炭治郎 in 地獄の轟家   作:俺はお兄ちゃんだぞ!!

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一話

カナヲ、禰豆子、善逸、伊之助、みんな元気かな。

 

いつかみんなが読んでくれるかもしれないと思い、今日から日記をつけることにした。

 

驚くかもしれないけど、みんなに見送られてから俺はどうしてか生き返った。

 

痣の影響でみんなよりも早く寿命を迎えたはずなのに、気が付いたら赤ん坊になっていたんだ。

訳が分からなくてしばらくの間はずっと困惑しっぱなし、状況を知ろうにもどこにも動けないし。

 

最近になってようやく自由に動けるようになり、こうして日記を書くことが出来るようにもなった。

 

俺が生きているだけでも驚くことかもしれないけど、実はもっと、それはもう驚くことがある。

 

・・・・なんか、世界がすごいことになっているんだ。

 

俺が死んで、また赤ん坊になっている間に一体どれほどの月日が経過したのかわからない。

きっと100年以上経過してる、それぐらいの変化が起こっているんだ。

 

周りの小さな物から大きな物、建物、道、食事、人、これらが俺の知る時代のものとは明らかに違っている。

 

違い過ぎてとてもじゃないけど文字で表現できない。

俺が今暮らしている家はすごく綺麗な家だけど、見慣れた木や竹を使ったものだから最初は気づかなかった。

けど、大きくなってから外の街を見て本当に目が飛び出るかと思った。

 

一番驚いたのは人。

 

この時代は俺の知る人とは姿が違う人たちがいる。

一見すると鬼なんじゃないかと勘違いするような姿の人達。

 

けど匂いは人だったし、それに違うのは姿だけじゃなくて不思議な力を使える人達もいる。

 

俺が生き返ったことで出来たもう一つの家族は身体から炎や氷を出せる。

 

どうやらこの力のことを『個性』というらしい。

 

血鬼術のような俺の頭じゃ理解できない不思議な力、それはこの時代では当たり前のように使えるものだった。

 

ちなみに俺はそういった不思議な力は使えない。

 

たまに俺のように力を持たない子もいるらしい、そういった子は『無個性』と呼ばれている。

 

どうやら無個性はこの時代だと嫌われてしまうらしく、俺に個性がないとわかったお父さんはすごく残念そうだった。

 

それと同時に家族からすごく心配されてしまった。

無個性だと嫌われてしまうからだと思う、けど俺は特に気にしていない。

 

そもそも身体から炎や氷が出るというのは危ないと思うし、生まれなおしたことで無惨との最後の戦いで使えなくなった右目と左腕が元通りになっただけで十分すぎるくらいだった。

 

あと驚いたのが食事。

なんかもうすごい美味しい、見たことない食べ物も増えてるし味わったことのないものばかりだった。

みんなにも食べさせてあげたい。

 

たぶん、あれから随分と時が経ってしまっていて、みんなも寿命を迎えてしまっているのかもしれない。

 

だけどこうして俺が生き返っているんだ、みんなも同じようにどこかで生きていると信じてる。

その時は俺の新しい家族を紹介するよ。

 

名前は一緒だけど、苗字が変わったんだ。

 

今の俺は竈門 炭治郎じゃなくて、() ()()()()だ。

 

 

「炭治郎兄!見てよ!俺の炎!!」

 

日記を書き終えて一息ついた俺のところに元気な声が届く。

振り返れば新しい俺の弟の燈矢の姿があった。

 

燈矢は歯を見せて笑いながら右腕を上に突き上げている。

上げられた腕からは大きな炎が出ていた。

 

「あっつい!!すごく大きな炎だ!!俺のところまで熱気が届く」

 

「へっへ!!でしょ!なんたって俺はあのエンデヴァーの息子なんだから!」

 

得意げに笑う燈矢を見て微笑みながら頭を撫でる。

俺が撫でると、恥ずかしいのかすぐに離れてしまった。

 

燈矢は俺の一つ下の四歳、最近になって炎を出せるようになった。

何度見てもすごいなー、熱くないのかな。

 

「もっともっと火力をあげれるようになる!それでお父さんをびっくりさせるんだ!!」

 

「それはお父さんもびっくりするよ、でもここで炎は出しちゃダメだぞ。火事になったら大変だからな」

 

そう言って燈矢の手を握って広い場所に移動する。

エンデヴァー、それはお父さんの本当の名前じゃない。

 

ヒーロー名と呼ばれるもう一つの名前だ。

 

この時代では個性を使って悪いことをする人達がいて、それを止めるために警察とは別の組織がある。

それがヒーロー。個性を使って人々を守る、俺が本来生きていた時代で言うなら鬼殺隊が近いんだろうか。

 

いやでも、鬼殺隊は公に認められたわけじゃないし、違うかもしれない。

 

とにかくお父さんはそのヒーローという組織の中で二番目にすごい人のようだ。

何回かテレビでお父さんの戦いを見た時は本当にびっくりした。

 

なんか炎で空飛んでるし!相手が使ってた武器を溶かしちゃうし!!

本当にすごい時代になったぁ、俺の頭じゃ理解できないことばかりだ。

 

「炭兄ちゃーん、だっこー!」

 

「冬美、よしよし」

 

俺が燈矢と話していると、それに気づいた燈矢のさらに一つ下の妹、冬美がやってきた。

まだ甘え盛りの彼女を抱き上げて頭を撫でる、すると冬美は嬉しそうに頬を緩ませた。

 

冬美は冷たくて気持ちがいいなぁ、お母さんと一緒で氷が出せるからかな。

 

妹を抱っこしながら廊下を歩き、お母さんがいるところへと移動する。

俺の鼻が良い匂いを捕まえる、きっと料理を作っているんだ。

 

「うわぁ!美味しそうな匂いだなぁ!お母さん俺も何か手伝いたいんだけど」

 

「ありがとう炭治郎、じゃあ机の料理を運んでくれる?」

 

俺が料理を作るのを手伝うと言えば、微笑みながらすでに作ってある料理を運ぶことを頼まれた。

お母さんの頼みに頷いて、抱っこしている冬美を後ろに背負い直し、空いた手で料理を運ぶ。

 

「冬美、お兄ちゃんは料理運んでるんだから降りなさい。お兄ちゃんが困ってるでしょ」

 

「えーやだー」

 

「大丈夫!冬美は軽いし俺は長男で一番力があるから!」

 

それに妹を背負うことは慣れてる。

禰豆子が鬼になっていた時はずっと背負って移動してた。

 

そのまま妹を背負いながら料理を運び、全てを終えると燈矢を呼びに行く。

料理が出来たと知った燈矢は嬉しそうに駆け出していた。

 

そのままお母さんと俺達で手を合わせご飯を食べ始める。

 

「ねぇねぇお父さんは今日いつ帰ってくる!?」

 

「うーん、遅くなるって言ってたからどうかしら」

 

「えぇー、でも!明日はお父さん休みなんだよね!?」

 

ご飯を食べながら燈矢がお母さんに話しかける。

お母さんが頷くと、燈矢は本当に嬉しそうに目を輝かせていた。

 

燈矢はお父さんが大好きだ。

将来はヒーローになってオールマイトを超えるヒーローになるって元気よく言っている。

 

オールマイトは一番すごいヒーローで、テレビで見た姿は筋肉がすごくて、あれはもしかしたら悲鳴嶼さんよりも筋肉が多いかもしれない。

今の俺でもあの人がめちゃくちゃ強いことは直接見なくてもわかる。

 

そんなすごい人を超えるのが燈矢の目標。

俺はそれを全力で応援するつもりだ。

 

 

 

 

 

……けれど、この目標への道は簡単には進まなかった。

 

 

 

 

「っ、あちっ!!」

 

次の日、お父さんと燈矢が訓練をしている時にそれは起こった。

燈矢が自分の出した炎で火傷したんだ。

 

今まではそんなことなかったのに、急に火傷をしてしまった。

それで病院で検査を受けたら、どうやら身体の熱に耐える力が足りていないらしかった。

 

炎を出していると、身体が熱くなるとその熱に耐えられる力を超えて火傷してしまう。

もちろん俺や普通の人よりは熱耐性はあるらしいけど、自分の炎に耐えられる程ではないらしい。

 

それを知ったお父さんは個性を使うことを禁止して燈矢との個性訓練も止めてしまった。

 

当然、それをすごく楽しみにしていた燈矢からは不満が出る。

 

けどいくら燈矢がしたいと叫んでもお父さんがその首を縦に振ることはなかった。

 

俺はどちらの気持ちもわかるから辛い。

 

お父さん達は燈矢が火傷をしてしまうことを心配して個性を使わせないようにしている。

けれど燈矢は目標のために、何よりお父さんに見てもらうのが好きだから訓練がしたい。

 

俺はどっちの味方につくこともできず、どうすればいいか考える日々が続く。

 

これが俺が努力すれば何とかなるものだったら不安になんてならなかった。

けれどこれは俺にはない個性の話で、俺自身じゃなくて燈矢の話。

 

どこに進めばいいかもわからない、初めて禰豆子が鬼になってしまった日のことを思い出してしまった。

 

・・・・でも一つだけ、思いついたことがある。

 

“呼吸”俺達が使う肉体を普通よりも遥かに強くすることが出来る手段だ。

 

これを燈矢が使えるようになれば、もしかしたら熱に耐える力が上がってくれるんじゃないか。

そんな期待を覚え、それと同時に別の想像もしてしまった。

 

熱耐性は上がらず、代わりに炎の温度が上がる、そんな可能性。

 

前にお父さんが言っていたのを覚えてる。

個性は身体機能の一つだと、だとしたら身体機能を上げる呼吸を使ってしまうと同じように個性の炎の力も上がってしまうかもしれない。

 

……もしそうなったら今よりももっと酷い火傷を。

 

「っ、ええい!考えても仕方ない!!わからなかったら聞く!そうしよう!!」

 

お父さんの意見を聞いてみよう。

なんたって燈矢と同じ個性を持っているんだ、きっとちゃんとした意見をくれるはず。

 

というか、そもそも今の俺は呼吸を使うことができるのだろうか?

 

無惨を倒した後からは戦う必要がなくなって呼吸を使わなくなった。

もともと最終決戦の無理から体力がなくなってしまっていたのもある。

 

()()()()()()()()()()、身体も十分鍛えているとは言えない。

 

・・・・一度試してみよう。

 

「ヒュゥゥっっ!!?げほっ!ぐふぅ!!?」

 

一気に酸素を取り込む、その途中であまりの苦しさにむせてしまう。

は、肺が痛い!!ダメだ、肺が弱くなってしまっている。呼吸の負荷に耐えられないんだ。

 

もし燈矢に教えることになったとして、それよりも先に俺が以前の様に呼吸を使えるようにならないと。

 

「ぐぅっ、なさけなし!!今から修行をー!!」

 

「ちょっと炭治郎!?走ってどこ行く気なの!?」

 

近くの山に走りに行こうとしたら俺の大声を聞きつけたお母さんに止められてしまった。

 

その晩、仕事から帰ってきたお父さんに聞いた。

身体能力が上がれば炎で火傷しないようになるかと。

 

……結果として悪い想像が当たってしまった。

 

お父さんの話ではそれだと個性の力は上がっても炎への耐性自体は変わらないという。

耐性というのは生まれた時から決まっているもので、そこから上がるというものではないらしい。

 

拳を握り締めながらそう口にするお父さんに俺は何も言えなかった。

 

 

それから燈矢はお父さん達が止めるのも聞かずに一人で炎を使って訓練を始めた。

そしてお父さんに強くなったことを報告して、その度に止められる。

 

俺からも燈矢を止めるようと言われたけど・・・・言えなかった。

 

燈矢は前のようにお父さんに見てもらいたいんだ。

個性がもっとすごくなればまたお父さんが見てくれると思って訓練をしている。

 

だから誰が何を言っても燈矢は止めないんだ。

 

……最近、燈矢からはずっと悲しい匂いがする。

 

俺は燈矢の話を聞いてやることしか出来ない。

訓練の時も、傍にいて火傷をしたら冷やしてやることしか。

 

そしてお父さん。

 

お父さんからはずっと怒りの匂いがしている。

この匂いは俺がこの時代に生まれた時からしていた、それが最近になって強くなってる。

 

ちょうど燈矢の火傷がわかってからだ。

 

何に怒っているのか聞いても教えてくれない。

一番のヒーローになる、きっとそれが関係しているんだ。

 

とにかく今は俺の出来ることをするしかない。

 

俺が家族の支えになるんだ!みんなが笑って過ごせるようにするんだ!!

 

「お父ぉさん!!」

 

「な、なんだ」

 

お父さんが休みの日、燈矢がいつものように見てくれと言っている。

けど困ったように表情を歪めながらどこかに出かけようしている。

 

俺は燈矢の手を握り、お父さんを大声で呼び止める。

 

今の俺が出来ること、それをするんだ!

 

「俺と燈矢と一緒にボール遊びをしよう!!」

 

「……」

 

右手で燈矢の手を掴み、左手でボールを抱える。

燈矢は訓練がしたいだろうけど、お父さんと一緒に遊ぶことだってしたいはず。

 

家族で仲良く遊ぶ!こういうのも大事な日常だ!

 

「……俺は用事がある、出かけなければならん」

 

「こっちを優先してください!!俺達はお父さんと遊ぶ気満々です!!ね!燈矢!!」

 

「え、う、うん!」

 

強引に話をもっていく。

無言のまま逃げようとするお父さんにしがみついて止める。

 

燈矢のためだ!絶対に離さない!!

 

全力で掴んだまま強引に庭に連れていく。

そうしていると俺達と遊んでくれる気になってくれたのか大人しくついてきてくれた。

 

「よし、いくぞ燈矢!」

 

ボールを蹴って燈矢に渡す。

俺が蹴ったボールは空中でゆっくりと浮かんで燈矢がそれをふらつきながらも止めた。

 

「よーし!行くよお父さん!!」

 

そうして今度は燈矢がお父さんにボールを出す。

けど力み過ぎたのか蹴ったボールがお父さんから外れた方向に飛んで行ってしまう。

 

けれど流石お父さん、難なく軌道が違うボールを足で確保していた。

ヒーローという仕事をしているだけあって身体能力がすごく高い。

 

ボールが飛んで行ってしまうと思っていた燈矢は目を輝かせてお父さんを見ていた。

 

「すげー!!流石お父さん!!今度は俺にパスして!」

 

「……ああ」

 

お父さんからボールを受け取った燈矢が今度は俺にボールを回してくれる。

そうして三人で遊んでいると、燈矢のはしゃぐ声で気が付いたのかお母さんと冬美がやってきた。

 

「――――え、炎司さん?」

 

「……」

 

信じられないものを見たようにお母さんが目を大きく見開いている。

冬美は自分もやりたいと俺達のところに走ってきた。

 

そのまま俺達三人とお父さんで遊びを続ける。

 

お母さんは最初固まって動いてなかったけど、俺達が遊んでいると静かに庭の縁側に腰をかけて俺達を見守っていた。

 

初めてお父さんと遊ぶ燈矢と冬美は本当に楽しそうで、俺も嬉しくなる。

ボール遊びが終わったら別の遊びを始めて、逃げようとするお父さんを俺が逃がさず捕まえる。

 

そうしてお父さんと一緒に一日中遊ぶことが出来た。

 

「今日はありがとうお父さん」

 

お父さんは忙しい、けれど貴重な一日を使って俺達の相手をしてくれたことに頭を下げてお礼を口にする。

燈矢も冬美も遊び疲れて眠ってしまった。

 

今はお母さんが二人を見てくれている。

 

「……ああ」

 

俺の言葉にお父さんが短くそう返事をする。

言葉は少ないけど、匂いでわかる。

 

途惑いと喜び、いろいろな匂いをお父さんから感じる。

 

お父さん自身も自分の感情を理解できていないみたいだった。

 

「お父さん、燈矢が火傷をしてまで個性を使うのはお父さんのことが大好きだからだと思う」

 

俺が言わなくてもわかっているはず、けど誰かに言われないと頭に入らないことだってあるんだ。

お父さんは俺と目を合わせない、けれど話はちゃんと聞いてくれていた。

 

「お父さんに初めて褒めてもらったのが個性だったから。また褒めてほしくて個性の訓練をしてる」

 

「……だが個性を使えば燈矢は傷つく。だから個性を使わせるわけにはいかん」

 

「うん、だからしっかり見てあげてほしい。お父さんが見てくれないから燈矢は見てもらおうと個性を使うんだ」

 

俺の言葉にお父さんは何も言わない。

心の中で葛藤している感じがする、自分の中にある怒り、その原因と。

 

「……俺にはヒーローの世界しか見せられない」

 

「見せられるよ!だって俺達のお父さんなんだから!!それに大丈夫!!俺がお父さんを今日みたいに引っ張りだすから!!」

 

笑顔で俺がそう言えばお父さんは固まる。

ずっと目を合わせてくれなかったけど、ようやく目を合わせてくれた。

 

言いたいことは言えた、あとそれを実行していくだけだ。

燈矢が自由に個性を使える方法はまだわかってない。

 

俺も前みたいに呼吸を使えるようになるには時間がかかる。

けど使えるようになればまだ見つかってない道が見えてくるかもしれない。

 

お父さんに頭を下げて、燈矢たちの様子を見に行く。

するとすぐにお母さんがいた。

 

もしかして聞いていたのかもしれない。

 

「……炭治郎」

 

お母さんが俺の名前を呼んで抱きしめてくれる。

抱き締められて首を傾げていると、お母さんが口を開く。

 

「……あなたがいてくれてよかった」

 

「……お母さん」

 

抱き締めてくれるお母さんを俺からも抱きしめる。

燈矢が毎日火傷をするようになって、お父さんも怒りが増えていっていた。

お母さんも気が気じゃなかったんだ、今も不安で仕方ないはずだ。

 

「大丈夫だよお母さん。絶対みんな笑顔で過ごせるようになるから!」

 

「……ええ。そうね」

 

目を合わせて笑うとお母さんも笑ってくれる。

そうだ、絶対にみんなで笑って暮らすんだ。

 

 

 

「お父ぉさん!!」

 

「……なんだ」

 

「今日は一緒にかくれんぼを!!」

 

俺の声に警戒しながらお父さんが声を返す。

それに対して俺は大声で目的を口にする。

後ろでは燈矢と冬美が嬉しそうに待っていた。

 

 

 

「お父ぉさん!!」

 

「…………なんだ」

 

「今日は一緒にトランプを!!!」

 

仕事から帰ってきたお父さんを玄関で待っていた俺はすぐに声をかける。

俺と同じように待っていた燈矢と冬美が嬉しそうに手に持つカードを見せる。

そのさらに後ろではお母さんが苦笑いをしていた。

 

 

 

「お父ぉさん!!!」

 

「……」

 

「今日は一緒にお花を植えよう!!!」

 

お母さん達と一緒に買っておいた花の苗や道具を見せる。

買った苗はお母さんの好きな花、この花が大きくなって綺麗に咲けばお母さんも喜ぶ。

 

俺の後ろでは嬉しそうな冬美と準備をしているお母さん、めんどくさそうな燈矢がいる。

燈矢は花には興味がないみたいだ、早く終わらせて別の遊びがしたいんだろう。

 

 

「お父ぉさん!!お風呂はみんなで!!」

 

「お父ぉさん!!寝るときはみんなで川の字で!!」

 

「お父ぉさん!!あとで携帯に俺達の応援を送るから見てほしい!!」

 

 

とにかくお父さんを巻き込んで家族の時間を作る。

燈矢も冬美も、それにお母さんも一緒になって遊んで笑えるように。

 

それを続けているうちに燈矢と冬美にとって家族で遊ぶことが恒例になっていった。

 

最初はすぐに逃げようとするお父さんを捕まえていたけど、次第に逃げずに遊んでくれるようになって。

俺が声をかけなくても無言で遊んでくれるようになった。

たぶん、ヒーローの仕事を減らしてくれて俺達との時間を増やしてくれている。

 

それがすごく嬉しかった。

 

燈矢もお父さんといる時間が増えていくにつれて精神が安定していっている。

今も個性訓練をって言ってはいるけど、お父さんと遊びだすとピタリと言わなくなる。

 

火傷をしちゃうとお父さんが遊んでくれなくなるぞって俺が言えば悩みながらも一人で個性訓練をするのをやめた。

 

燈矢の一番の望みはまだ叶えられない。

呼吸もお父さんに言ってみたけど、困惑しながらも炎への耐性は変わらないだろうと言われてしまうし。

 

調べて、サポートアイテムっていう機械は使えないかと聞いてみたけどそれも難しいみたいだ。

炎の耐性をあげるアイテムはまだなくて、そもそも燈矢の炎の高温に耐えられる装置自体も難易度が高い。

 

解決策が見つからないまま時間が過ぎていく。

新しい家族、弟の夏雄が生まれた。冬美はお姉ちゃんになったって本当に嬉しそうだった。

 

新しい家族が増えたことはとても嬉しいことだけど、その理由はお父さんの目的にある。

ヒーローで一番になる、それがお父さんの目的。

 

お父さんはその目的を俺達に遂げてもらおうとしてお母さんに協力してもらったんだ。

燈矢が今も個性訓練をしたがるのはその目的を自分が達成したいから。

 

お父さんが一番喜ぶことがそれだと燈矢はわかっているんだ。

 

俺は無個性でその目的には協力できない、燈矢も火傷してしまうし冬美も個性がお母さんの個性だった。

現状俺達では難しいからお父さんは次の子にそれを託そうしている。

 

俺はそれはかまわないと思ってる。

 

誰かに自分の思いを託すのは何も間違いじゃない、そうやって思いは繋がっていくんだ。

燈矢はお父さんの思いを背負いたいって思ってる、俺はそれに協力したい。

 

……けれど、どうやればいいのかがわからない。

 

お父さんは俺達と遊んでくれる、一緒に過ごしてくれている。

家族として、お父さんとして俺達を見てくれようとしてる。

 

けれど、燈矢はそれだけじゃ満足できないんだ。

 

末っ子の焦凍が、お父さんがずっと待ち望んでいた子が生まれてから燈矢の焦りが酷くなった。

止めていた個性訓練も再開して、お父さんの一番になりたいって心の中で叫んでる。

 

お父さんの目が焦凍にいくのが嫌で、自分を見てもらおうと訓練の成果を報告するようになった。

……それがお父さんを苦しめてしまう。

 

「お父さん」

 

「……炭治郎」

 

項垂れるお父さんに声をかける。

俺が言いたいことがわかっているのか俺とは目を合わせくれない。

 

「……燈矢は焦ってるんだ。お父さんが子供に望んでいることを、自分が託されたかった思いを自分じゃなくて焦凍に託そうとしているから」

 

「……ああ、わかっている」

 

お父さんは地を這うかのような低い声で答える。

辛そうな表情だった、それと同時にどうしようもない程の怒りの匂い。

 

「……だが、()()()()()()()()()()

 

自分の感情を抑えられない、漏れ出た感情が言葉になって落ちていた。

父親として、俺達全員を平等に見てくれている。

 

けれど自分の野望が邪魔して平等に見ようとする思いとは裏腹に焦凍に集中してしまう。

それを燈矢は感じてしまっている。

 

お父さんのこの野望がある限り、燈矢は絶対に諦めない。

まだ燈矢の火傷をどうにかする方法は見つかってない。

 

……だったら俺がやるべきことは。

 

「お父ぉさん!!俺に良い考えがあります!!」

 

「……なんだ」

 

「呼吸法や反復動作、俺の知ってる技術を全て教えます!!それでどんどん強くなって!お父さんが一番になるんだ!!」

 

お父さんが一番になれれば話は簡単なんだ。

野望が叶えば焦凍も燈矢も平等に見れるようになるしまた笑って過ごせる。

 

今まで見てきた感じ、呼吸などの技術は途絶えてしまってもう残ってないみたいだ。

ヒーローで使っている人を見たことがない、やはり無惨が死んで鬼がいなくなったからだろうか。

 

けど俺は知っている、お父さんが俺の知ってる技を使えるようになればすごい強くなるはずだ!

 

さっそく見てもらおう。この数年で身体を鍛えてきたから前と比べればまだまだだけどある程度は動ける。

 

「全集中、水の呼吸」

 

剣は握ってない。けれどあると仮定して動き出す。

呼吸で身体の動きを上げ、反復動作でその練度をさらに上げる。

 

久しぶりの本気の動き、鍛えたおかげで俺の思った通りに身体が動いてくれる。

水の呼吸を披露する俺を見て、お父さんは目を大きく見開く。

 

そのまま流れるように日の呼吸に切り替えて舞う。

今の俺の身体じゃ日の呼吸は少ししか使えない。

 

けど、今はそれだけでも十分だ。

 

「どうかな!これが呼吸で、その中の水の呼吸と日の呼吸なんだけど」

 

俺の言葉にお父さんは固まったままじっと俺を見つめる。

そして自分の考えをまとめるように口を開いた。

 

「……お前は無個性のはず、なのになぜあんな動きが。呼吸、それがあの動きを可能にするのか」

 

「そう!原理は、すっごく空気を取り込んで!血の中に空気を送って流れを速くして、そうしたら身体中が熱くなってすごい力が出せるんだ!!」

 

「……意識的に行うドーピングのようなものか。どうやってこれを」

 

「水の呼吸は鱗滝さんから、日の呼吸はおとうさ、えーと、あのー、そのーイロイロナヒトからおしゃわりまひた!!」

 

俺が過去の時代から生まれなおしたと言ったら混乱してしまうだろう。

ここは伏せて呼吸や技術だけを伝える。

 

鱗滝さんの居場所とかを聞かれたけど、今はもういないと答えるとお父さんは考えながらも頷いた。

呼吸には向き不向きがある、お父さんにはもしかしたら炎の呼吸の方が合っているかもしれない。

 

けれど俺はそれを教えられないし、そもそも俺はあまり教えるのが上手くないみたいだ。

善逸と伊之助にそう言われてきたから間違いない。

 

けれどお父さんなら俺の下手な説明でもわかってくれるはずだ。

 

これでお父さんが強くなって一番になれたらそれでいい。

燈矢の火傷をなんとか出来る方法が見つかればそれでも大丈夫。

 

どちらにしても俺は一生懸命動くことしかできない。

 

俺の目的は一つだけだ、家族全員が幸せに笑っていられること。

それさえ出来るなら俺はどんな努力もおしまない。

 

必ずみんなが笑顔で暮らしている明るい未来を掴んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、この時の俺はまだ知らなかったんだ。

 

 

この先の未来で待っていたものは。

 

 

「炭治郎少年」

 

 

力強い声が俺の耳に届く。

目を向ければ、そこにはオールマイトの姿。

 

けれどその姿は傷だらけで、今も苦しそうに痛む場所を手で抑えながら荒い息を吐いている。

俺が心配から駆け寄ろうとするのを彼は手で制する。

 

人が少ない病院の一室、そこにいるのはオールマイト、そして付き添いの方が数人だけ。

そんな中、彼はその瞳を俺へと向けた。

 

痛む身体に表情を歪めながらもしっかりと俺を見つめて彼は。

 

 

「私の力を君に託したい。受け取ってくれないか」

 

 

そう言ってオールマイトは自分の手をこっちに差し出す。

 

何か、重要な何かが動いている気がする。

それと同時に、嫌な汗が身体を伝ったような気がした。

 

 

 

 

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