ぼくらの先生   作:アルティメット毒チワワドラゴン

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補習 : 高坂千代

 私のクラスの生徒が、卒業式に半分以上死にました。

 

 ……何度言葉にしてみても、実感なんて湧きません。

 喉の奥に、針金のように硬くて冷たいものが引っかかっているだけ。飲み込もうとしても飲み込めず、吐き出そうにも形が曖昧すぎて吐き出せない、それくらいの重さ。

 

 私の、何がいけなかったんでしょうか?

 私の指導の仕方? クラスの雰囲気?

 いくら問い直しても、答えてくれる人は誰もいません。

 答えられるはずの人は……あの日、壇上から落ちていったから。

 

 誰もが、こんな悲劇になるとは思ってもいませんでした。

 勿論、私も。

 

 ……だって、中学生活を三年間ほぼ共にした子たちが、卒業式という晴れ舞台で、急に飛び降りたんですよ?

 あの、明るい体育館の中で。

 紅白の幕の前で。

 「ご卒業おめでとうございます」と書いた横断幕の真下で。

 

 私には……わけが分かりません。

 何が起きたのか、今になっても分からないままです。

 考えようとすると頭の奥がじんじん痛んで、思考そのものが溶けていくみたいで……ただの映像みたいに、子どもたちが壇上から身を投げる瞬間が繰り返し再生されるだけなんです。

 

 私には教師が向いていなかったのでしょうか。

 向いてなかったからこそ、あんなことが起きたのかもしれません。

 

 でも、残ったクラスの子は、「先生は悪くない」の一点張りです。

 ……それは、本当なんでしょうか?

 言わされているんじゃなくて?

 あるいは、私を傷つけないための嘘なんじゃなくて?

 

 私は、あの時から何も分からないままです。

 

 何も分からないまま教師を辞めました。

 選択肢なんてなかった。

 だって、ただでさえ“クラスの半分以上を自殺させた教師”というレッテルを貼られたんです。

 勝手につけられたレッテルほど、すごく苦しいものはありません。

 はじめは否定しようとしたのに、いつのまにか、私自身がその言葉を信じ始めてしまっていたくらいです。

 「私のせいだ」って。

 

 あぁ、でも私はまた、3-Bの子たちに先生って呼ばれることを望んでいます。

 先生、先生って……その響きだけが、私を人間として繋ぎ止めてくれていた。

 あの子たちがいたから、私は“何者か”でいられたんです。

 

 卒業式の点呼、感動したなぁ……。

 一人一人の名前を呼んで、返事が返ってくるだけで、胸が熱くなった。

 「私が先生だって認められた」

 そう思えたから。

 私が先生になってよかったって思えた瞬間だったから。

 私が3-Bの担任をしてよかったって――心の底から思ったから……。

 

 なのに、どうしてあんなことになったんでしょうね。

 

 でも、もう、だめです。

 マスコミに追われ、自殺をしてしまった親御さんに暴言を吐かれて、……テレビはもうつけられません。

 私を非難している声が、どこからともなく聞こえてくるんです。

 テレビから?

 外から?

 それとも……私の頭の中から?

 

 夜になると、もっとひどい。

 誰もいないはずの部屋で、点呼の返事が聞こえるんです。

 あの時と同じ明るい声で。

 でも、途中でぷつりと途切れる。

 返事のなかった番号のところで、必ず。

 

 「……先生」

 

 呼ばれた気がして振り向いても、誰もいない。

 誰もいるはずがないのに、私は期待してしまうんです。

 どうしてなんでしょうね。

 あの子たちを、取り戻せるはずなんてないのに。

 

 もう、だめです。

 やっぱり私は、教師には向いていなかったんだと思います。

 

 ……出来るなら、3-Bの子らに先生ってもう一度呼ばれたかったなあ。

 

 ……………………。

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