

 先生はミカドの指差した書類の山を見て絶句する。

 

「え、これを…?」

 

「うん」

 

「私一人で…?」

 

「そだよ」

 

「午前中に…?」

 

「いかにも」

 

 あまりにも端折りすぎた説明。伝えるべき業務内容の根幹を一切伝えずにただ「これやっておいてね」をすると職員は一体どのような反応を示すか。

 そんなもの決まっている。

 

「……… めちゃくちゃブラックじゃねぇかぁぁぁあああああ!!!!!

 

 その日、キヴォトスに雷音にも等しい叫声が響いたという。

 

                   ◇◆◇◆◇◆◇

 

 ミカドは執務室に置いていた制服に着替え、先生の様子を伺う。

 

「捗ってる〜?」

 

 無関心さすら感じさせれる一言を先生に投げかけるミカド。そして当の先生はと言うと…

 

「うぇ〜んミカドたすけてぇ〜!」

 

 書類の山で生き埋めになっていた。

 

「これ一体どうすればいいのぉ〜!」

 

 ““こんな表情を浮かべ号泣しながら書類とにらめっこをする先生。ミカドはその様子を見てほくそ笑んでいるのだが、流石に業務に差し支えるようではまずいと手解きをする。

 

「あ〜、他学園からの被害額決算書類か。それ系は確認しましたってことだけわかればいいからテキトーにサイン書いておけば大丈夫だよ」

 

 かなり大雑把な説明で職務に対する誠実さが気ほども感じ取れないが、実際問題このように適度な手抜きでもしなければ追い付かない量なのだ。

 

「ありがどぉ〜!」

 

 先生は鼻水を啜りながら爆速で滞っていた書類を片付けて行く。あまりの速さにミカドでさえ戦慄してしまった。

 

(泣きながら鬼の速さで書類消化してる…天才かこの女?)

 

「ミカドぉ〜!これはぁ〜!?」

 

 業務の進捗具合はかなり順調。しかしそれとは裏腹に先生はまるで余裕がないかのように振る舞う。

 初めての業務がキャパシティを超えてしまいそうなほどの量だと頷けてしまうのだが、そうだとしても実際の進捗状況と先生の反応がまるでマッチしていない。実に奇妙である。

 

「う〜んとなになに…?あ〜ゲヘナ風紀委員の学区内規律違反者掃討報告書ね。これは…」

 

                   ◇◆◇◆◇◆◇

 

 それから途轍もないスピードで書類を捌き続けて現在の時刻は10:47。残った書類は後少しといった所なのだが9時始業だったことを考えると信じられない程の速さだ。

 …いや、本当に速すぎません?あんな事件みたいな量の書類を午前中に終えるどころかまだ正午すら程遠いんですけど。

 

「ふぅ〜残る書類もあと少し!手伝ってくれてありがとねミカド!」

 

 彼からはどうすればいいか聞いただけでほとんど先生一人でやってましたけどね。

 

「いやアレ俺が一人でやってたら三日はかかる量なんだけど…」

 

「なんか調子付き始めると止まんなくなっちゃって。私こういう作業得意かも!」

 

 先生はおもむろにサムズアップし、お茶の子さいさいだよと余裕の表情を浮かべて見せる。

 

「天才じゃん」

 

「あっははそれほどでも〜…うん?なんだこの書類」

 

「?」

 

 先生は手に取った紙に疑問を示した。

 

「“モモフレンズコラボスイーツバイキング領収書“…?」

 

 先ほどまで捌いていた書類と比べると明らかに小さな書面には“領収書“と書かれている。しかしはて、何故シャーレにそのような物が書類と紛れていたのだろうか。

 

「あっやべ」

 

 そう溢した後咄嗟に口元を覆うミカド。先生はその一言を聞き逃さずミカドに詰め寄る。

 

「…今“やべ“って言った?」

 

 凍りつく程に酷く冷ややかな声。

 生まれたばかりの赤子に聞かせたら大泣きを通り越して最早恐怖で押し黙るだろう。泣く子も黙るとは正にこの事である。

 

「さぁ〜…どうかなぁ〜…?ひゅ〜ひゅひゅ〜…」

 

 ミカドは下手な口笛を吹きあからさまに動揺している。…まさか君やった?やっちゃったんですか?

 

「この領収書について何か知ってるの?」

 

「わ、わっかんないなぁ〜…一体なんなんだろ〜…」

 

 糸のように閉じた瞳で微笑みながら詰め寄る先生と水たまりが出来てしまいそうなくらい冷や汗をかくミカド。この光景はさながら、テストで悪い点を取ってきた子供に説教をしようという母の図だ。

 

「ミカド、経費横領してるでしょ」

 

「ギクッ」

 

「しかもその反応一度や二度じゃないよね?」

 

「ギクギクッ」

 

 ミカドは昭和のアニメですらあまり見かけない古典的な図星の反応を示す。流石の先生も怒りを通り越して最早呆れ…といった心情に。

 

「口でギクッなんて言う人初めて見たよ…今までシャーレの所属がミカド一人しかいないからバレてなかったのかもしれないけど、私が来たからにはそういうこと絶対させないからね〜?」

 

 先生はミカドの頬を人差し指で突き、もうしちゃいけないよと小学生を諌めるような口調で叱責する。

 

「三日に一回だけでも…」

 

「ダメ」

 

「週に一回…」

 

「ダメ」

 

「半月…」

 

「ダメったらダメ!ていうかそんな頻繁にやってたの!?経費を私用で使うことがアウトなの!どうしても食べたいって時は奢ってあげるから我慢しなさい!」

 

 これではまるでお母さんである。

 眉間に皺を寄せ、あからさまに不服の表情を浮かべるミカドは先生に食ってかかる。

 

「…ケチ」

 

 無論、ケチなどではないのだが。犯罪はダメという“常識“を教えてるだけでケチ扱いはあまりにも横暴が過ぎるのではないだろうか?

 …いやマジで。

 

「ケチじゃなくって!わかった?」

 

「バカ」

 

「だからぁ〜…!」

 

「ケチバカ女!」

 

「もう、なんとでも言いなさい!」

 

ケツデカ女

 

おい待てやコラ

 

 ミカドに特徴を捉えた罵倒をされた先生はしきりに態度を急変させ、真顔でミカドの胸ぐらを掴んだ。

 

「今なんて言った?」

 

 チンピラのように凄む先生。しかしミカドはそんな蛇でも怖気付いてしまうほどの凄みを前にしても退かずにこう言った。

 

ケツデカビッグマウンテン

 

酷くなってんじゃねぇか!

 

あべしっっ!?

 

 先生がシャーレに訪れてから二度目の特大ビンタが炸裂した。

 

「いでぇ〜!暴力教師だ暴力教師!」

 

 誰が悪いかなど火を見るより明らかだったのだが、ミカドは頬を抑え、瞳に涙を浮かべながら理不尽を訴える。

 行き過ぎた罰ではあるが本当にミカドが悪かったのだから救いようがない。

 

「女の子に向かってそんな失礼なこと言う方が悪いでしょ!私は自然文化財かっ!!」

 

 ぷんすかとでも聞こえそうなほどに怒りを荒げる先生。女性の肉体的特徴をイジるということはつまりそういうことなのだ。

 

「女…の子…?」

 

「もう一発行っとく?」

 

 先生は拳を握ってミカドを牽制する。

 これが出会って二日目の男女の姿なのだろうか…?いくら異常が皆でお散歩しているキヴォトスでも、流石にこれほど凸凹としたコンビが爆誕する事は早々ない。

 

「先生可愛い!プリティー!永遠の17歳!」

 

 恐怖を感じたミカドは必死に煽てて機嫌を取る。先生もわかりやすいお世辞に良い気になり、鼻をこすりながら誇らしげな様子でいる。

 

「ふふん、苦しゅうない」

 

「ケツにちっちゃいサンクトゥムタワー乗せてんのかーい!」

 

 あ、地雷。

 

ディスってんだろ!!

 

へぶぅっっっ!?

 

 プロレスラーもビックリなボディーブローがモロに決まった。完全にノックアウトである。

 

                   ◇◆◇◆◇◆◇

 

「ん〜…!終了〜!この後は何するんだっけ?」

 

 一旦の業務を終えてひと段落といった所の二人。先生は軽く背伸びをして達成感に酔いながらも、次の業務は何かとミカドに尋ねる。

 

「|書類の消化が終わったら各学園の学区内で事件事故が起きてないか見回りだな《ふぉふふぃふぉふょふはほはっははふぁふはふへふほはっふふぁふぃふぇひへふひほはほひへはひはふぃふぁふぁふぃはは》」

 

「うん、何言ってるかぜんっぜんわかんないや」

 

 その後も失言に失言を重ね、最早顔面が原型を留めていないミカド。前が見えねぇ…といった惨状で見ていて非常に痛々しい。

 

 氷を当て、なんとか顔の腫れが引いたミカドは今後の業務について説明をする。

 

「ふぅ…書類の消化が終わったら各学園の学区内で事件事故が起きてないか見回りだな。未然に防げたはずの事案とかがあると、折角書類消化したのに無駄な仕事が増えることになるから」

 

「なら善は急げだね!早速行こうか!」

 

「ちなみにどっちかと言うと俺の本業はこっち。書類整理なんて面倒なことよりよっぽど適正あるよ」

 

 彼が自身で言う通り、彼の本来の役割はこのパトロールに依存する。

 ミカドは連邦生徒会の唯一の戦力である為書類仕事などよりも戦闘面での役を買っているのが実情だ。

 

「そういえば昨日ルールを守らない生徒をお仕置きするのが仕事〜…みたいなこと言ってたもんね」

 

「そこら中でテロが起きてっからあんま暇な時間がないんだよな〜」

 

 暇を持て余した人間がよく言ったものである。

 

「へ〜…あれ?じゃあ今の今までゆっくり書類仕事してたのってまずいんじゃ?」

 

「いんや、それが全然。俺は午前中非番ってな感じでやってるんだけど、俺が非番の間はヴァルキューレ警察学校の連中がパトロールなりなんなりしてくれてるからね。これがローテーション方式ってやつよ」

 

 連邦捜査部シャーレとヴァルキューレ警察学校は連携して動いている。シャーレも元々は連邦生徒会がキヴォトスの治安を守る為にミカドのワンマンとして設立された組織。

 規律違反者を取り締まる事を目的としていた両組織はより効率的にその役割を果たす方法はないかと擦り寄った結果、連携して規律違反者を取り締まれば良いだろうという事で結束したのだ。

 

 ちなみにそれで結果が出たかと言えばそうでもない。

 

「じゃあ昨日は?15時くらいまで私に業務内容の説明してくれてたけど…」

 

 先生は次々に浮かぶ疑問をミカドに投げかける。

 

「D.U地区どころかそこら中でテロ起きまくってたよ。今日書類バカ多かったのそのせい笑」

 

なにしてんだぁぁぁああああ!!!

 

 …そう、ミカドが自身の役割を全うしていれば普通はあれほどデスクが書類で満たされる事にはならないのだ。だから言ったでしょうブラックじゃないって。

 

「え本当に何してんの!?あんなバカみたいな量の書類が机の上にどっさり乗っかってたの完全にミカドのせいじゃん!!」

 

「だ〜いじょぶだいじょぶ。昨日はなんか災厄の狐っていうテロリストが矯正局から脱走してたみたいで、どっちにしろ後処理面倒なのは確定してたことだから」

 

 何も大丈夫ではない。彼の怠慢のせいでヴァルキューレ警察学校の局長は胃が爆発する思いをしたのだ。

 

「何が大丈夫なの!?」

 

「…あっそれで思い出した」

 

 ミカドは懐からスマホを取り出す。

 

「ちょっと電話するから待っててね〜」

 

 そう言ってスマホを耳に当て、数コールした後繋がった通話相手にミカドは話しかける。

 

「もしもし?」

 

『こちらヴァルキューレ警察学校局長の尾刃(おがた)カンナです…何のご用でしょうか…』

 

 ミカドが通話をかけた相手はヴァルキューレ警察学校局長である尾刃カンナだった。どっかのバカのせいで年中胃を痛めている苦労人だ。

 趣味は読書と映画鑑賞。

 

「俺俺、ミカドだよミカド。昨日大丈夫だっ…」

 

昨日は一体何をしていたんだ!!!

 

「………今のめっっ…っちゃ鼓膜に来た…」

 

 ミカドの鼓膜は死んだ。

 

『時間になっても動き出さないから何度も着信をかけていたというのに全部無視して、挙げ句の果てにはスマホの電源も切っていただろう!?おかげで昨日は収集がつかなかったんだぞ!!』

 

 これでもかと言わんばかりに捲し立てるカンナ。無理もない、本職であれば懲戒解雇待ったナシのサボりだ。彼女の怒りはあまりに真っ当が過ぎるものである。

 

「え〜?局長さんってばアタシの動向探ってナニする気なのぉ〜?」

 

 悪びれる様子を一切見せずにミカドはふざけ出す。

 

『違反者の引き渡しを効率的にする為スマホのGPSで自分の場所をこちらに開示し続けると言ったのはどこのどいつだ!!』

 

「アタシです」

 

 一瞬で論破されてしまいぐぅの音も出なくなるミカド。

 

『はぁ…それで、昨日はどうしてサボっていたんだ?』

 

「あ〜いや、シャーレに新しく先生が来てさ。その先生に色々教えてたらいつの間にか取り返しつかない時間になっちゃって。怒られんのやだから電源切っちゃったあはは」

 

『報!連!相!!』

 

 お手本のようなマジギレをかますカンナ。しかしまぁ原因が原因な為仕方がないと言えるのだが…

 

『とにかく!昨日出た被害の書類は今朝そちらに送っておいたからな!今日中に消化させて連邦生徒会の方にも回しておくように!』

 

「その書類なんだけどもう…ってあれ、カンナ?カンナ〜?…アイツ切りやがった」

 

 通話のぶつ切り。これをされるだけで相手がどれだけ怒りを抱いているかはバカでもない限り察せる事なのだが、ミカドはバカである為カンナの心情など一切お構いなしである。

 

「10割10分ミカドが悪いね」

 

「10割10分なんて言葉聞いた事ねぇよ」

 

 バツが悪そうにするミカド。拗ねた子供かな?

 

「まぁいいや。ヴァルキューレの局長さんは基本イライラしてるからいつもの事だし」

 

「ぜ〜ったいミカドが原因だと思うんだけど…」

 

「なわけ」

 

 鈍感もここまで来れば最早清々しいものだ。

 

「よし!気分変えてレッツらゴー!」

 

「大丈夫なのかなぁ…?」

 

 そうして始まる午後の業務なのだが、先生はこの後始まる地獄など想像すらしていなかった。

 

 次回、ミカドがまたやらかす。

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